沼地のある森を抜けて (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.61
  • (132)
  • (245)
  • (276)
  • (54)
  • (9)
本棚登録 : 1946
レビュー : 231
  • Amazon.co.jp ・本 (523ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253398

作品紹介・あらすじ

はじまりは、「ぬかどこ」だった。先祖伝来のぬか床が、うめくのだ-「ぬかどこ」に由来する奇妙な出来事に導かれ、久美は故郷の島、森の沼地へと進み入る。そこで何が起きたのか。濃厚な緑の気息。厚い苔に覆われ寄生植物が繁茂する生命みなぎる森。久美が感じた命の秘密とは。光のように生まれ来る、すべての命に仕込まれた可能性への夢。連綿と続く命の繋がりを伝える長編小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 先祖代々伝わる"ぬか床"を受け継いだ久美は、毎日朝晩ひたすらに"ぬか"を掻き回す。
    ある日、いつものように"ぬか"を掻き回していた久美は、正体不明の卵を"ぬか"の中で見つけてしまう…。

    まさか"ぬか床"の話から壮大な生物誕生の神秘へ発展するとは思わなかった。
    確かに"ぬか床"は生きている、とよく聞く。
    温度や湿度、掻き回す人によって全く味が変わるらしい。
    だから同じ"ぬか床"は二つとない。
    代々の掻き回す人の手を通して、一族の歴史も染み込み醸成されていくのだろう。
    そう思うとぬか漬けを軽々しく食べれなくなりそうだ。

    "ぬか床"を譲り受けたばっかりに、掻き回す手を止められなくなった久美は、"ぬか床"の呪縛から逃れようと自身のルーツを辿る旅に出る。

    世界は最初、たった一つの細胞から始まった。
    その一つから無数の生物の系統へと拡がり、やがて次の新しい命へと希望が解き放たれる。
    「生」の神秘と受け継がれる「命」について、静かに思いを寄せる物語だった。

  • 再読。命が生まれることの不思議と喜び。命がつながっていくことの奇跡と驚き。ぬか床から生まれてくるファンタジーも含め、命の力強さがまぶしい。複雑な話なんだけど、爽やかさがあふれている。

  • 家守奇譚にちょこっと通ずるところもあるけど、それよりさらに壮大かな。ぬか床と泥つながりで百年泥にもちょっとつながる生命の壮大な何か、ってのもある。嫌いじゃないけどちょっと壮大過ぎて呑み込み切れてません。

  • なんとも言えない空気感。知らず知らずのうちに、物語の空気感に絡み取られていくような。うまく言葉がまとまってくれない。

  • この作品をきっかけにぬか床を始めた。笑

    「自分」の境界をめぐる話。
    からくりからくさ、ピスタチオなどと繋がる、自己の在り方、在り様と、世界との繋がり。
    読後、消化不良になったり壮大さにクラクラしてしまう人は上記の二冊から入れば分かりやすいかな、と思う。

    他の梨木作品に比べて「いや〜な」人物も出てくるけれど、きちんと作用してゆく。
    酵母の嫌気性の話は自分の中のものすごく深いところに入っていった。

  • 2008-12-00

  • 消化不良。上手く自分の中に取り込みきれない。南方の島の中、土俗的な風習など作者お得意な領域という気はする。

  • 2009年2月16日~17日。
     ミクロが作りだすマクロな世界って感じか。
     とても壮大な物語を読んだ気がする。
     誕生と死、圧倒的な孤独、細胞の夢。
     抽象的でもあり、非常に科学的でもある。
     ぬか床なんて庶民的な小道具を持ちだしてきて、こんな世界を作ってしまうんだからなぁ。
     ついでに言ってしまうと、僕が最近興味を持っているもの、性、存在、始まり、なんてものとリンクしている。
     リンクしているなんてもんじゃない。
     読んでいてビックリするほどに符合する。
     まさにシンクロニシティ。
     まぁ、これなんかは完全に個人的な感想なんだけど。
     正直、難しかった。
     いずれもう一度読み返すことになると思う。
     難しかったが、いや、難しかったが故にたまらなく面白かった。

