何者 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 6834
レビュー : 830
  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101269313

作品紹介・あらすじ

就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 痛い、いたい、イタイ…。読みながらずっとキリキリヒリヒリ。読み終わった時やっと楽になれた。凄い作品だった。

    膨大な量のEC、正解のない面接、駆け引きのグルディス、短い言葉で自分を表現し相手に伝える事は難しい。頑張っても頑張ってもかかってこない電話が彼らを追い詰め、自分が何者かどんどんわからなくなっていく。

    自分が落ちてばかりの時友達の内定を心から祝福出来るだろうか。自分だけが内定を取った時どんな気持ちになるのだろうか。

    私だって拓人や理香と同じ事考えてしまう。この作品が痛くて仕方がない。自分の嫌なところをグリグリえぐられて泣きたくなってしまう。私たちは弱い人間なのだ。

  • 「就活」が、いちばん汚い感情を暴き切る。
    文庫の帯文句の一文が印象に残り、正直躊躇するところもあったのだけど、朝井リョウの長編をまだ読んだことがなかったので、手に取ってみた。
    予想以上にどす黒い感情の交錯に、毒気に当てられたような状態になり、読了後しばし呆然としてしまったのだけれど…これまで朝井さんの爽やかな作品しか知らなかったので、痛さや苦さに満ちた本書は鋭く心に突き刺さった。
    「就活」という言葉すらまだない20年以上前に大学生だったもので、就職活動にSNSが絡んでくるということがピンとこなかったけど、不採用続きで内定が出ないことへの焦り、意外に器用に活動をこなす友への嫉妬、内定にこだわって数打ちゃあたるで臨みながらも、どこかで自己実現にこだわりたくなる過剰な自意識…当時感じていた負の感情が甦り、それはいつの時代も変わることはないのだなと思い知らされた。だけど時代の流れか…現代、そんな本音はSNSを通じて醜く形を変えて自分に、誰かに、襲い掛かることもあるのだと怖くなった。
    男女4人のメインの登場人物、なかなか共感はできなかったのだけど、一番理解できたのは瑞月かな。「私ね、ちゃんと就職しないとダメなんだ。」この言葉に込められた彼女の置かれている立場の切実さ。就活に臨む姿勢が、当時の自分と比べて一番近く、彼女の発する言葉の一つ一つが胸に響いた。理香と隆良のおしゃれカップルは、アンソロジー「この部屋で君と」所収の“それでは二人組を作ってください”で出会っている(本書を手に取ったのもこの短編がきっかけ)。『何者』のエピソードゼロ的な作品のため、頭でっかちながら不器用なところが印象的な2人は好感が持てたのだが、『何者』では気取った感じとか型にこだわる様が途中まで痛く感じられて、正直戸惑った。読む順が逆だったら印象も変わっただろうか。
    クライマックスの展開にはただただ脱帽。朝井さんの恐ろしさ(いい意味で)を存分に感じた。心がバラバラになりそうだったけど、何だか泣きたくなった。徹底的に苦いのに、不快にならないのは、解説の言葉を借りるならば朝井さんの「どうしても隠し切れない優しさが滲み出ている」からだと思う。
    登場人物らに共感できないと言いつつも、彼らのその後が気になる。後日談のような形でスピンオフを読みたいなという気にさせられたのは…彼らの姿に、己の若かりし頃のみっともなさを見たからかな。

  • 読み進めるうちに自分は何者なんだろう・・と主人公と一緒に考えてしまう作品。大学生の就職活動がテーマ。就活前は演劇活動に夢中だった分析系男子の主人公拓人が、同居人であり天真爛漫なバンドマンの光太郎、光太郎の元カノで拓人の想い人でもある素直な瑞月、上の階に住む意識高い系女子の理香&空想クリエイター系男子の隆良カップルと就活仲間として5人で過ごしていく中で繰り広げられる人間模様が現実世界とツイッター世界を行き来しながらリアルに描かれている。当初は拓人に感情移入しながら周囲の人々を分析し、「確かにこういう人いるなあ〜」と私自身も拓人と一緒になって理香や隆良の事を批評家目線でみていた。しかし終盤になるにつれ拓人に対しモヤモヤした感情が大きくなり、理香と一緒になり拓人、そして自分自身に喝を入れたくなる気持ちになっていた。拓人のように自分自身を否定されること、自分が何者でもないことを受け入れるのが怖くて、スタートラインにも立たずに高みの見物ばかりしていた過去が自分にもあった。必死で頑張っている人達の事をどこか羨ましく思う一方で、逃げてばかりいたような気がする。そして、社会人になっても楽な方へ、できるだけ自分が否定されない方へと逃げる癖がついてしまっている。「何者」は私のように自分と向き合う事から逃げた経験のある人には突き刺さるものがあるだろうし、光太郎や瑞月のような人にはそこまで感情移入できない作品かもしれない。

