裏庭 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 6731
レビュー : 757
  • Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253312

作品紹介・あらすじ

昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。その庭に、苦すぎる想い出があり、塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、ある出来事がきっかけとなって、洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、声を聞いた-教えよう、君に、と。少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。少女自身に出会う旅に。

感想・レビュー・書評

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  • いまお医者さんのはしごをしていて「閉鎖病棟」は待合室で読むのにちょっとためらわれたので持ってたこれをちょっとだけ、と思ったらとっても読みやすくて止まらない。ドキドキな世界観。ナルニアと昭和がそこに。併読しようと思います。

    梨木香歩さんデビューしました。
    6年前、双子の弟、純くんを亡くした照美ちゃんという女の子が主人公。日本にある英国人が昔住んでいたバーンズ屋敷という古いお屋敷が主な舞台です。石垣の穴を潜り抜けて忍び込む裏庭は、何世代もの子どもたちの密かな楽園。
    実はここにある大鏡は異世界のドア。
    照美は、テルミーとしてここで大冒険を繰り広げます。
    そのなかで彼女はたくさんの出会いと経験と試練を繰り返して成長してゆきます。
    スナッフ・キン、テナシ(コロウブ)、レベッカ、妙さん、ハシヒメ、ソレデ、カラダ、ハイボウ、キリスゲ、ビャクシン、タムリン、音読みの婆
    3人の音読みの婆の
    傷を恐れるな
    傷に支配されるな
    傷はそだてていかねばならない
    そこからしか自分は生まれない が好きです。

    このお屋敷の持ち主バーンズさんたちは日本に親しい人々と親交を持ったけど、戦争で母国に帰国。お屋敷はそのままで残り、照美のおばあちゃんと親しかったバーンズ家の少女、レイチェルは、孫世代が彼女たちとおなじ年頃になるころ、再び日本に戻ってきて数人と再会を果たします。
    レイチェルと家政婦マーサ・レイノルズさんとの会話の
    115ページから117ページが軸なんじゃないかなぁって思いました。家庭は家の庭と書く。裏庭なんて言葉が大嫌いなマーサ。どんな庭も大切な庭。裏なんて表現は許せない。そんなふたりがとてもステキ。

    年端もいかない女の子の照美に知恵遅れの弟の純のことを任せきりで仕事に没頭する両親。その母にずっと厳しくあたり続けた祖母。庭は何世代もの長い時間を経てできあがってゆくものだといいますが、家や人もまたそうだと思わずにはいられません。長い時間を経て環境が生むものは大きそうです。
    純の死に後悔する照美ですが、純を守る方法がなにかあったのではないかと思ってしまいます。読んでいると、庭師の不在が招いた不幸だともいえるかもしれない、と。パパは純と照美が庭に入ってゆくところを偶然目撃していたし、もう少し照美達という「家の庭」をみつめてほしかった。照美ばかりが罪を背負うには、幼なすぎる。
    子どもたちを優しく、日本の庭のように、理想的な混沌のなかで見守ってあげてほしいという大人への願いと、厳しい世界のなかでも子どもたちが逞しく優しく育ってほしいという願いを感じます。
    綾子ちゃんのおじいちゃんのジョージさんの10ページのお部屋がとても好き。懐かしい昭和の匂い。

  • 図書館で借りた本。
    ヤングアダルトコーナーにあったので軽めの話かと思っていたら大間違い、なかなかに重厚な話だった。

    主人公は小学生の女の子、照美。
    裏庭を通して自分の内側と向き合い、照美はひとまわり大きくなって帰ってくる。
    どこか「千と千尋の神隠し」で見られたような、子供から大人になるための通過儀礼の物語に近い印象を受けた。

    でも、この物語で特に素敵だなあと思ったのは、心にできた傷についての扱い方を、そっと、優しく教えてくれていること。
    「西の魔女が死んだ」ではおばあちゃんが主人公である孫にいろんなことを教えていたけど、本作ではおばあちゃんからお母さんに向けて描かれていた。
    お母さんだって無敵じゃない、傷はできるし、昔からの傷を癒しきれていないことも、鎧で傷を覆ってしまっていることもある。

