エンジェル エンジェル エンジェル (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253350

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『エンゼルフィッシュ』を飼ったことがあるでしょうか?

    私たち人間は人と人との繋がりの中で毎日を生きています。意見のぶつかり合いの一方で、お互いがお互いを思いやる瞬間も見る時間の中に、コミュニケーションあってこその暮らしの楽しさを感じもします。その一方で、自分の時間の中に人間以外の他の生物との時間を過ごしたいという欲求を持たれる方もいらっしゃると思います。ペットフード協会が公表している”飼育頭数調査(2021年)”によると、その数は犬が710万6千頭、猫が894万6千頭にものぼるようです。犬の方が多いと思っていた私には少しビックリな数でもありますが、犬や猫との時間を求める方が数多くいらっしゃることが確かに分かります。

    一方で、マンション世帯など犬や猫を飼いたいと思っても自由に飼うことのできない方も多いと思います。そんな方が行き着く先、その一つが『熱帯魚』です。鳴くこともなく、散歩に連れて行く必要もなく、そして、隣近所の方に知られることもなく飼育できる生きもの。水槽という囲われた世界の中で全てが完結できる生きもの。『熱帯魚』が人気になる理由がよく分かります。

    さて、ここにそんな『熱帯魚』の飼育を始めた一人の高校生が主人公となる物語があります。『ああ、きれいだ』、『蛍光灯の光の下で、ゆうゆうと泳ぐ二匹のエンゼルフィッシュと、キラキラ光る十匹のネオンテトラは、完璧な組み合せのように思えた』と、目の前の光景を見て、幸せな時間に浸るその高校生。そんな高校生は、祖母の介護、毎日深夜の『ばあちゃんのトイレ』を担当する中に、祖母との『不思議』な時間を過ごします。

    この作品は、そんな高校生の日常と、『ばあちゃん』の若き日の姿が並行して描かれる物語。主人公が、飼育する『エンゼルフィッシュ』を見つめ続ける中に何かを感じとる物語。そしてそれは、祖母と高校生の二人が『ばあちゃん、気づいているんだ』という『不思議』な時間を共有する中に、人の魂が救われることの意味を感じる物語です。

    『ねえ、きちんと世話をするから』、『自分でも意外に思うくらいの熱心さ』でママに頼みこむのは主人公のコウコ。そんなコウコに『熱帯魚って大変なのよ。もう旅行にも出かけられなくなるわ』と母親に返され、『別に熱帯魚がいなくたってもうできそうもないよ』と『居間の続き間をちらっと見』ると、そこには、『介護用のベッド』に横たわる祖母の姿がありました。『一年ほど前から床についたままになっ』た祖母は、『田舎の家で伯父さんたち』と暮らしていましたが、『突然伯父さんたちの一家が仕事で揃ってアメリカへ行く』ことになり一緒に暮らすことになった今。しかし、『ばあちゃんは自分の息子を』、『自分の孫を忘れて』しまっていました。一方で、『ママのことだけはママと呼ぶ。世話をしてくれる人、という意識があるのだろうか』と思うコウコ。そんな祖母の寝顔を見て『おばあちゃんは天使みたいだ』と母親はつぶやきます。そんなコウコの家は『もともと、ばあちゃんが小さい頃から住んでいた戦前からの建物』であり、『ばあちゃんは結局生まれ育った自分の町の家に帰ってきた』ことになります。
    場面は変わり、『今日は、ばばちやまが田舍から今年一番の新茶をもつていらつしやる日』という中、『準備で大わらは』のツネを見て『なんだか大晦日みたい』と思うのはさわこ(祖母の若き日)。『私は人をおもてなしするのが大好きだ。それが大好きなばばちゃまだつたらなほのこと』と思うコウコは、『七時半にいつも通るしじみ賣りの聲に、慌てて家をあとにし』ました。
    場面は戻り、コーヒーを『日に三十杯はゆうに飲む』というコウコは、『カフェインに「やられている」』と自身のことを思います。そして、『やっぱり、熱帯魚だ。私には神経を落ち着かせる何かが必要だ』というコウコは、夜中に目覚め『まだ二時半だ』と思います。そんな中、『廊下の電燈がつ』き、『ばあちゃんとママ』が現れました。『これからトイレなの』と言う母親に『毎晩、今ごろ?大変だねえ、ママ』と返したコウコは『私、やってあげるよ。明日から。ママ』と母親の代わりに祖母のトイレの担当をすることを申し出ました。そんな申し出に黙ってしまった母親でしたが、しばらくして『ありがとう。コウコ。じゃあ、明日からお願いするわね』とトイレの方から声がするとともに『次の日、熱帯魚飼育の許可が降り』ました。そして『熱帯魚』の飼育を始めたコウコ。一方で若き日の祖母・さわこの姿が描かれる物語。この二つの時代の物語が並行して描かれていく中に、それらが絶妙に一つの世界観を織り成していく物語が始まりました。

