- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101269313
作品紹介・あらすじ
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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朝井リョウさんの直木賞受賞作品「何者」
著者の作品は以前読んだ「正欲」以来2作品目。
物語の題材としては好きではない「就活」がメインの物語。
直木賞作品だったのでそうと知りながら読んでみたのだが、やっぱり「就活」の絡む作品はのめり込めないし好きじゃない。
以前朝倉秋成さんの「六人の嘘つきな大学生」を読んだ時も思ったのだが、自分が大学進学、大学生活、就職活動のいずれも経験していないから、なんだか全てが絵空事のように感じる。
自分自身、当時は物欲が本当に強く欲しいものが多すぎて働いて稼ぎ手に入れるしか方法がなかった。高校生から学校以外の時間、学校もサボり気味にバイト、18歳から焼き鳥屋の社員として働きまくっていた。暇さえあれば働いていた。
作品の登場人物達が大学生活、就職活動を行っている時分、自分はというと掛け持ちも含め月/400時間以上毎月働いていた。
当然金銭的な援助も受けておらず、それでも月収50万を下回る事はなかった。
そんな生活をしていた為、大学生活、就職活動の話を自分とリンクさせてみても、自分にはなんだか別世界の物語として実感が持てなすぎている。
言い方は悪いが甘すぎると感じてしまう。生活費や大学にかかる授業料諸々の費用などほぼ全額自己負担している人など極少数だろう。
その環境の中で馴れ合うように同じ道を歩めば馴れ合いの歩様にしか自分には見えない。
10代後半~20代前半の自分と物語との生活スタイルのギャップを埋められない、逆に埋めたくない反発心から歩み寄りたくない感情が強く、何故か毎回自分には否定したくなる気持ちが芽生える、コンプレックスなのかもしれない。
そして自分には「仕事」に対して強烈なプライドと信念がある。
だからこの題材の作品は素直に読めない。
そして「何者」というテーマ。
こちらに関しても自分の両親、周りの大人の方々、焼き鳥屋の社長、自分の意見を尊重しつつ本気で厳しく接してくれ、追い詰められ考えさせられ自分という人間を形成してきたおかげで、かなり早い段階から自分が何者になりたいのか?なるべきか?そのためにどうすべきか?常に気づかさせていただいてきた。当時はきつく苦しかったが今にして思えば恵まれていたと感じる。
多分に同年代の主となる傾向とは違う道を好んで選んで進んでいたが、自分を取り巻く人達が力強く後押ししてくれていた。焼き鳥屋の社長には引っ張り上げてもらった感じまである。感謝しかない。
物語の登場人物達も作中でグチャグチャな人間模様を見せたが、仮に自分がこの中にいたらもっと酷い感情を剥き出しているだろうななんて感じながら読んでいた。
あまりにも前段階で他人との接触が無さすぎる。
大学生同士、同年代同士、自分と似た環境や境遇や傾向の人々としか濃密なコミュニケーションがとれていない為、他の生き方、他の生活、他の考え方、他の道を選べない、皆と同じ様な型にはまることしか正解としか思えていない。
他の事を後押ししてくれる人が皆無。周りの人物達の力弱さを感じさせられる。
自分は年も重ね、かつて自分がそうしてもらっていたように若い人達に自分が背中を押し、引っ張りあげる方になっている。
何に対してもいっぱい経験する事だ、いっぱい知る事だ。経験したことは数を重ねれば自信になる。
自信になればそれが自分の武器、強みになる。そこでまた発展して考えればその武器は鋭利さを増し幾らでも社会で戦える。
自信が最終的には自分の背骨となりいつでもしっかり立っていられる。
後は気持ちの問題、周りを取り巻く人達が幾らでも本気で背中を押してあげればそれでいい。
偉そうに書いてしまうが「就職活動」大学生達は前段階でその原点の自分の武器をしっかり掴んでほしいなと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
私の中の朝井リョウさんは、エッセイの「腹と修羅」イメージが強すぎて、(失礼ながら)笑ってしまいます。真剣さの陰にある滑稽さ‥ぷぷぷっ‥。
本作は、大学生たちの就活を扱った物語です。就活を通して、人の本性を炙り出すような作品だと思いました。
個人的には某採用試験のみで、数多の入社試験の受験経験がないので就活の実体験が乏しいです。それでも、人生の中で一時的なものだとしても、当事者にとっては今も昔も十分過ぎるほど思い惑わされる一大イベントに他なりませんね。
「自分を飾る、誇張、打算、演技」から、「落ちる、拒絶?、自信喪失、人間不信、諦念」につながる心理描写は、読み手の心理までも見透かされているようで、恐ろしささえ覚えます。
また、SNSの危うさを巧みに織り交ぜながら、日頃私たち人間が使う「言葉」について、その重みを考えさせられました。
痛くてカッコ悪くても、何者にもなれなくても、それを自分で認めてそこから出発すること‥、浅井さんは全てを俯瞰し、かつ軽やかにSNSを使いこなす若者へも、愛あるメッセージを発してくれている気がしました。
人の多面性・裏側の恐ろしさと明日への希望を両立させた、秀作だと実感しました。ある意味、本作も「真剣さの陰にある滑稽さ」の原点なのでしょうか? -
就活あー懐かしい!
学生は敷かれたレールに沿ってればよいだけ
社会という大海原に初めて直面する通過儀礼
卒業すると学生という免罪符が無くなり、世間は冷ややかに
新卒はプラチナチケット
あの頃友達と情報交換したっけ?
