英傑: 西郷隆盛アンソロジー (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101263625

作品紹介・あらすじ

時代を越え愛される維新最大の功労者、西郷隆盛─。西郷と入水した月照の死の真相(「悲恋 犬神娘」)。熊本城で官軍を勝利に導いた司令官夫人の活躍(「谷干城夫人」)。西南戦争の天王山・田原坂(「田原坂合戦」)。西郷の副将・桐野の熱き忠誠(「賊将」)。薩摩軍が発行した軍票秘話(「西郷札」)。西郷は生きていた?! 芥川の意外な逸品(「西郷隆盛」)。謎多き偉人、その知られざる生涯を旅する傑作集。

感想・レビュー・書評

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  • 明治維新から150周年の節目、大河ドラマ「西郷どん」を意識しての、西郷隆盛を取り上げた傑作6選で編んだアンソロジー。

    国枝史郎  「悲恋 犬神娘」
    吉川英治  「谷千城夫人」
    菊池 寛  「田原坂合戦」
    池波正太郎 「賊将」
    松本清張  「西郷札」
    芥川龍之介 「西郷隆盛」

    国枝史郎は、1948年に没した伝奇小説作家とのこと。少々世代の異なる作家で、読みにくさを感じた。尊王攘夷派の僧・月照の薩摩への逃避行が描かれている。・・・が正直、伝奇小説というのがよくわからず。

    吉川英治の作品は、さすがによかった。西南戦争時に熊本籠城した谷千城の夫人の奮闘に焦点を当てた作品。圧倒的な軍力のハンディの中、籠城を何十日も続けられたその裏側に、このような夫人の戦いがあったとは。

    菊池寛の作品は、西南戦争の凄惨さをリアルに描いた作品だろうか。戦闘シーンが具体的に書かれていたように思うが、自分にとってはそれほど面白さは感じなかった。

    池波正太郎の作品はわかりやすい。征韓論で敗れ、西南戦争でその生涯を燃やし尽くす西郷と、西郷を慕い西郷のために捧げぬく中村半次郎(桐野利秋)の視点で描かれた作品。やはり「賊将」というタイトルになるわけですね。

    松本清張の作品は題名どおり、「西郷札」について書かれた作品。

    そして、芥川龍之介の作品もまた、ダイレクトに西郷を書いたものではなく、変化球的な作品だった。

    結局、作品として個人的に楽しめたのは、吉川、池波、松本の各作品かな。あとは自分には理解不足です(笑)。

    ただ、多くの作家が西郷を書きたかったのだなということはよくわかりました。

  • 「西郷隆盛」に関する時代小説のアンソロジー作品『英傑:西郷隆盛アンソロジー』を読みました。

    時代小説は、今年の4月に読んだ「宮部みゆき」の『桜ほうさら』以来ですね。

    -----story-------------
    青年期から西南戦争、没後の伝説まで、幾多の謎に包まれた偉人の生涯を旅する傑作6編。

    時代を越え愛される維新最大の功労者「西郷隆盛」─。
    「西郷」と入水した「月照」の死の真相(『悲恋 犬神娘』)。
    熊本城で官軍を勝利に導いた司令官夫人の活躍(『谷干城夫人』)。
    西南戦争の天王山・田原坂(『田原坂合戦』)。
    西郷の副将「桐野」の熱き忠誠(『賊将』)。
    薩摩軍が発行した軍票秘話(『西郷札』)。
    「西郷」は生きていた?!「 芥川」の意外な逸品(『西郷隆盛』)。
    謎多き偉人、その知られざる生涯を旅する傑作集。
    -----------------------

    「西郷隆盛」に関する、以下の6篇が収録されています… 「松本清張」の『西郷札』だけが既読作品、他の作品は初めて読みました。

     ■国枝史郎/悲恋 犬神娘
     ■吉川英治/谷干城(たにたてき)夫人
     ■菊池寛/田原坂合戦
     ■池波正太郎/賊将
     ■松本清張/西郷札
     ■芥川龍之介/西郷隆盛
     ■解説 末國善己

    やはり、イチバン面白かったのは「松本清張」の『西郷札』ですね… 「松本清張」のデビュー作らしいですが、既に完成度の高い傑作サスペンスに仕上がっていると思います、、、

    かつて薩軍が発行し、薩軍が負けたら価値のなくなった西郷札… 西南戦争後、西郷札を押し付けられた人たちは補填をもとめたが政府は取り合わなかった という史実をもとに、政府が西郷札の被害者のために買取を決めたというインサイダー情報を掴んだ男が、九州で西郷札の買い占めに走るというフィクションを重ね合わせ、意外なラストや人の心に潜む情念を巧く描いた名作です。

