豆の上で眠る (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101267722

感想・レビュー・書評

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  • 陰と陽の姉妹。現在と過去の切替え方が唐突な構築。失踪したの?戻ってきたの?じゃあ現在の「わたし」は何について語っているの?
    読者の感じる どういう事? が徐々に判明されていく過程に感情をコントロールされ休憩のタイミングを完全に狂わされ、彼女の作品を開いたらこうなる事はわかっているはずなのに寝不足だ。

    なにより万佑子ちゃんの病弱で 家族想い 妹想い 純粋 が目立つ反面、彼女の心の内 独断性の強い我一貫の行動力のギャップが凄い。反する人間性が混合しているのに何故か調和がとれた彼女はミステリアスであり、そして少し不気味だった。
    どちらの感情が正しいのか読み終えた今でもわからないのだが、そんな彼女がとても魅力....元い魅惑的だった。

    確かに家族 姉妹 そして帯にある「お姉ちゃん、あなたは本物なの?」と、ここまでくるとミステリーが好きな方は着地点が朧気ながら見えてしまいそうだが、醍醐味はそこでは無くそれを迎えるまでと迎えてからの彼女達を見届ける事なのだろう。
    「悪」の存在しないBADEND。
    湊かなえの作品では常に憎むべき対象がいない。万佑子ちゃんも結衣子ちゃんもその母も父も祖母もクラスメイトも山姥も何一つ憎めない。
    あぁ、なんでこう上手くいかないんだ!!!と第三者の読者がヤキモキする人物達の心と、故に変わる行動、この「愛の歪み」の行く末に、否定も肯定も出来ず読了後は「あぁ、湊かなえを読んだなぁ」と気持ちの良い疲労感に苛まれている。例え同じテーマの別作品を手に取ってもここまでの疲労感は感じない事だろう。

    愛ってなんでこんな柔らかいんですかねぇ
    きっと具現化したらキラキラの綺麗な結晶なんでしょうに、直ぐに歪みくすんで欠けてしまう。
    あと1度の衝撃で崩れ落ちてしまうまでボロボロになった家族の結晶を、結子ちゃん...さんですね、彼女は果たして破壊するのか否か。
    先まで見届けられないもどかしさはあるものの何処かで、彼女の選ぶ先の道には光が充ちている気が致します。


    あぁ...感情の魔術師湊かなえ先生の掌の上でクルクルと踊る私‹‹‪⸜(*ˊᵕˋ* )⸝‬››‹‹‪⸜(    *)⸝‬››‹‹‪⸜( *ˊᵕˋ*)⸝‬››

  • 湊かなえさんらしい、読み終わった後にどよーんとした重苦しさが残る作品でした。
    小学校1年生の時に2歳上の姉が行方不明になり、2年後帰ってくるが、帰ってきた姉が本物の姉とは思えない妹のお話。
    結末はあっと驚くものだったけど、所々に納得しかねる設定もあってうーーーんと言う感じ。
    乳児期の入れ替わりと誘拐事件の真相を両親は知っていた…ってことだよね?知っていてそのまま誘拐されたけど無事に戻ってきましたって話にしたってこと?なんか無理やり感があるなぁ……
    結衣子の子ども目線での描写と姉が本物ではないと疑っているところまでは、本当に面白かったのに結末が残念に思いました。

  • 『アンデルセン、グリム、イソップ、アラビアンナイト、といった世界中の子どもが知っている童話に、私は毎晩、耳を傾けながら心地よい眠りについていた』。あなたも小さい頃、何かしら童話の世界に触れ、心をときめかせたことがあるのではないでしょうか?でも、アンデルセンだけでもその数は212にものぼるという圧倒的な数の童話作品。これだけあると、必ずしもみんながみんな同じ作品を知って育ったわけでもないのかもしれません。でも、そんなよく知る童話も大人になって読むと見方が違ってくることはないでしょうか。王様が上司だったら自分はどう立ち回るだろうかと考えてしまう「はだかの王様」とか、結局は血筋かよと思ってしまう「みにくいアヒルの子」などなど。そしてこの作品で取り上げられているのはアンデルセンの「えんどうまめの上にねたおひめさま」。私はタイトルさえ知らなかったこの作品ですが、あなたは知っているでしょうか。嵐の夜にお城を訪れたボロボロの身なりの少女。私はお姫様だと語ります。ベッドの上にエンドウ豆をひと粒置いた上から、敷布団を20枚と、羽布団を20枚を重ねその上に少女を寝かせてどのように反応するかを試します。少女は何か硬いものがベッドの中にあって眠れなかったと答えます。王子様はそんなに感じやすいのは彼女こそお姫様に違いないと少女をお妃にするのでした。めでたしめでたし。というお話。さて、このお話からあなたは何を感じるでしょうか。

