家守綺譚 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 6276
レビュー : 926
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253374

感想・レビュー・書評

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  • 亡き親友の家で物書きをしながら暮らす主人公。

    親友の幽霊、主人公に懸想するサルスベリ、
    かっぱなどがでてきて、
    雨の日のようなふわふわした雰囲気がすごく素敵。

    途中から犬のゴローさんが番犬となる。
    このゴローさんがなかなかカッコイイ。
    揉め事を仲裁してまわって、鳶に乗って帰ってきたりする。

    毎回、植物がテーマになって、
    常にふわふわとした夢を見ているような、
    そんな雰囲気が漂っています。

    また、時間がたったら読みたい作品です。

  • 「上月君、君は、死、とはどんなものだと思うかね?」
    ソファに座った途端にそんなことを問いかけられたのだから、はあ?と不躾な声を上げてしまっても失礼ではないと思う。
    死。Death。この場合はdiedの方が良いのだろうか?それは生物学的な死か、それとも比喩か。文学には『生と死』をテーマとした作品はそれこそ五万とある。数秒だけ考えたが、都子の望む答えがいまいちよくわからなかった。
    「哲学ですか?」
    「好きに解釈したまえ。生物学上の意味でも、倫理的な意味でも、文学としてのテーマでも構わない」
    「はあ。…死、ですか。まあぱっと思いつくのだと、もう目を覚まさなくて…、とか、葬式とかのイメージですかね」
    「ふふ、まあそんなものだろうね」
    にやにやと笑いながら都子が差し出したのは一冊の文庫本だった。太い青竹から小さな雀が顔を覗かせている素朴な表紙である。ごく薄い文庫本で、一日もあれば読み終わりそうだった。とても『死』だとかそういう物騒なテーマを扱っている本には見えない。
    「家守綺譚」
    簡潔なフォントで記されたタイトルを読み上げると、都子は実に満足そうに笑って、テーブルの上の茶を指し示した。
    「飲みたまえ。今日のお茶は日本茶を用意したよ」
    確かに机の上には言われたとおり、素朴な湯呑に鮮やかな新緑色の液体が満たされていた。文庫を机に置き茶を口に含む。からりとしたどこか懐かしい味が口内へと広がる。
    「旨いですね」
    「ヨモギの生茶だよ。穂先を摘んで熱湯にくぐらせたものだ。家守綺譚を読むのなら、こういった古くからある民間の茶が良い。素朴であり、親しみ易く、手頃な存在でいなければ」
    「はあ」
    ず、と音をたてて啜ると、鼻の先に特徴のある香りがぬけていく。なるほどこれはヨモギか。初めて飲む代物だったが意外にもクセはない。
    「さて、先ほどの命題だけどね。深い意味はないよ。――――…ただ、そう、例えばね。私が既に死んでいる存在だとしよう」
    「はあ?」
    「例えば、だよ。例えば。今ここにいる私はすでに死んでいるのだ。母から貰った肉体はすでに朽ちて存在しなくなっている。けれど今こうして君の目の前にいる私はこうして喋っていて、君が触ろうと思えば触ることができる。この場合、私の死という定義はどうなると思う?」
    「…質問の意味がよくわからないんですけど。それは生きているという状態と変わらないですよね」
    「ふふ、この物語の本質はね、そこだよ」
    「はあ」
    「この物語は明治後期を舞台とした連作短編だ。主人公はとある片田舎に住む貧乏小説家だ。彼自身はなんの不思議もない人物だが、彼の周囲には少々変わり者が多い。例えば、庭に咲くサルスベリの木。彼女は主人公に懸想している。彼が飼っている犬は近隣で人格者と評判だし、近所の和尚は信心深い狸と知り合いだ」
    「…そういう人種と知り合いってだけでなんの不思議もない人物ではないですよね」
    「そうかい?そしてね、極めつけは彼の親友だ。高堂、という名前で、主人公と大学の同期なのだけれどね。数年前に死んでいるはずなのに、ほとんど毎話登場して、主人公と会話をして去っていく」
    少し、考え込む。それは、さきほど彼女が健太にした例え話に似ているような気がした。
    「死んでいる――――…とう事は、この物語ではさしたる障害ではないのさ。生と死、種族の差、そんなものの垣根がごく薄い世界の物語だ。古き良き今昔の民俗の描写は実に美しい。――――…神秘がごく当たり前に隣に存在する世界の日常の物語、とでも称するべきだろうね」

