りかさん (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • / ISBN・EAN: 9784101253343

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、「りかさん」を知っているでしょうか?
    
    う〜ん、『りかちゃん』なら知ってるけど、違うのかなあ…そんな風に思う方もいらっしゃるでしょう。では、そんなあなたの思う『りかちゃん』だったとして、

    あなたは、『今抱いているりかちゃんから声が聞こえた』としたらどう思うでしょうか?

    う〜ん、”Hi!Alexa!”とか”Hey!Siri!”と同じで人形の体内にAIが埋め込まれているのかなあ、今の時代であればそんな風に答える方が多そうです。また、そんな答えに何の違和感もありません。

    科学技術の進歩には驚かされるばかりです。人形に話しかけて、そんな人形が返事をしたとしても大人も子供もなんの違和感を感じないという現代社会。ほんの20年前の時代からしても、それは魔法と言える出来事でもあります。

    しかし、この世にはそんな科学技術の進歩だけでは説明できないことも多々あります。そして、人はそんな事象をファンタジーという言葉で一括りにします。そんなファンタジーの事ごともやがて科学技術の進歩で説明できる未来が訪れるのか、それは今は誰にもわかりません。

    さて、ここに”Alexa”も”Siri”も動作していないのにも関わらず、『りかちゃん、しゃべれたのかあ』と主人公の ようこが驚く『真っ黒の髪の市松人形』が登場する物語があります。「りかさん」という名のそのお人形。そんなお人形と『なじんでおつきあいが始まった』ことで、ようこは『ほかの人形の気分も分かるようになっ』ていきます。この作品は、そんな ようこが数多のお人形の話を聞く物語。そんな話の中にお人形の裏に隠されたさまざまな人たちの存在を感じる物語。そしてそれは、そんな お人形たちが経験してきた事ごとの中に、出会ったことのない人たちのさまざまな思いを感じる物語です。
    
    『ああ』と、『一人になってしみじみと箱を覗』いて、悲しいため息をつくのは主人公の ようこ。『母さんの前では』『がまんしていた』ものの、『がっかりのあまり、涙が出そうだ』と思う ようこ。『リカちゃん人形が欲しかった』ようこの元に届いたのは、『真っ黒の髪の市松人形だった』という展開に『なんでこんなことになったんだろう』と、ようこは『おばあちゃんとの電話のやりとり』を思い出します。『今度のお雛祭りに』欲しいものはあるかと訊かれた ようこは『「リカちゃん」が欲しいの』と答えるも『なんだえ、それは』と答えたおばあちゃんに『お人形よ』と説明した ようこ。『人形なら、ようく、知ってる』と言うおばあちゃんの『妙に力強い言い方を、少し変には思った』という ようこの元に届いたのは、『半紙に「りかちゃん」と書』かれた『古い抱き人形の箱に』入った『市松人形』でした。『こんなの、リカちゃんじゃない』と『みじめな気持ちで』ベッドに入った ようこ。そんな ようこの姿を見て母親は『おばあちゃんに電話をかけ』ます。『今日、お人形届きました』と言う母親に『説明書はちゃんと読んでいるようだったかい』と訊くおばあちゃん。電話を切った母親は、『人形の説明書って何だろう。あれ、からくりでもあるのかしら』と『首をかしげ』ます。(視点が切り替わり、)『今日からここが私のお部屋ね』と思うのは、お人形の『りかちゃん』。ベッドに ようこが『背を向けて眠っている』のを見て『がっかり』するものの、『ようこちゃん、つらいね』と『りかちゃんは同情』すると同時に祈ります。それによって『部屋に漂っていた「悲しい切ない」粒つぶが、急に小さくな』ります。『祈る力のある人形』でもある『りかちゃん』。そんな『りかちゃん』は『だいじょうぶよ、麻子さん。私、きっとようこちゃんとうまく行く』と遠くのおばあちゃんに語ります。(視点が切り替わり、)『朝、目覚めた』ようこは、『部屋の感じが普段と違っ』ているのを感じ、『風の吹き抜ける草原の朝の気持ち良さ』の中、『おかしいなあ』と思います。そんな ようこは『昨日届いた人形』を箱から出し、『りかちゃん』と呼びかけ抱きしめます。そして、母親から説明書の話を聞いた ようこは『朝は着替えさせて髪を櫛で梳き、柱を背に、お座布団に座らせておきます…』と細かく書かれた説明書を読み『新しいペットが来たみたい』と感じます。そして、一週間後、『りかちゃん』を抱いて客間の横を通ると、『障子の向こうが妙にざわついている』のを感じた ようこ。しかし、開けるのを躊躇する ようこ。そんな時、『だいじょうぶよ』と『りかちゃん』がしゃべりました。『うわ、りかちゃん、しゃべれたのかあ』と驚く ようこ。そして、『私のことを、りかさん、と呼んでくださらない?』と言う『りかちゃん』の希望に従って「りかさん」と呼ぶようになった ようこ。そんな ようこが体験するファンタジーな世界が描かれていきます。

