家守綺譚 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.15
  • (1269)
  • (764)
  • (722)
  • (47)
  • (13)
本棚登録 : 6334
レビュー : 934
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253374

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 100年とちょっと前、明治の頃、琵琶湖のほとりにある和風建築の屋敷に暮らす物書き・綿貫征四郎が綴る自然豊かな、摩訶不思議な、物語。

    ずっと読みたいと思って気になっていた1冊ですが、鳥肌が立つのとも違う、肩甲骨の間がくすぐったくなるような、切ないくらい懐かしくなるような、夢を見ているような、不思議な読み心地でした。これは桃源郷の物語だと言われても頷けてしまうような、描かれているのはなんとも不思議な世界です。なにせ、まだ河童や鬼の存在が信じられていた頃の物語で、自然の「気」を色濃く感じます。

    懐かしさを感じるのはきっと、小さい頃草木にまみれて遊んだ時と同じ自然との距離感を至るところから感じられるからかもしれないですね。小さなコミュニティで不便なことが多くても、とても豊かな世界が広がっているのがわかります。
    作中の表現も普段見慣れないような美しい日本語が並んでいて、新鮮かつわくわくします。ちょうどもう少し先の季節になりますが、「新緑だ新緑だ、と、毎日贅を凝らした緑の饗宴で目の保養をしているうち、いつしか雨の季節になった」なんて表現もすごくきれい。

    たまにひょいと登場する高堂と綿貫の掛け合いも好きです。親しい間柄だからこそ取り交わせる遠慮のない言葉かけが心地よくて。高堂の弱くも孤高で、誰よりも誇り高い人柄も好きだし、高堂側からの物語も読んでみたくなります。

    「西の魔女が死んだ」でも感じたけれど、特定の宗教に対してではないけど自然や祖先に対する信仰心のようなものを強く感じ、そういった部分に感銘を受けたりもしました。一人旅のおともにもいい本だと思います。

  • 『金曜日の本屋さん』の作中に出てきた本。
    河童についての記述が面白く、読んでみたいと思った。
    梨木香歩さんの作品は、ずいぶん前に、『西の魔女…』を読んで以来。

    亡くなった親友の実家の管理をすることになった、売れない物書き、征四郎が、四季の自然が美しいその地で、人、動物、植物、この世のものではものたちと触れ合い、交流する話。
    時代は明治期あたりの設定か。

    サルスベリが主人公に懸想したり、狸や狐が人を化かしたり、飼い犬のゴローが異界と通じ合っていたり、とにかく不思議な話ばかりなのだが、その地に住む人たちはそうしたことをごく自然に受け容れ、淡々としているのが何とも面白い。読み進めているうちに、夢と現、過去と現在、人の世と異界、人と動植物の境目は実は曖昧で、交じり合って共存しているのではないかと思うようになった。

    自然の描写も秀逸。続編の『冬虫夏草』も読んでみたい。

  • 小説なら1~2時間に一冊ペースという具合に読むのが早い自分が、薄いこの本に6時間くらいかかった。古風な文章で描かれた屋敷と庭の世界を、ゆっくり味わいながら楽しんだ。主人公綿貫の生活が、実在と虚在が交錯しながら、草木の移ろいにあわせて回っていく。ゴローと隣家のおかみさんが良い。

  • 「冬虫夏草」の前に再読する。ゆっくり想像して、情景を思い浮かべないと、心に入ってこないので、時間がかかる。ファンの方が、この本に出てくる植物の写真を集めてホームページを作ってくれていて、それを観ながら読むと、さらに情景が浮かんできてよかった。

  • 四季折々の草花・鳥・小動物たちや、亡友が現れては主人公に話しかけてくる幻想小説。共感や感情移入しにくいというか、淡々と描かれる古風で静謐な世界。植物の描写がとてもうまく、サルスベリが健気な一方、ときに見せる人間らしい艶かしさや嫉妬が魅力的。

  • 人間の暮らしの中に、植物、動物、妖怪(?)みたいな人間ではないものが意志を持って存在していて、それが受け入れられているというところがいい。

    この世は全部人間のものではない。人間の及ばないところ、認識できないところもある。全部、人間たちのものだとか、思い通りだ、やりたいようにやればいいだなんて思ってはいけないなあ、と思った。

  • 早世したはずの友人がひょっこり現れ、サルスベリには惚れられ、犬のゴローは河童に懐かれ…泉鏡花の作品のように、日常のなかに巧みに入り込んでくる異界の者。

    なんでもない生活のつもりが、狐狸に化かされ、ふわふわと執筆も進まず。しかしなんだか愉快なお話でした。

  • もう私のバカバカ!なんでこれを今まで読んでなかったんだろう。苦手なファンタジーだと思って敬遠してたんだよね。でもファンタジーには時々すごく私好みの大当たりがあるのだった。もっとアンテナを敏感にしておくべきだったと、後悔しきり。

    本屋さんで見かけた「冬虫夏草」の装幀に心をわしづかみにされて、躊躇なくジャケ買い。「家守綺譚」の続編だということは知っていたので、こっちは文庫で買って、まずはこちらから、と読み始めたのだが、もう出だしの数ページで完璧にその中に入り込んでいた。

    読み進むほどにどんどん作品世界に没入していく。静かで、豊かな植物の世界は梨木さんならではだ。雨の描写がとてもいい。自分も一緒に霧雨に濡れているような気がする。雨にうたれる草木のさまや、ひんやりとした空気まで感じ取れるようだ。

    ああ、この世界に入りたいなあとしみじみ思う。あら、これは河童の衣ですよ、とか、なんでもないことのようにお隣のハナコさんと言い合ったりして。二度と再び帰ることのない、いろんなものが判然としないままでいられた暮らしに郷愁を感じないではいられない。山や川にいろいろなものの気配が濃くあり、人も生きものもその気配とともに生きた時代はそれほど昔ではないのだ。

    読み解いていけば様々なものが潜ませてあるのだろうが、それをいちいち考えるのもちょっと野暮な気がして、ただ絵巻を見るように楽しむ。うーん、なんて贅沢な読書だろう。

    読みながらしきりに、漱石の語り口が思い浮かぶ。ちょっと「夢十夜」風なところがあるように思う。また、杉浦日向子さんの絵柄で場面が浮かんでくることもしばしば。杉浦さんがこれを絵にしてくださっていたらどんなに素敵だっただろうか。

    征四郎の住む高堂の家は、京都山科にあると思われる。疎水べり、琵琶湖畔、吉田山、征四郎は実によく歩くが、この頃の人はこれが普通だったのだろう。時にお供する犬のゴローがかわゆい。

  •  梨木香歩さんの作品を初めて読む。明治末期くらいを舞台にした不思議な日常。こんな家に住んでみたいと思える。懐かしくて、温かくて優しい。そんな読後感。

  • 個人的にあたりはずれの激しい梨木さんなのですが、これはあたりでした。

    植物、動物と意思疎通ができたら人間はこんなに横柄にならなかっただろうに。
    植物も動物ももっと大切にできただろうなあなんて、ちょっと筋違いですが感じてしまいました。

    偶然ですが近々続編が出るらしいのでそちらも読みたい。

著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

家守綺譚 (新潮文庫)のその他の作品

家守綺譚 単行本 家守綺譚 梨木香歩

梨木香歩の作品

ツイートする