渡りの足跡 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253404

作品紹介・あらすじ

この鳥たちが話してくれたら、それはきっと人間に負けないくらいの冒険譚になるに違いない-。一万キロを無着陸で飛び続けることもある、壮大なスケールの「渡り」。案内人に導かれ、命がけで旅立つ鳥たちの足跡を訪ねて、知床、諏訪湖、カムチャッカへ。ひとつの生命体の、その意志の向こうにあるものとは何か。創作の根源にあるテーマを浮き彫りにする、奇跡を見つめた旅の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 梨木さんのネイチャーライティング、エッセイ集。

    渡りをする鳥たち、周りの自然。
    とても深い知識に基づいたエッセイだけど文学的表現に富んだ、読み応えたっぷりの一冊。

    「街の機嫌」

    「ノーノーボーイ」

    「存在」は移動し、変化していく。生きることは時空の移動であり、それは変容を意味する。それが「渡り」の本質だろう。

    梨木さんの世界観に魅せられる、そんな一冊でした。
    これも手元にずっと置いておき、また何度も読み返したいと思います。

  • 知床から北へと旅立つ渡り鳥に会うため、梨木さんが北海道の地に下り立つところから本書は始まります。
    しかし、この本は渡り鳥の足跡を追いかける旅の記録に止まらず、「越境するもの」たちに関する考察、さらには自然とは、人間とは何かを読んだ者に問いかけてくるのです。

    デルスー・ウザラーという案内人についてもっと知りたいと思いました。
    本書の中で取り上げられている本を読んでみよっと。

    私生活がばたばたしている時期に読み始めてしまったのが悔やまれます。
    まとまった時間がとれず、切れ切れの読書になってしまいました・・・
    いつか必ずや再読したい本です。
    そのときには、じっくりと感覚を研ぎ澄ませて、時間をかけて向かい合いたいと強く思うのです。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「じっくりと感覚を研ぎ澄ませて」
      梨木香歩は、とってもコダワリがある方なのでしょう、えっ!と思うコトがあって、つい遡って読み返す。。。でも...
      「じっくりと感覚を研ぎ澄ませて」
      梨木香歩は、とってもコダワリがある方なのでしょう、えっ!と思うコトがあって、つい遡って読み返す。。。でも結局判らない。
      静かに読み解きたい書き手です。
      2014/03/14
    • すずめさん
      nyancomaruさん、こんにちは!
      梨木さん作品は小説でもエッセイでも、「つい遡って読み返す。。。でも結局判らない。」んですよね。
      ...
      nyancomaruさん、こんにちは!
      梨木さん作品は小説でもエッセイでも、「つい遡って読み返す。。。でも結局判らない。」んですよね。
      でも、日常生活の中でふと頭に浮かび、「これはどの本で読んだのだったか…」と自宅の本棚を眺めてみると、梨木さんの本だったということが時々あります。
      じっくりじわじわ、後から効いてくるなぁ…と思いました。
      2014/03/15
  • マイ癒しその③、と、軽率に書くことを少々躊躇う。
    梨木さんのエッセイは、私にとって大きな安心である。乱雑にくくればやはり「癒し」が該当するのだが、よく一般に言われるような手軽なそれでは決してない。
    機械や文明に頼りきりの人間たちによる想像などより、はるかに過酷な生きかたをしているいきものたち(そのことを、かれら自身は過酷とは思っていないだろうが)を思うと、背筋がいつしか、すっと伸びていることに気付く。また、自然の持つ要素から、ありがちな、安心やセラピー的なものだけではなく、険しさ厳しさも拾い出してくれていて、さらには人間(同じ人間に対してさえ、どこまでも非道になれるもの!)が環境を変異させていることをも語ってくれている。自然動物と絡められながらなされる表現に、過剰な擬人化は、私の見た限りでは感じられない。
    それにしても、変異、つまり一部の人間の勝手を、自然(地球)は受容していくのだろうか。声の小さなものは、いつだって、耐えるか、抑圧されて消えるかしかできないのだろうか。暗澹たるというか、むしろ夜の砂漠に吹く風みたいなさみしい気持ちになってしまう。
    さらにいうのであれば、気のせいだろうか。自然に密着しない、土と水から離れたものほど残酷になれるように思える。あたたかさのなかに厳しさを含む自然こそが、わたしたちの生かされている場所であるのに。
    梨木さんのエッセイで息を吐くことができるのは、たぶん、かのじょが、きちんと自然の空気を吸ったうえで文章を綴っているからだろう。私はかのじょの文章に接したひとが、日々の生活にかき消されがちな小さな声を聞いてくれることを望み、また、声や警告を発することなど思い及びもせずほろびていく(私たちも含めて!)ことに注意を払ってくれはしないか、と願ってしまう。

