何者 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 7072
レビュー : 851
  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101269313

作品紹介・あらすじ

就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 痛い、いたい、イタイ…。読みながらずっとキリキリヒリヒリ。読み終わった時やっと楽になれた。凄い作品だった。

    膨大な量のEC、正解のない面接、駆け引きのグルディス、短い言葉で自分を表現し相手に伝える事は難しい。頑張っても頑張ってもかかってこない電話が彼らを追い詰め、自分が何者かどんどんわからなくなっていく。

    自分が落ちてばかりの時友達の内定を心から祝福出来るだろうか。自分だけが内定を取った時どんな気持ちになるのだろうか。

    私だって拓人や理香と同じ事考えてしまう。この作品が痛くて仕方がない。自分の嫌なところをグリグリえぐられて泣きたくなってしまう。私たちは弱い人間なのだ。

  • 「就活」が、いちばん汚い感情を暴き切る。
    文庫の帯文句の一文が印象に残り、正直躊躇するところもあったのだけど、朝井リョウの長編をまだ読んだことがなかったので、手に取ってみた。
    予想以上にどす黒い感情の交錯に、毒気に当てられたような状態になり、読了後しばし呆然としてしまったのだけれど…これまで朝井さんの爽やかな作品しか知らなかったので、痛さや苦さに満ちた本書は鋭く心に突き刺さった。
    「就活」という言葉すらまだない20年以上前に大学生だったもので、就職活動にSNSが絡んでくるということがピンとこなかったけど、不採用続きで内定が出ないことへの焦り、意外に器用に活動をこなす友への嫉妬、内定にこだわって数打ちゃあたるで臨みながらも、どこかで自己実現にこだわりたくなる過剰な自意識…当時感じていた負の感情が甦り、それはいつの時代も変わることはないのだなと思い知らされた。だけど時代の流れか…現代、そんな本音はSNSを通じて醜く形を変えて自分に、誰かに、襲い掛かることもあるのだと怖くなった。
    男女4人のメインの登場人物、なかなか共感はできなかったのだけど、一番理解できたのは瑞月かな。「私ね、ちゃんと就職しないとダメなんだ。」この言葉に込められた彼女の置かれている立場の切実さ。就活に臨む姿勢が、当時の自分と比べて一番近く、彼女の発する言葉の一つ一つが胸に響いた。理香と隆良のおしゃれカップルは、アンソロジー「この部屋で君と」所収の“それでは二人組を作ってください”で出会っている(本書を手に取ったのもこの短編がきっかけ)。『何者』のエピソードゼロ的な作品のため、頭でっかちながら不器用なところが印象的な2人は好感が持てたのだが、『何者』では気取った感じとか型にこだわる様が途中まで痛く感じられて、正直戸惑った。読む順が逆だったら印象も変わっただろうか。
    クライマックスの展開にはただただ脱帽。朝井さんの恐ろしさ(いい意味で)を存分に感じた。心がバラバラになりそうだったけど、何だか泣きたくなった。徹底的に苦いのに、不快にならないのは、解説の言葉を借りるならば朝井さんの「どうしても隠し切れない優しさが滲み出ている」からだと思う。
    登場人物らに共感できないと言いつつも、彼らのその後が気になる。後日談のような形でスピンオフを読みたいなという気にさせられたのは…彼らの姿に、己の若かりし頃のみっともなさを見たからかな。