それぞれ違う道を選択し、否定せず尊重
だけどみんな自分で精一杯で結局は他人事
これが社会 自己責任
そうやって選択した会社が正解とは限らない
選んだのは自分
十分吟味し納得して決意したか?
高々20代前半の選択は正しかったのか?
もぉ後戻りできない一度きりの人生
自問自答
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初読みの作家。直木賞と映画になっていたんですね。表紙の俳優達と小説の中の登場人物が一致せず、何度も途中で見てもイメージしにくかった。映画も評判良かったのだろうか?
就職に必死になって、自分達を飾ったり、偽りの自分を出して何者かになろうとしている姿を辛く感じてしまった。会社で採用面接官や昇格面接官を何度もやってきたので、そう思うのかも知れない。偽っていても、ある程度の本質は見られるもの。あとは、会社が求める人材かどうか。
主人公や上の階のカップルの言動にも不信感を持ったり、途中で仲間割れのように本音で語る場面があって、読み進めが辛くなった。
裏表紙にあった「ラスト30ページ、物語があなたに襲いかかる。」
まさに、最後に来て怒涛の謎解きのような「何者」が顕れる。ひとつひとつの言葉が胸を抉ってしまう。モヤモヤしたまま終わってしまった。
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面白かったー。
朝井先生の人の裏側を引きずり出す作品性は本当に素晴らしいです。
手前は学生でもなければSNSも多用しない民ですが、今の時代だからこその駆け引きというか、自己主張というか、生きづらさとでもいえば良いのかわかりませんが、ネットの繋がりはやっぱり面倒だと感じてしまうのは歳のせいでしょうか。 -
就活の話かと思いながら読んでいたところ途中くらいで主人公・二宮拓人が人が発する言葉や行動を心の中で分析して批判していることに、流石に後半は『またか…』という思いになり、腹立たしく感じるようになった。それでも最初は、「『演劇』をしている人はよく人を分析してるなぁ」と、その設定に作者の力量に感心する。
ニュースなどでSNSの便利さと恐ろしさは話題に上がっているが、情報の取得、配信を利用した犯罪。犯罪にならなくても人の心部を侵してしまう誹謗をつぶやき、呟やかれた側だけでなく、つぶやいた側に人間の汚い感情を浮き上がらせてそれが正当であるように錯覚させるような感覚を助長する。上手く言えないが、嫌な気持ちにする力と嫌な気持ちにさせられる力…そんな力を改めて感じた。 -
なりふり構わず何かに必死になる人、それを離れたところから見て馬鹿にして笑う人。どちらもいるなぁ。就活生に限った話ではないなと感じた。
裏アカって、怖いなー。 -
なんだろう。
素面で読めない。あとオシャレなカフェとかでも読みたくない。
この本に感想を書くこと自体が何かへの挑戦のようでとても嫌なのだが、書かないのも逃げてるようで嫌になる。
就活をする5人の男女による群像劇で、全員よくいる感じの大学生だ。共感できるというよりも、ああ〜いる、こういう奴いるわーという感じの。
それぞれの就活模様とツイートが、少しずつ人物を浮き彫りにしていく。
就活もSNSも、自己を発信する側なのに振り回される方が多い気がする。
この本を読んでいると目の前を覆いたくなる。おかしくない様に、わざとらしくない様に、丁寧かつ無造作に貼り付けた虚飾を、目の前で一枚一枚剥がされる様な気まずさがある。
この作品が直木賞を受賞したのが2012年。
就活、SNSといかにも「現代の若者」の話に見えるけれど、8年後に読んでみて風化した感じはしない。
当時と今で様相が大きく変わらないからというよりも、やはり人間を書くのが上手いからだと思う。
もともと就活の現状を書こうとしたわけではないんだろうが、今の就活を知らなくてもSNSをやってなくても、こういう奴いるわーと思えるくらい、一人ひとりに立体感というか説得力がある。
SNSじゃなくてもいる。ちょっと話しを盛る人、斜に構えた発言ばかりの人。頑張ってる、苦労してる。家と会社で別の顔を持っている、コミュニティでキャラが変わる。
圧倒的に「今」の話なのに、人間の「普遍」的な部分が書かれている。
そんなところが審査員との世代を超えて直木賞を受賞した一因だろうか。
実はこの作品を読むのは長いこと避けていた。就活の話とか傷を抉るものを読みたくないというだけでなく、朝井リョウの就活小説ということで。
自分は作者と比較的年が近いのだが、朝井リョウのイメージとは、「同世代で有名大学に進学して在学中に作家デビューしてベストセラーで映画化で直木賞で大手就職のリア充作家」というものだった。朝井リョウの就活とか高みの見物だろうという。
あー、恥ずかしい。この本を読んだ後だと特に恥ずかしい。
でも似たような偏見持ってた人いただろう!と思いながらも、そんな馬鹿自分だけかも、とも思う。こういう時だろうか。ネットで暗い検索をかけてしまうのは。
『何者』にはそういうことが全部見透かされている気になる。
読んでいて嫌になるところは本当にたくさんあるのだが、一番嫌なのは、特に何も言ってこないところだ。
新卒一括採用の功罪とか、SNSによる自意識の煽りとか、カッコ悪いことを認めていこうぜとか、読者に押しつけられるものは何もない。
ただプロフィール欄は記入自由であると分かるだけだ。
これは文句たらたらで⭐︎5。