    “雛祭りに ようこがおばあちゃんからもらった人形の名は「りかさん」。生きている人間の強すぎる気持ちを整理し、感情の濁りの部分を吸い取る力を持った「りかさん」と ようこのふれあいを優しく描いたファンタジー”と内容紹介にうたわれるこの作品。そんなこの作品の作者である梨木香歩さんは、”云い忘れたが、私の名前は綿貫征四郎”という物書きを生業とする主人公・征四郎の前に亡くなった友人の高堂が船を漕いで掛け軸の中に現れる「家守奇譚」など独特な世界観の作品、他に替え難い魅力溢れる作品を多々刊行されています。そんな梨木さんがこの作品で描くのは、『うわ、りかちゃん、しゃべれたのかあ』と、言葉を話し、人と心を触れ合わせることのできる人形、「りかさん」が登場する物語です。主人公の ようこと、人形たちが語らう世界が描かれていくその世界は、まさしく和風ファンタジーです。

    人形がしゃべるという衝撃的な事象を目の前にしたらあなたはどうするでしょうか?普通ならそんな恐ろしげな人形を手放して逃げるが勝ちとなるように思いますが、主人公の ようこは『かぐや姫でも抱いているような気分』と感じ、「りかさん」と自然に関わっていきます。『ようこちゃんが私とお食事するようになってから、今日で七日、今夜は七日目の夜ですから。だから、ようこちゃん、私がしゃべりかけても、それほど気味が悪くないでしょう』という『りかさん』の問いかけに『ほんとだ』と馴染む ようこ。そして、そんな「りかさん」との心の通じ合いが始まったことで、『ほかの人形の気配も分かるように』なっていく ようこが見る世界はたまらなく魅力的です。物語は、〈養子冠の巻〉と〈アビゲイルの巻〉の二つの章から構成されていますが、そこにはさまざまな人形たちが登場し、その人形たちが抱えるさまざまな悩み、苦しみが語られていきます。私が特に印象に残ったのは次の三つの物語です。

    ・『りかさん、ほら、あの西洋人形の話が聞きたい』と手にした『ビスクドール』が、『生まれたのはフランスなの。お店のショーウィンドウで、日がな一日、外を眺めていた…』と語る先にまさかの展開を経て日本へとたどり着いたビスクドールの物語。

    ・『男雛をはじめ、何体かは鼠に齧られてしまっ』たため、知り合いからもらったり、『父さんが自分の実家から男雛だけこっそり持って来た』りした混成の雛飾りは『別々につくられたお雛さまたちが、一つのセットになってしまった』ことで不協和音の中にいました。そんな中で『もの思いに沈』む男雛。そんな雛飾りたちに足りなかったあるものによって『あな、めでたや。 と、雛壇じゅうが歓喜の声をあげた』という物語。

    ・『日本という東洋の国へ、親善のために送られる人形なの』というアビゲイルが送られたその先に、『あなたの故郷のアメリカとこの日本の国の間で戦争が起こってしまったの。あなたの身の上にも何が起こるか分からないわ』という戦時中の衝撃的な出来事に思わず息を呑む『親善大使』の人形に起こる運命の物語。

    そこには、人形というものに心があるとするからこそ見えてくるさまざまな物語が次から次へと展開していきます。そんな人形たちの世界を見て、主人公の ようこはこんな風に感じます。

