からくりからくさ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 5453
感想 : 540
  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253336

作品紹介・あらすじ

祖母が遺した古い家に女が四人、私たちは共同生活を始めた。糸を染め、機を織り、庭に生い茂る草が食卓にのる。静かな、けれどたしかな実感に満ちて重ねられてゆく日々。やさしく硬質な結界。だれかが孕む葛藤も、どこかでつながっている四人の思いも、すべてはこの結界と共にある。心を持つ不思議な人形「りかさん」を真ん中にして-。生命の連なりを支える絆を、深く心に伝える物語。

感想・レビュー・書評

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  • 素晴らしい梨木さんの世界。

    「りかさん」という本の続編だと、読み終わってから知りました。

    祖母の遺した家に住む蓉子とアメリカから日本の鍼灸の勉強をし蓉子とランゲージエクスチェンジをしているマーガレット、機織りをする紀久、テキスタイルの図案を研究している与希子の4人の女性の共同生活。

    草木染め、機織り、紬、能面、人形と日本の伝統文化とクルド人の背景も交えながら生きることの意義を教えてくれる。

    これも大切にしたい一冊になりました。
    手元に置いていて何度も読み返したい一冊です。

  • 『りかさん』から数年経て、主人公の蓉子は染色を仕事にするようになっていた。祖母が遺した家で3人の下宿人を置き、共に暮らすこととなる。
    鍼灸を学ぶためにアメリカからやってきたマーガレット。美大の学生で、機織りをしている紀久とテキスタイルを研究している与希子。
    4人の共同生活の日常と人間関係の機微を梨木さんらしい筆致で描いていく。

    この作品の発表の方が『りかさん』よりも先なので、こちらから読んだ方がよかったのだと思う。というのは、『りかさん』に収録されている『ミケルの庭』が本作の数年後を描いており、私には状況がわかりにくいところがあった。ようやく今になって、背景はこうだったのかとつながった気がする。後で読み返しておこうと思います。

    それにしても、梨木さんの書く小説は、登場する人たちの配置が絶妙だといつも思う。何らかの弱さや苦しみ、傷ついた過去を抱え、自分を解放できないつらさを常に味わいながら生きていく人。人との距離感を上手にとれなくて迷っている人。自由で無邪気な子どもっぽいところが見え隠れする人。穏やかでありながら、しっかりとした芯を持ち、いろいろな困りごとも淡々と受け止められる不思議と頼りになる人。
    どの人も決して一面的な良し悪しを切り口にすることはなく、弱さと強さを併せ持ち、互いを補いあうような関わりを見せている。
    読んでいると、「誰にでも、あなたの中の良さを見つけ、大切にし必要としてくれる人が必ずいるのですよ。」と梨木さんが語りかけてくれているように感じられる。人や人に起こるすべてのことをあるがままに見つめて、そのまま肯定してくれる世界が広がっているように感じるから。

    この作品の登場人物も、家族関係の中で感情のすれ違いを解決しないまま今日まで持ち越していたり、自分のありったけの時間と労力を費やして書き上げた研究成果に対して横槍を入れられたりする。自分の感情を持て余すことも。。読者が苦しさを共有し、一緒になって腹を立てることでしょう。
    それでも、4人の女性たちは考え方の異なる仲間の存在に大いに影響を受けて、また自分自身で考えを整理しながら、道筋をつけていく様子が好ましい。

    そして、りかさんに待ち受ける結末。

    目の前で突然起こる出来事に読んでいる私も、もう今では会えない人に対して「ああ、こうすればよかった。こうしていたなら・・。」という抑え込んでいた気持ちがあったことを思い出した。

    読んでいると
    苦しいのになぜだか許されるような
    哀しいことなのになぜだかいつか癒えると思えるような
    辛いのは自分だけではないと思えるからなのか・・・。

    もうしばらく梨木さんを追いかけていこうと思っている。

  • 「りかさん」から十数年?後のお話。
    というかこのお話があって、ようこのお話が描かれたのか。
    順番を間違えたので、最初から寂しい始まり。
    あのおばあちゃんが亡くなって、おばあちゃんのお家で共同生活を始めた、蓉子、与希子、紀久、マーガレット、そしてりかさん。
    機織りの音、草木染めの煮出す匂い、庭の野草の調理など現代社会から隔離されたような生活。
    沈黙するりかさんの謎とは。

