撓田村事件: iの遠近法的倒錯 (新潮文庫 お 66-1)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (729ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101264516

感想・レビュー・書評

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  • 1997年、岡山県の小さな集落・撓田。 土地の旧権力者・朝霧家と遠縁の桑島家との古い派閥の残る村で中学生の阿久津智明はドライな学生生活を送っていた。 世の中を俯瞰したような思春期らしい壁に直面し悶悶とする一方で、村内で過去の伝説に見立てたような下半身切断死体が見つかる・・・。 横溝正史をリスペクトしつつ、そこに中学生の青春を織り込んだ挑戦作。

     非常にテンポは悪い。 青春小説らしく人物の描写に筆を傾けすぎた結果、事件の発生から解決までの道のりはスローペース。 しかし待つに値するぐらいのとんでもない真相はあるので一読の価値は多大にある。 タイトルと表紙のおどろおどろしさに対して結構青春してる。

  • 最高だった。最高過ぎて感想に何を書いたらいいか分からない。どこもかしこも自分のツボにハマりすぎて書くべきポイントがまとまらない。
    とりあえず、こんなに面白い話なのにどうして絶版なんですか!! もったいなさすぎ!

  • 岡山県の山村の集落で起こる連続猟奇殺人事件。過去の惨劇の再来か、それとも土地の権力者への復讐か。横溝正史へのオマージュが込められたミステリー大作。
    前半の中学生の一人相撲的妄想場面が長いせいか、もうひとつ物語に入り込めなかった。横溝正史といえば因習や土俗の印象が強いので、もっとおどろしさが欲しかった。

  • オススメ本。岡山県の山間部にある撓田村。この村に転校してきた中学生の惨殺死体が発見されたのを皮切りに、猟奇的な連続殺人が起こる。死体は皆、千切り取られた様な切り口を残して下半身が無くなっていた...。前半のホッコリした中学生ライフはかなり流して読んでました(;´Д`)個性的な登場人物ばかりで目まぐるしい。多感なお年頃は恋に友情に性に、興味は尽きないものだなー。かの名探偵に似た探偵役、確かに横溝作品を思わせる!二転三転する結末にも驚きつつ真相に少し悲しくなり、なかなか面白い作品でした。

  • 閉鎖された村での猟奇的な連続殺人、犬使いの伝説、血縁関係のどろどろなど横溝ワールドを感じさせるガジェットがてんこ盛りですが、ベースは主人公の中二病っぷりや同級生の少女と年上の女性を好きになる模様を描いた青春ミステリーで、世界観は『ひぐらしのなく頃に』に似ていて独特です。
    内容は「なぜ死体を切断したのか」という理由や、探偵がダミーの推理を披露した後で真犯人が明らかにするどんでん返しなど良く出来ていると思いますが、子供たちの描写と事件に関する背景の描写が丁寧なせいで間延びしてしまっているのが残念なところです。

  • 久々の本格推理、という言葉も余り使われないみたいだけれど、最近は(新本格の頃は結構あったけど)、地方の山村で連続殺人が起きて、名探偵が登場して、という設定には殆ど出くわさなくなったけれど、本作はまさにストレート。横溝作品を意識して書いているのは間違いないけれど、それにしても読ませる。特に主人公の人物造型はとても独創的に面白い。まあ、トリックなんかは本格物らしい感じだけれど、戦中から戦後にかけての「血族」がテーマになっているのがおどろおどろしくて好きな人にはたまらないのではないだろうか。

  • 田舎村で起きる連続殺人事件。
    田舎の閉鎖的な感じと小川勝己のドロドロ感がうまく合わさって,最後まで気の抜けない展開。

  • 読み終わった後、他のレビュー見てみたんですが
    あんまり評価高くないんですねえ。

    個人的には、諸手を挙げての5点満点なんですが。

    未だ旧家が村への絶大な権力を持つ
    山に囲まれた田舎村を舞台に
    陰惨な殺人事件が相次いで起こる
    という横溝風の舞台設定が好きな人は
    面白く読めると思いますが
    そういう人は地方中学生の青臭い恋愛模様が鼻についてしまうのかもしれません。

    また、探偵役がちょっとらしくない性格の人だったので、
    それが評価を下げる要因なのかもしれません。
    私もあまり好きにはなれませんでした。

  • 岡山の小さな村を舞台にした、見立て連続殺人。
    横溝正史へのオマージュ、ということだが、ドロドロ感も暗ーい感じもないのでやや浅い印象。謎解き後の「きっちりはまるところにはまった」感がイマイチ足りない。

  • 第20回横溝正史賞作家、小川勝己の五作目にあたる、新潮ミステリー倶楽部の書き下ろし長編。一部では有名だが小川氏の作品の題名は全てMORRIEというアーティストの曲の題名から取られているのだという。本書の場合も「i」は「愛」に置き換える必要があれど同様。しかし、小川勝己という作家の作品は、どんなものが飛び出してくるのか読んでみなければ分からない……。

