- Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101259611
作品紹介・あらすじ
ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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2012年山本周五郎賞受賞作品
原田マハさんの作品を初めて読みましたぜ。
以前から気になっていた作家でしたがきっかけがなく読まずじまいだったんです。が、職場の読書好き後輩同僚にマハ作品「めちゃ面白いですよ」と勧められて読むことにしました。
ちなみに本作と「暗幕のゲルニカ」の2作品をその彼から借りました。両作品を立て続けに読んだわけですが、これがまた両方とも大変面白く大満足できたんです。マハワールドに没入し魅力されました。
有名作家なので以前から名前は知っていましたが作風はいっさい知りませんでした。
有名画家の特別展が開催されると美術館に足を運んだりする私にとっては、アート系もっと言えば絵画系小説とは題材としては実に実に興味深かかったですな。
少し作品について触れておくと、本作は異才の画家アンリ・ルソーと彼の作品を巡る物語です。ニューヨークにあるモマの若手キュレーター、ティムブ・ラウンと主人公でルソー研究者、早川織絵のルソー作品の真贋鑑定判定対決のお話しですが、対決相手でありながらにしての二人の関係性の微妙な変化がこの作品の妙味ですね。
また小説内小説でアンリ・ルソーその人の時代が語られていますが、これがまた良い! ルソーの純朴さ、朴訥さ、天然キャラ大好きっす。
詳しく書くとネタバレしてしまうのでこのあたりにしておきます。
ともあれ本作を読み終えたときの満足感、爽快感、余韻…こんな感覚をもてた小説はけっこう久々かもしれません。圧巻と言っていいでしょう。
本作の表紙に使われているのが、作品のテーマでもあるアンリ・ルソーの「夢」という作品ですが、読む前に見た「夢」と読んだ後に見た「夢」は同じ絵なのに全く違うように見えるんです。
本作未読の皆さん、読んだ後に見る「夢」をぜひぜひご堪能ください(笑)
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アンリ・ルソーの未発見の絵の真贋を判定せよ。対するのはMoMaのブラウンと、若きルソー研究者早川織絵。その背後に、様々な組織、人物の思惑が蠢く。極上の美術ミステリーでした。
原田マハさんの美術への造詣は群を抜いています。そして、美術への扉を開いてくれるという点で優れて価値ある一冊だと思います。
美術館で何を見ていいかわからない織絵に父のいった言葉「自分の好きな友だちなら見つけられるだろう?」
確かに、美術館に行ってこれは好きだという作品なら出会える。箱根の成川美術館で見た加山又造「猫」、京都広隆寺で見た弥勒菩薩像、小一時間動かずに見つめてしまったことがあります。
あぁそれくらいならわかるかなと読み進めることができるのです。
そんな自分を名画を巡るミステリーに心を捉えてしまうところに凄みがあります。「夢」にまつわるアンリ・ルソーの物語。そこに描かれる彼の生きざまや情熱に、知識のない自分でも名画の名画たる所以を知ることができるのです。
そして、まるで見てきたかのように、ルソーやピカソの生きた時代のフランス、織絵とブラウンの過ごしたスイスのバーゼルが描かれていることです。街の空気が匂って来るようです。それくらい生き生きと描写がなされています。
心からルソーの名画を心から愛する織絵とブラウンだからこそ、その対決の結末はもう、感動でした。
「画家を知るには、何十時間も何百時間もかけてその作品と向き合うこと」
「偶然、慧眼、財力。名作の運命は、この三つの要因で決定される。」
「目と手と心、この三つが揃っているか。それが名画を名画たらしめる決定的な要素なのだ。」
私たちが名文を読むたびに新しい発見や感動が色褪せず生まれるのと同様に、名画にも見る人の人生を変えるだけのものがある。
それを見ごたえとして引き出し、私を引き付ける原田マハさんに脱帽です。
新しい世界に触れる喜び。読了するまで幸せな時間を過ごせました。
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大学生時代から15年間、倉敷市に住んでいました。
大原美術館はとても身近で、館長さんに講演を依頼したこともありました。
この作品はその大原美術館から始まります。
大原美術館 監視員の早川織絵とニューヨーク近代美術館のティムブラウン。
現代のこの二人が当時のアンリ ルソーの生涯を解明していきます。
「夢」に隠された秘密。
ルソーの生き方が描写されていて、とても親近感が持てました。
織絵とティムもとても素敵。
一つ一つの作品が人生そのもののように思えます。
芸術には疎いですが、もっと勉強したくなりました。 -
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メーロンさん、土瓶さんはサイコパスってことで…:(꒪꒫꒪):
そういえば子どもの友だちに人物の体をバラバラにして描いていた子がいました(-_...メーロンさん、土瓶さんはサイコパスってことで…:(꒪꒫꒪):
そういえば子どもの友だちに人物の体をバラバラにして描いていた子がいました(-_-;)2023/06/27 -
チーニャさん、読みました!面白かったです。
「楽園のカンヴァス」というタイトルも、理解できました。説明はできませんが^^;
チーニャさんも美...チーニャさん、読みました!面白かったです。
「楽園のカンヴァス」というタイトルも、理解できました。説明はできませんが^^;
チーニャさんも美術ダメダメ派!?でも風景画が描けるならグッദ്ദി ˉ͈̀꒳ˉ͈́ )✧2023/06/27 -
なおなおさん
違いますよ!
