豆の上で眠る (新潮文庫)

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  • 新潮社
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本棚登録 : 5698
レビュー : 475
  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101267722

感想・レビュー・書評

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  • 『アンデルセン、グリム、イソップ、アラビアンナイト、といった世界中の子どもが知っている童話に、私は毎晩、耳を傾けながら心地よい眠りについていた』。あなたも小さい頃、何かしら童話の世界に触れ、心をときめかせたことがあるのではないでしょうか?でも、アンデルセンだけでもその数は212にものぼるという圧倒的な数の童話作品。これだけあると、必ずしもみんながみんな同じ作品を知って育ったわけでもないのかもしれません。でも、そんなよく知る童話も大人になって読むと見方が違ってくることはないでしょうか。王様が上司だったら自分はどう立ち回るだろうかと考えてしまう「はだかの王様」とか、結局は血筋かよと思ってしまう「みにくいアヒルの子」などなど。そしてこの作品で取り上げられているのはアンデルセンの「えんどうまめの上にねたおひめさま」。私はタイトルさえ知らなかったこの作品ですが、あなたは知っているでしょうか。嵐の夜にお城を訪れたボロボロの身なりの少女。私はお姫様だと語ります。ベッドの上にエンドウ豆をひと粒置いた上から、敷布団を20枚と、羽布団を20枚を重ねその上に少女を寝かせてどのように反応するかを試します。少女は何か硬いものがベッドの中にあって眠れなかったと答えます。王子様はそんなに感じやすいのは彼女こそお姫様に違いないと少女をお妃にするのでした。めでたしめでたし。というお話。さて、このお話からあなたは何を感じるでしょうか。

    『三豊駅で新幹線を降りた。今日、帰省することを家族には伝えていない』という主人公・結衣子。胃潰瘍で入院した母の見舞いに実家に戻ります。『見覚えのある後ろ姿が目に留まった。姉だ!友人らしき女性と一緒だ』と地元の大学に通う姉・万佑子を見つけます。『二人同時にこちらを見上げた。八ヵ月ぶりの姉とその友人』、しかし『目に留まったのは、傷痕だ』、『右目の横に、豆のさや形の傷痕がある。姉にではない。隣にいる連れの女性にだ』と、動揺する結衣子。『どうして?という思いが頭の中を駆け巡って』しまいます。そんな結衣子は『苦手だったのは文字だ』と『本を開こうとしない私に、万佑子ちゃんは自身が小学校に上がったころから、読み聞かせをしてくれるようになった』と過去を振り返ります。体の弱かった万佑子をローラースケートに連れ出した結衣子。『無理矢理フェンスから離した』、という次の瞬間、『万佑子ちゃんの顔から血が噴き出すようにながれていた』と、右目の横に大きな傷が残ってしまった万佑子。そのことを悔いる結衣子。そして『八月五日、万佑子ちゃんが目の横に傷を負った三ヵ月後』、裏山で遊んだ後、先に帰った万佑子。『それが、私が最後に見た万佑子ちゃんの姿だ』と家に帰らず行方不明になってしまった万佑子。でもこれが『悪夢の始まりだったのだ。』と結衣子の日常も暗転していきます。

    アンデルセン童話の「えんどうまめの上にねたおひめさま」の物語を巧みに取り入れたこの作品。「豆の上で眠る」という書名だけでなく、鍵を握る女性の右目の横の傷も『豆のさや形の傷痕』と童話に絡めて表現します。また、この童話に初めて接した結衣子は『初めて読んでもらったときは、よくわからないな、という感想だった』ことから、『その物語に書かれていることが真実かどうか実験をしよう』と両親の部屋に入って羽布団を借りその下にビー玉を置いて、その上に寝て本当にビー玉を感じられるかを万佑子と一緒に試します。実体験したエピソードは記憶に残るもの。結衣子にこの童話が強く印象に残ったのは、万佑子がいなくなった後のまさかの展開が『豆の上に眠るような感覚』と感じ、この童話とこの作品の展開を上手く繋げていると思いました。また、「シートン動物記」の「オオカミ王ロボ」に登場する『ブランカ』から飼い猫の名前を取り、失踪したブランカを探すという中盤の展開、さらには『このまま万佑子ちゃんはいなかったことになってしまうのではないか、絵本の中から出てきた、私だけに見えるお姉ちゃんだったことになってしまうのではないか』という表現など、童話や本の世界観を作品に上手く重ねていこうという湊さんの細かい工夫がとても印象的でした。