  • 読み進めるうちに自分は何者なんだろう・・と主人公と一緒に考えてしまう作品。大学生の就職活動がテーマ。就活前は演劇活動に夢中だった分析系男子の主人公拓人が、同居人であり天真爛漫なバンドマンの光太郎、光太郎の元カノで拓人の想い人でもある素直な瑞月、上の階に住む意識高い系女子の理香&空想クリエイター系男子の隆良カップルと就活仲間として5人で過ごしていく中で繰り広げられる人間模様が現実世界とツイッター世界を行き来しながらリアルに描かれている。当初は拓人に感情移入しながら周囲の人々を分析し、「確かにこういう人いるなあ〜」と私自身も拓人と一緒になって理香や隆良の事を批評家目線でみていた。しかし終盤になるにつれ拓人に対しモヤモヤした感情が大きくなり、理香と一緒になり拓人、そして自分自身に喝を入れたくなる気持ちになっていた。拓人のように自分自身を否定されること、自分が何者でもないことを受け入れるのが怖くて、スタートラインにも立たずに高みの見物ばかりしていた過去が自分にもあった。必死で頑張っている人達の事をどこか羨ましく思う一方で、逃げてばかりいたような気がする。そして、社会人になっても楽な方へ、できるだけ自分が否定されない方へと逃げる癖がついてしまっている。「何者」は私のように自分と向き合う事から逃げた経験のある人には突き刺さるものがあるだろうし、光太郎や瑞月のような人にはそこまで感情移入できない作品かもしれない。

  •  現代の就活に挑む大学生たちの姿を描いた群像劇。

     この小説のテーマは就活から浮かび上がる「かっこ悪さ」そしてそれとどう向き合うか、ということだと思います。

     なぜ就活とかっこ悪さが結び付くかというと、あくまで個人的な見解ですが「就活ほどかっこ悪くならないとできないことはないから」です。

     何がかっこ悪いって、社会的には何の実績もないのに、面接になると「自分はこんなに立派な人間ですよ」「学生時代こんなに頑張りましたよ」と相手がどれだけ本気で聞いてるかも分からないのに、アピールしなければならないこと。

     自分の就活を振り返ると思い出すのは、とある面接で最近読んだ本を聞かれ、その感想を述べると「それは大変大事なことに気づかれましたね。仕事にもつながってくることだと思います」と言ってもらったのですが、その面接は落とされたことです(笑)。

     落とされたのはまあいいとして、面接してくれた人はあの言葉はどういう気持ちで言っていたのか気になります。本心から言っていたのか、それとも内心「何言ってんだこいつ」とせせら笑っていたのか…。そして、そんな面接官の言葉に対し少しだけ手ごたえを覚え「これはもらったな」と思った自分の気持ちを思い出すと……、そんなかっこ悪いことを延々と続けなければなりません。

     自分の面接やエントリーシートに書いたことを就活を終えた今、振り返る勇気はありません。もし面接の様子を録画していたDVDなんてあったら粉々にして散骨よろしく海にでもばらまきますし、エントリーシートはシュレッダーにかけてから、燃やします(苦笑)。それだけ恥ずかしく、かっこ悪く思ってるのに、就活をする以上そうしたものは避けては通れないんですよね。

     作中の大学生たちの就活の様子、そして心情はとてもリアル。作者の朝井リョウさんも近年の就活体験者、ということもあるのだと思います。就活や就活生のかっこ悪さをしっかりと描き切っています。

     しかし、この小説の一番の読みどころは、ラスト近くのどんでん返しとたたみかけ。自分の就活を思い返しながらそれまで作中の就活生のかっこ悪さを、そして過去の自分を嗤っていた僕に、まるでブーメランのように返ってくる言葉の数々。そして最後に本当にかっこ悪かったのは誰なのか気づかされるのです。その場面は作中の登場人物のように自分のライフもゼロになりそうでした。

     ほとんどの人は今の自分とは違う、もっとカッコいい”何者”かになりたいんですよね。そして、それが敵わない場合どうするのか、それを就活とSNSという現代のテーマを使って見事に書かれていたと思います。

     たとえどんなにかっこ悪くても、そんな自分を受け入れてあがき続けなければならないのは就活でも、そしてこれからの人生でもきっと一緒のハズ。これから長い人生を歩む自分に改めてそうしたことを気づかさせてくれた小説でした。

     血反吐を吐きそうになりましたが(笑)、就活を終えたタイミングで読めて良かったです。

    第148回直木賞

  • 隆良と理香はお似合いだ!