世間の理解が一門に追いついていないだけ!
我々はある意味画伯ですからwなおなおさん
違いますよ!
世間の理解が一門に追いついていないだけ!
我々はある意味画伯ですからw2023/06/27
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原田マハさんの小説は、図書館が開館したら1番で借りられる予定の最新作以外は、ごく初期の2,3作品を除き、全て、マハさんにお詳しい御親切なフォロワーさんにご助言いただき、全てブクログの本棚に載せましたが、ブクログ登録前に既読だったこの作品だけ載せていなかったので、再読しました。
第25回山本周五郎賞受賞作で、美術ミステリーですが、2012年に出版されておそらく、すぐに拝読したので、所々思い出したものの、最後は全く覚えていず、再び楽しんで読むことができました。
全然古い感じはなく、ラストシーンでは「やられた!」と感嘆の声をあげ、マハさんの実力を再認識しました。
2000年、倉敷の大原美術館で監視員として働いていた、シングルマザーの早川織絵のところへ、ニューヨーク近代美術館(MOMA)のチーフ・キュレーターのティム・W・ブラウンからオリエ・ハヤカワを交渉の窓口にすれば、絵画のレンタルを考えてもよいという打診があります。
大原美術館側は、アンリ・ルソー展を開くにあったてアンリ・ルソー作の『夢』だけでも借り入れたいと織絵に白羽の矢をたてます。
1983年、伝説のコレクター・コンラート・バイラーがふたりの研究者に真贋鑑定の依頼をします。
鑑定作品はアンリ・ルソーの『夢をみた』。勝者に贈られるのは『夢をみた』の取り扱い権利。
ふたりのうち一人は、トム・ブラウンですが、1文字違いの名前を持つティム・ブラウンがトムになりすまし、参加。もうひとりはソルボンヌ美術史科・研究職のオリエ・ハヤカワ。
ふたりはバイラーに一冊の古書で『夢をみた』という七章からなる物語を渡し、毎日一章づつ読み、真贋の判断をするようにと言い渡します。
古書の内容は、売れない画家のアンリ・ルソーとモデルのの洗濯女ヤドヴィガ、その夫のジョゼフ、仲間の画家パブロ・ピカソ、詩人のギューム・アポリネールらの物語です。
途中でティムは自分の本当の名前をある人物に知られおどしをかけられたり、『夢をみた』の隠された秘密を知ることになります。
ルソー、ヤドヴィガ、ジョセフ、ピカソらの『夢をみた』の作中作がまず、素晴らしく、最後のヤドヴィガが天国の鍵を握ってルソーと結ばれたというシーンでは、涙腺が緩みました。
また、ティムとオリエの第十章での対決、勝負のシーンも全く予想外で夢にも思わぬ結末でした。
全ての話がつながったとき「マハさんって、やっぱり最高!」と思いました。-
そうか。大原美術館から始まるのか。しかもその監視員。ちょっと触手欲出てきました。原田マハさんは「でーれーガールズ」もあるように、青春時代を岡...そうか。大原美術館から始まるのか。しかもその監視員。ちょっと触手欲出てきました。原田マハさんは「でーれーガールズ」もあるように、青春時代を岡山市で過ごしています。映画は酷かったと聞いているので、封切り時には観ていないのですが、いつか観なくちゃとも思っています。
大原美術館は、地元ですから、子供の時は10回近く、大人になっても10年に一回ぐらい行っています。1番好きなのはピカソの「鳥籠」です。小学生の時に、感想文書いたら褒められたので、もっと好きなりました。ルソーもあったと思うけど、印象にないなあ。2020/05/05 -
kuma0504さん♪こんにちは。
『楽園のカンヴァス』は大変お薦めです(*^^*)
マハさんのおそらく出世作でしょうね。
大原美...kuma0504さん♪こんにちは。
『楽園のカンヴァス』は大変お薦めです(*^^*)