    結末の一行に強い問題提起を行うこの作品。基本的な設定と結末に若干の強引さを感じざるをえない点が少し残念でしたが、本の帯にある『お姉ちゃん、あなたは本物なの?』というミステリーを物語の核にして、過去と現在を巧みに交錯させながら、まさかの結末を見せてくれるところなどはとても読み応えがありました。また、湊さんの作品らしく、うぐぐと嫌な感じもたっぷり盛り込まれていたようにも思います。

    童話とミステリーを織り混ぜながら展開させるという湊さんの意欲作。大人になって童話の見方が変わるように、今まで見てきたものが違って見えてくることもある。それが望む、望まないにかかわらず…。そして、すべてを知った結衣子が訴えかける問題提起の結末に、うっ!という思いの残った、そんな作品でした。

    • nejidonさん
      さてさてさん、こんにちは(^^♪
      このタイトル、やはりそうだったのですね!
      素話のネタのひとつとしてよく披露しますが、短くて面白いので子...
      さてさてさん、こんにちは(^^♪
      このタイトル、やはりそうだったのですね!
      素話のネタのひとつとしてよく披露しますが、短くて面白いので子どもたちは大好きです。
      はい、私も実際に豆をひと粒置いて寝たことありますよ・笑
      なーーーーーんにも感じませんでした(^^;
      そして「さすが、お姫様!」と感動したものです。
      文学作品には、民話や昔話からとったタイトルがよく見受けられます。
      元の話を知っているとより楽しめるのでしょうね。
      ちょっと嬉しくてコメントしました
      2020/05/27
    • さてさてさん
      nejidonさん、どうもです。
      私は知らなかったんですよね、この作品。
      だからなんだかピンと来なくて、途中で、読書を中断。童話の方を読んで...
      nejidonさん、どうもです。
      私は知らなかったんですよね、この作品。
      だからなんだかピンと来なくて、途中で、読書を中断。童話の方を読んでみました。Webの童話解説も読んでようやく少し納得しました。実際には感じたというよりは、「よく眠れたか?」という質問に、硬いものがあって眠れなかったと王子様を前に大それたことを答えた、そのこと自体が特別な人=お姫様ということだ、という記述を読んでなるどなあ、そういう考え方もあるのか、と思いました。大人な考え方ですよね。やはり、大人になると違う見方をするようにもなるのかなと思いました。
      コメントありがとうございました。また、よろしくお願いします。
      2020/05/27
  • 内容は随分前に読んだので、迂闊にレビューできないけど

    何かの会話の時、豆の上で眠れないと言った時
    相手がキョトンとしていた
    誰でも読んだ知ってる童話と思ってた自分。


    世間では
    豆の上で眠れる人と眠れない人とふた通りに
    区分できる
    ちなみに自分は豆の上では眠られない。
    この事は一時が万事に通用する気がする。
    この見解は
    別にお姫様だとか違うとかの話ではなく
    単純に敏感な人と鈍感な人がいる態度の話のつもりです。それが幸せか不幸かはまた別問題として。




  • 誘拐され、2年後戻ってきた姉が別人のように感じる。
    姉妹にしかわからない感覚だったり、違和感だったり、ありますね。言葉にしなくても伝えたい事が理解できていたり。
    「本物」を追い求め「本物」が分からなくなっていく、結衣子がとても可哀想でした。正解なんてないと思うので、よけいに。
    ほとんどが回想で語られているお話です。
    読んだ後も、なんだか色々と考えてしまいます。

  • 湊先生の割にはダーク感が少なかったか、、、

    何となく落ちが見える小説だった為、湊先生なら一発大逆転が待っているのだろうと必要以上の期待をしてしまった(^_^;)

    この展開なら、落ちで持っていくしかないだろう!!どう落とすんだ!?
    期待値マックス!

    が、、、
    予測の範疇で、何となくしょんぼり感が。。。

    何を読んでも面白い作家さんだから、ついつい期待値が上がってしまう(^_^;)

  • 図書館が使えないので、ひたすらおうちの古い本を。最後までたぶん…まさか…を引っ張られるお話。姉妹とか兄弟ものに弱いので、ミステリーでありながら悲しいというか、疑い、信じられない気持ちのままで生きていくことの絶望のようなものをおぼえました。そんな中で生きていけるなんてすごい…ではなくて実は人はそんな中で生きているのか?!ということがミステリーなのかもしれません。

  • この題名は、どういう意味だろう?誰でもが、そんな疑問を持ちながらこの本を手に取ったことだろう。
    そして、このアンデルセンの童話のフレーズは、物語の中でたびたび登場し、進行上重要な役割を果たしている。
    それにしても、登場人物の心理の襞を微に入り細に入り詳述する著者の手練手管には、相変わらず翻弄されてしまう。
    語り手となる結衣子とともに、読者もざわざわとした気持ちのまま、真相は?と、頁を捲らざるを得ない。
    「本ものって、なんですか」。
    最終頁のこの言葉は、あらゆる局面で、それぞれの立場で、全ての人への問いかけとなるだろう。