    『同じ異界のものでも、幽霊と言われると気味悪いのに、不思議にさっきの人形たちが繰り拡げた世界は、ようこにはおもしろくあっても、怖いという気はあまりしなかった』。

    そう、人形たちから逃げることなく、そんな人形たちの話を丁寧に聞き取っていく ようこは、『怖くはない。怖くても当然だけれど。向こうの世界の案内人のようなりかさんが付いているからだろう』と、「りかさん」の存在の大きさを感じていきます。『ベッドの中で、ようことりかさんは長いお話をした』とさまざまな話をする日々の中に、やがて『りかさんに連れられて、変わった演し物をしている劇場に行ったような印象だった』とさえ思うようになる ようこ。そんな ようこと共に人形たちと当たり前に心を通じていくことが読者にとっても当たり前の感覚になっていくのがとても不思議です。いつしかそんな物語世界にどっぷりと浸っている自分自身に気づくとともに、この物語世界にいつまでも浸っていたい、そんな風にも感じました。

    『人形にも樹にも人にも、みんなそれぞれの物語があるんだねえ、おばあちゃん』と訊く ようこに『そうだね。哀しい話も、楽しい話もあるね』と返すおばあちゃん。そんな二人の会話の先に展開する人形たちと触れ合う主人公・ようこの摩訶不思議な体験が描かれるこの作品。そこには、『りかちゃんは祈る力のある人形なのだ』という主人公・ようこと共にある「りかさん」の存在がありました。『その存在自体、不思議の固まりのようなりかさんが不思議だと言うのを聞くのは、とても不思議な気分だった』といった絶妙な言い回しの数々にも強く魅かれるこの作品。不思議世界を当たり前の感覚の中に描くことで不思議感がさらに強調されもするこの作品。

    和風ファンタジーの魅力溢れる世界にどっぷりと浸らせてくれた、梨木香歩さんの絶品だと思いました。

    • いるかさん
      さてさてさん すごい。

      素晴しいレビューですね。
      さてさてさんの梨木さんに対する思いがすごく感じました。
      私の大好きな梨木さんの世...
      さてさてさん すごい。

      素晴しいレビューですね。
      さてさてさんの梨木さんに対する思いがすごく感じました。
      私の大好きな梨木さんの世界観を すごく表現してくれていてうれしいです。
      本当にずっと浸っていたいですね。

      これからもよろしくお願いいたします。
      2022/11/05
    • さてさてさん
      いるかさん、コメントありがとうございます。
      私、小説の中でもファンタジーが大好きなのでこの作品にはすっかりハマりました。しかも和風ファンタ...
      いるかさん、コメントありがとうございます。
      私、小説の中でもファンタジーが大好きなのでこの作品にはすっかりハマりました。しかも和風ファンタジーなんてなかなか出会えないですよね。まあ、実際にこの作品のようなことが私の部屋で起こると考えるとちょっと怖いですが、本の中で読む分にはうっとりします。
      いるかさんにお褒めいただけて光栄です!頑張ってレビューを書いた甲斐があります。ありがとうございます。
      私もこの作品世界にずっと浸っていたいです!
      2022/11/05
  • 梨木さんの世界観。
    とても素晴らしい。

    「からくりからくさ」の蓉子さんが子供の頃のお話。
    蓉子さんが素晴らしいのは、おばあちゃん(麻子さん)からもらった人形「りかさん」がいたからだったのか。。
    蓉子さんもとても素敵だけれど、原点は麻子さんとりかさん。
    「歴史って、裏にいろんな人の思いが地層のように積もっているんだねえ」
    なるほど。。

    人形を通して人の思いがある。
    こんな素敵な人形に出会いたいと思いました。

    文庫化のために書き下ろしされた「ミケルの庭」は「からくりからくさ」の後のお話。
    こうやって作品が繋がると、読んでいてゾクゾクっとしました。

    • いるかさん
      猫丸さん ありがとうございます。
      ここで、そうつながるか、と思うと、うわぁって思いました。
      もう一度読み返したいと思います。。
      猫丸さん ありがとうございます。
      ここで、そうつながるか、と思うと、うわぁって思いました。
      もう一度読み返したいと思います。。
      2021/03/03
    • さてさてさん
      いるかさん、お久しぶりです!
      久しぶりに梨木さんの作品を手にし、ついに「りかさん」読みました。