マハさんのおそらく出世作でしょうね。
大原美術館は地元であられるのですね。
羨ましいです。
ピカソの『鳥籠』のエピソードは作品の中にも織絵のエピソードででてきますよ。
『でーれーガールズ』も拝読しましたが、本は、上手くいきすぎのかんじはしたけれど、本はとても面白かったと記憶しています。
映画にもなっているのですね。
いろいろ、地元ならではのkuma0504さんの
感想を拝見してみたい気がします。
2020/05/06 -
kanegon69さん♪こんにちは。
マハさんの新作が1番で(強調)借りられるところで、図書館が休館してしまい、半年ほど、マハさんの小...kanegon69さん♪こんにちは。
マハさんの新作が1番で(強調)借りられるところで、図書館が休館してしまい、半年ほど、マハさんの小説を読んでいないな~。と思い手に取りました。
アートミステリーですが、ほとんど覚えていなかったため楽しめました(*^^*)
今度は、実は積んである、マハさんの新書を読んでみようかと、思っていますが、私には新書のレビューは難しいかなと思っています。
そして、kanegon69さんにも、感謝の気持ちでいっぱいです!2020/05/06
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原田マハと私は、ニアミスをしている可能性があります。解説の高階秀爾大原美術館館長(作品中の宝尾館長のモデル)によると、小学校4年の時に父親に連れられて大原美術館に来館し、ピカソの「鳥籠」を見て「ヘタクソな絵!私ならもっと上手く描ける」と考え実際に描いたといいます。私は正にその同年訪館し、夏休みの宿題感想文に「鳥籠」は「見ていて暖かくで穏やか気持ちになり、全然難しい絵ではない」と書き、先生に褒められました。その褒め言葉が功を奏してその後、小学生、中学生を通じて、美術は常に5段階評価の5を獲ることになります。彼女が訪ねたのが夏休みだったとしたら、すれ違っていた可能性はゼロではないのです。でもここで、原田マハと大きな差が出ていることに、今回このエピソードを知って、私は気がついたのです。批評しかできない者と実際描く者。
実はその後、もう一つ同じ道を歩みながら、同じような大きな差が出現していたことに、気がつきました。中学時代、私は、画家になるには画力が不足しているからムリ、漫画家になることを夢見ていました。何故画家を諦めたかというと、「鳥籠」を見たとき、同時にセガンティーニの「アルプスの真昼」という作品の感想も書いています。これにはピカソと別の意味で私は驚きました。淑女がアルプスの高原で山羊と共に佇んでいる絵ですが、油絵具の塗り重ねが素晴らしく、草原の色の洪水が、何故か草原そのものに思えました。間近に見たり遠くから見たりして、小学生の私はおそらく早々に見切ったのです。「とてもこんなの描けない」と。私は漫画習作をいくつか描いた後、大学受験のために一時中断しました。実はそんな時、同じ岡山で原田マハは少女漫画を実際に何作も描いていたというのです。一方私は80年1月、ジャンプで連載開始したひとつの作品を見て漫画家になることを諦めました。手塚漫画は真似できる。劇画は努力したらできるだろう。けれども、こんな単純な線で立体的に独創的に描く漫画はとても無理だ、と思いました。鳥山明「ドクタースランプ」です。実際に描く者と、早々に諦める者。その後私は、マンガ編集者になるのも夢見ますが、就活で、そのあまりにも競争率の高さに尻込みして諦めました(笑)。
さて、ここから本題です(←すみません!)。
原田マハは、81年3月まで岡山に居ました。当然、小学校以来何度か大原美術館には行っているはずです。高校生の時に訪ねた彼女は、こう思ったのではないか?