    一攫千金の夢を賭けた青年が、義妹への淡い恋心を抱いていることに気付いた義妹の夫の罠を仕掛けられ、陥れられる展開は、なんとも切ないですね。


    次に印象的だったのは「池波正太郎」の『賊将』ですね… 薩摩出身で、幕末は人斬りと恐れられ、維新後は陸軍少尉となった武闘派の「桐野利秋(中村半次郎)」を描いた物語、、、

    下野して鹿児島に帰ったものの、武装蜂起には慎重だった「西郷隆盛」を西南戦争へ引き込んだ悪役として描かれることが多い人物のようですが、本作品での「桐野利秋」は、自分の無学を笑いに変えるさっぱりした性格と、出世したら贅沢な衣装を着て、フランスの香水をふりかけるようなダンディズムを持ち、女性にモテる男として再評価された感じ。

    「西郷隆盛」に絶対の忠誠を誓い、劣勢になっても陽気に振る舞い、最期は武士らしく散っていくという魅了される人物として描かれています… 「桐野利秋」のこと、もっと知りたくなりましたね。


    あとは「吉川英治」の『谷干城夫人』かな… 西南戦争で薩軍は熊本城を重点拠点として攻略を目指しますが、その際の熊本鎮台の司令長官「谷干城」の妻「玖満子」の活躍を描いた物語、、、

    「谷干城」は熊本城への籠城を決め、4,000名の兵で薩軍の14,000名を迎え撃った… 「谷」は、52日間を耐え抜き、ついに薩軍を城内へ侵入させなかった。

    この籠城戦では、「谷」の妻「玖満子」ら将兵の妻子も熊本城に留まり、負傷兵の看護や食料の調達などを行っており、この知られざる逸話を題材にしています… いとも簡単に人が死んでいく戦争と、妊娠中だった「与倉中佐」の妻が籠城中という極限状態の中で新しい命を生むエピソードを対比させることで、命の尊さや家族が一体となって国を護り抜くことの大切さが描かれています、、、

    第二次世界大戦中に出版された作品なので、そのあたりの時代背景も影響した作品なんでしょうね。


    久しぶりの時代小説… 短篇集だったので、軽く読めて愉しめました。

  • 国枝史郎『悲恋 犬神娘』
    吉川英治『谷干城夫人』
    菊池寛『田原坂合戦』
    池波正太郎『賊将』
    松本清張『西郷札』
    芥川龍之介『西郷隆盛』。
    国枝と菊池が割と読みにくかった。菊池は割と淡々と出来事を書き連ねているからいつもより読みにくいのか。松本清張はこれがデビュー作だったとは…ラストは評価が割れそうだな、と思った。

  • 西郷隆盛アンソロジーとあるが、西郷自身が登場するのは6作にうち「賊将」のみ。「谷干城夫人」良妻のあり方は戦時中の古いもので、現在では考えられない。「西郷隆盛」史伝は政治的脚色が加わり、時代が進めば書き変わるもの。教科書にても然り。2021.1.17

  • 大河ドラマが西郷隆盛だけれど、そういえば、あまり知らないなあ、でも、長編を読む気にもなれない…ということで、手にしてみた本。芥川龍之介が入っているところが興味深かったが、正直、全体的に「西郷」を描いたわけではなく、その周辺の話や官軍側の話だったりで、西郷のことを知るには不向きであった(当たり前か)。
    その中でも、やはり、池波正太郎は読ませた。部下の桐野利秋を主軸にしながら、大久保との確執を生んだ征韓論を取り上げ、西郷の分析にもなっている。
    芥川も少し変化球であったが、西郷が生きている、という問いは、歴史の捉え方についてのテーゼでもあり、あの芥川が、と思うと、面白い。

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著者プロフィール

大正十二(一九二三)年一月二十五日、東京市浅草区聖天町生まれ。昭和十(一九三五)年、下谷区西町小学校卒業、株式仲買店勤務。昭和十四年より三年ほど証券取引所にあった剣道場へ通い、初段を得る。旋盤機械工を経て昭和十九年、横須賀海兵団入団。敗戦の翌年、東京都職員として下谷区役所の衛生課に勤務。昭和二十三年、長谷川伸門下に入る。昭和二十五年、片岡豊子と結婚。昭和二十六年、戯曲「鈍牛」を発表し上演。新国劇の脚本と演出を担当する一方、小説も執筆。昭和三十年、転勤先の目黒税務事務所で都庁職員を辞し、作家業に専念。昭和三十五年、『錯乱』で直木三十五賞受賞。『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』の三大シリーズや『真田太平記』等、数々の小説で人気を博す一方、食や映画、旅に関する著作物も多く上梓した。受賞歴はほか吉川英治文学賞、大谷竹次郎賞、菊池寛賞等。平成二(一九九〇)年五月三日、入院していた東京都千代田区神田和泉町の三井記念病院で死去。小社では同じく単行本未収録のエッセイ集『一升桝の度量』(二〇一一)と初期戯曲集『銀座並木通り』(二〇一三)を刊行している。

「2022年 『人生の滋味 池波正太郎かく語りき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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