      “人形を通して人の思いがある”

      ...
      いるかさん、お久しぶりです!
      久しぶりに梨木さんの作品を手にし、ついに「りかさん」読みました。

      “人形を通して人の思いがある”

      なんだかとてもあたたかい言葉ですね。この作品をとても言い得ているように思いました。まあ、本当に人形がしゃべったら、臆病な私は逃げに逃げまくると思います(笑)が、物語として読む分には、絶品ですよね。
      また、「からくりからくさ」への作品間を超えた繋がり。私的には辻村深月さんが思い浮かぶのですが、なんだかとても得をした気がします。
      久しぶりに梨木さんの世界に触れて、ずっと読んでこなかったのを後悔しました。コンプリートしたい作家さんだと改めて思いました。
      2022/11/05
    • いるかさん
      さてさてさん おはようございます。

      コメント ありがとうございます。。
      さてさてさんにそう言っていただけとてもうれしいです。

      ...
      さてさてさん おはようございます。

      コメント ありがとうございます。。
      さてさてさんにそう言っていただけとてもうれしいです。

      梨木さんの世界観 もうすっかり虜になりました。
      人間的に尊敬しています。
      自分の中の価値観に大きく影響を受けた作家さんです。
      読むだけでなく、梨木さんの本はずっと手元に置いておきたいと思っています。

      ありがとうございます。。
      2022/11/05
  • さてさてさんの本棚からチョイス
    梨木果歩さん、好きです
    あの幻想的なこの世とのあわいのような雰囲気
    それを見事に綴っていますよね
    やはり好き!
    人形の持つ やさしさ・きびしさ・かなしさ

    さてさてさんも書いておられましたが
    お話しのつながりがちょっと複雑ですね
    これはこれで楽しめばいいのですが……

    以前読んだ「からくりからくさ」思い出しました

    ≪ 持ち主の 心とどめる その人形 ≫

    • はまだかよこさん
      さてさてさん、コメントありがとうございます。
      大好きな梨木果歩さんですが、本を閉じたとき、まだ幻想の中に漂っている自分を持て余します(笑
      ...
      さてさてさん、コメントありがとうございます。
      大好きな梨木果歩さんですが、本を閉じたとき、まだ幻想の中に漂っている自分を持て余します(笑

      果歩さん児童向けの本もとてもいいと思います。

      関係ないですが、名前のもと「梨木神社」が経営のピンチだとか
      果歩さん、ヘルプ(* ´艸`)
      2022/11/17
    • さてさてさん
      はまだかよこさん、ありがとうございます。
      児童向けの本、「西の魔女が死んだ」も素晴らしかったので、児童文学の数々も素敵な世界が広がっていそ...
      はまだかよこさん、ありがとうございます。
      児童向けの本、「西の魔女が死んだ」も素晴らしかったので、児童文学の数々も素敵な世界が広がっていそうですね。そして、私、すみません。”梨木神社”について知識が全くありませんでした。そうなんですね。思わず調べてしまいました。そんなところに由来があったのですね。とても参考になりました。こんな素敵な情報を知れて良かったです。ただ、経営のピンチは良くないですね。私もお参りさせていただきたいと思います。
      ありがとうございます!
      2022/11/17
    • はまだかよこさん
      ご丁寧にコメントありがとうございます。

      私は絵本や児童書が好きで、そこから梨木果歩ワールドにはまりました。
      確か著者紹介かなにかで読...
      ご丁寧にコメントありがとうございます。

      私は絵本や児童書が好きで、そこから梨木果歩ワールドにはまりました。
      確か著者紹介かなにかで読んだ気が(忘却のかなたですが)