  • 可能であれば。
    渡り鳥の飛行ルートや、各章末ごとに記載されている鳥の説明に挿絵などがあると良かったかなと思う。
    梨木さんの文章は感性を鋭敏に働かせながらも、その中でできるだけ客観的であろうとしているところも好きなのだが、いかんせん鳥類に詳しくない人間が読む場合には、挿絵や図解があった方が分かりやすいと思う。

    ま、自分で調べろってことか(笑)。

  • 基本は渡り鳥たちを見に行く旅。だがその中には、生きること、還る場所のこと等と鳥を通した作者の考察が散りばめられている。自分の行き先を見失いやすい時代だからこそ、この本が渡り鳥が渡りの頼りとする星の位置のように、輝いている。

  •  鳥の渡りを追うエッセイ。この作者さんならではの濃やかな感性と観察眼がなんともいえず魅力的。わたしはエッセイに関してはあまりいい読者とは言えず、普段はもっぱら小説(それもフィクション)を主食として読んでいるのだけれど、この方に関してはむしろエッセイが小説以上に大好き(小説も好き)。
     北方に渡る旅に発つオジロワシやオオワシに会うための、知床への旅。営巣中のオオワシを探す、カムチャッカへの旅。(鳥の渡りというものをその眼で実際に見るというのは、すごい体験だよなあ、と思うのだけれど、自分で真似してみるだけのガッツと資力がない……)
     鳥たちそのものについての観察と思索はもちろんのこと、挿入される現地の人々のエピソードもまた印象深い。戦時中のアメリカの、忠誠登録とノーノーボーイの話。北海道の開拓民の話。アリューシャンを旅したときのカヤックの話が面白かった。地形のせいで次から次に押し寄せるはげしい波を乗り越えるために、昔のアリュートが作りあ上げていったカヤックには、十二個もの骨がついていて、前後の柔軟性とねじれ剛性を高めているという話。人々の暮らしと、そこに流れる時間。
     ワタリガラスの神秘性、ヒヨドリの逞しさ、渡りをやめた鳥たち、公害に伴う鳥の減少。
     本作のようにそれを主題にまとめたものでなくても、梨木さんのエッセイにはよく鳥の話が出てくる(それから植物のことも)。それを読むたびに、鳥を見ない自分を省みる。実際のところ昔より数は減っているにせよ、身近にも鳥たちがいないわけではない。耳を澄ませば声がするのに姿を見つけられず、声を聞いても名前がわからない。ああ自分は貧しい暮らしをしているのだなあ、と思う。金銭的なものではなく、心が。鳥の名前を知り、その渡りの航路を知って思いをめぐらせ、ああ今年もまた彼らがやってきたのだなと目を細めて暮らすことができたなら、どんなにか……と思う。

  • ネイチャーライティング。

    梨木香歩さんはこういうものも書かれるのか。

  • 気合いの入ったバードウォッチャーとしてのエッセイ。「渡りは、一つ一つの個性が目の前に広がる景色と関わりながら自分の進路を切り拓いていく、旅の物語の集合体である。」(p.45) 渡り鳥の足跡や姿、鳴き声、生態などにふれ、その厳しい行動原理を目の当たりにし。また鳥の行動がおかしくなっていること、気象や大気や水の変化を通じて世界がつながっていること、また人の渡り=移民としての第二次大戦下アメリカの日系人の思い、などが語られ。普段あまり自然にふれない身にもハッとさせられるような視点をくれた。ウラジオストクの森を博物館員と通訳と分け入っていった時のエピソードがユーモラスでよかった。◆「生物は帰りたい場所へ渡る。自分に適した場所。自分を迎えてくれる場所。自分が根を下ろせるかもしれない場所。本来自分が属しているはずの場所。還っていける場所。たとえそこが、今生では行ったはずのない場所であっても。」(p.222)

  • 鳥好きには最高の書

  • 鳥や植物の名前が丁寧に書かれる話。静かに心が広くなる。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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