楽園のカンヴァス (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 4984
レビュー : 659
  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101259611

作品紹介・あらすじ

ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 噂どうりの本当に面白い小説だった!
    普段は静かな場所でしか本の内容が頭に入らない自分が
    電車の中、あっという間に物語世界に引き込まれ、乗客の姿も、おしゃべりなおばさんたちの話し声も、窓の外の景色も、全部消え去った。
    美術や絵画というある意味敷居が高く特殊でコアな世界を、
    特別な知識を持たずとも誰にでも楽しめるミステリー、
    いや、エンタメとして物語を構築してみせたマハさんの手腕にはもう脱帽です(笑)

    ある日、ニューヨーク近代美術館(MOMA)の学芸員ティム・ブラウンに届いた一通の手紙。
    それは名前は知られつつも誰もその姿を見たことがない
    伝説の絵画コレクター、コンラート・バイラーからの招待状だった。
    熱帯雨林咲き乱れ様々な動物たちが身を潜める密林の中、
    赤いビロードの長椅子に横たわる
    長い栗色の髪をした裸身の女。
    それこそがフランスの画家アンリ・ルソーが残した1910年の作品で、二十世紀美術における奇跡のオアシスであり、物議を醸し出す台風の目となった傑作「夢」。
    そしてそれと同時期に描かれたと見られる夢と同じ構図の「夢を見た」という作品。
    バイラーはその真贋鑑定を若き日本人ルソー研究者の早川織絵とティムで、まるでゲームのように争うことを依頼する。
    作品をつぶさに調べるのではなく、バイラーから提供の古書に記された七章からなる物語を一日一章読み進めることによって、作品が本物か偽物かを七日目に判断するという、まさに未知の調査方法だった。果たして「夢を見た」という作品は本物なのか? 早川織絵とティム・ブラウンの真贋対決の勝敗の行方は…。

    史実と創作を絶妙に交えながら描かれる貧しき画家アンリ・ルソーの生涯。
    架空のストーリーなのにマハさんが語ると水のような自然さで読む者の心に浸透し、
    それは限りなく真実に近づいていく。
    まるでルソーを主人公にした冒険小説みたく、心躍るエピソードの連続にページを繰る指が止まらなくなる。

    そこにプラス、何かを企んでいそうなバイラー氏の代理人のエリク・コンツや、早川織絵のボスでテート・ギャラリーのチーフ・キュレーターであるアンドリュー・キーツ、
    世界最大のオークションハウスのディレクターであるポール・マニング、インターポール(国際刑事警察機構)のアートコーディネーターで謎の女性ジュリエット・ルルーなど、様々な人たちの思惑が複雑に絡み合うことで実にスリリングな効果をもたらし、ミステリー小説としても一級品の輝きを放つのです。

    また愛すべきおバカな(笑)ティム・ブラウンや容姿端麗で頭のきれる早川織絵など印象的な登場人物の中でも、
    ルソーに愛され絵のモデルとなり、絵の中で永遠を生きることを決意する女性ヤドヴィガや
    ルソーの才能にいち早く気付き彼を後押しする天才画家パブロ・ピカソの人物像が実に人間臭く生き生きと描かれているのも、なんとも魅力的で引き込まれます。

    いい小説は読む人の心の中に物語が生まれる。
    結論を押し付けずに、読む人が思いを巡らすための余白を届けてくれる。

    本当に読みやすく、ページをめくる指が止まらなくなる面白い本なので、
    「美術や絵の話苦手だしな~」っと思って避けてる人も、
    先入観ナシに一度トライしてみて欲しいです。

  • ルソーという奇才画家をめぐり、見果てぬ夢に人生を絡め取られた人々の物語。

    ある富豪の策略に導かれ、隠れたルソー作品の真贋を巡って対決することになる、アメリカ人男性キュレーターと日本人女性研究者。
    ルソー研究者である2人は、ルソーの隠れた作品と真実に迫る瞬間に深く陶酔しつつ、好敵手同士だけがわかる絆を深めながらも、それぞれの事情の為に不安に苛まれています。
    そんな彼らの対決を利用しようとする人々もたくさんいて…。

    そして、時間軸を異にした、奇才ルソーを見い出した不世出の天才画家と1組の夫婦の物語。

    各人の思惑と時間軸が交差した時に明かされる真実とルソーを敬愛してやまない2人のそれぞれの決断、そして、未来の物語の後味の良さはさすがマハさん、という感じです。それから、彼女の美術を扱う作品では、美術作品を資産(金)としてしかとらえてないような一種の憎まれ役が出てくる点もこの方らしい。

    恋愛と美術ミステリーがうまくミックスされていますね。そして、作品をめぐる最大の真実は闇の中へ…。

    ただ、マハさん自身の某過去作と構成がものすごく似ており、それを昔読んでしまっていた身としては、ラストが途中でなんとなくわかってしまったのはちょっと残念でした…。

  • 何人かに進められて読書中。
    ルソーの真贋鑑定対決や、ルソーの下に隠されたピカソを巡る攻防など、ストーリーや題材自体は面白い。でも残念なことに、主人公の織絵がどうも好きになれない。

