絶唱 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101267739

作品紹介・あらすじ

五歳のとき双子の妹・毬絵は死んだ。生き残ったのは姉の雪絵──。奪われた人生を取り戻すため、わたしは今、あの場所に向かう(「楽園」)。思い出すのはいつも、最後に見たあの人の顔、取り消せない自分の言葉、守れなかった小さな命。あの日に今も、囚われている(「約束」)。誰にも言えない秘密を抱え、四人が辿り着いた南洋の島。ここからまた、物語は動き始める。喪失と再生を描く号泣ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 阪神淡路大震災とトンガ国を繋ぐ、それぞれ登場人物の苦しみや葛藤が描かれた4つの連作短編集。

    当時、大阪の北摂で被災した私は、爆弾が落ちたような衝動と、激しい揺れに恐怖の余り布団にくるまり叫び続けた。

    今でも当時抱いた恐怖心が身体に染み付いている。

    そのため、東日本大地震を東京で被災した時のフラッシュバックは特段激しかった。

    本作最後の【絶唱】を読んだ時、あの時の記憶とともに、絶望からの再生と、希望の念を、強く深く感じ受け取った作品だった。

  • 『ドカン、と爆発音のような音が響き、「落ちた」と思った瞬間、電気が消え、天地が逆転するような揺れが始まったのです』。今から四半世紀前、1995年1月17日、阪神淡路大震災が多くの人々の日常を襲いました。6,400名もの命が失われ、多くの人々の未来が変わりました。『生きているわたしたちは何なんだろうね。どうして、静香が死んで、わたしたちが生きているんだろう』生死の境にどんな違いがあったのか。何が生と死を分けたのか。『なんであんな大変なことになっているのに、助けに来てくれなかったの?』『なんでわたしたちを置いて、自分だけ安全なところに避難できたの?』生き残った者を分断するそれぞれの境遇から来るそれぞれの思い。何が正しくて、何が正しくないのか。軽々しく語れるものではないことではありますが、マグニチュード6.0以上の大地震に絞れば世界で起こる地震の20%がこの国で発生しているという現実がある以上、この国で暮らしていく上で地震と無縁でいることはできません。それでも冷静に向き合っていくしかありません。

    『飛行機ごと吸い込まれてしまうのではないかと怖くなるほど、海が青い』という太平洋のど真ん中にある小さな島国・トンガ王国。4章から構成されたこの作品、前半の3つの章ではあの日、あの瞬間、あの場所で未来を変えられてしまった3人の女性が、地上の楽園とされるこの国をそれぞれの理由で訪れる物語がそれぞれの視点で順に語られていきます。
    〈楽園〉の主人公・濱野雪絵。しかし、トンガの地を踏んで名前を聞かれた彼女は『濱野…毬絵、片仮名でマリエです』と、震災で祖父母と焼け跡から発見された妹の名前を語ります。『ここはあの場所じゃない』、『だけど、わたしが捜しているのはここでもない』と何かを探し続ける雪絵。そんな彼女の前に彼女がトンガにいることを知るはずのない恋人・裕太が現れます。
    〈約束〉の主人公・松本理恵子。『わたしでいいのだろうかという不安が六割、「すごい」人に好きになってもらえた幸せが四割、始まりはそんな感じだった』という宗一との出会い。幸せの裏側に感じる違和感が理恵子を包んでいきます。そして、結婚を二年間保留して、国際ボランティア隊の一員としてトンガに赴任するのでした。
    〈太陽〉の主人公・高杉杏子。『震災で父を失った。母もあたしも弟も命が消える瞬間を目の当たりにした』という杏子。父の遺志で進学したものの『妊娠に気づいたのは二十歳になったばかり、大学二年生の冬だ』と子どもを授かります。父親のいない娘・花恋との貧しい生活に苦悩する理恵子。そして、『自由になりたい。どこか遠くへ行ってしまいたい』と、南の島、トンガを目指します。

    トンガ王国について詳しく知っている方は少ないと思いますが、この作品ではまるで紀行文かと思えるくらいにリアルな島の風景が綴られていきます。さらには、『トンガのお葬式にブラスバンドはつきもの。故人が寂しくないように、一晩中、演奏を続けるのだ』、『トンガ人はのんびりしている。バス停で午前九時のバスを待っていても来ない。おばさんは「九時のバスでしょ?午前中に来ればいいわ」』と答える場面など、トンガの人々の日常生活の様子が細やかに描かれ、今まで全く知らなかったトンガ王国に、とても親近感が湧いてきました。

