楽園のカンヴァス (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101259611

感想・レビュー・書評

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  • 美術や芸術にとっても疎く、ましてや絵心の欠片も無い私でも楽しめた作品でした。

    中盤までは知識が無いとつくづく思いながら、何とか読み進めましたが、それ以降はアッという間に読み進むことができます。

    それだけ、こんな私でも興味をそそられる文章を描く原田マハさんに脱帽です。

    少しはルソーやピカソを勉強して、美術館にでも足を運ぼうと思わされる作品でした。そうしてから再読してみたいです。

  • ハラハラドキドキ読み進められた。
    知らない世界を知ったような新鮮な気持ちに。
    ただ最後の方は個人的には微妙。

  • 【感想】
    「暗幕のゲルニカ」に続き、原田マハの美術史モノの小説を読むのは2冊目。
    前に読んでいるときもそう思ったが、美術に関するある程度の知識・教養なしでこのジャンルの本を手に取ると、中々痛い目を見る。笑
    現段階では美術に対して一切の興味もないが、全く興味のないジャンルのテーマですら面白いと思えるのは、やはり原田マハの構成力の凄さなんでしょう。
    表紙にもなっているルソーの「夢」。
    美術に疎い自分としては、どこがポイントなのか一切分からないただの絵なんだが、原田マハの文章力によってこの絵の何がスゴイのかが分かった。

    本小説は、ルソーの最晩年の作品「夢」に類似した作品ついて、ある資料を元に2人のキュレーターが真贋判定を行なうという内容。
    こういった類似作品があることも含めて、勿論フィクションなんだろうが、ルソーという作家の人物史について、また「夢」に描かれているモデルのヤドヴィカについて、まるでフィクションでないように信じ込まされるような筆力。
    読んでいて非常に面白かったです。どこまでフィクションでないのだろうか・・・全然わからない(笑)

    しかし、何の知識もないまま読み進めるのは大変ということと、また誤った知識を真実だと思い込んでしまう可能性が高いので、一旦このジャンルの作品は卒業しようと思います。


    【あらすじ】
    とうとう、みつけたわね。
    ルソーの名画に酷似した一枚の絵。
    そこに秘められた真実の究明に、二人の男女が挑む。

    ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。
    そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。
    持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。
    リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。
    ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作。


    【引用】
    1.美術館の監視員の仕事は、あくまでも鑑賞者が静かな環境で正しく鑑賞するかどうかを見守ることにある。
    解決するわけでもなければ案内するわけでもない。
    ただ、質問に対して最低限答えれるように展示作品については学んでいる。
    監視員は鑑賞者のために存在するのではなく、作品と展示環境を守るために存在している。

    2.ルソーに対する評価は死後70数年経った今でも、本質的には変わらない気がした。
    意地の悪い見方をすれば、やはり彼の作品は、「遠近法」も「明暗法」と習得し得なかった無知で下手くそな日曜画家のものでしかない。
    しかし一方で、ルソーの登場がピカソやシュルレアリスムに与えた影響を考えれば、これほどの孤高の異才は、美術史において、後にも先にもなかったのではないか?

    3.アンリ・ルソー、1910年、画家最晩年の傑作、「夢」。
    作品の舞台は、密林。夜が始まったばかりの空は、まだうす青を残し、静まり返っている。右手に、ぽっかりと明るい月が昇っている。鏡のような満月だ。
    月光に照らし出される密林は、うっそうと熱帯植物が密集している。名も知らぬ異国の花々が咲き乱れ、いまにも落ちそうなほど熟した果実が甘やかな香りを放つ。
    ひんやりと湿った空気のそこここに、動物たちが潜んでいる。その目は爛々と、小さな宝石のように輝いている。

    月の光に、果実の芳香に、ライオンの視線に、そして黒い肌の異人が奏でるどこか切ない笛の音に、いま、夢から覚めたのは・・・長い栗色の髪、裸身の女。
    彼女が横たわる赤いビロードの長椅子は、夢と現(うつつ)のはざまにたゆたう方舟。夢から覚めてなお、女は夢をみているのだろうか。それともこれは現実なのか。

    4.「夢」は謎の多い作品だった。
    なぜ密林なのか。なぜこの女は裸で長椅子に寝そべっているのか。その指先は何を指しているのか。そもそも、ルソーが自分で名付けた「ヤドヴィカ」とは誰なのか。