    美術研究者として博士まで取って、学界を騒がす風雲児とまで言われているのに、織絵の絵に対する感覚が主観的、感情的に過ぎて論理に欠けるから研究者としての彼女に敬意を抱けない…。

    ピカソの鳥籠を鑑賞する際、

    「ピカソが描いたのは籠の中の鳥ではなく、鳥がたまたま籠のところにやってきた絵なのではないか?なぜならそう解釈すれば自分や娘の未来がもう羽ばたけない鳥のようなものではないという天啓になるから!」

    って考えているところとか、絵画の新しい解釈を思いつくとっかかりが身勝手な感情移入でしか無い点でアカデミズムから程遠いなあと。

    コーヒーカップの底に残ったコーヒー豆の絵柄を判じるが如きノリで絵画を解釈するの、専門家の視点としてはナンセンスなのでは。

    ここら辺以降は斜め読みであらすじだけ追ってしまったんだけれど、そんな彼女の研究者人生の頂点と引退が本編のメインになってるよね。

    不倫の末できた子供を、男に黙って日本に帰って産みたいから美術界を退く(ここら辺の行動もかなり愚かに感じる)…というのなら、冒頭、飛べない鳥のごとく山陰の田舎に縛られたとしてもクサクサせずしっかり生きるべきだったのでは?娘に向き合うこともなく、イマジナリーフレンドとしての絵画への想いを断ち切ることもなく中途半端に生きてるから、周囲からは遠巻きにされ娘からは心を閉ざされてるんじゃないのか?

    とか考えてしまうと、どうにも織絵が好きになれない…。

    私は自分の選択とそれが引き起こす結果に責任を持ち、良い人生を勝ち取るために一生懸命努力するようなキャラが好き…。


    ルソーの絵を巡る論争でも、結局最後に織絵が主張したことは主観的、感情的な絵への想いだったしね。それで研究者として評価されてるって場違いにすぎるのでは…。

    娘と向き合えてないことに対し、「あの子はエル・グレコの前でガムを噛むような子なんだ」って感じているところにも織絵の未熟さを感じる。自分と美術界の重鎮の遺伝子を掛け合わせてたって、美術に興味を持つとは限らないのにそんなことにも気づいてないよね。

    日本を発つ前、娘と少し交流ができた描写もあるけど、あれも娘に歩み寄るというよりは、これから海外に出張するというイベントを通じて娘に歩み寄らせていたし。

    織絵が美術界を退いてでも手に入れたかったのは、血の通った娘なんかじゃなく、同じような美術趣味を持つ理解者を所有すること、ないし、イマジナリーフレンドである絵画にかわる友達みたいなものだったのかもしれない。でもそんな風に接されたら娘としては迷惑だろうし、そりゃ心を閉ざすだろうなと。

    斜め読みして読み飛ばしたところに、織絵が研究者として尊敬されるに値する人物であるって描写があるのかな??

    人から紹介された本だからこれからちゃんと読み直すけど…自分の好みには合わなかったように思う

  • 学芸員って探偵だなあ、と思いながら読んだ。
    初めての原田マハ作品。名前は聞いたことあるけれど…とおもいつつ。
    作者の来歴も解説をだれが書いているかも気にしないまま読み進める。
    自分が博物館に関わる仕事をしているので、すごく良く知られているな、小説家って大変だなと思いながら読み、高階さんのお名前を見て心臓がきゅっとなる。森美術館の準備室…MoMAでお仕事していたとか……大変失礼しました、と思いながら読み終えました。

    絵画が出てくる小説あるある、だと思うのだけれども、文字でそのイメージを表現する力を読み手である私たちは試している。原田さんの表現は、私にピッタリだった。読みながら言葉にならない言葉に頭とか喉の中をぐるぐる回って、おぼろげにその絵画が現れてくる。
    グーグルで作家名と作品名で検索かければぱっと出てくるものなのだけど、それよりも目の前の文字を読みたくなる共感したくなる魅力。好き。

    学芸員が探偵だと感じるのは、たぶんどの分野の学芸員も同じだと思う。
    高階さんが言っていたように、ミステリーと似ていると思う。この仕事。
    新しい資料が出てきたからといって「やったー」と喜んでいるわけにもいかず「本当に?」「なんで?」を繰り返しながら何年も何年も資料と資料を見比べて、論文も見比べて(この論文も「本当に?」「なんで?」を繰り返しながら読む)、隠されたものを探す。
    「なんで生前に本人が記録とってくれなかったの」「この作家に生まれたときから優秀な秘書をつけておいてほしかった」「せめて日記残しとけよ」とか泣きながら。
    でもそれが好きな人がなってしまうんだろうな。