    マーガレットの率直さ、与希子の素直さにヒヤヒヤしたり、微笑ましく思ったり。
    蓉子の無意識に物を慈しむ様子に嫉妬してしまう。
    「慈しむってことは、思い立って学べるもんじゃない。受け継がれていく伝統だ。」
    糠漬けもおいしくならない私の手。この台詞にドキリとする。

    紀久の闇の深さ、蔦を全身に絡めるような様子が他人事に思えず、それを振り払うように機を織るという行為がうらやましい。
    私の機織はなんだろう。雑巾縫い?

    能面、お蔦伝説、唐草模様、蛇、水蜘蛛、クルド人。
    蔦が絡み合うように、縦糸と横糸が絡むように話がすすんでいく。ルーツ、対立、対比、融合。
    隔離されたような彼女達の生活が外の空気に触れるとき、少しづつ平穏な日々に亀裂が入る。
    何時の間にかいろんなものが絡まって、身動きが取れなくなって息苦しいくらい。
    最後はこれしかないのかもしれない、でもとげを強引に抜かれたような痛みが残る。
    「残った部分は潰さないわ」という蓉子にホッとしたような痛々しいような。

  • 同じく梨木さんの「春になったら苺を摘みに」の次くらいに思い入れの深い小説。
    小学生の時に図書館で借りたハードカバー版で読んだのが最初だったんだけど、その解説に子供には分からない話、みたいなことが書いてあってすごくムカッとしたのを覚えてる。その時の私なりに感じることもたくさんあったし、でも図星であることもなんとなく分かっていた(笑)。その後年を重ねながら何度も読み返して、そのたびに新しいことを考えた。今回もまた、今自分の抱えている問題に先回りされていたような部分があって、かなわないなあという気持ち。

    受け継がれるもの、伝えていくもの。その中で否応なく変容を迫られる、その瞬間のエネルギー。植物との丁寧な暮らしも含めて梨木さんの思いのたけがぎゅうぎゅうに詰まっている、と感じる。
    紀久の帰還のお祝いの時の彼女たちそれぞれの微妙な心の機微、その空気の中でマーガレットがマーガレットらしくなる瞬間、そういう柔らかく繊細な描写が好き。でもこれは優しい小説ではなくて、同時にたくさんの女たちの「誰にも言えない、口に出していったら、世界を破滅させてしまうような、マグマのような思い」を内包してもいる。
    それらが絡み、業火の溶鉱炉と水脈とでつながり、伝わり、大きな一枚の織物になり、続いていく。


    私が一番近く感じてしまうのはマーガレットで、ジェリーとピーナッツバターのサンドウィッチのエピソードは彼女の気持ちに自分の中にも心当たりがあって子供の頃から読んでいて胸が苦しかった。
    あらかじめ欠けているもの、受け継いでいないものを一生追い求めないといけないということの苦しさ。それをいとも簡単にやってのける人を目の当たりにした時の焦燥、悲しみ。
    子どもを産んで、一層そういう事が浮き彫りになっていく中で「淵」を歩いて、生きて、つなげていかなくてはならないマーガレット。

    「断ち切れないわずらわしさごと永遠に伸びていこうとするエネルギー。それは彼らの願いや祈りや思いそのものだったんだ。自分の与り知らぬ遠い昔から絡みついてくる蔦のようなものへの嫌悪といとおしさ。」

    「呪いであると同時に祈り。憎悪と同じぐらい深い慈愛。怨念と祝福。同じ深さの思い。媒染次第で変わっていく色。経糸。緯糸。リバーシブルの布。一枚の布。一つの世界。私たちの世界。」

    呪いのように身に絡みつく因縁も、怒りも苦しみもすべて飲み込んで伸びていくエネルギーへの、生きていくことへの目の覚めるような賛歌。身を焼くような苦吟でさえ、祝福を同時に宿しえる、日常の中に織り込んでいくことができる。
    変容を迫られながらも受け継いで伸びていくことをやめられない、そうしかできない私たち。

