楽園のカンヴァス (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101259611

感想・レビュー・書評

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  • やっとやっと読み終えることができました!!
    去年、同い年の原田マハさんをNHKの「朝イチ」で拝見して以来、さらに親近感が湧き、ずっとこの本を読むことが目標になっていました。
    読んでみて、改めてマハさんの絵画に対する知識の豊富さ、熱意を感じました。そして、絵画と小説を組み合わせることの面白さも感じました。
    冒頭の主人公の織絵さんが、倉敷の大原美術館に監視員として勤めていることがまず、広島に住んでいる私にとっては嬉しかった。まぁ、マハさんは岡山出身だし、
    大原美術館は日本屈指の西洋美術コレクションを所蔵しているそうだから、舞台になるのは当然かもしれないけど。
    その織絵さんが実は、アンリ・ルソーの第一研究者で、
    そこから物語が展開していく。
    もう1人のニューヨーク近代美術館のティムと、ルソー作品の真偽を巡って、話は進んでいくんだけど、読み進めていろんなものが超一流すぎて、想像すらできない素晴らしさがあり、世の中には自分の知らない世界のなんと多いことか、とつくづく思いました。
    マハさんはキュレーターとして、超一流のお仕事をされてきたからこそ、この物語が書けたと思うし、ほんとにすごい人だなぁと改めて尊敬しました。
    最後にティムと織絵さんが17年ぶりに再会する場面でこの物語は終わるけど、この先、2人がハッピーエンドになり、素敵な人生を選んでいくことを願っています。
    前にも書いたと思いますが、私は2016年10月発行のクロワッサン掲載の「原田マハさんの京都美術散歩」をずっと見ていて、今回やっと京都国立博物館を訪れることができました。本物のオーラに圧倒されながら、この歳になると美術館も何のてらいもなく、楽しめるものだな、と思いました。これからは、マハさんの作品も読みつつ、美術館散歩もしていきたい、と思います。

  • 2020(R2)7.14-7.18

    自慢じゃないが僕は美術に全く縁もなく、絵画を見ても何も分からない。漫画は好きでイラストも得意だが、美術館へ行っても心が動かない。
    ルーブル美術館に行ったこともあるが、歴史的な事実としてすごいと思っただけで、その絵画の持つ良さなど全く分からない男です。

    だから、原田マハは敬遠してました。
    しかし、読むほどにルソーという画家のことが気になり、ネットで作品を探し当てながら読み進めていきました。
    「これって全て事実でしょ?」と思ったら、最後に「この物語は史実に基づいたフィクションです。」とあってビックリ!『ダヴィンチ・コード』みたいだな、これは。

    原田マハ、気になる作家に出会うことができました。

    しかし、同時に改めて分かった。
    僕は、登場人物が横文字だと、途端に読む力が低下する。誰だか分からなくなるのだ。(だから、ハリー・ポッターも第一作でギブアップしている。)

    原田マハの他の“美術系小説”はどうなんでしょうか???

  • 【感想】
    「暗幕のゲルニカ」に続き、原田マハの美術史モノの小説を読むのは2冊目。
    前に読んでいるときもそう思ったが、美術に関するある程度の知識・教養なしでこのジャンルの本を手に取ると、中々痛い目を見る。笑
    現段階では美術に対して一切の興味もないが、全く興味のないジャンルのテーマですら面白いと思えるのは、やはり原田マハの構成力の凄さなんでしょう。
    表紙にもなっているルソーの「夢」。
    美術に疎い自分としては、どこがポイントなのか一切分からないただの絵なんだが、原田マハの文章力によってこの絵の何がスゴイのかが分かった。

    本小説は、ルソーの最晩年の作品「夢」に類似した作品ついて、ある資料を元に2人のキュレーターが真贋判定を行なうという内容。
    こういった類似作品があることも含めて、勿論フィクションなんだろうが、ルソーという作家の人物史について、また「夢」に描かれているモデルのヤドヴィカについて、まるでフィクションでないように信じ込まされるような筆力。
    読んでいて非常に面白かったです。どこまでフィクションでないのだろうか・・・全然わからない(笑)

    しかし、何の知識もないまま読み進めるのは大変ということと、また誤った知識を真実だと思い込んでしまう可能性が高いので、一旦このジャンルの作品は卒業しようと思います。


    【あらすじ】
    とうとう、みつけたわね。
    ルソーの名画に酷似した一枚の絵。
    そこに秘められた真実の究明に、二人の男女が挑む。

    ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。
    そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。
    持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。
    リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。
    ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作。


    【引用】
    1.美術館の監視員の仕事は、あくまでも鑑賞者が静かな環境で正しく鑑賞するかどうかを見守ることにある。
    解決するわけでもなければ案内するわけでもない。
    ただ、質問に対して最低限答えれるように展示作品については学んでいる。
    監視員は鑑賞者のために存在するのではなく、作品と展示環境を守るために存在している。

    2.ルソーに対する評価は死後70数年経った今でも、本質的には変わらない気がした。
    意地の悪い見方をすれば、やはり彼の作品は、「遠近法」も「明暗法」と習得し得なかった無知で下手くそな日曜画家のものでしかない。
    しかし一方で、ルソーの登場がピカソやシュルレアリスムに与えた影響を考えれば、これほどの孤高の異才は、美術史において、後にも先にもなかったのではないか?

