中の人などいない: @NHK広報のツイートはなぜユルい? (新潮文庫 あ 82-1)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101268811

作品紹介・あらすじ

お堅いNHKらしくない「だめキャラ」で、公式ならぬ軟式と呼ばれて人気の@NHK_PR。いまや企業広報の「お手本」と名高いNHK広報局のツイッターアカウントも、はじめはひとりの職員がこっそりと始めた非公式なものだった。ゆるいツイートに秘められた真意、炎上騒動、そして東日本大震災の日――。笑いと感動の舞台裏を初代担当者が明かす。後日談「外の人になりました」収録。

感想・レビュー・書評

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  • 『僕らは嘘でつながっている』で著者を知って興味を持ちました。
    日本のツイッター黎明期にNHKの広報としてツイッターを開始した著者。悩みもがきながら視聴者との関わりを探る自身の姿を、ちょっぴり無駄な背景描写を交えながら面白おかしく書いています。

    当時から緩すぎる投稿にクレームや指摘を受けたり、炎上していたPRアカウントですが、お堅いNHKというイメージを変えるべくアカウント自身に性格を持たせて「みんなと会話をする」という軸だけを頼りに乗り越えていきます。
    最後に著者が出した答えは「みんなのNHK」ではなく「みんながNHK」。そのために自身はやはり「中の人」ではなく「中の人などいない」というスタンスでツイッターに取り組んでいたと言います。

    著者が感じた不安などの感情や考え方、気づきなどがとても生々しく、こころに刺さるものがありました。私も仕事でツイッターを運用することがあるので、もちろん勉強にもなりました。
    東日本大震災時の著者の対応に関する葛藤や苦しみは、読んでいて涙が出てしまいました。

    2012年に刊行された本です。10年前もツイッター界隈のユーザー層って今と変わらないんだなぁと感じる一方、企業としての姿勢や方針は変わっていくもの。NHK_PRのアカウントをのぞいてみたら、会話するというよりは番宣よりになっているようです。NHK以外のアカウントをフォローしないという「フォローの考え方」を公開していました。
    https://www.nhk.or.jp/rules/platform/twitter-follow/
    残念だなとは思いますが、NHKも変化が大きく早いといわれる世の中の声を聞き、検討を重ねた結果なのでしょう。
    そういう今昔を味わえるという意味でも興味深い本でした。

  • 2015年12冊目。
    同じ新潮文庫の、震災についてのノンフィクション『できることをしよう。』がとっても良い本だったのだけど、その中に、NHK広報局のツイートに関するお話がありました。
    それで、この本が気になって読んでみました。
    震災時のエピソードはもちろん、Twitterのもつ可能性や危険性など、やさしい文体なのに内容は深〜くて、勉強になりました。

    広報と広告(宣伝)のちがい。
    PRのためではなく、みんなと仲良くなるため。
    企業にとって、こんなTwitterを運営する社員がいたら、かなり面白いと思います。

  • 文庫版を入手できたので再読。やわらかく優しい文体の中に信念を感じる。当時の事件は全く知らないけど、SNSの根本的な性質が変わっていないからか、古い話題のようには感じない。ところどころ小説っぽい表現も楽しい。

  • Twitterとの付き合い方を考えさせる一冊。

    小説を読んでいる感覚で、NHK_PR1号さんがどんな気持ちでアカウントを運営していたかが分かる本。
    とても読みやすいし、本当に描写が小説みたいだなと思っていたら、ドラマの脚本なども手がけているそうで。

    半分くらい読んだ所でやっと、時々ページ数の横に顔文字やコメントが入っていることに気付いた。
    既に読んだところにもたくさんあったようで、なんでもっと早く気づかなかったのかと反省。

    Twitterとうまくつきあうのに参考になる。炎上した話や3.11の話など、自分の身に降り掛かった時にそれらのリプライにどう対応すればよいのか。またはそういうリプライを無意識に他人にしていないか。
    マス(メディア)ではないがマスのアカウントの一つであるNHK_PRの運用経験談を通じて、考えさせられる。

    Twitterを発信ツールとして使う人だけでなく、情報収集ツールとして使っている人、あるいは他人のツイートに反応するだけの人も、一度読んで欲しい。文章量は多くないのですぐ読めます。

  • NHKなのにあのゆるいツイート。
    思わず大丈夫なのか?と心配してしまうゆるさですが大ファンです。
    そのゆるツイートの裏側を見れて面白かったです。

    311の日の話が一番印象的。
    あの日からしばらくは混乱の中にいたので直接のツイートは見ていなかったのですがやっぱり批判はあっただろうな。それと同時に勇気づけられた人もたくさんいたと思います!!