    『三豊駅で新幹線を降りた。今日、帰省することを家族には伝えていない』という主人公・結衣子。胃潰瘍で入院した母の見舞いに実家に戻ります。『見覚えのある後ろ姿が目に留まった。姉だ!友人らしき女性と一緒だ』と地元の大学に通う姉・万佑子を見つけます。『二人同時にこちらを見上げた。八ヵ月ぶりの姉とその友人』、しかし『目に留まったのは、傷痕だ』、『右目の横に、豆のさや形の傷痕がある。姉にではない。隣にいる連れの女性にだ』と、動揺する結衣子。『どうして?という思いが頭の中を駆け巡って』しまいます。そんな結衣子は『苦手だったのは文字だ』と『本を開こうとしない私に、万佑子ちゃんは自身が小学校に上がったころから、読み聞かせをしてくれるようになった』と過去を振り返ります。体の弱かった万佑子をローラースケートに連れ出した結衣子。『無理矢理フェンスから離した』、という次の瞬間、『万佑子ちゃんの顔から血が噴き出すようにながれていた』と、右目の横に大きな傷が残ってしまった万佑子。そのことを悔いる結衣子。そして『八月五日、万佑子ちゃんが目の横に傷を負った三ヵ月後』、裏山で遊んだ後、先に帰った万佑子。『それが、私が最後に見た万佑子ちゃんの姿だ』と家に帰らず行方不明になってしまった万佑子。でもこれが『悪夢の始まりだったのだ。』と結衣子の日常も暗転していきます。

    アンデルセン童話の「えんどうまめの上にねたおひめさま」の物語を巧みに取り入れたこの作品。「豆の上で眠る」という書名だけでなく、鍵を握る女性の右目の横の傷も『豆のさや形の傷痕』と童話に絡めて表現します。また、この童話に初めて接した結衣子は『初めて読んでもらったときは、よくわからないな、という感想だった』ことから、『その物語に書かれていることが真実かどうか実験をしよう』と両親の部屋に入って羽布団を借りその下にビー玉を置いて、その上に寝て本当にビー玉を感じられるかを万佑子と一緒に試します。実体験したエピソードは記憶に残るもの。結衣子にこの童話が強く印象に残ったのは、万佑子がいなくなった後のまさかの展開が『豆の上に眠るような感覚』と感じ、この童話とこの作品の展開を上手く繋げていると思いました。また、「シートン動物記」の「オオカミ王ロボ」に登場する『ブランカ』から飼い猫の名前を取り、失踪したブランカを探すという中盤の展開、さらには『このまま万佑子ちゃんはいなかったことになってしまうのではないか、絵本の中から出てきた、私だけに見えるお姉ちゃんだったことになってしまうのではないか』という表現など、童話や本の世界観を作品に上手く重ねていこうという湊さんの細かい工夫がとても印象的でした。

    結末の一行に強い問題提起を行うこの作品。基本的な設定と結末に若干の強引さを感じざるをえない点が少し残念でしたが、本の帯にある『お姉ちゃん、あなたは本物なの?』というミステリーを物語の核にして、過去と現在を巧みに交錯させながら、まさかの結末を見せてくれるところなどはとても読み応えがありました。また、湊さんの作品らしく、うぐぐと嫌な感じもたっぷり盛り込まれていたようにも思います。

    童話とミステリーを織り混ぜながら展開させるという湊さんの意欲作。大人になって童話の見方が変わるように、今まで見てきたものが違って見えてくることもある。それが望む、望まないにかかわらず…。そして、すべてを知った結衣子が訴えかける問題提起の結末に、うっ!という思いの残った、そんな作品でした。

    • nejidonさん
      さてさてさん、こんにちは(^^♪
      このタイトル、やはりそうだったのですね!
      素話のネタのひとつとしてよく披露しますが、短くて面白いので子...
      さてさてさん、こんにちは(^^♪
      このタイトル、やはりそうだったのですね!
      素話のネタのひとつとしてよく披露しますが、短くて面白いので子どもたちは大好きです。
      はい、私も実際に豆をひと粒置いて寝たことありますよ・笑
      なーーーーーんにも感じませんでした(^^;
      そして「さすが、お姫様!」と感動したものです。
      文学作品には、民話や昔話からとったタイトルがよく見受けられます。
      元の話を知っているとより楽しめるのでしょうね。
      ちょっと嬉しくてコメントしました
      2020/05/27
    • さてさてさん
      nejidonさん、どうもです。
      私は知らなかったんですよね、この作品。
      だからなんだかピンと来なくて、途中で、読書を中断。童話の方を読んで...
      nejidonさん、どうもです。
      私は知らなかったんですよね、この作品。
      だからなんだかピンと来なくて、途中で、読書を中断。童話の方を読んでみました。Webの童話解説も読んでようやく少し納得しました。実際には感じたというよりは、「よく眠れたか?」という質問に、硬いものがあって眠れなかったと王子様を前に大それたことを答えた、そのこと自体が特別な人=お姫様ということだ、という記述を読んでなるどなあ、そういう考え方もあるのか、と思いました。大人な考え方ですよね。やはり、大人になると違う見方をするようにもなるのかなと思いました。
      コメントありがとうございました。また、よろしくお願いします。
      2020/05/27
  • んー…
    真相はわかったけど…
    結末はどうなるの?って思ってしまい、解決しないで終わったのが 個人的には嫌だったかな…(読者に問いかけるように書いているのはわかりますが)