「あゝ懐かしい!ピカソの『鳥籠』だ。ヘタクソと思ってこれより上手く描いたと思ったことがあったなあ。あの後、確かなデッサン力があってこそ、この絵だとわかって意見変えたけど」
原田マハは美術部にこそ入りませんでしたが、高校時代はずっと漫画を描いてました。美術を観る眼は格段に上がっていました。
そのあと、同じ部屋にあったひとつの絵にも眼を滑らします。
「パリ近郊の眺め、バニュー村」
彼女は鼻で嗤う。
「これはダメね。一見丁寧に描いているみたいだけど、牛と農夫と積みわらの遠近がまるでなっていないし、光の当て方もバラバラじゃない」
と、通り過ぎたのでした。
その4年後、今やすっかり美術作品に詳しくなった彼女は、久しぶりに訪れた大原美術館で、もう一度この作品を観ます。その直前に見たピカソの絵は、籠と鳥との関係で、大きな発見があったのですが、この「パリ近郊ー」は更に全く違って見えました。光輝く、と言っていいのか。部屋の真ん中にある大きなソファー椅子に座り、気がつくと1時間が経っていました。
「あゝやはり牛はこの大きさじゃなければダメなんだ。牛はそれだけで、穏やかで大きくて、このように光り輝いているんだ」それが、その時の感想でした。それはアンリ・ルソーの絵でした。
ところで私は大原美術館の代表作エル・グレコの「受胎告知」を素晴らしいと思ったことは一度もありません。アンリ・ルソーの絵もそうです(今なら、違うかもしれません)。でも、1時間同じ絵を見ていたことはあります。そうせざるを得ない力が、「お気に入り」の絵にはあるのです。原田マハにとっては、ルソーの絵はそうだったのでしょう。子供の時から、何度も見て何度も変わっていった「絵の印象」。そういう体験は貴重です。書いていて気がつきましたが、大原美術館は滅多に混まないので、そういうことができます。企画展で美術鑑賞をする時にはあまりできない鑑賞の仕方ですね。
数年後、原田マハはニューヨーク近代美術館に居た。その絵の前に佇むこと数時間。ふと白昼夢を見た。
小学4年の彼女と父親が会話していた。
「ねえお父さん、こんないっぱい絵があったら、どれを見たらいいかわかんないよ?」
「どんな人ごみの中でも、君の友だちがいる。そう思って見ればいい。それが君にとっての名作だ。絶対に目を閉じちゃいけないよ。みつけられなくなるからね。さあ、よく見てごらん。君の人生の友は、何処にいるかな?」
ふと気がつくと、鮮やかな緑が迫ってきた。
熟れてこぼれ落ちる果実の甘やかなにおい。遠くで響く野獣の雄叫び。鼻先をかすめて飛んでいく極彩色の蝶の羽。冷たくやわらいものが、足の裏にひやりと触れる。女蛇が鎌首を上げて睨んでいる。ライオンも世界を覗き込む。冷たい満月。生きている女神が何かを掴かもうとする。
アンリ・ルソーの「夢」である。
‥‥そうね、貴方が、私の「人生の友」よ。
それから、一日中佇みながら、原田マハは新しく思い浮かんだ小説構想を反芻していた。十数年前にこの近代美術館がルソーの大回顧展を企画した。そのキュレーターと日本の才女をめぐる、めくるめく夢のような小説を。何時も原田マハは、夢を実現する方へ直ぐ動くから、その20数年後に出版される草稿は、その日の夜に書かれたのである。
‥‥と、私は「夢をみた」。
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まことさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
何処までホントかウソか、そこを狙ってみました(^^)。
マンガを描いていたのは、ホ...まことさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
何処までホントかウソか、そこを狙ってみました(^^)。
マンガを描いていたのは、ホントだと思います。これを書こうとして、急遽原田マハ公式プロフィールを見たら、そう書いてました。大学時代では、少女マンガ「ロマンチック・フランソワ」を「りぼんまんが大賞」に投稿、最終選考に残るもあえなく選外に、という華々しい(?)成果もあったようです。もっとも、そう書いていたから、てっきり美術部だろうと想定してこれを書き始めたのに、新たなエピソードを付け足さなくてはいけなくまりました(^ ^;)。まぁ、それには大原美術館に初めて行ったのは小学4年の夏休みとも書いていたので、私はホントにニアミスしていたかもしれません。まぁだからどうなんだ、とはなります。
ネタバレすれば、
私に関しては、事実的には全てホントで、
高校生以降の原田マハは、私の「想像」です。
でも、私的には「真実」と思っています。2020/06/05 -
レビューとまことさんとの会話にまた新しい物語があって、すばらしいです。
横からいきなり申し訳ありません。
楽しませていただきました。「教わり...レビューとまことさんとの会話にまた新しい物語があって、すばらしいです。
横からいきなり申し訳ありません。
楽しませていただきました。「教わりました」2020/06/09 -
トミーさん、コメントありがとうございます。
まことさんのレビューで、この作品の舞台が大原美術館から始まり、なおかつ、私の好きな「鳥籠」も使わ...トミーさん、コメントありがとうございます。
まことさんのレビューで、この作品の舞台が大原美術館から始まり、なおかつ、私の好きな「鳥籠」も使われていると知って、躊躇していた原田マハの代表作を紐解くことにしました。岡山と因縁ある方だし、嫌いなテーマを扱っていないので、「ハマって」仕舞うことに怖れを抱いていたのです。(←親父ギャグで御免なさい)
人生は短く、読みたい本はあまりにも多い。
これ以上ファンを増やしたくないんです。今一生懸命自制(^ ^)しているところです。2020/06/09
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面白すぎ!