    みんなこんなもんよ。
    善人なんて居ない。
    心の中なんて何考えてるかわからない。
    裏表ある方が人間ぽい。
    それより裏アカ読んだのに、
    普通に拓人と接していた理香が怖いわ~

  • 超久々の投稿になりますが…
    直木賞で話題になった本作、今更読みました。

    裏表紙に書いてあった「ラスト30ページ、物語があなたに襲いかかる」の存在をすっかり忘れたまま、
    「あーこういうやついるいる、わかるわー」と朝井さんのリアルな若者描写を楽しんでいたら、
    終盤、急にサーっと血の気が引きました。してやられた。

    この作品で描かれる「人間の心の闇の部分」みたいなものって、
    誰もが持ってるけれど、誰もが気づかぬフリをしている、
    そんな「痛いところ」なんだと思いました。
    それを暴き出され、突きつけられるゾクゾク感がこの作品の面白いところだと思います。

    「人とは違う自分」をアピールする人、自分の肩書きや経歴をアピールする人、自分はこんなに努力してますってアピールする人、そして、それを笑う人。
    彼らに対して読者がどんな感情を抱くかを完全にコントロールして作られた展開。
    でも読後感はどんよりした感じではなく、
    叱咤された後に励まされたような、背すじが伸びるような不思議な爽やかさがありました。
    同世代には特に読んでほしい作品です。

  • 初の朝井リョウ作品。面白い、怖い、そして両親が読んでも理解できないだろう、若者らしい作品。
    人間ってこんな感じ、みんな頭の中で考えてることってこんな感じ、とあえて誰も言及しなかった卑しいとまでいかなくても人間の小さい部分が非常にリアルに描かれてる。

    最後のあとがきに書いてある、
    この作品の魅力は、主人公の立場で感情移入し、安全な場所で傍観していた読者が、いきなり当事者になり変わる点だろう
    というところが、そうまさに。

    人間っていろんな考えの人がいてそれがいいというし、私もそう思ってるけど
    結局のところ自分の考えが一番好きだし、自分が一番正しいと思ってる。言葉には出さずとも。

    ううん、少し不気味だけど読んでよかったと思った小説です。

  • ちゃんと就活する人、ESガーOB訪問ガーって就活に洗脳されたような人、そんな人を馬鹿にしつつも就活する人、そもそも就活せずに自分は人とは違うと思い込んでる人、なんだかんだでちゃっかり内定を貰う人…
    皆知ってる。登場人物皆、心当たりのある人ばかりだった。もちろん自分もどれかに当てはまっている。

    私は、就活を馬鹿にしてダサいダサい言ってる人だが、そう言う姿こそダサくてかっこ悪いということも知ってるつもりだった。
    それと同じように、私みたいな奴に馬鹿にされている、就活に毒されたような人も、そんなことしてる自分がダサいって気付いてるんだ。気付いてて媚売って内定に群がってるんだ。

    なんだ、お互い様じゃん。

    結局、何してもダサいかっこ悪いと思われるなら、もう何したっていいじゃん、と思えて少しすっきりした。
    その代わり、皆ダサいんだから、特定の人をダサいって笑うのはやめなきゃな。

    それにしても朝井さんの観察力って凄いな…


    「「就活をしない」と同じ重さの「就活をする」決断を想像できないのはなぜなのだろう」
    「ダサくてカッコ悪い今の自分の姿で、これでもかってくらいに悪あがきするしかないんだよ、もう」

  • 現代SNS
    あるあるすぎて刺さる刺さる
    私も一時愚痴や悪口いうだけのアカウントもってましたが、時間たって読み返すと当時の怒りや情けなさがぶり返すので止めました

    あえて私も傍観者側からいわせていただくといるいるこういう人たち!
    常にマウントとってる人、誰かの意見をRTして食って掛かってる人、僕はそうは思わないって言ってる人
    それで日ごろのストレス発散してるんだろうな
    (私はしないけど!←っていう人)