    そして、物語は最後の4章〈絶唱〉に進みます。恐らく彼女が第一人称だろうという予想が全く外れるまさかの展開。全く予想だにしなかった人物が第一人称として登場します。そして、そんな第一人称視点になった途端に、それまでの3章を読んでいたこと自体、完全に頭から消え去るくらいのまさかの物語が展開します。あの日、あの瞬間、あの場所で何が起こったのか。生死を分けたものは何だったのか。そして、生き残った人が歩む先に何が待っていたのか。その描写の生々しさに、厳しく辛い現実のあまりの重々しさに読むのがとても辛くなりました。そして、前半の3つの章が持つ意味合いとこの作品が生まれた理由が明らかになることで、湊さんがこの作品にどれだけ強い思いを込めていらっしゃるかもよくわかり、深い共感が私の中に生まれるのを感じました。とても重い内容ではありましたが、その結末に感じる湊さんの力強い決意に熱い思いが込み上げました。

    湊さんというと うぐぐ と嫌なあと味を残す作品が思い浮かびますが、この作品はまったく正反対。確かに内容はとても重いですが、あと味の悪さとは無縁のみならず、「花の鎖」以上に前向きな、爽やかなまでの素晴らしい余韻が残る結末が待っていました。湊さんの作品に抱く印象を完全に覆す作品。そして『どんな時でも、自分のなすべき仕事を続けてくれる人がいる』という湊さんの視点にとても共感するものがありました。
    湊さん、感動しました。応援します。ありがとうございました。

  • 楽園、約束、太陽、絶唱の4つのお話だったけど、どれも悲しかった。特に楽園。どこかで見たことあるなと思ってたけど、「白でも黒でもない世界でパンダは笑う」の清野菜名ちゃんの役に似ていた。
    最後の絶唱は、きっと湊かなえさんの実際に体験したお話。ところどころ、ぐさっとくるセリフがあった。4つともノンフィクションのお話らしいので、読んだ後、ズーンと心が沈んでしまった。

  • 友人に借りた本

    久々の湊かなえは、ミステリーっぽくなくて心が少しジーンとなるやつだった。
    個人的にはドロンとしたミステリが好き

  • 湊さんによる阪神大震災本。イヤミスじゃないな、と軽快に読んでたら、4分の3位で心臓を鷲掴みにされた。若さゆえか、未熟さゆえか、思うような行動を起こせなかった主人公たちに、当時の自分を重ねて、深く思う。

  • 賛否両論の作品のようですが、すごく良かった。
    きっと、この作品を書くことはものすごく覚悟がいることだったと思う。
    正直、作品として楽しんでいいのかもわからない。そこも含めて湊かなえって天才なんだなと思う。いい経験した、読書っていいな、と思える作品。

    阪神淡路大震災で被災した4人の主人公が、南の島トンガのゲストハウスで繋がっていく。途中のトンガの人々の描写がやけに生々しかったのも、そういうことだったのかと気が付く。

    『楽園』 震災で死んでしまった双子の毬絵。生き残り大学生になった雪絵は、楽園を求めてトンガへ。彼女は自分はマリエだと名乗る。
    『約束』 国際ボランティアでトンガにきた、家庭科教師の理恵子。彼女に会いに婚約者の宗一がやってくる。宗一•••こういう男、無理。
    『太陽』 楽園でも登場する杏子。彼女が幼い花恋をつれてトンガに来たのは、震災の時に出会ったボランティアのセミシさんに会いたくて、ということだった。身につまされる。特別でなくていいから、幸せでいて欲しいと思う。
    『絶唱』 ゲストハウスの尚美さんにあてた”主人公”からの手紙。つらい•••。絶唱とは、声をかぎり感情をこめて歌うことだそうだ。

    本編とは関係ないけど、文庫版の帯、読後にみたら煽りすぎで少し嫌だった。あえてなん?フィクションだとしてもよくない。

  • 『楽園』
    →5歳の双子の姉妹毬絵ちゃんと雪絵ちゃん。
    阪神淡路大震災で毬絵ちゃんが亡くなってしまい、雪絵ちゃんは「毬絵ちゃんの分まで生きようなんて思わなくて良い。雪絵ちゃんは雪絵ちゃんらしく生きてくれれば。」と言われて育つけど・・・。

