ひらいて (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1000
レビュー : 108
  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101266510

作品紹介・あらすじ

華やかでモテる女子高生・愛が惹かれた相手は、哀しい眼をした地味男子。自分だけが彼の魅力に気づいているはずだったのに、手紙をやりとりする女の子がいたなんて。思い通りにならない恋にもがく愛は、予想外の行動に走る――。身勝手にあたりをなぎ倒し、傷つけ、そして傷ついて。芥川賞受賞作『蹴りたい背中』以来、著者が久しぶりに高校生の青春と恋愛を瑞々しく描いた傑作小説。

感想・レビュー・書評

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  • ──心を「ひらいて」、からだを「ひらいて」
    過剰なまでの自意識と欲望は、いつか無意識という名に変わる。

    註:新潮5月号でこの作品を読んでのレビューです。

    「ひらいて」というタイトルを聞いたとき、ふと官能的な響きに聞こえたのは何故だろう。
    自分でも不思議だ。ぼんやりと淫靡なイメージが頭に浮かんだのだ。
    綿矢りさの小説だというのに……。

    それにしても、やはり綿矢りさはすごい。

    自意識の塊のような女子高生が、同級生の男の子に寄せる秘かな思い。
    思い描くことは、ある意味ハチャメチャで、自分勝手な妄想世界だけでの苦しみと、それとは真逆な破天荒さが入り混じった意識の塊が肉体を作り上げているような主人公。
    その意識の表現が素晴らしい。まさに綿矢節である。
    言葉の一つ一つに無駄がない。心に染み渡ってくる。
    かと思えば、思わず爆笑したくなるような表現が突然出現。
    本当にこの人の頭の中はどうなっているのだろう、一度脳みその中を覗いてみたいものだ。
    そのうえこの作品は意識だけではなく、主人公の行動までもが驚くべき方向へ向かう。
    「蹴りたい背中」では行動にまで及ばなかったが、この作品は違う。もっと進化した意識。
    片思いの男に振られた腹いせに、その彼女と……。
    ──かかってきなさい、気分は博打女郎だ。
    という表現は彼女の何の作品だったろうか。
    まさに怖いものなし。
    綿矢りさ、長年の苦しみを乗り越えて、書きたいように書いた作品だと思う。

    途中で「まさかねえ……」と読み進めたら、そのまままっしぐらに突き進んで行った主人公の行動には驚いたが、それもとりたてて小説の流れとしては不自然ではない。
    合間合間に挟みこまれた独特の表現やたくみな比喩も相変わらずだし、シリアスな場面であるにもかかわらず、時として吹き出しそうな笑いを誘う表現もあったりと、まさに小説を読む醍醐味を思う存分感じさせてくれる作品。

    この作品のテーマは“愛”なのでしょうね、やはり。主人公の名前も愛なのだから。
    その愛は、彼女の場合、いつも途轍もなくいびつな形で表現される。
    「蹴りたい背中」然り、「勝手にふるえてろ」また然りだ。そして、この「ひらいて」でも。
    綿矢さんは登場人物のネーミングも秀逸だ。「たとえ」君とか、普通思い浮かばん。

    ストーリー的に、核心の部分に少しでも触れるとネタバレになり、この小説の面白さが半減すると思うので、この程度までにしておきます。

    とにかく面白い小説を読ませてもらった、という読後感。
    最後にお約束の、この「ひらいて」に出てくる綿矢りさ『名文・名表現・名比喩集』を載せておきます。
    美しい文章も、官能的な描写も、笑える表現も、すごいですわ、やはり、この方。

    あんな可愛い清楚な顔をしてるのに。
    講談社で出会った生綿矢さんの顔を思い出しながら読んでいました。

    1. どんなものでも丁寧に扱う、彼のゆったりした手の所作。付き合う人も、あんな風に大切に扱うのだろうか。
    2. ぬるい水で何倍も希釈された薄くけだるい午後の授業のなか──
    3. 「女子は帰って勉強しろ」(中略)やだ~、なんて言ってみるけど、私は推薦入試だから、実はそれほど勉強しなくていい。
    4. でも少しでも食べ過ぎたと感じると、透明なジェル状の後悔が、体の表面にたっぷりと垂れて皮膚を覆い、(中略)ポテトの二本目を食べ終わると、満足感が急激に同じ体積のまま後悔へ変質していく気配があったから──
    5. 男の子みたいにふるまうと、男の子は喜ぶ。仲間だと思うのだろうか。
    6. 手だけはつないだ、というリアルな告白に、自分から聞いたくせに腹が立つ。
    7. 嬉しそうな美雪の顔に苛立ちがつのる。たとえと分かり合えるなら私だって病気になりたい。
    8. 女とキスしている生理的な嫌悪が私の肌を粟立たせて、喉元までゆるい吐き気がこみ上げる。
    9. 1ミリの勝負だ。たった1ミリ動かすだけで美が生まれ、たった1ミリずれるだけで美が消える。
    10.勝手に嫉妬して、横取りしようとして告白した挙句、ふられて逆上して捨て台詞を吐いて出てきた。
    11.もちろん私だって女など嫌だ。こんな良い雰囲気のなか抱き合っているという事実にさえ、ぞっとして鳥肌が立つ。
    12.おもしろい勘違いじゃないか。最後までその勘違いに付き合ってやろう。私はカップルの両方に告白する変人になってやる。(これ大爆笑)
    13.私はどうしても悦ばされる側にはなりたくなくて──
    14.この、相手を摑んで握りつぶしたくなるような欲を、男の子たちが今まで“かわいい”という言葉に変換して私に浴びせてきたのだとしたら、私はその言葉を、まったく別なものとしてひどく勘違いしていたことになる。(これ、秀逸!!!)
    15.私はなぜ、好きな人の間男になったのだろう!(夜中なのに大声で笑ってしまった)
    16.でもそれじゃ、ただの破壊じゃないか。(これも笑えた)
    17.心と同じスピードで走れたら、どんなに気持ち良いだろう。(言い得て妙)
    18.本能で求め合い、後戻りできる道を二人して粉々にぶっ潰した。

    これだけ書いても、この小説の表現の面白さが分かると思います。読みたくなりませんか?
    是非、ご一読ください。(文庫化されたので、こちらにも転載しました)

  • うまく言葉にできないけど、密度がすごくて打ちのめされた。感情の渦に飲み込まれそうになった。

  • 高校生の傲慢と葛藤。自意識が瑞々しい。
    調子に乗っているようで、常に怯えている。認められたがっている。

    主人公の愛は、クラスでも美人で活発で、モテる女の子。大学も推薦入試をうけられるように手堅く生きている。
    寄せられる好意には無頓着で残酷。そんな彼女が、自分に興味の無さそうな、手に入らなさそうな男の子に恋をする。

    それは自分勝手なゲームのような感覚でありながら、実はだれよりも純粋に、大胆に無防備にひたむきに行動する。ずる賢さと純粋さの両方を反映してて、愛しい。

    こんな感情はもう持てないなぁ。十代のとき、ここまで濃厚に生きていたかな。感性は鈍化する。

    ここまでじりじりと焦がれるような劣情に、浸りたくはないけど(笑)(若すぎるから)、ただこの刹那的な衝動が眩しい。

  • 苦しくて痛くて怖くて気持ち悪くて、でも夢中になって読んだ。共感なんてできないはずなのに、本当に苦しかった。この小説が私は好きだ。

  • 久しぶりの女子高生もの。面白い。男子高生=性欲とイメージしやすいが、女子高生=不可解な生物、と思ってしまう世代としては、わかりやすく女子高生の生態と思考を表現してくれている。恋愛ものに一括りするのはもったいない。

  • 中盤、おい!こんな展開かよ!と主人公の破天荒な行動にかき乱されたけれど、最後まで読んでよかった。最後まで読んで、まるごと一冊で完結する立派な小説でした。「高校生の青春と恋愛を瑞々しく描いた傑作」と裏表紙に書かれていて中盤までではウソだろと思いましたがね。どろどろしてきます。主人公の「愛」みたいな女子はいるなあと思った。破天荒さをちょっと差し引いた「愛」はいる。「なんでも自分の思う通りにやってきて、自分の欲望のためなら、他人の気持ちなんか、一切無視する奴」それが「愛」でありLOVEのどうしようもないところでもありますね。「なぜすべて奪うまで気づけない。欲しがる気持ちにばかり、支配されて」と自分と重ねるようにサロメを評する後半の愛ちゃんです。そういうひといるもんねえ。それが本当のLOVEだと言わんばかりに。まあ、愛の強さにはそういう面もあるけれど、愛を野放しにしている感じがします、僕なんかには。

  • 読んでいる間は周りの音が完全に消えていて息をすることすらままならなかった。まるでいま自分自身がたとえに恋をし、彼に近づくために美雪とトモダチになり、複雑に絡み合ってゆく感情にもがき苦しんでいるようだった。大好きな人を自分の言動で傷付けたい。苛立ちと同時に感じる嬉しさ。満たされない、満たしてほしい。大好きな人からの冷たい視線。思い通りにならなくて自分を抑えられなくなる。なぜこんなにも強く惹かれるのかわからない。けど、ものすごく好き。何よりもまず自分の感情優先だからなのかもしれない。

  • 文章の引き込みかたが上手でのめり込むように読んでしまった。わからないようでどこか通じるところのあるような主人公の行動。狂気と安易に呼ぶにはあまりにも切実で混迷している。そのとんでもない速さになんとか付いていった先で、言葉をなくして祈るような話だった。

  • 一気読み。
    若さゆえの暴走、こうと決めたらこうで、私は私で、欲しいものは欲しい。
    このスピード感が眩しい。実際近くにいたら嫌だけれども!

    愛が突っ走る先にハッピーエンドなんてない。
    本人が一番知っているはずなのに、勢いがとまらなくてはらはらする。
    もうここでやめておけばいいのに。これ以上かき回さなくていいでしょ、十分でしょ。と何度思ったことか!

    『私はなぜ、好きな人の間男になったのだろう!』
    こんな破壊力ある言葉なかなか見かけない。
    しかも望んでこうなったわけではなくて、暴走の結果気がつけば、というやつだし。

    10代の盲目さ恐るべし。
    面白かった!

  • ひりひりする。
    そのうちかさぶたになって弄ぶように痛痒さを楽しむ。
    思いがけず剥がされたそれがグロテスクで、でも瑞々しくて美しい。

    若いって美しい。

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著者プロフィール

1984年京都府生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞して作家デビュー。04年『蹴りたい背中』で芥川賞、12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞。ほかの作品に『夢を与える』『勝手にふるえてろ』『ひらいて』『しょうがの味は熱い』『憤死』『大地のゲーム』『手のひらの京』などがある。

「2018年 『100万分の1回のねこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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