    就活生が主人公でしたが今時就活こんなに大変なんですね。
    確かに昔は男だけやってりゃよかった就活に同じ条件で女子がはいってきたら単純計算でも倍率二倍になりますもんね。
    就職はゴールじゃなくてスタートだよというのも当事者からしたら外野は黙っとれでしょう。

    最後に自分はおろかだったと気づくあたり、やはり皆イイコなんだな救われるなと思いました。

    すごく面白くてうちに帰って一気に読んでしまいました。これくらい面白い本もなかなかないです。

  • 図書館で。
    「桐島部活やめるってよ」も痛かったけどこの小説も痛いなぁ。痛くて、痛い。面白いとかそう言うレベルじゃ無く刺さる。きっと何者にもなれないお前たちに告ぐってアニメの台詞があったけどここから来たのかな?

    自分の事は棚上げして人の行動は揚げ足をとりたくなるのは物凄いよくわかる。だって自分の言動を毎回顧みてたら前に進めないし。そして自分は他と違う、と思いたい気持ちもよくわかる。だからこそこんなにSNSとかのツールが普及したのではないかと思う。誰かに認めてほしいという承認欲求の為せるモノなんだろうとは思うけど、家族や友人にも言えない自分の本音を他人にはさらけ出せるというのは皮肉な話だと思う。
    就職活動で落とされると自分を否定された気持ちになるからなぁ。他で肯定されていって気持ちはワカル気はする。けれども他人を貶めて良いという理由にはならないけれども。

    とは言え就職活動って確かに面倒で大変だったなぁと思い返すとうへぇと言う感じです。今までほとんど考えてこなかった当然あるべき「自分」ってどんな奴で、どんなことが好きで嫌いで、どういう長所と短所があってなんて一番「自分」がわからないんじゃないかな、なんて思ったりするし。自分の顔を一日の内で一番見てないのが自分と同じで。他の人の方が案外、よくわかってるんじゃなかろうかと。そして今までは出る釘は打たれる社会で右に倣えで集団に交じっていれば間違いなかった世界から、他ではなく自分をアピールするなんて行動を苦手とする若者が居るのはよくわかる。だって日本人って含羞の世界に生きてるし、声高に自分の良さや手柄を言い募るのは褒められない世界に生きてきたのに今、何故って感じで。だから一度就職しちゃうとどうもあまりよくない企業だなとわかっても中々離職する勇気が持てないのは、就職活動をもうしたくないって気持ちが大きいからじゃないかなぁと思ったり。

  • 意識高い系の人や発信型リア充に対して一歩引いた冷めた視点で見てしまう。そんな拓人の姿に自分の姿が重なる。映画でも彼に自分を投影して見ていたが、やはり文章だとより染みる。そして、いわゆる意識高い系の理香。イマドキの大学生の光太郎。芸術者気取りの隆良。主人公と鮮やかなコントラストを成す、純粋な瑞月。現在の大学生のリアルな感覚を捉え描く朝井リョウの人間観察力、時代を読む力は見事と言わざるを得ない。この物語はラスト30ページに集約される。メタな視点に浸り観察者ぶっていても何にもならない、何者にもなれない。カッコ悪くてイタい自分の姿を自覚しながら足掻くより他に自己実現への道はない。理香の迫力ある語りが、胸に刺さりいつまでも残る。

  • 就活生時代、マネキンみたいになりたくなくて、何者かになりたくて、苦しんでいた自分を思い出した。社会人になった今、何者かになれた気はしないし、自分は自分でしかないのだ、とわかった。

    SNSがない時代に生きていたら、今よりもっといろんな友だちと直接会って、喋っているだろうなぁと思う。会ってもいないのに、あの子の日常を知っている(気になっているだけ)、不思議(不気味)な世の中だよ。昔のトレンディドラマみたいに、いきなりどうしてる?って電話してみたり、フラッと友だちの家を訪ねたり、お喋りしたいんだけどなぁ…私は。