      特に信仰心はありませんが、でも「神社」というのは、残していきたいなあと思います。
      あの空間っていいですもんね。

      いつも本のご紹介、ほとほと感嘆いたしております。
      丁寧に読み込まれて!私の流し読みとは大違いです。
      これからも楽しみにいたしております。
      よろしくお願い申し上げます。
      2022/11/18
  • 知り合いがカフェを副業にされているので遊びに行ったら、本棚に梨木香歩さんの本がずらっと並んでいた。「りかさん」お薦めされたので、図書館からお取り寄せ。
    リカちゃん人形で遊ぶよりもウルトラマンごっこで弟達と遊ぶことが多かったことを思い出したり、日本人形が家にあったが、夜は動き出しそうで怖かった理由がなんとなくわかったような気がした。
    人形のりかさんから登場している人形たちの一緒に生活した人間との間で培われ背負った歴史が混沌と語られる。憎しみを弔う方法の難しさがひしひしと伝わる。麻子おばあちゃんの語りとようことりかさんとの会話で救われる。
    「いいお人形は、吸い取り紙のように感情の濁りだけの部分だけを吸い取って行く」
    「歴史って、裏にいろんな人の思いが地層のように積もって行くんだねえ」
    「年を取ってありがたいのは、若いころ見えなかったことがようやく見えるようになることだ」

  • すっかり梨木さんにはまってしまい、顔なじみの司書さんに『家守奇譚』や『村田エフェンディ滞土録』が「とってもよかった!」と若干興奮気味に力説したら、こちらを勧めてくださいました。

    読み始めてみると、やっぱりいい!
    リカちゃん人形をねだったようこに祖母の麻子さんから届けられたのは、市松人形のりかさん。
    ようこのやるせない気持ちから物語は始まるのだが、麻子さんからの助言を受けて不思議な力を持つりかさんとの交流が始まるあたりから、梨木さんの世界が動きだす。

    『家守奇譚』の明治時代の空気感や自然との関わり、『村田エフェンディ滞土録』では同時代の日本人の海外での暮らしぶりや異文化との交流が描かれ、その下地となっているのは日本人が自分の周りに存在するものすべてに対して抱いている畏敬の念なのではないかと感じていた。
    本書では祖母と孫の間には世代を超えて、対等に通じ合える言葉を持ち、人形が背負う歴史を理解することができる。人間の世界と人形の世界が融合するあたり、謎めいていながらなぜか心の奥底に届き、少々泣きたい気持ちになる。

    ファンタジーと言ってしまうとなんだか夢物語になってしまいそうなので差し控えようと思うが、遥か昔から日本人の暮らしの中に根付いてきた、自然やもののなかに存在していると感じる八百万の神に対して敬意をはらう気持ちや儚さを愛でる気持ちを丁寧に描いていく。

    私の中に核として存在する、物事に対する捉え方や感じ方、行動原理。これらは生まれた後の環境(両親の思考方法や学校・社会で出会った人々、また、それらを取り巻くもの)によって醸成されてきたわけだが、その感覚が非常に似ていると感じた。

    先日、勤務先のお仲間さんと今読んでいる本の話でひとしきり盛り上がった後に、梨木さんをおすすめしたところ、「私も大好きですよ!特に『村田エフェンディ滞土録』、いいよね~!」と更に話は続いた。
    本を通して人と交流したり、出会ったり。
    楽しみは続いていく。

  • 「リカちゃん人形が欲しい!」とおばあちゃんにお願いしたようこのところに届いたのは市松人形の「りかさん」。
    りかさんがやって来たことでようこの毎日はガラリと変わる。
    人形の存在のなんて大きなこと。
    今まで見えていなかったものが見えるということ。
    人形がみせる数々のこと。楽しいこと。悲しい出来事。
    不思議なことだけではなくて、いつも通る道、友達のお家が急に鮮やかになるような。
    「西の魔女」と梨木香歩さんの本は2冊目だけど、どちらもおばあちゃんが魅力的。主人公の未来を照らすような言葉をたくさんくれる人。
    甘いだけでなく、厳しいことも与える人。
    孫をペット扱いしてない、ちゃんと人と人との付き合いをしている、そんなおばあちゃん。
    こんな風に歳をとれたらいいな。

    「そりゃ、おまえ、価値観の同じ人と結婚したって、修行にはならないじゃないか」

    「澄んだ差別をして、ものごとに区別をつけて行かなければならないよ」
    「自分の濁りを押しつけない。それからどんな【差】や違いでもなんて、かわいい、ってまず思うのさ」