    【メモ】
    p10
    画家を知るには、その作品を見ること。何十時間も何百時間もかけて、その作品と向き合うこと。
    そういう意味では、コレクターほど絵に向き合い続ける人間はいないと思うよ。
    キュレーター、研究者、評論家。誰もコレクターの足もとにも及ばないだろう。
    あぁ、でもーー待てよ。コレクター以上に、もっと名画に向き合い続ける人もいるな。
    誰かって?ーー美術館の監視員(セキュリティ・スタッフ)だよ。


    p12
    美術館の監視員の仕事は、あくまでも鑑賞者が静かな環境で正しく鑑賞するかどうかを見守ることにある。解決するわけでもなければ案内するわけでもない。
    ただ、質問に対して最低限答えれるように展示作品については学んでいる。

    監視員は鑑賞者のために存在するのではなく、作品と展示環境を守るために存在している。
    持ち場を一瞬でも離れたあいだに作品破壊(ヴァンダリズム)などが起ころうものなら大変である。
    監視員がそのすべての時間と心血を注いでみつめ続けなければならないのは、人ではない。作品とその周辺の環境だ。それに尽きる。


    p69
    ルソーに対する評価は死後70数年経った今でも、本質的には変わらない気がした。
    意地の悪い見方をすれば、やはり彼の作品は、「遠近法」も「明暗法」と習得し得なかった無知で下手くそな日曜画家のものでしかない。しかし一方で、ルソーの登場がピカソやシュルレアリスムに与えた影響を考えれば、これほどの孤高の異才は、美術史において、後にも先にもなかったのではないか?


    p83
    アンリ・ルソー、1910年ーー画家最晩年の傑作、「夢」。
    作品の舞台は、密林。夜が始まったばかりの空は、まだうす青を残し、静まり返っている。右手に、ぽっかりと明るい月が昇っている。鏡のような満月だ。
    月光に照らし出される密林は、うっそうと熱帯植物が密集している。名も知らぬ異国の花々が咲き乱れ、いまにも落ちそうなほど熟した果実が甘やかな香りを放つ。ひんやりと湿った空気のそこここに、動物たちが潜んでいる。その目は爛々と、小さな宝石のように輝いている。

    月の光に、果実の芳香に、ライオンの視線に、そして黒い肌の異人が奏でるどこか切ない笛の音に、いま、夢から覚めたのはーー長い栗色の髪、裸身の女。
    彼女が横たわる赤いビロードの長椅子は、夢と現(うつつ)のはざまにたゆたう方舟。夢から覚めてなお、女は夢をみているのだろうか。それともこれは現実なのか。


    p89
    「ヤドヴィカ」の指先。元々は何かを指差しているのではなく、何かを握っていたんじゃないか?
    それを何かの理由で、ルソーは書き直した…

    「夢」は謎の多い作品だった。
    なぜ密林なのか。なぜこの女は裸で長椅子に寝そべっているのか。その指先は何を指しているのか。そもそも、ルソーが自分で名付けた「ヤドヴィカ」とは誰なのか。


    p181
    独特の青やバラ色の色調で、アルルカンや乞食など、社会の底辺で生きる人々をモチーフに描いていたピカソ。
    技術の上でも野心の大きさでも、文句なく仲間たちに一歩先んじる存在でした。

    →アルレッキーノ
    イタリアの即興喜劇のキャラクターの1つで、ひし形の模様がついた衣装で全身を包み、ずる賢く、人気者として登場することが多い。
    仏語で「アルルカン」、英語で「ハーレクイン」


    p184
    いままでピカソを支え、その才能に魅了されてきた人々を、これほどまでに混乱させ、怒らせ、絶望させた「アヴィニョンの娘たち」。


    p354
    永遠を生きる。
    その言葉が現実になるのを、ヤドヴィカは、いまこそ、全身で感じていました。

    ジャングルの葉陰、むっとするほど立ちこめる濃い草いきれ。さびしい音を立てて熟れて落ちる果実。
    獣たちの遠吠え、草むらを滑る蛇。鳥の声に混じって聞こえくる、まやかしのごとき異国の笛の音。

    生まれたままの姿のヤドヴィカは、ゆっくりと、左手を持ち上げました。しっかりと握りしめた手のひら。すぐ近くで、いいえ、ずっと遠くで、ルソーの声がします。
    その手の中に、何を握っているんだい・・・ヤドヴィカ?
    ヤドヴィカは、うっとりと、横顔で答えます。
    天国の鍵よ。これを持っていれば、あたしたち、天国の門をくぐれるわ。・・・一緒に。
    その鍵をくれるかい。私はさきに行くよ。君を連れて行くわけにはいかないんだ。君は、永遠を生きるんだ。
    そのために、私はこの絵を書いた。そのために、私は、画家になったんだ。君に、永遠の命を与えるために。
    さよなら、ヤドヴィカ。私は行くよ。幸せに。永遠に幸せに。
    いつまでも、君を忘れない・・・


