雪の練習生 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 82
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101255811

作品紹介・あらすじ

腰を痛め、サーカスの花形から事務職に転身し、やがて自伝を書き始めた「わたし」。どうしても誰かに見せたくなり、文芸誌編集長のオットセイに読ませるが……。サーカスで女曲芸師ウルズラと伝説の芸を成し遂げた娘の「トスカ」、その息子で動物園の人気者となった「クヌート」へと受け継がれる、生の哀しみときらめき。ホッキョクグマ三代の物語をユーモラスに描く、野間文芸賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 翻訳物のような文章が読みたくて。解説佐々木敦さんが「出来るだけ予備知識抜きに読まれるべき」と書いておりそのように読めたのが嬉しい。最初はただ白熊のファンタジーと思ったら最終的にいろんな深みを感じる物語になっていた。多和田さんいい。

  • 人なのか動物なのか主語がわからなくなったり、急にいろんな情報が自己開示されるのでドキドキする。体の感覚が試されているようで、グロテスクのようなそうでないような不思議な感覚。三代にわたるホッキョクグマの話だったのか。再度味わうように解説で確かめる。ドイツやロシアの近代史もちゃんと勉強しないといけない気になる。「クヌート」画像検索、なんと可愛らしいこと!母グマとの関係性が切ない。読み進めるのに根気がいる小説だった。解説にもあるように一筋縄ではいかない作家さんでした。

    • 111108さん
      ☆ベルガモット☆さん

      お褒めの言葉?ありがとうございます!一緒に旅した気分嬉しい。短歌のネタになれば幸いです♡
      ベルガモットさんとのやりと...
      ☆ベルガモット☆さん

      お褒めの言葉?ありがとうございます!一緒に旅した気分嬉しい。短歌のネタになれば幸いです♡
      ベルガモットさんとのやりとりで、なぜ私は三代の物語が好きか考えました。うちの両親は共に末っ子で田舎から都会に出てきました。なので祖父母たちは既に他界してて、唯一父方の祖父と幼い頃夏休みに遊んだくらいです。だから聞けなかった家族の歴史や代々住む場所の歴史の話にわくわくするのかなぁと。ベルガモットさんの短歌でも、ご家族や地元を歌ったものには目の前の事だけでない厚みみたいなのを感じます。
      というか、長々と自分語りと批評みたいなのすみません!!
      2023/10/09
    • ☆ベルガモット☆さん
      111108さん、こんばんは☆彡コメント遅くなって失礼しました。
      111108さんの夏休みの御爺様との想い出やご両親の出郷のご様子を伺い、...
      111108さん、こんばんは☆彡コメント遅くなって失礼しました。
      111108さんの夏休みの御爺様との想い出やご両親の出郷のご様子を伺い、幼き頃の111108さんのお笑顔を思い浮かべてました。
      三代の物語に惹かれる理由としての「家族の歴史や代々住む場所の歴史の話にわくわくする」というのは同感です!ご指摘くださってこれからの読書に深みが出そうです。私の短歌についても触れてくださり光栄です!
      自分語り大歓迎でーす♡今後もレビュー参考にいたしまーす♪
      2023/10/11
    • 111108さん
      ☆ベルガモット☆さん
      温かいお言葉ありがとうございます♡
      ☆ベルガモット☆さん
      温かいお言葉ありがとうございます♡
      2023/10/12
  • ソ連でサーカスの花形を引退したのち作家になったホッキョクグマの「わたし」、その娘のトスカ、トスカの息子クヌートの、三代にわたる自伝的な物語。
    人と動物に境界がないような「わたし」の時代の話がいちばん面白かった。なにしろホッキョクグマが物書きなのだから。
    しかしやはり人間ではないからか、抑圧の気配にものんびりしていて危機感がない様子なのがユーモラスだ。

    トスカ、クヌートと時代が下るにつれて人間と動物がはっきりと区別され、保護すべき対象として扱われていくのは、ホッキョクグマ視点で見るとなんだか寂しい。
    彼らは寂しいなんて一言も言っていないけれど、読んでいると「わたし」の時代とは変わったなあと思うのだ。

    クヌートという名のホッキョクグマが、実際にベルリン動物園にいたらしい。
    それを私は知らなかったけれど、シベリアへの招待や、労働者(白熊組合)のスト、マイノリティについての世間の反応など、それぞれの時代の現実を映しているんだろうなと感じられるものがいくつも散りばめられていて、これはヨーロッパのことに詳しければ更に楽しめるだろうなと思った。

  • 理屈という網の目で濾すことができない物語。なにせホッキョクグマが亡命するのだから。まさに雲をつかむような話なのに、童話ではない。視点もくるくる変わり、だれが語っているのかわからなくなる。夢想するような、例えようのない読書体験だった。

    読む都度、全然違う感想をもちそう。
    約300頁という多くない頁数の中に、何巻にも渡るような壮大な世界が凝縮されている印象を受けた。
    今回、クマの目を通して私が受けとめたのは、言葉の囚人である人間の姿。
    体温や皮膚感覚に飢え、言葉によって思考も想像力も限定される、そんな人間への憐れみを感じた。