  • 最初はラジオドラマ「フリオのために」を聴いた。
    それが序章に過ぎないとは。

    生命の連続性に立ち会うのは、一度は性を放棄した男女。
    この男女の設定があるからこそ、生命が奇跡のように感じられる。
    ジェンダーを越えてセックスを越えて生命そのものがエロスであるような。
    結局は性交と出産かよ、と興ざめしないように、意外と巧妙な構成。
    (ハコちゃんこと岩下尚史さんを連想)

    ぬか床からクローン? え、ホラー? いやミステリ?
    という序盤からは思いもよらない壮大な終盤。
    これは「開かれている」終結。

    とはいえ、序盤のフリオがまるで自分かと思ってしまっただけに、フリオのその後が気になる。

    「シマ」のパート。
    細菌の存在をファンタジー仕立てにした話(タモツくんやアヤノちゃんの)かと思いきや、
    単性生殖から有性生殖への初めての移行(「シ」=「死」=「雌」=「子」)
    でもある、という難解さ。
    (初めての細胞の孤独、という発想を下地にして再読必要。孤独が源流にあるからこそ、暴力的に生物を増殖のための乗り物に仕立ててしまう。)

    まあ、「村田エフェンディ」や「家守」のほうが好み。

  • 亡くなった叔母のマンションと母方先祖から代々伝わる家宝の「ぬか床」を引き継いだ久美。両親は彼女が学生の頃に不審な事故死を遂げており、彼女自身の幼少時の記憶も曖昧なところがある。やがてぬか床に発生した卵から謎の少年が現れ・・・。

    序盤は単純に「不思議なぬか床」にまつわるファンタジーっぽい展開だったのだけど、どんどん壮大な話になっていってびっくり。自分探しなどという軽いノリではなく、生命とは!?みたいなところまでいってしまうのだからこれは大変大きな風呂敷。酵母や菌類・藻類や遺伝子などの話からジェンダー問題まで、有性生殖、自己と他の世界との境界など、全部ひっくるめて根源的なことを問いかける内容。島にある沼でだけ独自の進化をとげた「沼の人」という科学と民俗学の融合みたいな存在を設定したのは面白いと思った。

    専門的でディープな題材を柔らかめにまとめてあって凄いな、と感心する反面、ちょっとエピソードを多方面から盛りすぎかなと思う面もあり、個人的には素直に大感動とはいかなかった。自分は恋愛や結婚には向いていないししたいとも思っていないみたいな感じでクールめの主人公・久美ちゃんと、男性性を嫌悪するあまり、ゲイでも女装化でも性同一性障害でもないのに女性的にふるまっている男性・風野さんというどちらも独特の視点をもった男女キャラを配置しておきながら、着地点が結局男も女も生まれたからには子種残してなんぼですよね遺伝子を未来に引き継ぐのが生物の本能なのでセックスして子供産みましょうそれが使命です!みたいになってしまったのもちょっと残念。

    ところどころで挿入される「僕たち」のいる「シマ」のエピソードは太古の微生物の進化の過程のようでもあるし、アリやミツバチの活動のようでもあるし、藻類と潮の満ち引きの話のようでもあるし、沼の内部で起こっていたことのようでもあるけれど、結局つまり精子である「僕たち」が卵子である「アザラシの娘」と出会って結合すると「シ」にます、なぜなら合体して別のものになるから、それはシ=死であり、シ=子でもある、というように私は解釈しました。つまり有性生殖万歳と。

    ここまでくると、序盤のフリオや光彦はなんだったのかなあと思う。カッサンドラとかかなりいい感じに怖かったのに。風野さんのキャラクターはキライじゃなかったけれど、彼の語るジェンダー論みたいなのが主張が強すぎて、そこだけ「作者の言いたいことをキャラが代弁させられてます」みたいな印象を受けました。その内容の可否は別として、物語の中に突然「思想」をねじこまれるのがとても苦手で、もちろん作品とはすべて作者からのメッセージですと言われればそうなのだろうけど、物語から浮き上がってしまうくらい強い主張が突然挿入されることには違和感を覚えます。

全231件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

梨木香歩の作品

沼地のある森を抜けて (新潮文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする