母性 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101267715

作品紹介・あらすじ

女子高生が自宅の庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。……遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が入り混じり、浮かび上がる真相。これは事故か、それとも――。圧倒的に新しい、「母と娘」を巡る物語。

感想・レビュー・書評

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  • 湊かなえさんの作品。以前読んだ「告白」「カケラ」と同様母親がテーマの作品。

    この作品は内容やテーマがどうのというよりも、ミスリードが多く構成にトリックが仕掛けられたミステリーだと強く感じた。
    終章を入れて全7章からなる構成。
    1章~6章までは「母性について」「母の手記」「娘の回想」の順で構成されており終章のみ「娘の回想」だけで締め括られる。

    読んでいる最中に疑問が沸き起こる。
    「母性について」の語り手は女性だと途中で気付く。何故だか男性だとミスリードさせられている。
    飛び降り自殺した娘が終盤に向け首吊り自殺になっている。
    飛び降り自殺した娘とは別のストーリーを読んでいるのではないか?これは「母性について」の語り手が清佳で、清佳のストーリーだと気付く。何故か飛び降り自殺した高校生の親子の話を読んでいるものだとミスリードさせられている。

    完全に作者にやられていて終盤軽いパニックになる。読者が完全にトリックにはまる作品。
    なんなら「母性」という作品名からも読者をはめようとしているのではないか?とすら思える。
    そういう意味では恐ろしい作品だと感じた。

  • 『子どもを産んだ女性が全員、母親になれるわけではありません。』、こう書かれてもそれが一体どういうことなのか全く理解できませんでした。

    この作品で取り上げられているのは『母性』、作品中、それは『女性が、自分の産んだ子を守り育てようとする、母親としての本能的性質』という言葉で説明がなされています。でも普段の日常でこの言葉に接するのは『母性本能をくすぐる』という言い方で、男性との関係性において使われることが多いように思います。そんな『母性』というものの本来的な意味合いを真正面から取り上げたこの作品。その描かれていく世界はかなり衝撃的でした。

    作品は、母、娘、そして第三者的に描かれる女性教師の三人の視点が順番に切り替わって展開していきます。仲の良い母と娘、結婚さえも自身の意思というよりは母親の考えを聞かないと決められない娘の結婚。結婚して新しい家庭ができても母親との関係の方をより重視し続ける娘。そんな娘の元に生まれた娘。幸せな生活が描かれていきます。でも幸せとは長く続かないもの。『一人しか助けられない状況で、自分を産んでくれた者を助けるのか、自分が産んだ者を助けるのか。この決断を下すのに、私がどんなに身を引き裂かれる思いをしたかなど、誰にも想像できるはずがありません』悲しい瞬間が、運命の瞬間が訪れます。そして、母親と娘の関係が描かれていく中で、『母性』とは何かが問われていきます。

    『私には母親がいないのに、この子にはいる。どうしてこの子は母を亡くした私の気持ちなどおかまいなしに、当たり前のような顔をして、甘えてくるのだろう』というこのショッキングな考え方。一体どういうことなのか。『母性』とは母親であれば誰にでも等しく備わっているもの、そういう前提でいる限りは理解できない世界がそこにある。本を読むのを一旦中断してネットで少し調べてみましたが、思った以上に『母性が欠落している』『母性が弱い』、そしてそれを受ける子供の側には『愛情遮断症候群』などといった病気まで存在することを知り驚きました。全く知らなかった事実、この無知が生むことになる悪気のない偏見はこうやって存在するのだと気づきました。

    この作品を読むまでは、『母性』、この言葉さえあまり意識することもなく、世の母親には誰にも等しく備わっているものだと思っていました。でも例え『母性』が備わっていたとしてもその強弱というのは存在していることをこの作品の内外含め知りました。でもこの作品を知るまでの私自身含め、世の多くの人の中には『母性は全ての母親に等しく備わっている』、この考え方が一般的なのではないかと思います。そして、この思い込みが無意識のうちに世の母親と子どもの両方を苦しめているという事実。『母性』がない、もしくは『母性』が弱い母親に育てられた子どもは、『母に嫌われる自分が嫌いだった。母に愛されたい。何を考えていても、辿り着く先はいつも同じだった。』というように『子どもを愛さない親なんていない』、もしくは『親に愛されない子どもなんていない』という一般論で語られる偏見によって、世の中の人の無意識によって人知れず苦しめられていく、こういう現状が、現実があるのかもしれないと思いました。

    インパクトの大きい『母性』という作品名、その作品名の元、深く掘り下げられる内容に強い衝撃を受けた作品でした。人間も一つの生物、動物にすぎない。それが故に『本能』という生まれ持った性質には逆らえないのだとは思います。でも人間だから、そのこと自体を考え、思い巡らせることにもなります。これが他の生物、動物との違い。人間ってなんと辛い生き物なのだろうと思うと共にそれでも人間だから、人間ならではの見方、考え方ができるはず。色々なことに思いを巡らされた作品でした。

  • うーん、
    私にはちとしんどかったかも。

    親から受けた愛を、
    自分の子供にも同じ様に与えるから、
    同じ様に育つだろう。

    そんなことは無いよね。
    子供も1人の人間だからね。
    尊重しなきゃね。

  • 「母性」
    私(父)が自分の娘に抱く気持ちとかけはなれ過ぎて理解するのが難しかった。
    抱きしめるために手を伸ばしたはずの手が
    首をしめられそうになった手になる。
    与える側と受け取る側の感覚の違いは
    父と子の間でも
    男女間の間でもありうるけれど
    歪みが大きすぎる。

    正直、陰鬱な気持ちになってしまった。

  • 「母」に依存し娘で居続けたい母親と、そんな母親に愛されたい娘の独白物語。

    母親とは子を産むことで母性が備わる。
    そんな主観を私は性懲りも無く持っていたのかもしれない。これは父性もまた然り。

    愛。芽生え備わることが必然なのではない。
    愛。能う限り培われてゆくもの。

    この作品のメッセージを私はそのように受け取った。

  • 湊かなえさんの作品ではよく視点が変わるのですがこの本もそうでした。母性とはなんなのか愛とはなんなのかと考えさせられる話でした。

  • う~ん…
    個人的に 好きじゃなかったですね…

    一言で言うなら
    「田所さん…家燃えて…最低限収入あるならアパート借りれば?…」と思ってしまい…

    ただソレするとこの本の出来事は全て無くなってしまう…

    話を展開させる為に無理に誘導してる感じがしたかなぁ…て思いました

  • 娘を愛す母親と母親に愛されたい娘。

    母にだって母がいる。誰かの娘なのだ。
    出産を経て母となれば、母性が勝手に芽生えるとは限らない。

    娘として愛されていたい。母親となり自分の娘を愛す理由は、母親に愛される為の娘としての行動なのだろうか。母性 とはなるほど、秀逸なタイトルだ。

  • 愛の表現は様々で、受け取り方も様々だが、これほど相手に思うように伝わらないものなのかともどかしかった。
    女には2種類あって「母と娘」と言う表現がなるほどと納得でした。また、信用できない語り手たちという表現が解説にあり、それも腑に落ちました。母性について考えさせられる小説でした。

    でも、母と娘どちらかしか助けられない場面なんて考えただけで辛すぎる。

    告白の映画化は大成功しているし、母性の映画化もおもしろそう。

  • 偶然読ませていただいたブクログのレビューに、驚きに似たようなものを感じ、「確認したい」気持ちがわいてきて衝動的に読みました。

    著者の本が書店に平積みされているのは知ってはいたものの、自分の手を出すジャンルとは全く異なるので完全に素通りし、これから読むだろう確率も自分の中ではゼロに近かった作家さんだ。

    「イヤミス」という言葉が話題となっても、すっきりした結末が好きな自分には、好きになれそうにないジャンルでした。

    なのに今回興味を持ってしまったのは、この作品の登場人物の親子の関係に興味が込み上げてきたからだ。

    身近でも、また世の中的にも、心の病と戦う人が多い中で、これまで自分が読んだ心理学や心理療法の本によく登場する「支配と依存」というテーマがあるが、そのテーマがそのまま小説となったような本だと感じたからだ。

    私の知る範囲では、「支配」とか「依存」の関係は、特に女性の親子で連鎖しやすいということ聞いたことがあり、本書の主人公の親子も母と娘だった。そしてこの物語の中で展開される出来事は、その連鎖までもリアルに表現されていると感じた。

    「親のために生きる娘」が描かれているが、そこから親の娘に対する「支配」と「依存」、そしてそれに絡みとられて自立できない娘の姿が見えてくる。

    まったくミステリーとは感じることなく、リアリティそのものだと感じながら読み終えた。

    サイトで著者のことを調べている中で、本書についての著者の思いが書かれたページを見つけたが、著者は本書について、「作家を辞めてもいいと思いながら書いた作品」と述べていた。本書の評価がどうあれ、本書を書き上げたことだけで満足であると述べている。

    他の作品を読んだわけではないのでわからないが、著者は本書で自分の心の底にある思いを出し切った、本懐を遂げたというような思いだったのではないかと想像した。

    タイトルが「母性」。この物語に貫かれているテーマが「母性」なのである。というより、著者が心の底に感じていたものを言葉で表すならば、この「母性」というものが最も近かったのではないかと思う。

    その「母性」というものに対する、著者の経験を通じての疑問、そしてその疑問に対する著者なりの一つの答え、さらにその答えを仮設として、その仮説を小説を通じて実証したのだと、そんな風に感じられる小説であった。

    著者は、その仮説の評価はどうでもよい。仮説を小説のなかで証明しきった、その出来栄えに満足できたのだろうと思う、

    うがった読み方なのかもしれないが、本書は単に創作されたミステリーではなく、現代的な問題を鋭く察知し、精密に再現したリアリティ小説として、恐ろしいほど完成度の高い作品だと自分自身は感じた。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

湊かなえの作品

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