    文庫用書き下ろしの短編「ミケルの庭」は衝撃的。うちは大病しないで来たけれどその描写に心が凍える。
    「からくりからくさ」を読んで改めて読んでみたい。

  • 主人公のようこが祖母に「りかちゃん人形」が欲しいと言うが、祖母がくれたのはなんと黒髪の市松人形だった。
    祖母が書いてくれた説明書通りに「りかさん」と寝食を共にすることによって、ようこには人形の声が聞こえるようになる。

    私がこの小説を読んで思ったことは、
    「人形にも心がある」ということ。
    私自身小さい頃はお人形遊びなんてしたことがなかったから、あまり共感は持てなかったけど。

    ようこに人形の話すことが分かるようになったのは、
    「りかさん」にお供えした食べ物を
    説明書通りに、自分で食べたからだと思う。
    異界のものを食べることで主人異界へと通じる物語は
    多くあるので、この物語も「りかさん」が食べたあとのもの(食べたといっても人形なので実際はそのまま残っている)をようこが体内に入れることによって人形の世界に通ずるようになる。

    『千と千尋の神隠し』でも千がお団子(?)をハクからもらって食べることによって透明な体が治っていくシーンがあったが、それも湯屋のある神々の世界で身を保っていくためには必要なものだったのだと思う。


    この本を手に取ったきっかけは、毎週通ってる図書館でたまたま見つけて自分の名前と同じだったからだったけど、読んでいくと不思議な人形たちの話に引き込まれてしまいました。

    恨み言をいう人形とか、毎日泣いている人形がいてその問題をどうにかして「りかさん」と一緒に解決していくストーリー。

    漫画の『夏目友人帳』みたいだなとも思いました。人形は妖怪みたいに襲ってこないから良かったけど、、、。でもそういえは、人形じゃないけどようこが一度だけ襲われて、泣いて助けを求めるシーンがあったのだけど、その経験が後々大事になってきたりもする。

    『からくりからくさ』という小説にも「りかさん」が
    登場するので読んでみたいです!

  • 祖母から雛祭りに欲しいものを聞かれたようこは「リカちゃん」人形が欲しいと答える。
    しかし祖母から贈られたのは市松人形の「りかさん」だった。
    初めはがっかりするようこも「りかさん」がなくてはならない存在になる。
    「りかさん」を通じて様々な人形の想いを知る。
    人形達には深い物語が眠っていた…。

    祖母と孫娘ってどうしてこんなに心を通わせることができるのだろう?
    この気の合い方は羨ましい。
    ようこは祖母や「りかさん」の教えを素直に受け入れ大人になり、やがて『からくりからくさ』へと続く。
    喋る人形が初めは怖かったけど、だんだん切なくて温かい気持ちになれた。
    少女時代のキュンとなる温かさの伝わる物語。

  • 中学の頃に読んだ西の魔女が大好きで、12.3年ほど経った今、自然を感じられる本を読みたい気分になり、西の魔女を思い出して梨木さんの本を手に取った。

    本書は、自然を感じる要素は多くなかったが、祖母と孫、りかさんを中心とした人形たちが織りなす純粋で不思議なファンタジーな世界観に魅了されなた。

    これまで読んだ梨木さんの本に出てくるおばあちゃんは自然で、まっすぐで、強くて、聡明で、しなかやで、自分もこんな年の取り方をしたいと思わされる。

    みなさん集合して住んだらどんな感じになるんだろうか、、

  • 子どもの頃大切にしていた嬉しい気持ちや悲しい気持ち、不安な気持ちを受け止めてくれたアミーちゃん人形を思い出しました。
    りかさん、おばあちゃんも素敵ですが、ようこはほんと賢いと思う!!どうやったらあんな賢い子に育つのか、、、
    私にはわからない言葉や古く難解な言葉が多くてスマホ片手に言葉を調べながらの読書となり、結構な時間を要しました。それでもお恥ずかしながら人形達のエピソードでは消化しきれてない部分も多々あります。全体の雰囲気としては、優しく暖かい雰囲気を感じることができました。最後に優しい結末が待っているのが安心できました。ミケルちゃん、よかった。ようこは、やはり優しく素敵な大人に育ってる。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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