    “私、コウコと、ばあちゃん、さわちゃん。トイレへ行く他はほとんど寝たきりの少し呆けた祖母の心にあるものは…。現在と、祖母の若い日の物語が1章ごとに交代で同時進行する”と内容紹介に端的に説明される13の章からなるこの作品。『補修や宿題の多さで有名な進学校』に通う主人公のコウコの物語が奇数章に、『ミッション系の』『女學校』に通うもう一人の主人公のさわこ(祖母の若き日)の物語が偶数章に交互に描かれていきます。作品自体は文庫本156ページとあっという間に読み終える分量ですが、あっさり感はなく、短い中にとても深い物語が描かれていたという読後感が残るとても意味ありげな作品になっています。ただ、ページ数の少なさは下手なことを書くとすぐにネタバレに直結してしまうため、なかなかにレビューを書くのが難しい作品でもあります。では、まずは、この作品の特徴でもある二つの時代の表現を見てみたいと思います。

    まず現代のコウコは、『壁に組み込まれた熱帯魚の水槽』を『インテリア雑誌で見た』ことがきっかけとなって『熱帯魚』の飼育を熱望しています。上記の通り、祖母の介護の手伝いをすることと引き換えに飼育を認められることになったコウコは『早速近所の熱帯魚の専門店』で、『水槽のセットと、底に敷く砂、水道水の中和剤などを買って』きます。『風呂場で丹念に砂を洗』い、一方で、『物置の隅に眠っていた』『かなりの年代もの』の『サイドテーブル』を取り出してきて居間にセットします。『サーモスタットとフィルターを通電させ』水の循環が始まった様を『生命の循環の始まりだ』と書く梨木さん。そして、いよいよ熱帯魚の登場、『エンゼルフィッシュ二匹と、ネオンテトラ十匹』を買ってきたコウコ。『最近、聖書に凝っている』というコウコは、『エンゼルフィッシュ』という名前に親しみも感じながら、出来上がった目の前の水槽の光景を『ああ、きれいだ』と思います。『ゆうゆうと泳ぐ二匹のエンゼルフィッシュと、キラキラ光る十匹のネオンテトラ』を、『完璧な組み合せ』だと満足感に包まれるコウコ。この展開は、『熱帯魚』を飼育したことのある方には飼育する側の心の動きがとてもよく分かると思います。極めて読みやすい文章の中に極めて前向きな主人公・コウコの気持ちが描かれていく奇数章の前半を読む限りは、これって梨木香歩さんの作品だよね…何を言いたいのかなあ、とシンプルな展開が故の不思議な感覚に包まれます。