  • 澄んだ水がどんどん濁っていくかのような物語だと思いました

    249ページからの瑞月から隆良に、299ページからの理香から拓人に放たれた言葉達が、自分が言われてるような気分になり苦しく刺さる。

    読後に思わず「…凄ぇ」と漏れた

    映画化も決まったようで楽しみ。

    「十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。これから目指すことをきれいな言葉でアピールするんじゃなくて、これまでやってきたことをみんなに見てもらいなよ。自分とは違う場所を見てる誰かの目線の先に、自分の中のものを置かなきゃ。何度も言うよ。そうでもしないともう、見てもらえないんだよ。私たちは。百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって」

    「頭の中にあるうちは、いつだって、何だって、傑作なんだよな」

    「お前はずっと、その中から出られないんだよ」

  • 第148回直木賞受賞作。

    就職活動をテーマにSNSが日常にある若者たちの本音を描いた作品。

    テーマもタイトルもTwitterの組み込み方も、時代を象徴している。『桐島~』より好きだった。これまた映画向きだと思っていたら、解説を書かれた三浦大輔さん監督で来年映画化が決定しているということでこれまた愉しみ。

    父親から借りたのだが、親世代でも面白いと感じる、というのはなかなかだな、と。SNSはまったく疎いはずなので、それでもこの世界観を楽しめたというのは作者の力量が問われ実証されたのだとおもう。

    いままで「学生」として守られていた子どもたちが、バイトではなく働く観点から無理に大人になるよう強いられる感覚のある就活をよくここまで文章に、物語に落としこんだなと素直に感動した。
    内定をもらえるまでのフワフワとしたあの独特の感触をリアルに思い出した。
    そのなかに、恋愛や、友情や、人間同士の葛藤がこれでもかと詰め込まれていて、小見出し16からの展開は読者のこれまで読んできてモヤモヤしていたものをバシッと回収してくれる心地よさと、怖いものみたさが存分に発揮されている。

    あと、ジンジャーエールが飲みたくなる。


    朝井リョウという作家をもう一度見直そう。

  • 新入社員一年目で、働き始めた私にとって、まさにタイムリーな小説だったように思う。

    ちょうど、就職活動を終えて、しばらく時間が経っているながらも、まだはっきりと記憶している時分だから、頷ける場面が多かった。

    この小説が描いているのは、決して就職活動そのものじゃない。
    あくまでそれは背景であって、本当のテーマは、人間の汚さみたいなところだと思う。

    現代のSNS社会が、他人を見下す土壌になっていることを示唆している。

    実際、自分自身にも当てはまるところがあって、はっとしてしまった。

    何もすることなく、ただ他人を批判して、優位に立っているような錯覚を覚えるようなことが、SNSというツールのうえでは簡単に成立してしまう現代。

    それでいて、その行為がどんなに醜い事か、当人は気付かないでいる。

    誰かを叩き、それを叩いている人を叩く、そんな連鎖ばかりが続いて、何が正しいのか良く分からなくなってくる。

    結局、自分が思うように頑張って、何か目標に向かうのが健全なのであって、他人を叩く事で得られる自信なんてものは、所詮は他人に依拠しているために脆いのだと、この小説のテーマはそういうことかなと思う。

    現代の泥沼を鮮明に描いている感じがして、とても良かった。

    登場人物が、表面上仲良くしていたのに、突然、堰を切ったように感情を吐露する場面が、ある意味爽快だった。カタルシスってこういうことなんだろう。

  • 朝井リョウは天才だと思っている。
    衝撃のデビュー作もそうだし、本作もそう。
    あ、この人わかってるな、と思う。
    単純に感心する。

    「あるけど、普通言わない」であるとか、「わかるけど、はっきり言葉で認識したことない」というような不文律のようなものや、空気感のようなものをしっかりと言葉にトレースしてくれて、そして僕はそれを初めてその存在を認識したものとして捉える。
    でも実際はよく知っているものなのだという、不思議な感覚を持つ。