    大好きな小説です。

  • 対立と協調の物語。
    うまく現せられないけど、そういうしか出来ない、宿世と輪廻物語が織り込まれた不可思議な物語でした。

    物語の核である染色と織りに例えるなら、静謐な生活という縦糸に、実に様々な対立(主人公四人の関係性であったり、それぞれの家族のことであったり、四人の生活には直接影響しない歴史的事象であったり、実に多くのこと)が横糸として織り込まれているイメージ。

    世俗から隔離されたかのような空間で日々を紡いでいく女四人の、穏やかさと充足感ある生活の中に大なり小なり様々な形で潜むもろい均衡と微妙な距離感、そこから少なからず生まれる対立に、正直なんだか怖くすらなりました。
    でも、対立だけでなく協調や連帯も確かに存在しているのです。

    多分、読み手の性質によって、全く違う印象を与える物語なのかと思いました。

  • 共同生活を送る事になった女性4人と人形1体。それぞれの奇妙な縁と、織物、染物、能面などが気持ちよく交じり合い、最終的には浄化されたような気持ちになった。
    途中、メモしないと分からなくなる人形を巡る人物関係…。

  • 『りかさん』の主人公ようこちゃんが大人になってからの話。
    機織り、人形、能面といった伝統工芸に携わる人たちの思いや、生と死、過去と現世の繋がり、織り柄の歴史、クルドの民族紛争・・・
    盛りだくさんの内容だけど、どれもがどこかで繋がっていて、途中はミステリーのような高揚感もあり、本当に一気に読んでしまいました。

    そして、人の恨みや、憎しみ、怒りといった負の感情がたくさん出てくるのですが、それらの負の感情ときちんと向き合う登場人物たち。
    蓉子さんは独特の雰囲気で、負の感情を丸ごと受け止める才能がどこかにあるようです。
    それは、りかさんのおかげなのか・・・

    今回のりかさんは喋りませんが、その存在感は『りかさん』よりも圧倒的なものがあります。

  • 「りかさん」の続編にあたる内容の物語。ページをめくる手をとめられなくて、ついつい明け方まで、という体験は久しぶりだった。
    前述の本の主人公である(ようこ=蓉子) が長じて出会った友人に焦点が当てられたストーリー。彼女らはそれぞれ、人形である「りかさん」をきっかけに、各自の曽祖父母やそのまた両親、といった自らのルーツを知り、向き合うことになっていく。
    機織りや植物による染色がモチーフとなっており、かなり専門的な知識も登場する。著者の造詣の深さにも驚くが、時間を縦軸にそこを右往左往する人々が織りなす人間模様はまさに機織りのようで、緻密にはりめぐらされた伏線と物語の展開にどんどん引きこまれてしまう。読み進むと、織物が完成に近づくかのように全体の「縁」の模様が浮かび上がる仕掛けで、思わず「あっぱれ!」と言いたくなってしまった。
    しかし一方で、筆者が本当に描きたいのは、こうした鮮やかなストーリー展開だけではないのだろうな、とも思う。そこかしこに巧みに埋め込まれているいくつかのテーマは、マイノリティと呼ばれる人々の苦しみや「家」という制度の考え方、遊ぶ間もなく仕事と機織りに一生を費やしたかつての女性たちのことや今も残る男尊女卑の思想など、決して軽やかではない。そうした歴史を生んできた人間のどうしようもない性とか、業のようなものに対する記述が、そこここに織り込まれているのだ。
    終盤、中心となって描かれた女性が自分の奥底に潜むマグマのような感情、嫉妬心や憎しみを自らの意志でコントロールしきれなかったことに恐れおののくシーンがある。感情という化け物をあたかも目に見えるもののように描く表現力があまりに凄くて、身の毛がよだつような思いだったが、そういうものさえも認めるしかない、受け容れるしかない、というスタンスにも取れる筆致は、どこか優しくて物哀しい。