  • 同じ作者の「村田エフェンディ滞土録」を読んだ後に、その対になっている話だと聞き購入。

    なるほど時代設定は同じであるが、あちらがトルコという異国を舞台にしているのに対し、こちらは日本を舞台にしている。

    どちらも共通して、この人が書く物語が凄いなと思う部分に、読んでるうちに、本当にその風景や人物が「ある」と感じることがある。

    天地自然の「気」、日本の伝承上の妖怪であったり、神様であったり、もちろん現実には存在しないものであるが、本書を読んでいると、そういったものが本当に存在しており、共存していた古き良き時代があった気にさせられる

    こういった不思議なものたちとの、まさに伸びやかな交歓の記録であり、不思議だけど、その不思議を受け入れ、どこかのんびりしており、だけどちょっぴり不気味な感じもある世界観が非常に良かった。

    個人的な所感であるが、不思議なものを不思議なものとして、過度に恐れず隣人として受け入れている感じが、きっと我々日本人が持っている精神性なのだなと思い、それはとても良いものだと思った。

    続編もあるみたいなので、そちらも是非読んでみたい。

    • もとごんさん
      だいごろ。さん
      こんばんは。
      だいごろ。さんのレビューを読ませていただいて、「村田エフェンディ滞土録」をきっと読もうと思いました。
      梨...
      だいごろ。さん
      こんばんは。
      だいごろ。さんのレビューを読ませていただいて、「村田エフェンディ滞土録」をきっと読もうと思いました。
      梨木香歩さんの《不思議な世界と、不思議な世界を自然に受け容れている人たち》を描く、不思議なのに自然な話…魅力がありますよね。
      2019/11/13
    • だいごろ。さん
      もとごんさん
      こんばんは コメント頂けて嬉しいです。

      本作の、不思議なもの不思議と感じさせず、自然と受け入れて「一緒に」いる雰囲気が、自...
      もとごんさん
      こんばんは コメント頂けて嬉しいです。

      本作の、不思議なもの不思議と感じさせず、自然と受け入れて「一緒に」いる雰囲気が、自分もとても気に入ってます。

      「村田エフェンディ滞土録」も是非読んでみてください。
      本作とはまた少し異なる雰囲気ですが、トルコという異国を舞台に、個性溢れる登場人物とこれまた不思議な出来事達が、活き活きと描かれています。

      (こう書くとハードル上がっちゃいそうですが)個人的にはラストシーンがオススメですよ。
      2019/11/13
  • 100年前の日本が舞台。まだ人と自然、神様や人外のもの達が近くにいた時代の話。
    風景や空気感まで見事に想像できる素晴らしい文章。木や花も全て今の日本にあるもので、春夏秋冬が手に取るようにわかる、日本人として大切に大切にしたい素敵なお話です。主人公の守っている屋敷や庭のレイアウトを想像するのも楽しいです。
    ベスト3の中の一冊に選ばせて頂きました。

  • 『冬虫夏草』を読む為に再読。再読だからパラパラとでいいかなと思っていたけど、そうさせてくれないのがこの作品。ひとつひとつの文に惹きこまれる…
    綿貫は亡くなった親友の父に家の守を頼まれる。
    そこでは、亡くなった親友を始め小鬼や河童など様々なものが出没する。
    それらを、みなそういう土地柄だからとすんなり受け入れている様が面白い。
    また、四季折々の美しさも感じられる。今年はいつもと違う気持ちで桜を見る事が出来た。
    美しいだけではない何かを感じた。いじらしさや神秘さか。桜鬼を探したり。
    最後の綿貫の決断天晴れ!

  • 「冬虫夏草」の前に再読する。ゆっくり想像して、情景を思い浮かべないと、心に入ってこないので、時間がかかる。ファンの方が、この本に出てくる植物の写真を集めてホームページを作ってくれていて、それを観ながら読むと、さらに情景が浮かんできてよかった。

  • 「村田エフェンディ滞土録」終盤にちらっと現れた。
    つまり同じ時代の、こちらは日本。
    さらには一年四季折々の気配を、風光明媚な植物の移り変わりで表す。
    表すだけでなく、植物が人間に化けて頻々と登場する。
    さらにタヌキもキツネもカッパも龍や鬼や死者さえも当然の如く現れて、スペシャルな装いなく立ち居するのを、殊更に驚かないのが主人公。
    多くの怪異が、だからこそ心地よい。
    怪異に染まりきらず、怪異を撥ねつけもしないニュートラルな構えは、理想的であるにも関わらず、ちっとも鼻にかけない、平凡な振る舞いだと本人は思っている。
    そこに立ち昇るおかしみ。
    ファンタジックと言うこともできるが、西洋風ではない、たかだか数十年数百年前の日本にはこういう世界認識が当たり前にあったのだと思わせてくれる、豊潤な想像を掻き立ててくれる。
    怪異に恐怖よりも面白味を感じさせてくれるのは、もう文章の力あればこそ。