    「傷ついたらそれはそれでしょうがない、傷ついた自分をごまかさずに見つめて素直にまいっていればいい。好きなだけ、いくらでも、うじうじしてたっていい。そのうち自然に立ち上がるもんよ」
    その言葉にじーんときた。

    この物語を読む時の自分の年齢、立場によって響く場面が違うかもしれない。

  • 読み始めて5ページで「この話好きかも!」と思った
    。一人の女の子が古鏡から裏庭に迷い混むお話。『鏡の国のアリス』のような『オズの魔法使い』のようなファンタジー。梨木さんの世界観は好きだ。
    人は心の中に裏庭を持っている。裏庭を育てるにはエネルギーが必要で、時には傷付く事もあるけれど、それを恐れてはいけない。支配されてはいけない。大事に育んでいく。裏庭って結局、自分自身(人生)なのかなと思った。

  • 私にとって世界観に違和がない作品。のみならず変化や導きを感じる作品。誘導される際の抵抗感は全然ない。きれいな丸みを帯びた、すべすべした鉱物を一個ずつ世界に配置したら、こんな物語になる気がする。それを一個ずつ指先で押さえるような嬉しさ。ときに拾い上げて掌に収めるときの安堵感。いつの間にか、私にとっての地図を広げている。

    石の持つ、硬さ。清潔さ。冷ややかさ。沈黙。

    それなのに、描写は木々や花々を追う。土くれ。そして風の感触。水辺も。ときに火が上がる。

    そのときに、その炎がどれほどのものか、水の決壊がどれほどのものかと、なぜかその感情が真に伝わってくるようだ。

    石、という自分の本質を横に一度置いてでも、この世界の鮮やかさを語りたいと願うその切実さに息を飲む。それほどの献身に胸が震える。母だ。物語を産む母なのだと思う。この子のためなら、と宝を差し出す母。

    母は何を差し出すか。梨木香歩が、母が、母を語る。祖母から母へ。その母から娘へ。贈り物の内容を語る。

    贈り物は「私は誰?」という問への「教えよう、君に」という応答だった。物語のはそもそもの始まりは、主人公である孫娘に祖母が授けた名前。照美。「Tell me」なのだ。

    祖母が最後に渡そうとする物は、磨き上げられた鉱物。たくさんの研磨を、傷を受け入れて輝く魂。「こんなにきれいに仕上げてくれた」と祖母が主人公に労いのことばをかける。
    美しい抽象化を書き綴る、その淡々とした調子に不思議なほど冷静な私がいた。でも、やっぱり「これはママへ」は衝撃だった。がつんと後頭部を殴られたような驚きだった。梨木香歩はすごい。絶対ニヒリズムに屈しない。素朴な感情の愛しさをこんな風に書いてしまうのか。すべてを兼ね備えた直球。ここでも鮮やかなコントラストが際立っている。

    確かに、戦争を始めようと決めた人間は、宣戦布告の当事者は、民間人にはいないだろう。でも、名指しはされないはずなのに、当事者だって「自分じゃない」と言いかねないというのに、戦争は私たちの中でこそ起きた。起きている。戦争で犠牲になった祖母とレベッカの女性性は浄化の道を歩み始めた。両国の女性性が共に、その道を。

    舞台となる町を覆い尽くした大空襲の炎の因縁さえ、レベッカの裏庭で、クオーツアスの炎が制していく。

    子孫は、生命の更新として、生まれたとき何もない地平に立たされるようだけれど、やっぱり幽霊たちは期待している。願いを込めている。そしてそのために生まれたいと思う子供たちもいる。照美は裏庭から帰ってから悟る。誰の役に立たなくても、もういいんだ、と。だけど、それは照美が課題をこなしたからだ。

    誰かを助けるために得た、銀色の両腕。彼女は裏庭でそれを見た。

    その課題は、誰の役にも、の誰、が誰なのか。他人と自分の境界線を見極める力を得ること。そのあるようで、ないような境目、を知ること。

  • こどもでも読める平易な文章で、こんなにも深い世界を描いてしまう梨木香歩さんに驚いた1冊。

    双子の姉として生まれた照美に象徴されるように、表と裏、現実と異世界、傷つけられる私と傷つける私、というふうに、「ふたつの相反するもの」がモチーフになっていて、ストーリーに巻き込まれながらも、作中の「ふたつのもの探し」に夢中になってしまった。。。

    この本をきっかけに、本棚に一気に梨木さん作品がふえたという、大切な1冊です。

    • まろんさん
      ふふ(*'-')♪
      だってtorachanさんと私は、パラレルワールドでは隣のクラスで、同じ本を手にとってハッ!とするはずだった二人だし!
      ...
      ふふ(*'-')♪
      だってtorachanさんと私は、パラレルワールドでは隣のクラスで、同じ本を手にとってハッ!とするはずだった二人だし!