  • ホッキョクグマの3代にわたる物語。3つの中編からなる。
    サーカスの花形クマが自伝を書き、オットセイの出版社の雑誌に連載。
    その娘のトスカはバレエ学校を出るが舞台に出してもらえない。そこへサーカスから声がかかり、女性調教師のウルズラと出会う。トスカとウルズラは伝説の舞台を作り上げる。
    さらにその息子のクヌートは育児放棄により、人間に育てられる。育ててくれたのはマティアスという男性。クヌートは地球温暖化による北極の環境破壊を止めるための広告塔としての役割を求められていた。クヌートがミルクを飲んで満腹になると眠くて寝てしまうシーンは本当に可愛い♡
    ソビエト連邦がまだある時代から現代までをカバーする背景、ちょいちょい出てくるソ連や東ドイツネタが笑える。
    いろいろな要素で構成されている物語。普通に喋って新聞を読めるクマについ笑みがこぼれてしまう。全然違和感がないのも不思議なんだけど。
    北極海の氷、なくならないで!と思います。

  • 北極熊のクヌート、その母トスカ、そして祖母の三世代の物語。作家である祖母の再三の亡命に伴い変化する言語への困難な適応、母トスカと女性調教師ウルズラの夢の中での異種間コミュニケーション、娘クヌートとマティアスの親子同然の信頼関係とクヌートの言語認識過程や自他の理解等々が人間と熊の目を通して語られる。更に、異種の動物間では単一の共通言語での会話が可能な反面、亡命の度に異なる言語の習得が必要な人間界の煩雑さや、自由移動の障害となる、紛争や覇権争いにより構築された国境や体制などの数多の問題が重層化され、自己レベルでの解釈で読み進まずを得られなかった。作者の意図とは関係なく、動物との会話が可能な状況で、人はそれでも助命を乞う動物を殺し、その肉を食べるのだろうかと、ふと思った。

  • 多和田さん流のウイットに富んだ文章に夢中になった。
    ソ連、西ドイツ、カナダ、東ドイツ、統一後のドイツを転々とする3世代のホッキョクグマの物語。
    ホッキョクグマ目線による、人間の言動や社会に対する皮肉が面白い。
    人間に対する批判めいた文章もニヤリとするだけで、ちっとも嫌味がなくさらっと読めるのがまた多和田さんらしい。
    同じ種族(ホモサピエンス)同士で権力を争ったり、国と国の間にあった頑丈な壁が壊されたり、一つの国が解体されたり、と目まぐるしく変動する人間達の世界。
    ホッキョクグマからすると変な奴ら、と滑稽に思えたに違いない。
    そしてそんな人間達がもたらした地球温暖化により、北極は存亡の機に立たされる。
    これは笑い事では済まされない。
    人間達の勝手な振る舞いに翻弄されるホッキョクグマ達のその先を思うと切ない。

    この作品を読んでいる途中で入ったニュース。
    アメリカで最も権威のある文学賞「全米図書賞」の翻訳文学部門に、多和田さんの『献灯使』が選ばれたことを知り鳥肌が立った。
    ほんと喜ばしい!おめでとうございます!

  • 自伝を書く祖母、サーカスで活躍する母、動物園の人気者となる息子、ソ連やドイツを舞台に描いたホッキョクグマの三代にわたる物語。

    さまざまな動物が人間に混じって生活する世界で、語り手はクマという設定ではあるけれど、お手軽なファンタジーではない。
    クマの視点だからこそ見えてくる本質、たとえば政治や社会に対する批判やホモサピエンスとしての人間の愚かさなどが、素朴でユーモラスな口調で語られる。それらは哲学的で深みのあるまっすぐな言葉で、ときには愉快にときには哀しく響いてくる。
    『献灯使』で知った作者の魅力をもっと知りたくて手に取ったのだが、ドイツ在住ということもあるのか独特の感性がおもしろく、さらにほかの作品も読んでみたくなった。

  • 難しい小説だなあ大丈夫かなあと自分の理解力にひやひやしながらも読み終わる頃には、お見事だ……の一言に尽きた。
    言語と思考が血に溶け込んで身体中に広がっていく過程、他者とわたし、世界とわたし、小さな文庫本が裏返しになりわたしが飲み込まれてしまったような気がした。

    ものを書くこと、浮遊感、次元の飛び越え、言語が指先まで染み渡っていく過程、すべてが鮮やかな描写によって目の前に迫ってきた。
    クヌートのその後、死ぬまでは幸せであれと願う。

  • ホッキョクグマの三代記。
    社会で働き、ヒトと触れ合い擦れ合い、戸惑い思考し愛着するクマたちの姿はユーモラスだけど無垢な情趣に満ちていて、こちらの心を無防備にさせた。
    彼らの存在の寄る辺なさは、亡命疲れをおこすほどの祖母の越境劇に始まり、動物園の檻の中から出られぬ孫クヌートの北極への思慕に収束していく。この対比。
    祖母の叙述は機知に富み逐一笑いをさそったのに、クヌートの最後の一文に至る頃には目頭が熱くなっている。この対比。
    理知的なばかりでなく温みをも感じさせる筆致。なんと鮮やか。
    時間、空間、事実と幻想、主体と客体の展開も自由自在。すべてが鮮やか。良い読後となった。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。小説家、詩人、戯曲家。1982年よりドイツ在住。日本語とドイツ語で作品を発表。91年『かかとを失くして』で「群像新人文学賞」、93年『犬婿入り』で「芥川賞」を受賞する。ドイツでゲーテ・メダルや、日本人初となるクライスト賞を受賞する。主な著書に、『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』『献灯使』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』等がある。

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