    3.アンリ・ルソー、1910年、画家最晩年の傑作、「夢」。
    作品の舞台は、密林。夜が始まったばかりの空は、まだうす青を残し、静まり返っている。右手に、ぽっかりと明るい月が昇っている。鏡のような満月だ。
    月光に照らし出される密林は、うっそうと熱帯植物が密集している。名も知らぬ異国の花々が咲き乱れ、いまにも落ちそうなほど熟した果実が甘やかな香りを放つ。
    ひんやりと湿った空気のそこここに、動物たちが潜んでいる。その目は爛々と、小さな宝石のように輝いている。

    月の光に、果実の芳香に、ライオンの視線に、そして黒い肌の異人が奏でるどこか切ない笛の音に、いま、夢から覚めたのは・・・長い栗色の髪、裸身の女。
    彼女が横たわる赤いビロードの長椅子は、夢と現(うつつ)のはざまにたゆたう方舟。夢から覚めてなお、女は夢をみているのだろうか。それともこれは現実なのか。

    4.「夢」は謎の多い作品だった。
    なぜ密林なのか。なぜこの女は裸で長椅子に寝そべっているのか。その指先は何を指しているのか。そもそも、ルソーが自分で名付けた「ヤドヴィカ」とは誰なのか。


    【メモ】
    p10
    画家を知るには、その作品を見ること。何十時間も何百時間もかけて、その作品と向き合うこと。
    そういう意味では、コレクターほど絵に向き合い続ける人間はいないと思うよ。
    キュレーター、研究者、評論家。誰もコレクターの足もとにも及ばないだろう。
    あぁ、でもーー待てよ。コレクター以上に、もっと名画に向き合い続ける人もいるな。
    誰かって?ーー美術館の監視員(セキュリティ・スタッフ)だよ。


    p12
    美術館の監視員の仕事は、あくまでも鑑賞者が静かな環境で正しく鑑賞するかどうかを見守ることにある。解決するわけでもなければ案内するわけでもない。
    ただ、質問に対して最低限答えれるように展示作品については学んでいる。

    監視員は鑑賞者のために存在するのではなく、作品と展示環境を守るために存在している。
    持ち場を一瞬でも離れたあいだに作品破壊(ヴァンダリズム)などが起ころうものなら大変である。
    監視員がそのすべての時間と心血を注いでみつめ続けなければならないのは、人ではない。作品とその周辺の環境だ。それに尽きる。


    p69
    ルソーに対する評価は死後70数年経った今でも、本質的には変わらない気がした。
    意地の悪い見方をすれば、やはり彼の作品は、「遠近法」も「明暗法」と習得し得なかった無知で下手くそな日曜画家のものでしかない。しかし一方で、ルソーの登場がピカソやシュルレアリスムに与えた影響を考えれば、これほどの孤高の異才は、美術史において、後にも先にもなかったのではないか?


    p83
    アンリ・ルソー、1910年ーー画家最晩年の傑作、「夢」。
    作品の舞台は、密林。夜が始まったばかりの空は、まだうす青を残し、静まり返っている。右手に、ぽっかりと明るい月が昇っている。鏡のような満月だ。
    月光に照らし出される密林は、うっそうと熱帯植物が密集している。名も知らぬ異国の花々が咲き乱れ、いまにも落ちそうなほど熟した果実が甘やかな香りを放つ。ひんやりと湿った空気のそこここに、動物たちが潜んでいる。その目は爛々と、小さな宝石のように輝いている。

    月の光に、果実の芳香に、ライオンの視線に、そして黒い肌の異人が奏でるどこか切ない笛の音に、いま、夢から覚めたのはーー長い栗色の髪、裸身の女。
    彼女が横たわる赤いビロードの長椅子は、夢と現(うつつ)のはざまにたゆたう方舟。夢から覚めてなお、女は夢をみているのだろうか。それともこれは現実なのか。


    p89
    「ヤドヴィカ」の指先。元々は何かを指差しているのではなく、何かを握っていたんじゃないか?
    それを何かの理由で、ルソーは書き直した…

    「夢」は謎の多い作品だった。
    なぜ密林なのか。なぜこの女は裸で長椅子に寝そべっているのか。その指先は何を指しているのか。そもそも、ルソーが自分で名付けた「ヤドヴィカ」とは誰なのか。


    p181
    独特の青やバラ色の色調で、アルルカンや乞食など、社会の底辺で生きる人々をモチーフに描いていたピカソ。
    技術の上でも野心の大きさでも、文句なく仲間たちに一歩先んじる存在でした。