一気読みしてしまった。
MoMAのキュレーター、ティ厶・ブラウンは、伝説のコレクター、バイラーの大豪邸に招かれる。そこで、ルソーの名作「夢」によく似た絵を見せられる。同時に招かれた日本人研究者・早川織絵と真贋鑑定対決をすることとなり、勝った方にはその絵の取り扱い権利を譲渡する、と言われる。リミットは7日間。手がかりは謎の古書。
ルソーとピカソ2人の想いがカンヴァスの上に交差する―
何度も、登場する絵画を集めたまとめサイトを見ながら、本を読み進めた。「暗幕のゲルニカ」のレビューにも書いたけど、僕には絵画鑑賞のセンスがない。でも、何だか楽しかった。絵画の描かれた背景とか、この小説読んでよく分かったから。
ー アートを理解する、ということは、この世界を理解する、ということ。アートを愛する、ということは、この世界を愛する、ということ。
読み終えて、作中のこの言葉に、少しだけ近づけた気がした。美術館に行きたくなった。
読んで幸せな気分になる、大好きな小説です。
ところで、僕はピカソよりルソーの絵の方が好きだな、と思いました。 -
作品の舞台は、谷間。夜が始まったばかりの空は、まだ白みを残し、静まり返っている。大地の窪みのはるか高みに肩の高さで左手の拳を構える巨人。そんな彼の脚部は山々で覆い隠され、彼の体躯は雲に取り巻かれている。その足元を逃げまどう数多くの人々、牛の群れ。夢から覚めてなお、巨人は夢をみているのだろうか。それともこれは現実なのか。巨人が見つめる先にいるのは、たぶん、いや、きっと ー 。そんな恐怖に包まれた闇を切り裂く閃光!
…突然のことでした。ピカッと閃光が目の前の巨人を照らし出したのです。事態が呑み込めない私の耳に『OH, NO, STOP!』という大きな声とともに顔を真っ赤にした係員が近づいて来るのが見えました。友人と出かけたマドリードのプラド美術館。写真撮影が許可されていたこともあって私も友人も気に入った絵をたくさん写真に収めていた時、友人が操作を誤りフラッシュを光らせてしまったのでした。動揺した私は日本人らしくペコペコ頭を下げ、日本語で友人を派手に怒鳴りつけることでその場を取り繕いました。呆れて行ってしまった係員。でも係員は去って行きましたが、目の前には怖い顔でまさに聳え立つゴヤの「巨人」の姿がありました。誰にでも印象に残っている絵というのはあると思います。そして、それは何かしらの出来事に結び付けられていることも多いのではないでしょうか。私にとってはこの「巨人」がそれにあたります。
『閉ざされた空間に、滔々と流れる時間。朝十時から夕方五時まで、そこから逃れることはできない。どんな刺激も変化も事件もないし、あってはならない』という早川織絵は美術館の監視員として一日を絵の前で過ごします。『ある一線からこっちへ、他人を踏みこませようとしないところが昔からある』という織絵。そんな織絵はある日、館長に呼ばれて暁星新聞文化部の高野と引き合わせられます。そこで高野は唐突に『早川さん。あなたは、ティム・ブラウン、という人をご存じですか?』と聞くのでした。その名前に驚きを隠せない織絵。高野は暁星新聞文化部が大規模な展覧会を企画していること、そしてティム・ブラウンがチーフ・キュレーターをしているMoMAからの交渉条件が織絵を交渉窓口とすることであると告げます。『早川さん。私たちの最後の切り札は、あなたなんです』と織絵に詰め寄る高野。そんな織絵には、26歳で博士号を取得し、ルソー研究で次々と論文を発表していた研究者としての過去があったのでした。