  • 妹は元々姉に対して劣等感を持っていて、
    姉が失踪している期間はそれが無くなるかと思えば、
    かえって姉に対しての思いが強くなり
    苦しい関係はいつになっても拭いきれなくて読んでいくうちの
    妹の結衣子が可愛そうに思えてきました。

    姉妹というのは仲が良いと人が羨ましがるほどなのに、
    この姉妹のように仲が悪い場合だと
    こんな風なケースになるのかなと思ってしまいました。
    異性の兄弟の微妙な心境というもの垣間見れた気がします。

    姉が時には妹だけでなく祖母の目から見ても
    今までの姉とは明かに違うという思いがしたのは
    何かあるのかと思い、真相が徐々に暴かれるまでは
    ワクワクして読んでいました。
    けれど真相に辿り着くまでにはかなり長かったのでもどかしかったです。

    それにしてもこの母親の育て方は同じ姉妹なのに
    扱い方に差がありすぎたり、
    周囲の対して気にし過ぎたり、言わゆる世間体というのを気にしすぎで
    こんな母親の下にいるのは心が歪んでしまいそうです。
    そんな思いも妹に影響があるように思えていたたまれなかったです。
    そんな時にふと寄り添うように祖母さんがいてくれたのが
    少し救いだったようにも感じられました。

    真相を明かすことになってからは
    特に劇的なラストということではなかったですが、
    結局はある人の親のエゴでこんな苦しい思いをさせられ、
    人生を翻弄させられてしまったのかと思うと
    妹だけでなく子供たちにとっていい迷惑だったと思ってしまいます。

    「本ものってなんですか?」
    という疑問がありますが、
    果たして本物は今まで時間を重ねてきたモノなのか、
    それとも科学的に証明されたモノなのか
    これは永遠の謎になりそうな気がしました。

    こうやって疑問を投げかけておいて、
    いつまでもそれを気にさせておくというのが
    またこの作品のタイトルのモチーフにもなっている
    「えんどう豆の上にねたおひめさま」のような
    状態にしているのかと思ってしまい
    ラストまで気が抜けなく楽しました。

  • 真相が気になりすぎて一気読み。
    濁さずに真相を明らかにしてくれるので気持ち良かった。
    個人的に気になっていたなっちゃんの登場は想定外だった。

    主人公は血縁がどうこう言っていたけど、結局血縁は関係なくハルカの方が好きだったのではないかと思う。

    真相を知りつつも黙っていた家族が陰湿すぎる。
    祖母と冬美おばさんくらいしか主人公のことをちゃんと見ていなかったのではないだろうか。
    主人公を憂鬱にさせているのは、姉への違和感だけではなく、愛情を受けるべき時に愛を与えてくれなかった両親に対する怒りもあるのではないかと思う。
    大好きだった万佑子(ハルカ)ですら主人公が真剣に考えているとは思っていなかったと言い放ったのだ。

    この作品を読むのが時々辛く感じた理由は、主人公が幼少期にあまり大切にされていないような描写が見受けられたからだ。

    血が繋がっているから愛される訳ではないし、血が繋がっているから愛せる訳ではないということが痛いくらい伝わった。

  • エンドウ豆の上のお姫様という童話の存在を、全く知らなかった。ものの序ででグリム童話・アンデルセン童話・イソップ物語について調べると、初めてそれらの特徴や違いについて知ることができて面白かった。

    物語としては、現在の主人公が万佑子ちゃんのことを頑なに姉とよぶところからなんとなく筋はみえるけど、それだけでは終わらないぞ、というひっかかりが多くて楽しい。終盤は映画「そして父になる」の福山雅治で脳内に再生された。

  • 2017.7.7読了。

    湊かなえさんの本はゾクゾクしますね。
    読み終わった後、再読しました。

    不思議な展開ではありますが、もしこんな事が起きたら‥と考えるとゾッとします。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年に「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビュー。2009年の本屋大賞を受賞。映画化を経て累計300万部のベストセラーに。2012年「望郷、海の星」(『望郷』収録)で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。その他の著書に『少女』『贖罪』『花の鎖』『境遇』『サファイア』『白ゆき姫殺人事件』『母性』『絶唱』『リバース』『ユートピア』『ポイズン・ドーター、ホーリー・マザー』などがある。

「2018年 『ブロードキャスト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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