    →アルレッキーノ
    イタリアの即興喜劇のキャラクターの1つで、ひし形の模様がついた衣装で全身を包み、ずる賢く、人気者として登場することが多い。
    仏語で「アルルカン」、英語で「ハーレクイン」


    p184
    いままでピカソを支え、その才能に魅了されてきた人々を、これほどまでに混乱させ、怒らせ、絶望させた「アヴィニョンの娘たち」。


    p354
    永遠を生きる。
    その言葉が現実になるのを、ヤドヴィカは、いまこそ、全身で感じていました。

    ジャングルの葉陰、むっとするほど立ちこめる濃い草いきれ。さびしい音を立てて熟れて落ちる果実。
    獣たちの遠吠え、草むらを滑る蛇。鳥の声に混じって聞こえくる、まやかしのごとき異国の笛の音。

    生まれたままの姿のヤドヴィカは、ゆっくりと、左手を持ち上げました。しっかりと握りしめた手のひら。すぐ近くで、いいえ、ずっと遠くで、ルソーの声がします。
    その手の中に、何を握っているんだい・・・ヤドヴィカ?
    ヤドヴィカは、うっとりと、横顔で答えます。
    天国の鍵よ。これを持っていれば、あたしたち、天国の門をくぐれるわ。・・・一緒に。
    その鍵をくれるかい。私はさきに行くよ。君を連れて行くわけにはいかないんだ。君は、永遠を生きるんだ。
    そのために、私はこの絵を書いた。そのために、私は、画家になったんだ。君に、永遠の命を与えるために。
    さよなら、ヤドヴィカ。私は行くよ。幸せに。永遠に幸せに。
    いつまでも、君を忘れない・・・


    1910年、夏の名残がまだ色濃く残る9月2日、パリの空の下。
    アンリ・ルソーは、ひっそりと、永遠の旅路につきました。

  • 人の感性は無自覚にも外界から何らかの影響を受け育まれていくもの。既にある作品と異なる系譜の作品を世に出すことがどれだけ難しいことなのか、芸術作品には疎いけれども、この本を読んで芸術家の苦悩に少し触れられたような気がした。美術の面白さも感じたのでもう少し原田マハさんの作品を読んでみたいとも思った。

  • 原田マハ、衝撃の受賞作!を今読んだ。
    ルソーの夢、という作品から、ここまで物語を展開させる創造力に脱帽!

    ジヴェルニーの食卓からスタートしたマハ作品。
    写真が発明されてから、実物そっくりに描く技巧は芸術とは見なされなくなりつつある時代、近代美術の「アートとは何か」という大きな問いかけに対して、印象派~ポスト印象派の画家達のもがきと葛藤と信念が伺えた。
    いや、上手にデッサンできるってだけでスゴいことなんだと思うけどね。人類も発展したもんだ。
    ルソーの絵も全然知らなかったけど、ピカソへ与えた影響や彼自身の絵の評価の低さ、絵の女性と自作の詩など、知らなかったことがいっぱいあって、ミステリのドキドキと、知らなかったことを知るワクワク感で胸が一杯になった。
    MOMAに行ってみたいなぁ~✨

    TimとTomのミスタイプから始まる、謎のバイヤーによるルソーの絵の鑑定依頼。
    日本の美術館の監視員でシングルマザーの早川織江へ打診されたルソー展の交渉役。
    そこから二人の15年前の戦いと、ルソーの当時の生活を書いた7章からなる本。
    ⇒印象派のパリでの生活(ボンボン売りとか、カフェとか)が、お菓子でみるフランス史の内容に繋がって、個人的に読んでてすごく楽しかった。

  • ルソーという奇才画家をめぐり、見果てぬ夢に人生を絡め取られた人々の物語。

    ある富豪の策略に導かれ、隠れたルソー作品の真贋を巡って対決することになる、アメリカ人男性キュレーターと日本人女性研究者。
    ルソー研究者である2人は、ルソーの隠れた作品と真実に迫る瞬間に深く陶酔しつつ、好敵手同士だけがわかる絆を深めながらも、それぞれの事情の為に不安に苛まれています。
    そんな彼らの対決を利用しようとする人々もたくさんいて…。

    そして、時間軸を異にした、奇才ルソーを見い出した不世出の天才画家と1組の夫婦の物語。

    各人の思惑と時間軸が交差した時に明かされる真実とルソーを敬愛してやまない2人のそれぞれの決断、そして、未来の物語の後味の良さはさすがマハさん、という感じです。それから、彼女の美術を扱う作品では、美術作品を資産(金)としてしかとらえてないような一種の憎まれ役が出てくる点もこの方らしい。

    恋愛と美術ミステリーがうまくミックスされていますね。そして、作品をめぐる最大の真実は闇の中へ…。

    ただ、マハさん自身の某過去作と構成がものすごく似ており、それを昔読んでしまっていた身としては、ラストが途中でなんとなくわかってしまったのはちょっと残念でした…。

  • 祝文庫化!