    この人の少し下の世代で、この人が世に出したものを追いながら予習型で人生を生きられたらよかったのに。
    そうすれば僕の人生はきっと変わっただろうに。

    同時代を生きることができて幸せを感じる作家さんの一人です。

    SNSの使い方が本当にすごいな。
    そしてこういうのが文学の上でも主流になるのかもしれない。

    誰しもが、自分を安全地帯に置きたい、自分が他者とは違う確固たる「何者か」であることを認識していたい、そして安心していたいと思うものだ。
    そして必死なのだ。
    特に学生時代はその傾向げ顕著で、社会に出るということの辛さや、責任感や、覚悟みたいなものをうまく認識できない。
    社会にでる直前の学生は、そういう意味では自分が特別な「何者か」であると無条件に信じていられる最後の期間なのかもしれない。

    ただ社会に出ても、実際にそれって大事なんだろうけどね。
    僕は主人公に共感するところが大きすぎて、僕自信も成長しないといけないと思う。

    端月さんの話は秀逸だ。
    あの路線の話。
    また、電車のシーンなど。
    忘れられないシーンがとても多くある。

  • 就職活動をなんとなく一緒にすることになった5人の話。

    就活をするなんて右に倣えな行動をしないオレ、をアピールしてくる男が、密かに就活をしてて、そのかっこ悪さたるやすごかった。
    書き方がすごい。
    最後に瑞月にボロクソにダメ出しされてスッキリしたけど、厳し過ぎてそれもそれで痛かった…
    頑張ってるアピールは確かにウザいけどさ、誉められたいじゃん、とも思ってしまう。

    傍観者として語りをしていた拓人へのダメ出しもびっくりしました。
    した人も意外だったし、切り口の鋭さもすごかった。
    ここまで分かってる子があんな男と付き合うか?とも思いましたが。

    こんなに大変な就職活動をした事はないですが、「自分」という個人を初めて意識して、「社会」に出るための試験というか、品定めをされるというか、しんどい作業だなぁと思います。
    またやりたくは無いので今まで転職した事も、しようと思った事もありません…

    朝井リョウさんの文章は本当に読みやすいです。
    伝わり易いというか、書いてある事が明確で分かり易いです。
    痛いよーと思うことが書いてあるけど、救いも用意されてるから安心して読めます。

  • これまで読んだ朝井リョウ作品の中では一番面白かった。直木賞受賞も納得の傑作だと思う。

    主人公は就職活動中の大学生、拓人。彼とその仲間たちとの就活模様が、現代の若者の等身大の視点で語られる。本作はいわゆる「いまどき」の語り口で展開するが、不思議と軽い印象は受けなかった。きっと登場人物たちの自意識から吐き出される毒がいいアクセントとして機能しているからなんだろうな。

    拓人の発する言葉に読者も共感を覚えながら読み進めるわけだが、そこに罠があった。まったくもって朝井さんは人が悪い。それでもこの小説の凄いところは、ラストである人物が放った言葉が、読者だけではなく著者自身に突き刺さることをも躊躇していないところにあると思う。朝井さんがtwitterをやっていることを抜きにしても。