    大学生になり、二十歳を目前に控え・・・。

     読みは合ってました。でもやるせなかったなぁ。彼氏が良い子で良かった良かった。

    『約束』
    →大学のテニスサークルで出会った理恵子と宗一。
    社会人になりこのまま結婚しようと思ってたけれど、理恵子は踏み切れずにいて、、、。

    『太陽』
    →25歳の杏子と5歳の花恋(かれん)。
    母娘二人でどうにかやってきたけど、このままでいいわけはなくて、、、。

    『絶唱』
    →女子大生の千晴は阪神淡路大震災で大事な人を亡くす。
    あの時、もっと出来る事があったんじゃないか、他にやりようがあったんじゃないか・・・。

     4編の短編集なんですが、全て関連がありました。
    みんな阪神淡路大震災で大切な人を亡くし、心に傷を負い、地上の楽園トンガに行きつきます。

  • 阪神・淡路大震災とフレンドリーアイランドと呼ばれるトンガ王国。この2つが繋ぐ人と人との物語、というのが今回の小説のテーマであると私は思います。

    1章〜3章では、3人の女性視点のトンガ王国に来た経緯と、トンガでの日々について綴られていました。1章では、恋人がかつて描いてくれた景色でなら、自分とは何なのかを見つけられるのではないかとトンガに来た女性。2章では、ある人との約束を守るためと言い聞かせ、婚約者で居続けている男性がいるが、これが本当に私の人生なのだろうかと悩む女性。3章では、大学を中退してまで女手1つで子供(5歳)を育てているが、かつての恩師に会いたい一心で、何もかもから逃げたくてトンガにきた女性、の3人で最初の3章は構成されていました。3人それぞれに阪神・淡路大震災での辛い記憶があり、けれど、トンガに「何か」を求めて訪れ、これまでとこれからの人生について、気付き、考えるといった内容でした。どのお話もとても印象深く、心に残りました。

    最後の章では、著者の私小説と言った感じの形式でした。この章も阪神・淡路大震災、トンガ王国、周りの人との繋がりが書かれていました。周りに人がいるようで「自分も他人からも1番ではない」というのは、割と誰もが1度は思ってしまうことなのではないかと思います。しかし、それでも人生は続くし、人との出会いと思い出は人生において必要不可欠であり、大切なものです。筆者の実体験だと理解した上で、もう一度読むと、この本を執筆・出版すると決めた覚悟までどんな道のりを湊かなえさんがたどってきたか知ることができました。

    全ての話を読み終え、4人それぞれ(個人的には尚美さんも入れて5人)の人生を振り返り、トンガでの出会いを経て、これからの4人の人生を応援したくなったと同時に涙が止まりませんでした。

    湊かなえさんといえばミステリーが多い(重めの作品もある)イメージが強かったのですが、この本は個人的にはミステリーというジャンルではないと思います。しかし、大変読む価値があり、物語に引き込まれ、考えさせられることが沢山あったので、読んだことの無い方や、普段ミステリー作家さんの作品は読まないという方々にも強くおすすめします。

  • 今まで読んだ湊かなえ作品とは少し毛色が違う感じだった。阪神淡路大震災をキーとして、何人かの登場人物とトンガという地が、4つの章に分かれながらも少しずつ重なり合う様に出てくる。

    著者のお歳からして、その時いたであろう場所を鑑みても、第4章の「絶唱」に出てくる千晴は著者自身、ひいてはこの本全体は事実を主体として書かれているのでは、と思う様な内容。大学時代は家政学部被服学科にいらっしゃったことや、青年海外協力隊でトンガに赴任していた経験も事実と重なっている。

    トンガの人々の死に対する考え方がとても興味深かった。「別れることが悲しいのであって、死自体は悲しいことではない。死とはイエス様と同じ世界に住むことが許されたという証で、喜ばしいこと」というもの。お葬式でも明るいマーチを一晩中演奏して、死者を見送るそう。なんかこういうお葬式いいな〜と思った。

  • トンガと阪神淡路大震災を軸にしたオムニバス短編集。何かを掴みかけた気がして、でも実際は何も掴まず読み終わってしまった。
    短編集ってどうも苦手だ。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

湊かなえの作品

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