    新潮社のPR
    http://www.shinchosha.co.jp/book/125961/
    Naked Maha | 原田マハ 公式サイト
    http://haradamaha.com/

  • 初めての美術ミステリー。ルソーの世界にどんどん引き込まれていったが、ミステリーで無くても良かったかな。最後、ミステリー目線で見ると何か求めてしまう。芸術家達の話としてはとても楽しく読めました。

  • どこかのおすすめで読むことに決めたが、正直私は美術について全く知らないひよっこであるので、途中で何がなんやらわからないままピヨピヨ鳴くのが関の山だと思っていた。しかし読み終えてみればどうだ、まるで楽しい夢が起きてからも幸福感をもたらすように、鶏にでもなったかのように清々しい気持ちで読み終えた。

    確かに事前にちらっと聞いていたようにこの作品はルソー(恥ずかしながら名前しか存じ上げなかった)の『夢』という絵画を中心とした物語であるためにその周辺時代の美術作品やらが数多く登場する。私は作品が出てくるたびに文明の利器を用いて、できるだけ知らない世界に歩み寄る努力をした。物語の没有感が高まったのはそれも要因の一つであろう。満足な読書体験には与えられるだけでなく時として自ら掴みに行くことも大切なのである。

    物語とともにたくさんの文化を感じた気がしたこの読後感は、あるいは歴史小説と似ているのかもしれない。文字情報でしか知らなかった人間に感情や色彩、時間までもが与えられていく感覚が、この作品という枠を超えて悠久の文明を感じさせる。本当に無知だった故に、突然土煙をあげて駆け寄ってきたルソーやピカソに対しておいそれと拒絶できるわけもなく、熱い抱擁を交わした。詰まるところ美術に大いなる関心を抱くことになったのである。

    ミステリとしてはいささかインパクトを少し外したような感覚だった。ならばいっそのこと絵画の入門書にすれば良かったかというともちろんそんなわけはない。ルソーの謎がどんどん解き明かされていく快感はミステリそのものだと感じたし、魅力的な登場人物に対し主人公とともに時に同情し、時に憤慨した。しかし作中作という点でそれぞれの謎の重大さがいささか分散してしまったような難しさがあると感じた。

    本作品を読んで1番の収穫は、既存の大作をベースにした作品はうまく機能すれば相乗効果を持って文量以上の世界の広さを描き出すことができるということだ。そのためにはもちろんベースとなる教養が必要となる。過去を学ぶことで巨人の肩の上から世界を見るという感覚を味わうことができた。自分の人生をもっと楽しむため、また、より広い世界を感じるために幅広く物を知りたいと思った。

  • 本当に素晴らしい小説です。登場人物たちが芸術を心から愛し、ルソーという画家を真に賛美している。絵画に人生を変えられた人たちが、ルソーが残した伝説の絵に翻弄されるも、最後には純粋なる善意と慈愛の気持ちに包まれながら幕が降ろされます。

    私は絵画のことはまったくわからないし、ましてや素朴派やプリミティヴィズムなんてただの下手な絵だと思っていました。それこそ小説の中のヤドヴィガと同じように。
    しかし、作者の巧緻な筆致によって、絵画を分からない人にも、当時のモダンアートの萌芽を担った画家たちの熱い思いを感じ取ることができます。
    そして、ここにアクセントを加えるのがミステリー要素です。
    名前を偽って講評に臨むティムと、謎のキュレーター織絵、そしてその背後で暗躍し絵を狙う人々。毎日一章ずつ古書が読まれ、一枚一枚ベールが剥がれるように謎が明らかになっていく。そしてそれと対を成すように、ティムと織絵は一歩一歩信頼し合い、自分の人生を賭けて謎に挑んでいく……。
    途中から、私は完全にティムに憑依していました。一章を読むたびにパリに迷い込み、自分の中に芸術への感動が芽生え、織絵の魅力に惹かれ、「夢をみた」を取り巻く謎に翻弄されていきました。
    これがこの小説の真骨頂です。読む人を1908年のパリに誘ったかと思えば、1983年のバーゼルに引き戻し、そしてルソーの絵画の中――密林という美の迷宮に迷い込ませてくれます。

    過去でも現代でも、絵画に惹かれ合った人たちというのは、お互いを尊敬し理解し合うということがありありと感じられました。

    芸術の知識がない人こそ、ぜひ読んで欲しい一冊。本当に面白かったです。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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