    イタくてカッコ悪い姿であがき続けたっていいじゃないか。小説から発せられたメッセージがダイレクトに自分の中で響いたのは久しぶり。いい作品に出会えた。

  • 懐かしかったですな。大学時代。いっぱい飲んだ。朝まで下らない話で盛り上がった。何にも縛られないで、自分の思いつくままに時間を使っていた。そして、就職活動は嫌だった。周りを見て焦り、合同説明会に行き絶望し、まだ社会へ放り出されたくないのに結構必死に『就活』をした。嫌々自分を見つめ直し、ありもしない長所を見つけようとした。自分が『何者』かも分からないのに、『何者』かにならなければならなかった。
    自分が『何者』かなんて今でも分からない。でも無理矢理にでも『何者』かにならなければ家から出ることができない。そのくせ『何者』を意識すればするほど自分を作っている感覚が尖る。
    この小説は自分が『何者』かを問い質されているようでパワーが要りましたよ。人間なんて弱いから、色んな手段を使って不安定な心のバランスをとっている。客観的に見ると卑怯に映ったり、見てられなく映ってもみんなそれなりに必死に生きている。どんな姿でも一生懸命を笑ってはいけない。

  • 他方から勧められていたけれど、怖くて読めずにいた。でも、読んだらすごく面白かった。
    就活の厳しさというよりも、前半九割くらいは、人間とSNSの向き合い方という印象だった。私は、自分の今までのツイートを反省した。SNSをやっていないというサワ先輩のスタンスと主張が、本当に好き。サワ先輩推し。
    後半でちょっとびっくりな事実とともにお送りする主張が、体裁主義者の私には深く刺さった。たぶん、理香ちゃんが言うからこそなんだと思う。隆良がどうして理香ちゃんとつき合っているのか、なんとなく最後でわかった気がした。

  • 就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。

    とにかく心理描写がすごく細かい。場面も変わらないなかで、あれだけ話が進むのはとても怖い。読んでるうちに主人公に感情移入したら、作者の罠にはまったも同然である。最後に自分に向けられる言葉たちが痛い。
    久しぶりに一気に読んだ作品である。

  • この本を知ったのは、テレビで、若い女の子がこの本を紹介してたのを偶然見た時だった。気になってたけど機会がなくて、数年たってから不意に古本屋で見つけて買って読んでみた。

    上辺だけで仲良くしながら、腹の底で相手の事をバカにしていたり、就活というものを通して、みんなが互いのことをライバル視したり嫉妬したり、そういう黒い話を読み進めながら、こういうのは、一番触れたくない、目を背けたいと思った。でも最後まで読んでみてよかった、結果として、すごく面白かった。
    主人公含め、社会を目の前にした若者たちが、自分の長所と短所に本気で向き合った話だった。

  • 就活に励む大学生の話で、SNSも織り交ぜてとても面白かった。

    瑞月の隆良に対する言葉や、理香の拓人に対する言葉はなかなか言えない。

    自分は、仲間うちでしか盛り上がらない話は、知らない周りからしたら冷めて感じることを想像できる側の人間だと思ってるけど、そういったとこが拓人に似てると思った。観察ばっかりで発言少ないし(笑)

  • 割と前に読んだ。めちゃんこ面白かった。
    たぶんこれは、就活をテーマにしたかったんではなく、大学生というか人間の本質的な部分を、就活っていう手段から伝えようとしたんだと思う。最後ゾッとしたぁぁ

    女の人の、最初から完璧を目指さなくていいっていう言葉は今でも大事にしてる。

  • SNSに蝕まれる若者たちを描いた作品。
    皆、オンリーワンの何者かになりたがるけど、そんなに簡単に「すごいやつ」になんかなれない。そんな自分をSNSの中に投影する。本当の自分は大したことないのに、写真と文字で最大限に自分を盛って、肩書きや経験を目一杯背負い込んで、キラキラした自分になろうとする。他とは違う特別な存在であることを殊更に主張する。
    飾れば飾るほど、自分がつまんないやつだって事実に背を向けて。

    ネットの世界で自分をよりよく見せることを他人にアピールするのが表の姿だとすれば、そうした姿を見つけて影で嘲笑うのが裏の姿=裏アカウント。
    裏アカは絶対に人に見られたくないような醜い感情を曝け出すためだけに存在している。言葉にしなくていいようなネガティブなことをわざわざつぶやく行為は何の得にもならないけど、つぶやかずにはいられない。他人を見下していなければ、自分を保っていられないくらい現実世界の自分が弱々しく、惨めなことを裏付けている。