      私もtorachanさんのオススメ本とかが気になって、本の在庫が加速度的に増えてるから、おあいこってことで(*^_^*)
      2012/05/11
  • 伊集院静さんの描く「生と死」は、「からっと無常観、さらっと諸行無常」って感じがするんだけど、
    梨木香歩さんの描く「生と死」は、「輪廻転生、現世と来世、魂の救済」ってところを強く感じました。
    静謐な世界と、持続低音の響く世界の違いというか、「ぴーん」と「ぴちょん」の違いというか。
    (これでは余計わからなくなる)

    3代にわたって祖母、母、子どもと引き継がれる「業」が、ねっちょり感をだしています。
    あちら側とこちら側を行ったりきたりしながら、心の中にあるどろどろしたものを浄化していきます。
    そういうところを深く読んでしまうと、ちょっと苦いかも。

    冒険小説としての読み方もできます。
    謎解きの要素もたくさんあって、面白いです。
    スナッフの正体はすぐにわかりましたが、おかっぱの少女の正体にはかなり驚きました。
    おかっぱの少女の正体を知ると、話し全体がさらに光り輝きます。

    2013/03/31

  • もう随分昔に読んだ本で、細かいことは忘れているのだけれど(汗)
    英国ファンタジーにハマっていた頃に「日本にこんなファンタジーが書ける人がいるなんて!」と驚いた記憶だけがやたらと残っている。
    もうそれだけでワタシ的には☆5つ。

  • 小さい頃は単なるファンタジーとして読んだけど、再読したらいろいろ分かって大人になったな、と冷静な気持ちで読めたのが感慨深かった。

    自分の心が傷を持っていることを自覚しないとその傷を自分のものにすることはできない。認めて次に進むこともできない。
    傷ついていることをごまかして、見せかけの癒しに頼ったり、向き合わずに他の人に同調して自分の正直な気持ちを失って生きていくのでは解決にならない。
    大人になったって傷つくことはあるし、悲しかったら泣いてもいい。その経験も含めて自分は自分なんだと、堂々と生きて行ったらいい。
    悲しいことに直面したときに認めるのは難しいけど、傷ついていないふりをしていると、楽しいことにも鈍感になってしまう。喜怒哀楽を感じられる、そのうえで自分をコントロールできる大人でいたいと思う。

  • 大好きなお話。
    たぶん、ミヒャエル・エンデを意識して書いた話じゃないかな、と思います。

    テーマがあって、でもそれを言葉で伝えないで、
    読者に考えさせる物語。

    初めて読んだときと2回目読んだとき、3回目と考えが変わってきて、
    それも楽しいです。
    読んだ時の気分によっても変わってくるし。

    1回読んで満足するのにはもったいないお話です!!

    私は、人生で出会えてよかった物語を何か挙げろと言われたら、
    真っ先にこのお話を挙げると思います。

  • 主人公の少女 照美の家の側にある、バーンズ屋敷の「庭」が物語の舞台。
    現実世界の「庭」とは異なる、限られた人しか入ることの出来ない「裏庭」へ、入り込んでしまった照美の冒険ストーリーです。

    「裏庭」の世界で出会う不思議な住人たちのキャラクターや生き方が、とても潔くて、いいんです。
    彼らの言葉に励まされながら冒険を続ける照美が、どんどん成長していく姿に、なんだか勇気ももらえました。

    「裏庭」での出来事は、過去と、現在が繋がっていて
    そのつながりは、人の死や、癒しとは何かということを考えさせられます。


    内容が濃いので、時間をおいてまた読み直したい一冊です。

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著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

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