  • 湊かなえさんらしい、モヤモヤと胸に引っ掛かりを抱えながら不穏な空気感で進行する物語

    『豆の上で眠る』
    奇妙なタイトルはアンデルセンの童話から用いられていて物語全体を覆う「違和感」が見事に表現されていると思う。

    ラストはなかなか奇想天外な結末だった。
    だが、主人公の結衣子のことを思うと手放しで納得出来ず、色んな所に沸々と憤りに近い感情が湧いてきた。

    ネタバレになるので詳細は避けるとして・・・
    (すみません、プチ噴火しますW(`0`)W)
    誘拐されたとて逃げるチャンスあるやろ。
    どんだけ瞬時に誘拐犯に肩入れしてるん?
    大切な親や妹のことは忘れたん?
    犯人探しに娘を利用し過ぎやで!
    ブランカもいい迷惑やで!
    いつまでほんまの事を隠し続けてるん?
    家族もいつまで秘密共有してるん?

    いかんいかん、歯止めが効かなくなってくる。
    私にも大切な姉が居るのでついつい感情的になってしまった。
    うーん、どう考えてもあり得ない。
    小3なら正しい判断出来るだろう。

    やはり、本作はトリック先行で構成された感が否めない。真相が分かっても読者が納得出来ないのは、疑問符が消化し切れないからだろう。そこは読者に委ねずに描き切って欲しかった。

    最後の問いかけに対しては、本気で考える気にもなれなかった。
    そして、読後は正にイヤミス・・・
    エンターテイメントとして割り切って楽しみたい方だけにオススメしたい。

  • 序盤はジワジワと感じてくるイヤミス。

    ショッキングな事件からの自分だけ取り残されたような違和感の描き方が巧妙!!!

    いやいや、イヤミスだからジワジワと感じてくるのか……

    各章ごとに起伏もありイヤミス感は、更に増していく。最終章で真実が解明され、イヤミス感は最高潮に…そして何がホンモノなのか……

  • 誘拐された2歳年上の姉が2年後戻って来てから妹がずっと抱き続けていた違和感の真実が解き明かされる物語。読み終えた後、どうして「豆の上で眠る」という題名がつけられたのか分かったような気がした。
     最後の
     誰でもいいから教えてほしい。
    「本ものって、何ですかー。」
    という言葉がいつまでも心に残った。

  • 誘拐された姉が別人になって戻ってきたという見出しに惹かれて手に取った本。
    万祐子ちゃんが誘拐されてからの、母親が結衣子を使っての猫探しのところは切なくなった。親の気持ちも分かるから嫌がらない結衣子が可哀想で。。
    最後に明かされる真実は、予想以上に細かく、読者に考えさせるってよりは、これが真実でした!!って感じ。読み終わったあとは少しモヤモヤが残るけど、これが湊かなえさんのイヤミスなのかな。

  • 「告白」に続き手に取った湊かなえさん作品。
    微かな違和感から、姉の正体は何なのか?という謎と、誘拐犯は誰なのか?という謎の二つが気になり、一気読み。伏線回収も気持ち良いのだが、それ以上に、ホンモノってなんだろう?家族ってなんだろう?血の繋がり?それとも共に同じ時間を過ごすことで生まれる絆?そういったことを考えさせられる。
    種明かしで終わりのミステリーから、さらに一歩踏み込み、読者に社会的テーマを投げかけているような、そんな作品。

  • うーん、いまいち感情移入できなかった。
    原因は多分、猫のブランカのこと…
    物語の中の出来事とはいえ腹が立って、悲しくなった。そのせいで、登場人物たちのこんがらがった諸事情が薄っぺらく感じて、最後までそのままだった。湊かなえ作品っぽいと言われればそうなのかもしれないけど、個人的には嫌な気持ちになったことが残念。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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