  •  現代の就活に挑む大学生たちの姿を描いた群像劇。

     この小説のテーマは就活から浮かび上がる「かっこ悪さ」そしてそれとどう向き合うか、ということだと思います。

     なぜ就活とかっこ悪さが結び付くかというと、あくまで個人的な見解ですが「就活ほどかっこ悪くならないとできないことはないから」です。

     何がかっこ悪いって、社会的には何の実績もないのに、面接になると「自分はこんなに立派な人間ですよ」「学生時代こんなに頑張りましたよ」と相手がどれだけ本気で聞いてるかも分からないのに、アピールしなければならないこと。

     自分の就活を振り返ると思い出すのは、とある面接で最近読んだ本を聞かれ、その感想を述べると「それは大変大事なことに気づかれましたね。仕事にもつながってくることだと思います」と言ってもらったのですが、その面接は落とされたことです(笑)。

     落とされたのはまあいいとして、面接してくれた人はあの言葉はどういう気持ちで言っていたのか気になります。本心から言っていたのか、それとも内心「何言ってんだこいつ」とせせら笑っていたのか…。そして、そんな面接官の言葉に対し少しだけ手ごたえを覚え「これはもらったな」と思った自分の気持ちを思い出すと……、そんなかっこ悪いことを延々と続けなければなりません。

     自分の面接やエントリーシートに書いたことを就活を終えた今、振り返る勇気はありません。もし面接の様子を録画していたDVDなんてあったら粉々にして散骨よろしく海にでもばらまきますし、エントリーシートはシュレッダーにかけてから、燃やします(苦笑)。それだけ恥ずかしく、かっこ悪く思ってるのに、就活をする以上そうしたものは避けては通れないんですよね。

     作中の大学生たちの就活の様子、そして心情はとてもリアル。作者の朝井リョウさんも近年の就活体験者、ということもあるのだと思います。就活や就活生のかっこ悪さをしっかりと描き切っています。

     しかし、この小説の一番の読みどころは、ラスト近くのどんでん返しとたたみかけ。自分の就活を思い返しながらそれまで作中の就活生のかっこ悪さを、そして過去の自分を嗤っていた僕に、まるでブーメランのように返ってくる言葉の数々。そして最後に本当にかっこ悪かったのは誰なのか気づかされるのです。その場面は作中の登場人物のように自分のライフもゼロになりそうでした。

     ほとんどの人は今の自分とは違う、もっとカッコいい”何者”かになりたいんですよね。そして、それが敵わない場合どうするのか、それを就活とSNSという現代のテーマを使って見事に書かれていたと思います。

     たとえどんなにかっこ悪くても、そんな自分を受け入れてあがき続けなければならないのは就活でも、そしてこれからの人生でもきっと一緒のハズ。これから長い人生を歩む自分に改めてそうしたことを気づかさせてくれた小説でした。

     血反吐を吐きそうになりましたが(笑)、就活を終えたタイミングで読めて良かったです。

    第148回直木賞

  • 超久々の投稿になりますが…
    直木賞で話題になった本作、今更読みました。

    裏表紙に書いてあった「ラスト30ページ、物語があなたに襲いかかる」の存在をすっかり忘れたまま、
    「あーこういうやついるいる、わかるわー」と朝井さんのリアルな若者描写を楽しんでいたら、
    終盤、急にサーっと血の気が引きました。してやられた。

    この作品で描かれる「人間の心の闇の部分」みたいなものって、
    誰もが持ってるけれど、誰もが気づかぬフリをしている、
    そんな「痛いところ」なんだと思いました。
    それを暴き出され、突きつけられるゾクゾク感がこの作品の面白いところだと思います。

    「人とは違う自分」をアピールする人、自分の肩書きや経歴をアピールする人、自分はこんなに努力してますってアピールする人、そして、それを笑う人。
    彼らに対して読者がどんな感情を抱くかを完全にコントロールして作られた展開。
    でも読後感はどんよりした感じではなく、
    叱咤された後に励まされたような、背すじが伸びるような不思議な爽やかさがありました。
    同世代には特に読んでほしい作品です。

  • 初の朝井リョウ作品。面白い、怖い、そして両親が読んでも理解できないだろう、若者らしい作品。
    人間ってこんな感じ、みんな頭の中で考えてることってこんな感じ、とあえて誰も言及しなかった卑しいとまでいかなくても人間の小さい部分が非常にリアルに描かれてる。

    最後のあとがきに書いてある、
    この作品の魅力は、主人公の立場で感情移入し、安全な場所で傍観していた読者が、いきなり当事者になり変わる点だろう
    というところが、そうまさに。

    人間っていろんな考えの人がいてそれがいいというし、私もそう思ってるけど
    結局のところ自分の考えが一番好きだし、自分が一番正しいと思ってる。言葉には出さずとも。

    ううん、少し不気味だけど読んでよかったと思った小説です。

  • ちゃんと就活する人、ESガーOB訪問ガーって就活に洗脳されたような人、そんな人を馬鹿にしつつも就活する人、そもそも就活せずに自分は人とは違うと思い込んでる人、なんだかんだでちゃっかり内定を貰う人…
    皆知ってる。登場人物皆、心当たりのある人ばかりだった。もちろん自分もどれかに当てはまっている。