    一方で、過去の時代を描く さわこの物語は一癖二癖あります。何故なら、その文章は戦前の表記そのままにこんな風に表現されるからです。

    『夏の陽射しの中で走り囘つて遊んだ後、喉が乾くと、土間に据ゑてある水瓶の水を柄杓ですくつて飮んだ』。

    どこに違和感があるかお分かりになるでしょうか?一つには撥音が大文字で記されている点です。”すくって”ではなく『すくつて』。二つには漢字が旧字体で記されている点です。”走り回って”ではなく、『走り囘つて』。そして三つ目には、『土間に据ゑてある水瓶の水を柄杓ですくつて飮んだ』という今の世とは全く異なる昔の日本にあった光景の描写だということです。コウコが主人公となる奇数章は、いかにも今の時代、さわこが主人公となる偶数章には、説明の通り、これでもかと古き日本を印象付ける表記をもってこの両者の違いを際立たせながら物語は進んでいきます。そんな偶数章は、はっきり言って読みづらいです。しかし、『お勝手で際限なく增え續ける、あはびの殻で緣どつた、私の大事な花壇』、『はうじ茶でつくつた茶がゆは、鹽が效いてゐて、おいしかつた』、そして『町内を行く金魚賣りの聲が、氣だるげに響く』と描かれていく古き良き時代の日本の風景はとても味わい深さを感じさせてくれます。この表記あってこその味わいとも言える表現の数々。この作品、単行本と文庫では結末含め内容に差異があるようで、単行本ではさわこが主人公となる物語の表現もこのようになっておらず、印刷の色合いで違いを出させているようです。私は文庫本しか読んでいませんが、この味わいのある表現が登場しないとすると、単行本より文庫の方が良いのではないか?そんな風に感じました。

    そんな今と過去の物語が並行して描かれていくこの作品。上記した通り、その関係性に踏み込んでいくとそのままネタバレになってしまうため、残念ながら踏み込むことはできませんが、ひとつだけポイントに触れておきたいと思います。それがコウコの物語に登場する『エンゼルフィッシュ』と、『ミッション系の』『女學校』に通っていた さわこが見る『大天使ミカエルさまは、それは御位の高い天使さまなのよ』と描かれていく物語の対比です。

    『私が、悪かったねえって。おまえたちを、こんなふうに創ってしまって』

    祖母の さわこが語る意味ありげな言葉を聞いて『新しい風が体内に吹き込んだようだ』と感じるコウコ。二つの全く異なる時代の物語が、時空を超えて見事な繋がりを見せる瞬間。点と点の結びつきが一本の線になって二つの時代を結びつけていく、結びついた線の上に一つのドラマが出来上がっていく、そして、その先に梨木さんがこの作品で伝えようとされることがふっと浮かび上がってきます。そこには、『創造主』という言葉が意味する深淵な世界へと読者の感覚を誘う物語が描かれていました。

    わずか156ページの物語の中に深い読み味を感じさせるこの作品。『さわちゃんは、私の心に住む人のようなしゃべりかたをする。私はなんだか違う時間に入り込んだような気がしていた』というコウコと祖母の さわこの心が交わっていく様が描かれるこの作品。二つの時代の物語を見事に編み上げていく、梨木さんの構成力に圧倒されるこの作品。

    「エンジェル」を三つ重ねる書名の、どこか軽やかさを感じさせる物語の中に、人がこの世に生まれ、生きて、そして死んでいく、そのことの意味を想起させもする深い深い読み味の作品でした。

    • さてさてさん
      まことさん、こんにちは!
      秋ですね。今年もあと少しですので、下半期のベスト本をどれにしようか思案中のさてさてです。

      「エンゼルフィッ...
      まことさん、こんにちは!
      秋ですね。今年もあと少しですので、下半期のベスト本をどれにしようか思案中のさてさてです。

      「エンゼルフィッシュ」飼われていらしたんですね。写真で見るととても綺麗で欲しいなあと私も何度も思ってきましたが、水を換えたりというメンテナンスにどうしても自信がなくて一歩を踏み出せずじまいです。犬も猫も飼ったことないですし、私の場合、飼育経験はカブト虫くらいかもしれません(笑)。ところで、まことさんからいただいた今回のコメント、なんかミニ小説みたいですね。なんだか物語になってます。実はとても衝撃的なんですけど。でも、この作品、まことさんの物語のさらに上をいく展開なんです。コメントでネタバレするわけにはいかないので書きませんが、かなりショックな展開なのです。まことさんは、意図されていないと思いますが、まことさんからいただいたコメント内にその衝撃の一旦に関係する、ある名詞が書かれていてさらにビックリです。もし機会がおありになれば是非この作品お読みいただければと思います。私が興奮して書いている意味がお分かりいただけると思います。”つまらない話で…”と書かれていますが、真逆です。いつものごとく読後から時間経っているのですが、衝撃的な内容が蘇りました。
      ありがとうございます!
      2022/11/09
    • まことさん
      さてさてさん♪