    「夜会」のあたりでバイラ―さんがジョゼフなのでは…と思うようになり、ティムや織絵と一緒になぞ解きをしている感覚に。最後に一部を除いてきちんと答えがわかり、ミステリー小説としても十分に楽しめました。
    もともと登場人物に感情移入しやすい上に、今回は同業者(といっても肩を並べるには恐れ多い肩書を二人とも持っているけれど)ということでさらに親近感があり、ビジネスとしての面やキュレーターとしての心情に一緒になって一喜一憂しながら読んだ。
    『夢をみた』も、ルソーがだんだんピカソに乗っ取られていく不安やその感覚、ぞくぞくした。
    でも、私だったら『夢』をX線で調べるな…。たぶんビジネスとか政治的にとんでもない目に合うんだろうけれど、やっぱりなぞ解きをしたいし、そこにまた旅があるかもしれないから。(でも謎を謎のままで残すのもいいよな)

    「永遠になる」
    この言葉を読んで、思わず部屋に飾ったモネの「スミレの花束をつけたベルト・モリゾ」を見てしまった。もちろんポストカードだけど。
    ティムや織絵がヤドヴィカとルソーに語り掛けたように、学生だった自分もモリゾやマネと話をしていた気がして。

  • ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。

    ルソーの「夢をみた」は真作か、贋作か。壮大すぎるテーマを元に真実を探すティムと織絵。その裏には次々と思惑を持った人々が絡み、いったいどうなるんだろうとわくわくしながら読みました。印象派は好きでよく美術館にも足を運ぶ方でしたが、こんなに熱を持って語られたらルソーの魅力を感じなかった自分が残念な人に思えてきた(笑)し、ミステリとしても面白い。結末はわりと衝撃でしたが納得もできた。ルソーという画家への愛をもった二人がこれから先も絵に寄り添って幸せな道を歩むことを感じさせる終わり方で、幸せな気持ちで読み終えました。表紙を見つめて、しばし恍惚。

  • 今年、読んだ本の中でピカイチに面白かった。ミステリー小説でもあり、冒険小説でもあり、恋愛小説でもある。本当に日本人作家が書いたのかと疑うほどの海外翻訳作品のようなダイナミックさと日本人作家特有の繊細さを併せ持つ傑作。ラストでは鳥肌が立った。

    恐らく物語の核となるアンリ・ルソーの『夢を見た』というタイトルの絵画は作者の創作だろうが、絵画の下にもう一つの絵画が隠されている例は良く耳にする。それだけに設定に十分な説得力があるのだ。また、程良いテンポで物語が展開し、章を追うごとに少しづつミステリーが解き明かされて行くという構成も良い。

    読んでいて、これほど最終章が待ち遠しくなる作品はなかなか無い。

    表紙の装画の雰囲気にどこかで見た絵だと思っていたのだが、お気に入りのギル・ゴールドスタインのアルバムの装画『眠れるジプシー女』を描いていたのがアンリ・ルソーだった。

  • 期待しすぎて失望したクチです。なんだかダヴィンチコードみたいに安易な陰謀めいたエピソードが多くてげんなりしたような気がします。(2014年8月10日読了)

  • 面白かった!!ものすごく。
    読んでる時はわくわくドキドキ、ジェットコースターのようで、読み終えた後は効能が続く穏やかなお薬みたいな本。

    美術館や絵画が大好きなのもあり、手に取った一冊。
    面白いー!!どういうこと?と一気読み、2日で読み終えました。

    現在と過去、オリエとティム・ブラウン、ルソーとピカソのストーリーが巧みに編み込まれ、解かれていくのがお見事。
    とても深いところで繋がることができたような、大きな愛で心満たされるような、幸せな読後感でした。
    心に残る一瞬一瞬が、作品の随所に散りばめられている印象。絵画のように。
    うう、ほんとすごい。

  • 絵画の知識が全くなくても楽しく読めた。知識のぶつかり合い、とても知的で情熱的な戦い。ただ漫然と眺めるのではなく、その絵画が描かれた背景を知っていれば感じ方も全然違ってくるんだなあ、と絵画の楽しみ方を教えてもらった。
    注文があるとすれば、作中に出てくる絵画が挿絵として掲載されていたらもっとわかりやすかったかな。まあ、それを文章で表現してこそ小説家の腕の見せ所なんだろうけど。あとは、この小説を読んで絵画に興味を持った読者に、実際に美術館に足を運んで生の絵画に触れてほしいという著者の思いもあるのかもしれない。

  • 知り合いに勧められて読んでみました。絵画のことなんて全くわからないのに、すいすい読めちゃいました。ストーリーにも引き込まれ、しかも突然感動ポイントがやってきて、嗚咽しそうでした。
    娘がどうなっていくのかとか、2人の関係とかその後も知りたくなりました。

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プロフィール

原田 マハ(はらだ まは)
1962年東京都生まれ。小6から高校卒業まで岡山で育つ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。
馬里邑美術館、伊藤忠商事株式会社、森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館での勤務を経て、2002年よりフリーのキュレーターとなる。
2005年小説化デビュー作の『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞、『キネマの神様』で第8回酒飲み書店員大賞をそれぞれ受賞。2013年には『ジヴェルニーの食卓』で第149回直木賞候補、2016年『暗幕のゲルニカ』で第155回直木賞候補となる。2017年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞受賞となり話題になった。

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