時代は遡り、1983年、MoMAでアシスタントとして働いていたティム・ブラウン。伝説のコレクター・バイラーから一通の手紙を受け取ったことから、彼の夏休みがスイスにあるバイラーの邸宅行きへと変わります。今一つ目的のはっきりしない手紙。そんなバイラーの邸宅で彼の目の前に、当時ルソー研究で次々と論文を発表していた早川織絵が現れたのでした。手紙の目的が告げられます。『アンリ・ルソーの大作「夢をみた」の真贋を、これから七日間かけて見極めることを依頼された。ただし、真贋鑑定をするのは自分だけではない。若き日本人ルソー研究者、早川織絵も挑戦するのだ』という事実に驚くティム。戸惑いながらも『あの作品を見極めること、そしてあの小憎らしい日本女を論破することに集中しなければならない』とルソーの大作の真贋を見極めるというタスクに立ち向かっていくのでした。
時代が2000年の現代から1983年へ、そしてさらに過去の1906年というルソーが生きた時代へと物語は3つの時代を駆け巡ります。そして興味深いのは、この作品の中で『赤茶けた革表紙の本』という本が実際に登場し、その本の内容が複層で作品の進行に互いに影響しあって物語が展開していくというとても凝った作りがなされていることです。多くの画家、そして彼らが描いた絵が登場するこの作品、それだけでなく画家同士の交流風景までもが、史実と創作を行ったり来たりしながら丁寧に意味をもって描かれていきます。お恥ずかしながら、『ルソー?、確か社会の時間に習った哲学者だっけ?』という知識のなさだったにもかかわらず、読後には彼の生き様、人となりがおおよそ浮かび上がってくるまでにアンリ・ルソーという画家を知ることができました。また、絵自体についても『アートを理解する、ということは、この世界を理解する、ということ。アートを愛する、ということは、この世界を愛する、ということ』という表現など、絵というものに今まで以上の奥行きが感じられるようにもなりました。
実はこの作品を読むのに、もの凄い時間がかかってしまいました。というのも絵の説明がでてきたら、それをPC画面に表示してまず眺め、次に原田さんの書かれた文章を読み、そしてそこに書かれていることを確認しながら絵を見ていくということを繰り返したためです。時間はとてもかかりましたが、単にその絵の知識だけでなく実際にその絵を見ることで得られた感覚がその先の読書にフィードバックされることで、作品世界にどっぷりと浸った読書ができました。アート・ミステリーという分類の作品を読むのは初めてでしたが、アートの世界と物語の世界の見事な融合と、謎解き、そしてとても魅力的な登場人物の微妙な心の動きも見事に表現されていたのもとても印象に残りました。
『美術に関する知識やセンス以上に、人海戦術と交渉力、そしてときには色気が必要になってくる』というキュレーターのお仕事、『偶然、慧眼、財力。名作の運命は、この三つの要因で決定される』という絵画の運命、そして『本気であの人の女神になってやれよ。それであんたは、永遠を生きればいい』という画家・パブロの言葉など、私自身が今まで全く触れてこなかった絵画の世界の奥深さに素直に感動するとともに、織絵とティム、ヤドヴィガとルソー、そしてルソーとパブロなど、絵画に繋がれた人と人の間に生まれる互いの存在への尊敬の念とそこから来る人としての優しさの表現、そして絵画の上に浮き上がる人の物語としての魅力など、とても強く印象に残る、心に響く素晴らしい作品だと思いました。
追伸 : 少し前になりますが、幸いにもマドリードを再訪する機会に恵まれました。プラド美術館を訪れた私の目の前にはあの日と何も変わらない「巨人」の姿がありました。ただ、実はこの絵は作者がゴヤではなく、別人の筆によるものだったという説明とともに、『N-O P-H-O-T-O-S』という掲示がありました。
『O-H, N-O, S-T-O-P』が転じて『N-O P-H-O-T-O-S』、自業自得の未来という結果論がそこにありました。嗚呼。
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素晴らしいレビューです!