    岡山県の郡部にある香住村字撓田。かつて撓田村と呼ばれていた僻地に住む中学生三年生、阿久津智明。同級生で、撓田村の支配者的存在の朝霧家の長男ながら右翼団体に傾倒する朝霧将晴や、幼なじみの篠宮光子らと山を越えて中学に通っていた。担任は体育教師の山田勲、智明はその先生の妹である山田ゆりという同級生に好意を寄せていたが、今はそのゆりは将晴と交際している。朝霧家には一ヶ月ほど前から主人格で将晴の祖母にあたる八千代が行方不明になっていたが、彼女の指示によって遠縁の桑島一家が撓田に迎えられていた。その桑島一家の長男、佳史は頭が良く垢抜けており、将晴を押さえ現在はクラスの中心人物となっていた。当然将晴はあまり面白くない……。智明はゆりとは別に隣家の出戻り、日向千鶴に対しても憧れめいた気持ちを持っていた。ある深夜、家を抜け出した智明は、神社の境内で秘密めいた儀式を三人の取り巻きと共に行っている佳史を目撃、更に千鶴の男性との密会現場をも目にしてしまう。智明が追跡した結果、発見した男は将晴だった……。その二日後、佳史が行方不明となり樹上で脚を切断された死体となって発見された。死体には謎の装飾が施されていた。かつてこの村に駐在していた藤枝警部補らが捜査にあたるが、翌日、行方不明になっていた八千代の腐乱死体が発見された。彼女の死体もまた下半身が引きちぎられ、喪われていた。

    横溝正史作品群へのオマージュにして、心に食い込むストレートの青春ミステリ
    岡山県、閉鎖的な村社会、夜の闇、因縁と血縁が複雑に絡み合う旧家、神隠し、口伝てに伝わる犬使いの伝説、三十年前の迷宮入り事件、あまりにも変人の探偵、蔵の中、紅白の着物、人気のない神社、見立て猟奇連続殺人、山狩り、探偵は事件発生の最中に証拠探しのために現場を離れ、登場人物の危機にぎりぎりに間に合い、真相は過去に繋がり、現代の愛憎が浮き彫りになる……。
    これだけポイントを挙げていけば誰でも分かるだろう。本作はまず横溝正史生誕百年に捧げられる(もしかすると小川氏のデビューそのものが横溝正史賞であったことも含め)大横溝作品群に対する壮大なオマージュである……。その点だけを強調すると、本書が「古式ゆかしい探偵小説」のように思われるかもしれない。さにあらず、本書様々なポイントを使おうと、紛うことなき「現代ミステリ」なのである。
    そしてもう一つ、横溝作品を意識させつつも、本書は優れた青春ミステリでもある。横溝と青春。「そんなことが出来るのか?」という疑問も当然あるだろう。そのからくりは横溝が活躍した時代と、いくら田舎といえど現代とのあいだに様々な差異がある点に集約される。感覚の差異、道徳の差異、知識の差異。いろいろな価値観が蔓延する現代社会は、旧弊な日本の価値観がそのまま受け入れられるほど単純な土壌はもはや残されていない。しかしそれが中学生ならばどうだろうか。百パーセント昔と同じではないが、少なくとも模範とされるべき世界の規範はかつての日本社会と現代の理想教育とのあいだにそれほど大きな違いはないのではないか。中学生の(当然その中には個性があるのだが)視点を用いることで、大人だと偽善と思われる規範を現代日本に当てはめることが可能になる。更にオカルトめいたものへの信奉と心からの畏れ、年長者への敬意、正義の希求等、青臭い価値観を前提とすることで、ようやく現代でも横溝めいたガジェットに意味合いを付加できるようになるのだ。
    もちろん現代ミステリであるからには「横溝正史? 読んだことないよ」という読者も当然存在する。しかし大丈夫。作品から横溝的なものを抜いたとしても、超一流のミステリとして通用する内容をもまた持っているから。現代の事件と過去との相似形の謎であるとか、下半身が切り取られる見立て犯罪であるとか、犯人が殺人に及んだ真相であるとか。中学生が真相を知るには辛すぎる気もするが、見かけ以上の奥深さを事件は内包している。更に、表向きの解決が終わった後にさらに影の犯人と対決する探偵だとか。これでもか、という見所が詰まっている。ところどころ挿入される主人公以外の物語視点の扱い方が上手い。これだけ展開が多く中身が濃いのはミステリの精神というよりも、横溝が活躍した探偵小説のサービス精神を思わせる。ラストの痛痛しい爽やかさがまた印象的。
    これもまた本年の収穫の一つ。傑作。

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