    1910年、夏の名残がまだ色濃く残る9月2日、パリの空の下。
    アンリ・ルソーは、ひっそりと、永遠の旅路につきました。

  • ルソーという奇才画家をめぐり、見果てぬ夢に人生を絡め取られた人々の物語。

    ある富豪の策略に導かれ、隠れたルソー作品の真贋を巡って対決することになる、アメリカ人男性キュレーターと日本人女性研究者。
    ルソー研究者である2人は、ルソーの隠れた作品と真実に迫る瞬間に深く陶酔しつつ、好敵手同士だけがわかる絆を深めながらも、それぞれの事情の為に不安に苛まれています。
    そんな彼らの対決を利用しようとする人々もたくさんいて…。

    そして、時間軸を異にした、奇才ルソーを見い出した不世出の天才画家と1組の夫婦の物語。

    各人の思惑と時間軸が交差した時に明かされる真実とルソーを敬愛してやまない2人のそれぞれの決断、そして、未来の物語の後味の良さはさすがマハさん、という感じです。それから、彼女の美術を扱う作品では、美術作品を資産(金)としてしかとらえてないような一種の憎まれ役が出てくる点もこの方らしい。

    恋愛と美術ミステリーがうまくミックスされていますね。そして、作品をめぐる最大の真実は闇の中へ…。

    ただ、マハさん自身の某過去作と構成がものすごく似ており、それを昔読んでしまっていた身としては、ラストが途中でなんとなくわかってしまったのはちょっと残念でした…。

  • ルソー「夢」を題材にピカソも交わりつつ、キュレーター同士のやりとりがあったりと、時間軸が交差しながら話しが進んでいきます。美術に興味のない私でも楽しく読むことができました。後半のたたみかけは凄かったです。ただ美術を知らなすぎて、どこまでが本当に実在してどこからがフィクションなのか分からなくて少しモヤモヤしました。

  • 面白かった!
    山本周五郎賞受賞作

    絵画については、さっぱりわかりません(笑)。ピカソはまだしも、ルソーって誰?(笑)
    ときどき、ググって、絵を確認したりしましたが、その辺理解できなくても、ストーリとして楽しめました。

    ストーリとしては、ニューヨーク近代美術館のキュレータ、ティムブラウンは、ある日、伝説の絵画コレクター、コンラート・バイラーからの招待状を受け取ります。
    実際に訪ねていくと、そこで見たのはルソーの名作「夢」に酷似した「夢を見た」という作品。バイラーはその真贋を判定させます。
    しかし、その場にはもう一人、日本人の研究者の織絵。
    二人に、真贋判定させて、正しく判定した方に、その絵を譲る事を告げます。
    その真贋判定方法は、絵を調べるのではなく、謎の古書を一日一章ずつ読むこと。7日間で全章を読むことで、絵の真贋を判定することになります。
    その古書に書かれていた内容は?
    その古書を読み進むにつれて、ルソーの絵のモデルとなった女性ヤドヴィガへの想い、それを知りながらもルソーを応援するヤドヴィガの夫、ルソーの当時の苦しい生活、ルソーとピカソがカンヴァスにこめた想いが徐々に明らかになっていきます。

    さらにティムと織絵の周りには、真贋判定にかかわる様々な不審な人物達の思惑。そんな中で下される「夢を見た」の真贋判定。「夢を見た」は本物なのか?そして、どちらにその絵が譲られることになるのか?

    といった展開です。

    最後、明らかになった真実にびっくり!
    そうきたかってな感じでした。

    もうちょっと絵画を知っていたらさらに楽しめたのかも..

    お勧め!

  • 原田マハさんの本は初めてですがとても読みやすく楽しかった‼︎美術に対する興味、知識が全くないから最初読み始めた時は理解できるかな?と心配になったがむしろ興味が湧いた。ルソーの絵を素敵と思ったことがなかったのに。。この本を読んでからはなぜか少し愛おしい。揶揄されようが好きな人に冷たくされようが真っ直ぐ自分の好きな絵を描き続けた彼は素敵だなと思う。

  • 原田マハさんの初読み。
    美術ミステリー。
    中盤までは期待して読んだおぼえがある。
    後半は……う~ん。
    残念な記憶があります。

  • 「暗幕のゲルニカ」が面白かったので、いつかこれも読もうと思ってました。
    で、やはり面白かった!
    美術ミステリーとの事ですが、ノンフィクションと勘違いする美術史の面白さを感じました。
    ルソーとピカソの関係や、謎のピカソとルソーの作品について描かれていて、読みながら本当の話として楽しく物語にはめられてました(^_^;
    それくらい良く出来たミステリーでした。

  • 寝る前に毎日読んでいました。
    休日は美術館にいくことも多いので、
    楽園のカンヴァスは、とても惹かれる作品でした。

著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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