私も2019年春にプラドに行きました。メインはすぐそばのなんちゃらセンターにあるピカソのゲルニカが見たかったので...素晴らしいレビューです!
私も2019年春にプラドに行きました。メインはすぐそばのなんちゃらセンターにあるピカソのゲルニカが見たかったので、プラドのほうがおまけでした(笑)。
あんなに広いとは思わず、とりあえずメジャーなものだけ3時間ほどで見ましたが、本格的に見ると3日以上かかりますよね。ゴヤの巨人は残念ながら見切れなかったです。2022/09/29 -
koshoujiさん、コメントありがとうございます!
はい、ソフィア王妃芸術センターですよね。私もゲルニカ見ました。ただ印象としてはこの「...koshoujiさん、コメントありがとうございます!
はい、ソフィア王妃芸術センターですよね。私もゲルニカ見ました。ただ印象としてはこの「巨人」は特別でして、その後、東京のいずれかの美術館に”来日”して再会、さらに、もう一度プラドへ行く機会があって再び再会。人生で三度見たということもあって、またレビューの事象もあって、個人的に特別度がとても高いです(笑)。
ちなみに、現在はプラドは写真禁止になったようですね。なのでレビューの事象ももう起こり得ない…時代も変わりました。2022/09/29 -
さてさてさん、そうです、ソフィア王妃芸術センターでした。年を取ると、本当に固有名詞がすぐに出てこなくて困ります。(;^_^A
昔はプラドっ...さてさてさん、そうです、ソフィア王妃芸術センターでした。年を取ると、本当に固有名詞がすぐに出てこなくて困ります。(;^_^A
昔はプラドって写真撮影できたんですね。あんな膨大な名画の数々を写真撮影OKだったとは。
私はなんちゃらかんちゃら(笑)で、「最後の晩餐」が撮影OKなことに、3年前に行って驚きました。
2022/10/02
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絵画とかクラッシックとか理解できひん…
ルソーもピカソも名前は知ってる。
でも、それだけ…
この小説読むと美術館とか行くと凄い引き込まれそうなんやけど、今まで、大原美術館、京都の美術館とか行った事あるけど、あかんかった(^^;;
でも、この作品読むと絵画への情熱とか分かるし、引き込まれる。やっぱ、絵を描くのと同様に、文字を描く人か良いんやろな。
美術ミステリーっていうみたい。殺人とかはないんやけど、絵のホンモノ鑑定での謎解きにドキドキ!
人間違えの件は、何となくはじめから、そうかなと。
何にでも良いけど、こんなに情熱を傾けられるのが羨ましくもあるなぁ〜
ハイ、一気読み!(^_^)v -
大原美術館に行く予定ができたため、今回は文庫本で再読。
一年半前、初めて読んだ原田マハさんの作品です。
史実をもとにした創作ミステリー。
結末を知ってるはずなのに、二度目の大感動。
第一章。2000年、倉敷。
美術館の監視員、織絵のもとに
思いがけない話が舞い込みます。
MoMaのチーフ・キュレーター
ティム・ブラウンに会ってほしいというのです。
ルソーの絵画『夢』の貸出交渉をするため、
織絵はニューヨークへと旅立ちます。
第二章から第十章まで、17年遡って1983年のスイスへ。
バーゼルにある伝説のコレクター、バイラー氏のお屋敷。
バイラー氏が所蔵するルソーの絵の真贋を見極めるため
織絵とティムが招待されますが、そこには不思議な条件が。
七章から成る「門外不出の古書」を一日一章ずつ読むこと。
七日目にそれぞれが作品講評をして、
より優れた方に絵画の取り扱い権利を譲るというのです。
織江とティムの 一騎打ち鑑定 です。
古書では1900年頃のパリが描かれ、ルソーやピカソ、
ルソーに魅せられた夫婦の物語が繰り広げられます。
一方、現実世界の1983年のパリでは、
絵画をめぐる不穏で怪しい動きも語られます。
鑑定される絵の真贋は?
最終的に誰の手に渡るのか?
