- Amazon.co.jp ・本 (161ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101260419
作品紹介・あらすじ
ある日、高校生の姉が家を出た。僕は出来の悪い弟でいつも姉に魅かれていた。バラバラになった家族を捨てて僕も、水際を歩きながら考える。姉と君子さんの危うい友情と、彼女が選んだ人生について……。危うさと痛みに満ちた青春を17歳ならではの感性でまぶしく描く坊っちゃん文学賞受賞作(「魚のように」)。ほか、家庭に居場所のないふたりの少女の孤独に迫る短編「花盗人」を収録。
感想・レビュー・書評
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(2024/01/20 1h)
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現在40代の著者が高校3年生のときに書いたという、80頁足らずの短編2つ。
表題作は、姉が家出をしてバラバラになった家族の弟の語り。どうしてよいのかわからない「僕」も家を出て、歩きながら考える姉のこと。もう1編の『花盗人』は、嫌われ者の祖母を亡くした孫娘の語り。副題に「隔世遺伝」と付けたくなります。
どちらの話も読みはじめてしばらくは「僕」や「私」の年齢がわからずとまどう。なるほど高校生のときに書いた話なのだからと納得。この突き放した感覚。みずみずしいというべきか冷ややかというべきか。心にぽっかり穴があく。 -
著者が高校生の頃に書いた小説とのことで、このくらいの年代が頭の中で漠然とモヤモヤ考えていることを言語化する描写が多くあるように思われた。一方で、2作品目の「花盗人」の終わりのように、理解の範疇を超えるような描写も書かれていて、良くも悪くも悶々としたまま本を閉じる形になった。
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コンタクトレンズを入れてみて驚いた。
何もかもが見え過ぎるのだ。世界がこんなにも緻密ではっきりしているなどと、色がこんなにも沢山あふれ、全てのものがくっきりと存在しているなどと、想像したことさえなかった。
片手をちょとあげてみせる友人の指先の詰めや、木の葉の一枚一枚を支える細い枝や、そんなものたちが突然僕の世界に乱入してきた。新しく入ってきたものの中には当然美しいものもあったが、大抵は奇妙に生々しいものばかりだった。
あまりに鋭過ぎる視覚は無理矢理僕に現実を教えた。とりどりの色のしべに堆積する花粉、つつましくひらかれた白い花弁に密生する細かな毛、蟻のめまぐるしくうごめく手足、風にわさわさとゆれる山……
足許から突き崩すような教学ではないにしても、今までの美意識をじわじわと侵していく小さな失望の数々は、不気味な感じさえ持っていた。(p.17)
夏は四季の中でも別格だと思う。
僕は決して夏が好きではなかったけれど、夏への憧れは強烈なものを持っていた。蒸し暑く、虫の多い現実の夏はいつも僕を幻滅させたが、夏が終わってしまうと夏の日差しや夏の音、水のにおいを待ちのぞんでいた。
僕の四季はいつもそうやって巡っていた。夏が来るまで夏に憧れて、実際の夏を辟易しながら越す。そしてまた夏を待つ。(p.26)
姉は僕に全てをさらけ出してくれた。僕は姉の忠実な鏡だった。姉は自分の姿を僕に投写することで見つめていた。裸の自分を大きな鏡に映して、臆することなく向かいあうのは、なかなか出来ることじゃない。けれど姉は、いつでも僕の中に自分を見すえていたのだ。
僕達の関係は終わってしまった。姉が自分に気付き、僕が姉を知ってしまえば鏡は砕けるしかない。終わりの前兆を僕は知らない。当然父も母も君子さんも知らなかった。知っていたのは姉ばかりだ。姉はひとりで秒読みしていたのだ。(pp.84-85) -
内容がすごく面白かったとは言えないけれど、著者のデビュー作で、17歳の高校生が書いたものと意識するとすごい。
とても老成していて、純文学への憧れや当時の著者の中の純文学像みたいなものが透けて見えてきました。
最近の作品も読んでみたくなりました。 -
十七歳のときに書かれたという短編ふたつ。中脇さんの原点になるのでしょうか。荒々しさはなく、むしろひどくしずかに、陰のなかでもぞもぞ動いているような作品でした。
物足りなさを感じる人もいるかもしれないけど、前述した原点をみたいという感覚で読むと、たいへん興味深いし、年齢のことを言うのはナンセンスだけど、だけど到底十七歳が書いたとは思えない。毎日どんな景色をどんなふうに見ていたんだろう。 -
中脇さんこういうのも書くのか…
と思ったら10代の時の作品!とは衝撃。
あんまり好きな内容ではないけど
それを踏まえるとすごい。
こんな深いことを10代で考える?
見えてるものが違うんだなあ -
僕と同い年だったんですね。17才で書いた本書でデビューです。
「きみはいい子」「わたしをみつけて」はどちらも劇的な作品ではないけれど心に染みこむ名作でした。本作はそこに至る1作目と見れば興味深いという事しか感じられませんでした。これは純文学に疎い自分の感性の無さなのかもしれません。
出奔してしまった姉と自分の関係を、一つ一つの場面の齟齬で小さく小さくすれ違わせていっているのですが、どこら辺が駄目だったのか正直よく分からないまま淡々と進んで終わってしまいます。一人称で書いて行き他社の目線や行動は風景の一つではないという書き方はきっと非常に文学的なんだと思います。それにしては示唆的なものや象徴的なものが出て来ないんだなあと、ぼんやり読み終わってしまったような印象です。
この後僕の心を揺さぶる本を出す訳ですから、縁って不思議、この本で出会ったらその後読むことも無かったかもしれません。 -
著者が高校生のころに書いたというお話。
家出した姉のことを一人語りする弟君のお話。
家庭環境が、ほんの少しだけ複雑な(とは言えどこにでもあるようなものだけど)子女子高生二人のお話。
若い!というのが第一の感想で。
嫌いじゃないけど、もう心には響かないなぁという、自分が年とったことを実感した小説だった。 -
10代らしさがあると思った。
純文学を好む文学少女が書いた感じ。
鬱々としていてちょっと耽美的というか…
嫌いじゃないです。でも今の作品の方が好き。
「みなそこ」同様、ここでも「みてる」という方言が登場。
「みなそこ」で知った方言だけど良い言葉だなぁと思います。