    私は、就活を馬鹿にしてダサいダサい言ってる人だが、そう言う姿こそダサくてかっこ悪いということも知ってるつもりだった。
    それと同じように、私みたいな奴に馬鹿にされている、就活に毒されたような人も、そんなことしてる自分がダサいって気付いてるんだ。気付いてて媚売って内定に群がってるんだ。

    なんだ、お互い様じゃん。

    結局、何してもダサいかっこ悪いと思われるなら、もう何したっていいじゃん、と思えて少しすっきりした。
    その代わり、皆ダサいんだから、特定の人をダサいって笑うのはやめなきゃな。

    それにしても朝井さんの観察力って凄いな…


    「「就活をしない」と同じ重さの「就活をする」決断を想像できないのはなぜなのだろう」
    「ダサくてカッコ悪い今の自分の姿で、これでもかってくらいに悪あがきするしかないんだよ、もう」

  • 現代SNS
    あるあるすぎて刺さる刺さる
    私も一時愚痴や悪口いうだけのアカウントもってましたが、時間たって読み返すと当時の怒りや情けなさがぶり返すので止めました

    あえて私も傍観者側からいわせていただくといるいるこういう人たち!
    常にマウントとってる人、誰かの意見をRTして食って掛かってる人、僕はそうは思わないって言ってる人
    それで日ごろのストレス発散してるんだろうな
    (私はしないけど!←っていう人)

    就活生が主人公でしたが今時就活こんなに大変なんですね。
    確かに昔は男だけやってりゃよかった就活に同じ条件で女子がはいってきたら単純計算でも倍率二倍になりますもんね。
    就職はゴールじゃなくてスタートだよというのも当事者からしたら外野は黙っとれでしょう。

    最後に自分はおろかだったと気づくあたり、やはり皆イイコなんだな救われるなと思いました。

    すごく面白くてうちに帰って一気に読んでしまいました。これくらい面白い本もなかなかないです。

  • 図書館で。
    「桐島部活やめるってよ」も痛かったけどこの小説も痛いなぁ。痛くて、痛い。面白いとかそう言うレベルじゃ無く刺さる。きっと何者にもなれないお前たちに告ぐってアニメの台詞があったけどここから来たのかな?

    自分の事は棚上げして人の行動は揚げ足をとりたくなるのは物凄いよくわかる。だって自分の言動を毎回顧みてたら前に進めないし。そして自分は他と違う、と思いたい気持ちもよくわかる。だからこそこんなにSNSとかのツールが普及したのではないかと思う。誰かに認めてほしいという承認欲求の為せるモノなんだろうとは思うけど、家族や友人にも言えない自分の本音を他人にはさらけ出せるというのは皮肉な話だと思う。
    就職活動で落とされると自分を否定された気持ちになるからなぁ。他で肯定されていって気持ちはワカル気はする。けれども他人を貶めて良いという理由にはならないけれども。

    とは言え就職活動って確かに面倒で大変だったなぁと思い返すとうへぇと言う感じです。今までほとんど考えてこなかった当然あるべき「自分」ってどんな奴で、どんなことが好きで嫌いで、どういう長所と短所があってなんて一番「自分」がわからないんじゃないかな、なんて思ったりするし。自分の顔を一日の内で一番見てないのが自分と同じで。他の人の方が案外、よくわかってるんじゃなかろうかと。そして今までは出る釘は打たれる社会で右に倣えで集団に交じっていれば間違いなかった世界から、他ではなく自分をアピールするなんて行動を苦手とする若者が居るのはよくわかる。だって日本人って含羞の世界に生きてるし、声高に自分の良さや手柄を言い募るのは褒められない世界に生きてきたのに今、何故って感じで。だから一度就職しちゃうとどうもあまりよくない企業だなとわかっても中々離職する勇気が持てないのは、就職活動をもうしたくないって気持ちが大きいからじゃないかなぁと思ったり。

  • 意識高い系の人や発信型リア充に対して一歩引いた冷めた視点で見てしまう。そんな拓人の姿に自分の姿が重なる。映画でも彼に自分を投影して見ていたが、やはり文章だとより染みる。そして、いわゆる意識高い系の理香。イマドキの大学生の光太郎。芸術者気取りの隆良。主人公と鮮やかなコントラストを成す、純粋な瑞月。現在の大学生のリアルな感覚を捉え描く朝井リョウの人間観察力、時代を読む力は見事と言わざるを得ない。この物語はラスト30ページに集約される。メタな視点に浸り観察者ぶっていても何にもならない、何者にもなれない。カッコ悪くてイタい自分の姿を自覚しながら足掻くより他に自己実現への道はない。理香の迫力ある語りが、胸に刺さりいつまでも残る。

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著者プロフィール

朝井 リョウ(あさい りょう)
1989年、岐阜県生まれの小説家。本名は佐々井遼。早稲田大学文化構想学部卒業。
大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー、後年映画化された。
大学では堀江敏幸のゼミに所属し、卒論で『星やどりの声』を執筆。2013年『何者』で第148回直木賞を受賞。直木賞史上初の平成生まれの受賞者であり、男性受賞者としては最年少。『世界地図の下書き』で、第29回坪田譲治文学賞受賞。
その他代表作に『少女は卒業しない』、映画化された『何者』がある。

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