二人の講評対決の結末には、意外な展開が待ち受けています。
そして最終章。
絵画のように美しいシーンで締めくくられます。
素敵!
原田マハさんの文章は、いつ読んでも心地よく
新しい世界への扉を開いてくれます。
平面的だった絵画にふわっと命が吹きこまれ
心の底からわくわくさせられるのです。
大原美術館、ますます楽しみになりました。-
yyさん。こんにちは♪
大原美術館に行かれるのですね。
楽しみですね!
熱中症などにお気をつけて、楽しまれてきてください。
いい...yyさん。こんにちは♪
大原美術館に行かれるのですね。
楽しみですね!
熱中症などにお気をつけて、楽しまれてきてください。
いいなあ。
私は、隣県が宮城県で、コロナ前は時々仙台のジュンク堂書店や丸善に遊びに行っていましたが、行くと、伊坂幸太郎さんがどこかに立っていないか探してしまうというバカなことをやっていました。2022/06/26 -
まことさん
コメントありがとうございます。
嬉しい☆彡
原田マハさんの著書にハマったのはまことさんのお陰。
素敵な世界を紹介して...まことさん
コメントありがとうございます。
嬉しい☆彡
原田マハさんの著書にハマったのはまことさんのお陰。
素敵な世界を紹介してくださって、今も感謝しています。
最近は、WOWOWオンデマンドで
マハさんが日本の美術館を訪ね歩いて
「友だち」に会いに行く番組を楽しみに観ていす。
まことさんは、伊坂幸太郎さんの大ファンでいらしゃるのね。
コメントを読ませていただいて、思わず頬がゆるみました。
でも、そういう ”ときめき” ってすごく大事だと思います。
そういえば、『マリアビートル』が原作の映画、
公開が9月になりましたね。
コロナで半年遅れたのかな?
原作を読んでからの映画って、楽しみなような怖いような…。
2022/06/26
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著者プロフィール
原田マハの作品






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マハさんの...
先日いいねを押させていただいた時からコメント入れさせて頂きたくて、やっと時間がとれました♪
マハさんの作品は未開の地なのですが、気になっている方の1人です。
マハさんはキュレーターの経歴もお持ちなんですね。
私もTAKAHIROさんのように、美術展好きで美術館に足を運ぶ者です。
訪れる度にチケットとフライヤーをスクラップしています。
ルソーは詳しくないですが、独特の画風ですよね。
人物画は何かのキャラクターのようだし、緑豊かに動物を描いた作品も綺麗。
幾つかの作品を見たことがあるのですが、何の美術展だったか…。
感想文を読ませて頂いて、いつかマハさんの絵画系小説を読みたいなぁと思いました。
かなりの亀レスですが、フォロー、或いは私のレビューに“いいね”をいただき、ありがとうございます。...
かなりの亀レスですが、フォロー、或いは私のレビューに“いいね”をいただき、ありがとうございます。
10年ほど前、ひたすら本を読んでいた時期があり、ブクログに掲載しているレビューも、その頃のものが殆どですが。
その後、故郷の同窓生探しのためにmakopapa77という名前で、歌うYouTuberに変貌し、小遣い稼ぎしていました。
この2023年2月に、めでたく「前期高齢者」の仲間入りを果たし、4月からは、週に6日は日曜日状態(笑)になり、今後はようつべとブクログの両立も可能で、新しいレビューも書けそうです。
ただし、海外旅行が増えるので、無理矢理そちらにかこつけたレビューが多くなるかもしれません。
それでも、読んで楽しくなるようなレビューを書き続けたいと思いますので、読書仲間として末永くよろしくお願いいたします。<(_ _)>
TAKAHIROさんのレビューも楽しみにしております。
原田マハのこの「楽園のカンヴァス」は、何故に直木賞に至らなかったのか不思議で、私のレビューでは、そのあたりに言及しております。
美術館が、というか絵画がお好きなようですね。
コロナ禍になる1年前、マドリッドに行き、ソフィア王妃センターではピカソの生の「ゲルニカ」を見て、その気迫に圧倒され、プラダ美術館では、あまりの名画の多さに疲れ果てました(笑)。
その時の様子は下記「ガウディの夏」のレビューに書いておりますので、お暇なときにでもお読みくださいませ。
https://booklog.jp/users/koshouji/archives/1/4041294177