家守綺譚 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 930
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253374

感想・レビュー・書評

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  • このような古風な気が流れ出す文章を、私とは3歳差の作者がものしたという事実より、明治か大正の文士の卵、綿貫征四郎の手によるもの、と素直に受け止める方がしっくりとくる。

    全編に流れる気脈に酔いしれた。
    俗世に住まう身ならば気づきもしない数々のものの気配を、(おそらく)山科の気に身をどっぷりと沈め、その気脈に感応したに違いない征四郎というパラボラアンテナが寄せ集める。
    季節の移ろうままに、まれに乗せられるひと色以外は墨絵のような幽玄の美を、私は確かに感じたと思う。

    昭和生まれの私だが、いくつもの原風景がこの小説の風物に重ねられて心に浮かぶ。しかし、友人・高堂の生家の家守である征四郎が、いかなる特権で、この地の結界の内側にすべりこみ得たのかは、わからない。ただ、それが何気なくできてしまった征四郎が、うらやましい。人は銭のために生きるべきではないのだな。それも資格の一つではないかと、漠然と納得する。

    私には、水の底をのぞくことすらもできないだろう。いや、サルスベリに懸想されることも、決してない。

    征四郎を羨む自分の隣に、自分には到底無理であると理解している自分がいることを理解して、私は少しだけ安堵する。

    人の世に生まれて…人の生き場所をこれほどにうらやましく眺めたことはない。高堂ほどのよき友人を持ったことも、宿命を悟ったことも、ない。

    それゆえにこの物語はすべてが茫洋として、夢のようでいて、なのにそれを受け容れてしまう。もちろん、ガラスケースに収まった箱庭のように何度でも眺めることはできるけれども、私自身はそのガラスに顔を寄せてみることしかできないのではあるが。

    私が征四郎なら、よかったのに。でも、私は征四郎にはなれないのである。

    冬虫夏草へ。

  • 普段の生活の見方を少し変えてくれるような、ああ良い本読んだなあとにやっとさせてくれた。
    ちょっと疲れた、という時にまた読み返したい。
    蟲師とか好きな人はツボに入りそう。

  • 明治中期の琵琶湖近辺で早逝した友人宅の家守をしている作家の著述という設定で、文章もやや古めかしい。梨木さん作品としては少し異色の奇譚モノですが、100年少し前はラフカディオ・ハーンが怪談書いたのと同時代の設定。急激に近代化が進みながら、まだ妖怪やら自然の気やらが残っていた最後の時代かもしれません。

  • 庭・池・電燈付二階屋。汽車駅・銭湯近接。四季折々、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚・竹精・桜鬼・聖母・亡友等々々出没数多……本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」=綿貫征四郎と、庭つき池つき電燈つき二階屋との、のびやかな交歓の記録である。

  • 幻想的で、どこか夢見心地な気分に浸らせてくれる一冊。文章が美しく、読む人を現実とは離れたところに連れて行ってくれる。主人公と高堂の気心が知れた者同士のやりとりも面白く、ところどころに出てくる空想の生き物の描写も美しかった。どこかに本当にこういう場所があれば良いなと感じた。四季折々の植物をテーマにした短編というのも、自然から離れている現代人に、自然の大切さを思い起こさせてくれる。ページが少なくなっていくのが惜しく、読後は夢から覚めたような心地がした。

  • 語り口がユーモア溢れていて、何気ない一文にもこみ上げるような笑いがある。かと思えば、はっとするような徳の高い一文も多々ある。
    清貧を貫き贅に甘んじない生き方を問われ「私の精神を養わない」と言ってのけたのはとてもかっこよかった。

    • komoroさん
      ゴローが、鳶の中に乗って帰って来る。鈴鹿の山まで仲裁犬として呼ばれているから。
      ユーモアに溢れてるよね。
      ダァリアの君から檸檬を貰う際に...
      ゴローが、鳶の中に乗って帰って来る。鈴鹿の山まで仲裁犬として呼ばれているから。
      ユーモアに溢れてるよね。
      ダァリアの君から檸檬を貰う際にゲーテを呟きあう場面、徳のたかい一文。
      素敵な本。
      2014/10/31
  • 自然の中にちょっと不思議なものたちが当たり前のように存在している、おもしろさ。物語のいくつかを寝る前に、息子によみきかせをしながら読んだ。このちょっとふしぎさ、寝る前のおはなしにぴったりで、自然と眠りに誘われる。

  • 妖怪や不思議なものたち、人間に想いを寄せる百日紅(花)との穏やかでちょっぴり不思議な日常。犬のゴローさんがかいがいしい。

  • 初読。自然の描写がとても美しかった。自分は「ススキ」が特にすき。繊細な描写なのに、掴み切れないという印象は先に読んだ『滞土録』以上に感じる。不思議が普通にあって、境界が曖昧。曖昧だけど確実にある境界のごく近くで、こちら側にいるのが綿貫であちら側にいるのが高堂。似ているけど対照的。個人的には『滞土録』のほうがすきかな。

  • 全体に霧に包まれたようなボーッとした雰囲気なんだけど、最後の征四郎の一言で、その霧がスカッと晴れたような気がしました。あの7行を読んだ時、この本読んでよかったって、はっきりと思いました。

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著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

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