      お薦めありがとうございます。
      ブクログでは人気の梨木香歩さんですが、私は1度どの作品とは言いませんが、読もうとして挫...
      さてさてさん♪

      お薦めありがとうございます。
      ブクログでは人気の梨木香歩さんですが、私は1度どの作品とは言いませんが、読もうとして挫折したことがあり、私には向いてないのかな?と思っていたので躊躇していましたが、せっかくのご縁なので、冬になって図書館に行けなくなったら、読んでみようと思います。
      2022/11/10
    • さてさてさん
      まことさん、すみません。
      ご無理申し上げるつもりはございませんので…。
      作家さんでレビューを検索すると作家さんによって随分と差が現れてい...
      まことさん、すみません。
      ご無理申し上げるつもりはございませんので…。
      作家さんでレビューを検索すると作家さんによって随分と差が現れていますよね。ある一冊だけ飛び抜けて登録が多いという作家さんから、多くの作品に登録がある作家さんまで。まあ、自分に合う作家さんが何より大切なので登録が多い作家さん、一般的に人気があるという作家さんだけが良いわけでもないのでしょうが、選書の参考にはなりますね。まことさんは幅広い作品を読まれていらっしゃるので本棚はとても参考になります。
      今年も残り少なくなってきましたが、引き続きましてよろしくお願いします!
      良い読書で一年を終えたいですね!!
      2022/11/10
  • これも すごい梨木さんの世界。

    あっちの世界とこっちの世界。
    人の中も複雑。
    天使と悪魔。
    それは本当にそれほど違う??
    なにもかも認めることができれば、それはすごいことだと思う。

    梨木さんの本は やっぱり良いなぁと思います。
    まだ買い置きしているものがあるので、順番に読んでいきたいと思います。

    • かおりさん
      梨木香歩さんの本、私もとてもすきです。
      『りかさん』『村田エフェンデイ滞土録』もおすすめですのでよろしければぜひ^ - ^
      梨木香歩さんの本、私もとてもすきです。
      『りかさん』『村田エフェンデイ滞土録』もおすすめですのでよろしければぜひ^ - ^
      2021/02/17
    • いるかさん
      かおりさん コメントありがとうございます。
      「りかさん」を今 読んでいます。
      「村田エフェンデイ滞士録」は全然知りませんでした。
      情報...
      かおりさん コメントありがとうございます。
      「りかさん」を今 読んでいます。
      「村田エフェンデイ滞士録」は全然知りませんでした。
      情報ありがとうございます。
      これからもよろしくお願いいたします。。
      2021/02/18
  • 「えらく字数が少ないね」と、横から言われた。しかも160ページほどなので、すぐに終わってしまった。

    にもかかわらず、内容は結構、重かった。人間の業がむき出しになったような感覚に陥る。

    「コウコは、寝たきりに近いおばあちゃんの深夜のトイレ当番を引き受けることで熱帯魚を飼うのを許された。夜、水槽のある部屋で、おばあちゃんは不思議な反応を見せ、少女のような表情でコウコと話をするようになる。ある日、熱帯魚の水槽を見守る二人が目にしたものは―なぜ、こんなむごいことに。 ... Google Booksより」


    物語は、女子高生のコウコ(コウちゃん)の現代と、コウコの祖母であるさわちゃんの時代が交互に描写されている。

    コウコは母親から天使と言われる。叔父一家がアメリカ転勤となり祖母の世話を母がすることになる。祖母の夜中にトイレに連れて行くことをかって出たコウコは母親から熱帯魚を飼う許可を得、エンゼルフィッシュとネオンテトラを飼う。