  • 「中の人などいない」ちくたくさんに、また会えました。こちらが心配になるくらい、率直。でも暖かくて楽しいツイートが楽しみでした。時々の応酬も嫌みがなくて、切れる方なんだなぁと。

  • チープな言い方だけど、自分のやるべきこと、できることに対して信念を持って、真摯に向き合い続ける様にはほんとうにグッとくる。
    すごく読みやすいけど、311の回を始めときどき涙しそうになるので危険。
    どうすればいいのか、という思案について、「その方が良いに決まってます」のかいとうがすごく心に残ってる。

  • 単行本で発売されたときに読みそびれたので、このたびの文庫化で手に取った。

    NHK広報のtwitterアカウントは私も時々見るけれど、あのスタイルがどういう経緯で出来上がったのにはすごく興味があった。それを元「中の人(いないことになっているけど)」の浅生さんが「外の人」になった今の立場から、担当していた当時を振り返ってつづっていらっしゃる本。

    基本的には浅生さんがこっそり一人で始めたプロジェクトだったはずのNHK広報のtwitterアカウントが、既成事実的に周りを巻き込んで定着していくさまが描かれており、筆運びは全体的に知的に上品で軽やかで嫌味がない。ほぼノンフィクションでお書きだと思うけど、浅生さんご自身や、登場するご友人など、周りのかたの人物造形と配置がライトノベルのようにも感じる。ゆるふわぼんやりめの主人公+表面上は良識ある社会人で、内面キレッキレのサブキャラたちとか。しかも浅生さんの業務もろもろにGOサインを出すNHK内部の人たちがおっそろしく大人で、個人スキルも判断力も優秀。バッシングを受けることも多い放送局だが、浅生さんの思い出美化分を差し引いても、日本の放送の一角を確かに担っていることもうなずける。

    twitterを利用して4~5年経っている人なら、「ああ、あれね」と記憶にあるようなレスポンスや炎上案件がひと通り取り上げられているが、3.11当日からしばらくのやりとりを記した章はやっぱり読んでいてつらい。浅生さんは目配りの行きとどいたtwitter担当者ではいらっしゃったけれど、やっぱり魔法使いではないので、生命の危機にあるユーザーさんから悲痛な声が届いても、実際に何かをしてその人の危機を取り除くことは難しい。というよりもほとんどできない。変なたとえだけれど、レーダーから機影が次々と消えていくのを黙って見ているしかない管制担当者(ゲーマーでも可)の気持ちに近かったんじゃないかと思う。私の知人にも、「あれから更新のなくなったアカウントは、twitterなんかいらない充実した生活を送ってるんだ、と思うことにした」と言っている人がいるくらい、ヘヴィな時間だったと思う。この時期の運営で心を病んでしまったとしても非難できない重さを救ったのが、浅生さんが緻密かつ適当に作り上げたアカウントのキャラ設定だったのかもしれない。ほんとうにお疲れさまでした。

    単行本が発売されたときに、浅生さんが運営していらっしゃったNHK広報のツイートとシンクロさせて読むこともできただろうが、そういうリアルタイムの熱が収まった今読むのがいいようにも思う。一つのツールに振り回される個人の七転八倒ぶりを楽しむこともできるし、過剰にSNSに入れ込んで病み疲れてしまいそうなときのブレーキ役にもできる(かもしれない)、素敵な体験記でした。たかが中の人、されど中の人です。

  • ふと、本書の存在を知って購入。
    NHK_PRさんはとても好きなアカウントで、よくtweetを拝見していました。
    tweetの向こう側で起きていたこと、考えられていたことにふれ、改めてあたたかな気持ちになりました。
    読めてよかったです。

  • お堅いイメージのあるNHKとは思えない、ユルいツイートが話題を呼んだTwitterのNHK広報アカウント @NHK_PR。Twilogを見てみたら、アカウントが登録されたのは、2009年11月29日。ちょうどTwitterがブームになった頃ですね。津田大介氏の『Twitter社会論』が出版されたのがこの年。

    この本は、NHK広報アカウントの開設に始まって、著者である初代担当者(NHK_PR1号)が2代目担当者(2号先輩)にアカウントを引き継ぐまでをまとめた記録的エッセイ。
    単行本は、NHK_PR1号の名前で出されていましたが、著者がNHKを退職したことから、文庫化に際して、ペンネームの浅生鴨の名義に変わりました(ペンネームの由来は、口癖の「あ、そうかも」とのことですが、そのわりに、この本のなかでは「あ、そうかも」という言葉はないような……?)。
    NHK広報アカウントの面白いエピソードや裏話がたっぷり語られていて、ときどき出てくる顔文字になごみます。Twitterアカウントの運営方法だけでなく、企業の広報のあり方について、とても示唆にとむ内容でした。「ナカノヒトナドイナイ」。これはギャグではなく、ポリシーなのでした。

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著者プロフィール

作家、広告プランナー。1971年、神戸市生まれ。たいていのことは苦手。ゲーム、レコード、デザイン、広告、演劇、イベント、放送などさまざまな業界・職種を経た後、現在は執筆活動を中心に、広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手掛けている。主な著書に『伴走者』、『どこでもない場所』、『ぼくらは嘘でつながっている。』『すべては一度きり』『たった二分の楽園』など。近年、同人活動もはじめ『異人と同人』『雨は五分後にやんで』などを展開中。座右の銘は「棚からぼた餅」。

「2023年 『浅生鴨短篇小説集 三万年後に朝食を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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