    最後の30ページで、SNSの表と裏がどんどん明かされていく。痛々しくて、恥ずかしくて、とても耐えられないくらいのダサさと醜さが容赦なく突き刺さってくる。
    ネットの世界でいつまでも虚勢を張って、つまんないプライドを守って殻に閉じこもってても何も変わらない。
    泥臭くたって、弱い自分に向き合う勇気を持って、愚直に進んでいくことの方がよっぽどカッコイイんだ。

    ネットの中じゃなくてちゃんと現実で生きろよ!
    若いが故のダサさ、痛々しさ、カッコ悪さを、今の若者達に落とし込んで喝を入れてくれる一冊。

  • 今まで好き勝手に生きてきた学生がいきなり痛烈な評価をくだされる就活。そのテーマだけでも十分深く興味深く読み進めるが、終盤になり不意にずしりと重い展開に。一瞬戸惑うとともに、この本の主題は就活という異常な状況の中で深く病んで、歪んでいく人の心理、それを傍観する立場となれるSNSと隔絶される、取り繕った現実…そんな闇がテーマと知る。
    何故一貫して拓人目線だったかも最後の展開のためと納得。面接官だけではなく、日々人は人を評価し続けているものと改めて感じさせてくれる。就職して何者になるのか、SNSという非現実の中で何者になるのかと考えつつ、最後に明かされる拓人の裏アカウント名に表題が来るうまさ。
    セリフとともに心理や描写が挿入される文体もいいですね。人の感覚は五感で生まれるものと感じます。
    最後の面接シーンは一皮むけた感がありつつも、なおも続きそうな就活に深い余韻が残ります。

  • リアル。自分が就活する前に読んで本当に良かった。

  • Twitterをしている人なら必ずどこかでチクリと痛くなる言葉が盛りだくさん。見栄を張ってしまうのは悪いことではないけれど、人を馬鹿にすることで自分を保とうとするのは良くない。そうわかっているのに、他人のカッコ悪い部分を見つけて嘲笑ってしまう人間の悲しいサガ。それら全部を丸裸にする内容に「うぅ…」と唸りながらも読み終えてしまった…。

  • 自分の悪いところを突き付けられるようで、
    読んでいて辛くなってくる。
    息苦しくなってくる。

    映画を先に観ていたが、原作を読んで改めてあの映画よくできてる、と思った。
    キャストが絶妙。
    こうたろうが菅田将暉、りかさんが二階堂ふみとか完璧だ。

    SNSって不思議と自己顕示欲みたいなものがきちんと伝わってくるんだよね。気を付けなきゃな。
    作者と同世代の若者ほど共感できる作品。

  • 久しぶりで2作目の朝井リョウ。 俯瞰しながら人を観察する拓人に、そうそうほんとよねーって感情移入しちゃった前半戦。まさかラストにそちらの立場が指摘受けるとは。
    「何者」にはもうなれない。諦めきれてないのは、がむしゃらにカッコ悪くもがいてるギンジでなくて、冷静に分析して自分は違うとタカくくってる拓人だった。
    要は、覚悟があるかないか。ある人はどんな姿でもそれぞれの形で進んでいく。何もしないで言い訳自分を取り繕ってることへの叱責には、心掴まれるものがあった。

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著者プロフィール

朝井 リョウ(あさい りょう)
1989年、岐阜県生まれの小説家。本名は佐々井遼。早稲田大学文化構想学部卒業。
大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー、後年映画化された。
大学では堀江敏幸のゼミに所属し、卒論で『星やどりの声』を執筆。2013年『何者』で第148回直木賞を受賞。直木賞史上初の平成生まれの受賞者であり、男性受賞者としては最年少。『世界地図の下書き』で、第29回坪田譲治文学賞受賞。
その他代表作に『少女は卒業しない』、映画化された『何者』がある。

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