    本作は、現代のコウコが感じた残虐さと過去の祖母さわこの残虐な行為が交差する。

    現代ではエンゼルフィッシュがネオンテトラを攻撃し、殺してしまう残虐さと、最後に残ったエンジェルフィッシュが死んでしまったときの祖母の残虐な行動。
    祖母の女学生時代では、祖母の級友に対する異常なほど攻撃的な醜い行動である。

    「神様が『私がわるかったねぇって。おまえたちを、こんなふうに創ってしまって』そう言ってくれてらどんなにいいだろう」という。その言葉が、自分たちの罪深さ、しいては人間は罪深さを認めているように聞こえる。

    また、物語のエンジェルフィッシュの描写で、あんな小さな生き物ですら、だんだんとエスカレートする残虐さに何故か、人間だけではなく、これが生き物の本来の姿であり、性のような気がした。
    隠しておきたい本性を突きつけられたような気持ちになり、それを否定している自分を認める。そんな気持ちに陥いるストーリーであった。

    タイトルのエンジェル、エンジェルという意味に被せたコウコと祖母そしてエンジェルフィッシュの醜さ、残虐さを歌っているのであろう。

  • 梨木香歩さんの本はこれで二冊目。

    この小説の中には「天使」という言葉が何度か出て来ますが、場面ごとに少しずつ意味が違います。
    一番重要なのは「おばあちゃんは天使みたいだ」という、ママの言葉。
    お話は主役である少女「コウコ」によって語られます。
    しかし、昔語りで語られるおばあちゃんの話も交互に出てきます。
    寝たきりになって、意識がこの世とあの世を行き来している状態で、それは深い水の底をのぞくような不思議な気分にさせられます。
    どこでどう繋がっていくのか、ひとつひとつの挿話を巧みに織り交ぜ最後には美しい一遍のファンタジーとなって仕上がっていることに気づかされます。

    覚醒したときに話すコウコとの会話。
    静かな繰り返しに、読み手もシンと心が静まります。
    たっぷりの伏線が敷かれ、最後まで読んでやっとパズルが完成した気になるのですが、テーマは重いのです。
    「私が悪かったねえ。おまえたちを、
     こんなふうに創ってしまって」
    創造主の懺悔が聞こえて来ると、人は生命を全うするのでしょうか??

    梨木さんの本は、魂との会話をさせてくれます。
    少女に語らせるという偽装をして、実はこちらの心の奥底に語りかけてくる、ある意味危険な小説。

  • 梨木さんは家守綺譚から2作目。
    家守綺譚のレビューを載せてからフォローが急激に増えたので、感謝の意味を込めていつか別の作品も読もうと思ったけどこんなに遅くなった。
    解説が精神科医の神田橋先生というのも興味があった。

    上の3分の1が空白という不思議な構成。
    孫のコウコと祖母のさわちゃんの心情がリレーでつながる。対等な友人の関係のようだけど世話をするものされるもの、庇護するものされるものという関係。
    熱帯魚ではないが、魚を飼育しているので、水槽を準備するあのワクワク感は、砂を洗うわずらわしさも含めて、やはり楽しい。
    さわちゃんが植えたというお茶の木、調べてみた。品のある白い花、素敵。
    カスタード・クリイム、西洋餡入り揚げ菓子、本当に美味しそう。
    私もカフェイン中毒なので少し控えなくちゃとも思った。

    場面が交錯して、時々読み返さないと混乱するが、妙にかみ合わなさと共通項があってじわりと恐怖も感じる。
    水槽の創造主、神様という言葉があとから、ああそういうことにもつながるのか。「おまえたちを、こんなふうに創ってしまって、悪かったね」

    • ☆ベルガモット☆さん
      猫丸さん こんばんは

      えええ、そうなんですか?!
      ラストが今回のとは違う前作があるんですか!
      謎だらけの猫丸さんの謎、気になる~
      ...
      猫丸さん こんばんは

      えええ、そうなんですか?!
      ラストが今回のとは違う前作があるんですか!
      謎だらけの猫丸さんの謎、気になる~
      貴重な情報ありがとうございます☆
      2022/08/01
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ベルガモットさん
      書き換えたってコトは、最初のヴァージョンは何か気に入らないトコロがあったのかなぁ?