    男性には受けないような気が、なんとなくするのだけれども、、、
    心の襞を増やしてくれる、こんな文章と出会えて幸運だった。

  • 『りかさん』の主人公「ようこ」が大人になり、「蓉子」として描かれていた。小さい頃から好きだった染物を続けていたり、人を慈しみ包み込むような暖かさが、「ようこ」だと分かる要素だった。

    『りかさん』はようことりかさんの物語で、最後にマーガレットの娘と三人の共同生活が描かれていましたが、読んだ時点ではなんで共同生活なんて送ってるんだろう、なんでこんなややこしい関係なんだろうと思っていたことがやっと繋がりました。

    『からくりからくさ』ではたくさんの植物の名前が出てきて、スマホを片手に調べながらじゃないとなかなか情景が浮かばなくて大変でした。


    「色は移ろうものよ。花の色は移りにけりな、いたずらに、ってらいうじゃない。変わっていくことが色の本質であり、本質とは色である」

    この与希子の言葉は花と染色の関係だけではなくて、人間関係や人の心情も表してるんじゃないかなぁとも思いました。四人の共同生活の中でそれぞれに抱える問題があって、でもそれが関わりあうことによってまた違う色が出てくるような…。


    この本は情報量が多かったけど、その分考えることも多くて、特に龍神と蛇の関係は私が大学時代に研究したことにも通ずるところがあったので面白かったです。
    能の講義も受けていたので能面に関しての話もすごく興味深かった。

    作家さんってすごいなぁと思ってしまう。
    知識もたくさんあるし、それを物語に取り入れてより内容の濃いものにできるからすごい。
    何回読んでも飽きなさそうだし、読むたびに新しい気づきがでてきそう。

  • 神崎からの手紙のくだりで私が感じたことを、この物語の中で唯一の第三者と言ってよい竹田が、終焉近くで言葉にしていて、好感を覚えた。

    きっと一枚の織物なんだ。

    それはあらゆる人と時空を覆い尽くすほどの織物だろう。

    何のつながりもないはずの女性たち。彼女らは経糸。

    連綿と受け継がれてゆくもの。それは旧き因習であれ民族の歴史であれ、異端のものに触れてしまえば、変わることを避けられない。それを頑なまでに拒み切れるか、折り合いをつけて変化に身を委ねつつも変わらぬ部分を遺してゆくのか。

    そんな息が詰まるような瞬間を何度となく経験しながら、この世界を構成するあらゆる生命とモノたちが繰り返してきた、変わる時の苦闘、苦痛、苦悩。それが緯糸。

    変化のたびに避けることができない代償を払いながらも、人も人形も、民族も遺跡もそのいのちを長らえてきたのだろう。

    四人を繋いできたあらゆるものの焼失、そして一つ…いや、あるいは二つかもしれない生命の消失が、その凄絶な変化が、新しい生命の誕生に繋がってゆく。

    必然…そうして宿縁。その場に居合わせた者たちの胸をよぎる、同じ思い。そのあとに訪れた穏やかな安らぎ。

    織物は絵とは違い、用いた色が溶け合うことはない。それぞれがそのままに、しかし織りなされたものの醸された深みは底がない。

    …なんという作品だろう。私は呑み込まれてしまった。もっと早くに読むべきだったと思う。

    よき、こと、きく。りかさんとその姉妹人形に贈られた着物の紋様。この謎染は、犬神家の一族にも関わっていた。

    良きこと聞く…という縁起を担いだだけではなく、未来への暗示。

    与希子と紀久への祝福…か。

    深い物語でした。憎しみや恨みと愛は、同じマグマから産まれる情念なんですね。

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著者プロフィール

梨木香歩 1959年生まれ。作家。小説に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』、『丹生都比売 梨木香歩作品集』(共に新潮社)、『家守奇譚』(新潮文庫)、『海うそ』(岩波書店)、『椿宿の辺りに』(朝日新聞出版)など。エッセイに『ほんとうのリーダーのみつけかた』(岩波書店)、『炉辺の風おと』(毎日新聞出版)など。児童文学作品に『岸辺のヤービ』(福音館書店)などがある。

「2021年 『草木鳥鳥文様』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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