  • 人間の暮らしの中に、植物、動物、妖怪(?)みたいな人間ではないものが意志を持って存在していて、それが受け入れられているというところがいい。

    この世は全部人間のものではない。人間の及ばないところ、認識できないところもある。全部、人間たちのものだとか、思い通りだ、やりたいようにやればいいだなんて思ってはいけないなあ、と思った。

  • 亡き友の家の家守となった主人公征四郎が、四季と通じ合うゆったりとした空気の中で出会う数々の怪奇、でもそれに対して恐れたり疑ったりすることなく受け入れてしまう主人公がとっても良いなと思う。出てくる自然とのエピソード(サルスベリに嫉妬されたり、河童を助けたり…)が想像力をかきたてられる。又、亡き友がふら~と現れてぼそっつとつぶやきまたあの世へ帰っていくのも心くすぐられる。さすが、本屋さん大賞ノミネートされただけある。手元に置いて心を軽くしたいときに読みたくなる一冊です。

  • 行方不明の友人高堂宅に頼まれて住み始めるようになった作家志望の主人公綿貫。そこは植物、動物、物の怪など、さまざまな来訪者がやってくる不思議な家だった。綿貫・高堂、そして飼い犬ゴローを中心とした連作短編。

    言葉を発することのないはずの植物や動物たち、死んだはずの高堂…普通に考えれば不可思議な現象を、綿貫をはじめこの世界のすべてがごく自然に受け入れる。少し不器用ながらも実直な綿貫と、そんな彼をからかいつつも見守る高堂のやりとりも微笑ましい。
    あらゆる生き物の交流を通じて、自然を慈しみ、四季を感じられる作品。一篇一篇は短い話だけど、一冊を通してなんとも言えない贅沢な時間を過ごせた。なんて調和の取れた柔らかい世界なんだろう。読むと自然にどっぷり浸かったように心が安らぐ。
    続編「冬虫夏草」も読まなきゃ。

    • 九月猫さん
      放浪金魚さん、こんばんは♪

      はじめまして。九月猫と申します。
      フォローしてくださってありがとうございます。

      本棚とプロフィール...
      放浪金魚さん、こんばんは♪

      はじめまして。九月猫と申します。
      フォローしてくださってありがとうございます。

      本棚とプロフィールを拝見していて、ベスト作品に「家守綺譚」が入っているのを発見して思わず「きゃあ♪」と声に出してしまいました(笑)
      私も、梨木さんの作品の中でいっとう大好きな作品です。
      好きすぎて、いつでも読めるように一時は鞄の中か枕元のどちらかに必ず置いていました。
      おかげで本はもうよれよれです(^^;)
      「冬虫夏草」もよかったのですが、梨木さん最新の「海うそ」がとても素晴らしくて「家守綺譚」と並んで大切な作品になりました。
      放浪金魚さんも読みたい本に登録なさっているようなので、レビュー楽しみにしています!

      ということで。
      同じ本が大好きな放浪金魚さんの本棚、こちらからもフォローさせてくださいね。
      これから仲良くしてくださると嬉しいです。
      どうぞよろしくお願いします(*_ _)ぺこり。

      2014/08/29
    • 放浪金魚さん
      九月猫さん、はじめまして。

      九月猫さんのレビューがどなたかの手によって人気レビューに挙がり、それを偶然目にした私は本当にラッキーでした...
      九月猫さん、はじめまして。

      九月猫さんのレビューがどなたかの手によって人気レビューに挙がり、それを偶然目にした私は本当にラッキーでした。本棚をこっそり拝見したところ、好みの本が似通っていてびっくりです。勝手ながら突然フォローさせてもらった立場にも関わらずコメントまで残していただき嬉しい限りです。
      読書ペースもブクログ更新速度も亀レベルですが、良いきっかけをいただいたので積読となっていた『海うそ』を早速読んでみることにします。梨木さんの本はつい余韻に浸りすぎて感想を書くのに時間が掛かる上にまとまりのない文章になってしまうのですが、なるべく素直な感想が書ければと思います。

      九月猫さんの優しく柔らかい表現を使ったレビューは読んでいて刺激を受けます。
      これからも本棚やレビューを参考にさせてくださいね。
      こちらこそどうぞよろしくお願いします♪
      2014/09/01
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著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

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