      実は猫宅では、梨木香歩の本はよ...
      ベルガモットさん
      書き換えたってコトは、最初のヴァージョンは何か気に入らないトコロがあったのかなぁ?

      実は猫宅では、梨木香歩の本はよく行方不明になり「エンジェル エンジェル エンジェル」も、今読み返したい「からくりからくさ」も見当たらない。。。片付けなきゃ(愚痴でした、、、)
      2022/08/03
    • ☆ベルガモット☆さん
      猫丸さん こんにちは☆
      コメントありがとうございます!
      行方不明とは巨大な蔵書室があるのでしょうか
      では『からくりからくさ』を次の候補にしよ...
      猫丸さん こんにちは☆
      コメントありがとうございます!
      行方不明とは巨大な蔵書室があるのでしょうか
      では『からくりからくさ』を次の候補にしようかなと思います
      2022/08/05
  • 旧漢字や古い言い回しを使うことで
    単行本版よりも場面転換も入りやすく、
    昔の景色がより濃く広がる文庫版。

    古い時代のお茶摘みの楽しさ、
    川で冷やされたお茶の景色、
    塀に沿って咲いたフランス菊、
    明るい陽射しと土間の危ういコントラスト。

    誰しの心にもある特別ではない「悪」が
    目に見えない振り子のように次第に
    大きな振動を伴って不穏な影のように圧迫する。

    どこにも逃げられない閉塞感に迫られ、
    やがてくる破壊の後のどこまでも広く
    心も体も空と溶け合うかのように
    昇華される開放感は圧倒的。

    水槽の濾過装置のように時を越えて
    同じ闇にもがくもう1つの心を
    自分が悪を引き受けることで救い、
    その姿に過去の自分を重ね、
    自らも清らかに救われ罪が緩む。

    時空を超えて得た2人の姉妹と木彫りの天使。
    さわちゃんの翼はきっと力強く美しい。

  • 3つの閉じられた世界(こうこ、熱帯魚の水槽、おばあちゃん)が関わり合って、中身が、だんだんあふれ出してくる様子にはらはらしながら読んだ。ヒトのむりを凝縮させたような水槽の描写には暗澹となったけれども、犠牲のうえに、犠牲にしたことを自覚しながら生きていく、青空を仰いだような感覚を覚える一幕もあった。ただ、かなしみをも一時のものとして、ひとは生きていくのだと思うと、希望と絶望のあいまざったあいだを超えた、なにか「ねがい」「祈り」のようなものを感じる。

  • すぐに読み終わるけど、ページ数に不釣り合いな重さ。
    梨木さんの書く話はいつもそう。
    穏やかさの中に黒々とした不気味さがある。人間の嫌な部分に輪郭を持たせて、読者に訴えかける。
    びっくりするような思いがけないグロ描写(私がグロだと思っているだけかもしれない)もあったりする。
    だから無意識に、命にフォーカスした読み方をするようになる。
    そして考える。梨木さんの作品はいつも、考えさせる。好きだ〜!!そんな梨木さんの作品が好きだ〜〜!!!

  • 過去の後悔と現在の悩みが、熱帯魚を通じ、巧妙にミックスされて描かれている
    「からくり小説」と表現されているが、現在と過去を行き来する章立てと、締めくくりで、なるほど納得
    少ない文章量(ページの上1/3程度が空いていて、行間も広い)で、読者の想像を沸き立てる表現はお上手

  • コウコと寝たきりのおばあちゃんとの夜の秘密の交流。
    現在とおばあちゃん、さわちゃんの過去とが聖書と熱帯魚、古びたテーブルを介して混ざりあう…。
    最後、コウコの何気ない言葉により何十年ごしの後悔からおばあちゃんは救われます。
    ツネが彫った天使様がテーブルから出てきたとき、ツネの優しさにホロリとさせられました。そしてその木彫りの天使が体現している、天使のような心を持ち続ける難しさですよね…

    神様が悪魔をどう思っていたか、自分のなかの醜い部分がこのお話を読んで少し救われたように思います…

    読みやすいのにすごく深い、というか重いという印象のお話です。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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