沼地のある森を抜けて (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 231
  • Amazon.co.jp ・本 (523ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253398

感想・レビュー・書評

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  • 最初はラジオドラマ「フリオのために」を聴いた。
    それが序章に過ぎないとは。

    生命の連続性に立ち会うのは、一度は性を放棄した男女。
    この男女の設定があるからこそ、生命が奇跡のように感じられる。
    ジェンダーを越えてセックスを越えて生命そのものがエロスであるような。
    結局は性交と出産かよ、と興ざめしないように、意外と巧妙な構成。
    (ハコちゃんこと岩下尚史さんを連想)

    ぬか床からクローン? え、ホラー? いやミステリ?
    という序盤からは思いもよらない壮大な終盤。
    これは「開かれている」終結。

    とはいえ、序盤のフリオがまるで自分かと思ってしまっただけに、フリオのその後が気になる。

    「シマ」のパート。
    細菌の存在をファンタジー仕立てにした話(タモツくんやアヤノちゃんの)かと思いきや、
    単性生殖から有性生殖への初めての移行(「シ」=「死」=「雌」=「子」)
    でもある、という難解さ。
    (初めての細胞の孤独、という発想を下地にして再読必要。孤独が源流にあるからこそ、暴力的に生物を増殖のための乗り物に仕立ててしまう。)

    まあ、「村田エフェンディ」や「家守」のほうが好み。

  • 代々受け継がれてきた「ぬか床」を譲り受けたときから始まった奇妙な出来事。いるはずのない人が現れ、奇妙な出来事がつづき、そしてついに彼女は先祖の土地へそのぬか床へ返しに行くことを決意してゆく。
    ぬか床、という鍵そのものから独自性を感じますが、奇妙な成り行きな話はユーモア交じりの描写も含みつつ穏やかに丁寧につづられていきます。その静かな説得力にほだされてか、いつの間にかしっくりとその「非現実」を受け入れて読み込めるようになります。
    ぬか床が抱えていた自分たちのいわれの深遠さは、くらりとするほど生命の根源にも迫るとてもダイナミックなものです。それに相対する終盤の場面ではこんな根源の問題にこれだけ真摯にアプローチするのか、という感銘を覚えました。
    形のみえないもの、今現在ここにないものにたいして、これだけの想像力を発揮してそして面白く読ませるという描写力を思い知った物語でした。

  • こんな小説も書けるんだとびっくり。
    通俗的なこと、科学的なこと、哲学的なこと、宗教的なこと、色々な要素が見事につまって、でもバラバラにではなく一つの方向へ結実している稀有な本。菌類がすごく気になってきた。
    循環と更新、生と死といったテーマは作品が違っても通奏低音のように流れていて、この著者の作品を短期間のうちに読んでるからこそ感じられるものだなぁと思った。集中して一人の作家を掘り下げていくのも、やはり面白い。

  • 物語は、たかが台所の隅に置いてあるようなぬか床から始まるくせに(とはいえ、普通のぬか床ではないのだが)テーマが壮大で、視野の狭い私にはうまく消化できない。

    物語の途中に突然入り込んでくる不思議なシマの世界や、ぬか床自体も色々なものにシンボライズできそうで、あれこれぼんやり考えていると散漫になって、感想を書こうにもまとまらない。

    生命の営み、 宇宙のはじまり、 破壊と誕生の輪廻、 自我というもの、 自生や寄生について、 進化、など。
    何年後かにもう一度読み返したら新たな発見があるのかも・・・。

  • 感動したというより、
    慰められる気がした一冊。

    主要人物が性に対して嫌悪感を持っているため、
    恋愛的な雰囲気はないが、
    恋愛というかたちそれ自体を考えさせらる。
    あれじゃないこれじゃないと、
    不毛に恋愛を繰り返している人達を、
    私は少し遠くから見て見下していたが、
    どうでもよくなった。

    色々難しい話もでてくるが、
    その話が逆に恋愛のいやらしく見えてしまう部分を払拭してくれた。
    そしてそれは、多くの恋愛小説にある駆け引きや、
    自分アピール大会に使われるような、
    単なる知識のひけらかしではなく、
    歴史的な観点から、
    生物学な観点から、
    様々な角度から生命と孤独に対して切り込んでいく淡々とした作業であって、
    ずっと2人は人間対人間で向きあっている。
    その先に恋愛があると私も思う。

    でも、
    途中話の筋が読めなくなり、
    頑張って読んだ部分があったので、
    初めて読む人には星4つですが、
    読後は星5つです。

    繰り返し読みます。
    梨木香歩さんの本はとても合います。

  • 叔母から引き継いだぬか床から卵が生まれる。
    この設定だけでもう大好きになってしまった。

    有り体な自分探しの旅ではなく本当に字義通り自分のルーツをたどって、自分とはというよりかは自分という人間は何か、自己と自己じゃない部分の境目には何があるのかを酵母菌やらアメーバやらテツガクやらで探っていく壮大な旅物語。(主人公は研究所務めで成分分析の仕事をしている独身女性)

    死者も生者一直線上に存在として描かれている。

  • 絶対的に逆らえない存在がありながら、生きるということ。
    それを受け入れて生きるということ。

  • 再読。命が生まれることの不思議と喜び。命がつながっていくことの奇跡と驚き。ぬか床から生まれてくるファンタジーも含め、命の力強さがまぶしい。複雑な話なんだけど、爽やかさがあふれている。

  • 夏になると読みたくなる梨木香歩。
    長年なんとなく読む機会を伺っており、とうとう読んだのですが、その甲斐がありました。
    島、とあったので、からくりからくさと何か関係が、と思ってたのですが、島違いだったのかな。

  • 梨木香歩さんの小説世界には、不思議がたくさん
    入っていて面白くて好きですが、
    コレは不思議過ぎる…
    「ぬかどこ」?と幻のような村?
    文章からのイメージを頭に描こうと思っても
    「エ?」みたいな…謎過ぎる。

    どう言う事かは読み進んでから…と思って
    進む程に、「まじかー」と口にしそうになる。
    ファンタジーにも程が有る…
    予想外過ぎて、うおー、です。

    これ、映画とかに出来ないだろうなー…
    見てみたいけどー…何か、出来ないだろーなー。

著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

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