- 本 ・本 (528ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101269337
作品紹介・あらすじ
自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――。息子が不登校になった検事・啓喜。初めての恋に気づく女子大生・八重子。ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。だがその繫がりは、“多様性を尊重する時代”にとって、ひどく不都合なものだった。読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。
感想・レビュー・書評
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吹き出す水をみたいと思った時に、蛇口を取る必要はあったのか…?という疑問は感じたが、そこは積もりに積もった欲が少し変な形で爆発したってことなのかなと理解した。
多様性の話は、主張して生きやすくしたいんだ!という人の話は積極的に聞き、そうでない人は放っておくのが一番平和かと思っている。
不満を言えない…という顔をしている人がいれば、自分から聞いてみるのもいいかもしれないが。
正欲や性欲関係なく、その人とはどんな距離感で接するのか、また、自分の常識を全てだと思っていないか、考えながら人と関わるべきかなと思う。
そして、仲間がいることがどのくらい心強いことなのかも改めて感じた。
マイノリティであればあるほど大切になってくるものかもしれない。
人との距離感って難しい。みんな深層心理では多数派にいたいという部分は少なからずあるだろうし、それが人を間接的に殺してしまうことも確かにあるのかもしれない…詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
うーむ、なんか面白くない。朝井リョウとは相性悪い気がする。それでも文庫本が出ると買って読んだのは、4月3週のブックリストで「読みたい本」と宣言してしまったため。カリスマレビュアーから「正しいのが、がっぷり四つ」と表現されると、そのワードに弱い私はつい反応してしまうんだよね。これって「性癖」?
面白くないのは、登場人物たちの過剰なセリフ・行動が鼻についたため。平成の子どもたちは、どうしてこうもウジウジ悩むわけ?あまつさえ、男女揃ってどうして、同じ時に自殺しようとするの?
例えばAVの中には誰にも話せない性癖というのは腐るほど存在していて、例えば「寝取られ願望」という夫の性欲を満たすために(ファンタジーだけど)何故か妻が従順に他の男と寝るという(ドキュメンタリータッチの)ビデオが大量に出回っている。AVの中で彼らは堂々としている。自殺なんて考えない。本書の登場人物たちにとっては、そんな性癖はメジャーな性癖だというんだろうけど、何がメジャーで何がマイノリティーなのか、誰が判断できるんだろう。
私のホントの恥ずかしい秘密は完黙するとして、ずっと昔メジャーな空気の中で、疎外感を味わった経験として「車に関する話題」というのがある。おそらく今の若者には理解できない空気だと思うから少し書く。若者の昼休みの話題が、延々と車だけに絞られていた時代があった。何故話が尽きないのか?私はその話題に関してはずっと無知だったからその話題の楽しさの真髄についてはいまだにわからない。ただ恐ろしいのは、数回行ったことのあるお見合いパーティーで、女の子も「どういう車を持っているのか」を必ず聞いてきたということである。車に対する男性の世界観が、その男の将来性を測る目安になっていたと聞いたのはずっと後だった。ここに登場する若者たちが「恋愛話」に疎外感を感じるのと同じような構造が、あの時代クルマに関しては絶対にあった。私は車の話はできないから、読んでいる本の話(加藤周一とか)をして、思いっきり振られていた(^_^;)。ちなみに、加藤周一は今もそうかも知らないけど、限りなくマイノリティな話題だった。この疎外感で自分を不幸だと思ったことは一度もない。「明日死にたくない」とわざわざ思わなくてはいけないほどには、疎外感を味わってはいない。これは私がいわゆる鈍感屋さんだからなのだろうか。まぁ加藤周一も彼らにとっては「マイノリティーの中のマジョリティ」なんだろう。
神戸八重子のストーカーまがいの押しかけ問答には辟易するけど、他の手段ならばもっと早くするべきだったと思う。寺井啓喜の子供への心配は、何処かでボタンをかけ間違えている。それを含めて、小説なんだから、正しいことだけが書かれているはずがない。それを前提にしても、読んでいてどうもイライラしてたまらない。
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ひまわりめろんさん、こんにちは♪
いや、そのカリスマレビュアーさんには感謝しています。
こんなことがなかったら、ベストセラー小説はファンの作...ひまわりめろんさん、こんにちは♪
いや、そのカリスマレビュアーさんには感謝しています。
こんなことがなかったら、ベストセラー小説はファンの作家か、本屋大賞一位しか読まない謎のマイルールを持つ私には、一生を出さない作品でした。なんやかんや言っても、最近の若者の奥の奥まで描こうとしているのは確かなわけだから、たとえ極端だとしても知っておいた方がいい。てなことを前の「死にがいを求めて生きているの」の時も思ったのだから、ほぼ朝井リョウさんの世界観は見えた気がしました。次回から自信持ってスルーできそう。
そうそう、「どんな車に乗っているのが正しいのか?」それで年中休憩時間の話のオカズにできていたんですよね。社会学的にみて異常なコミュニティでした。
茨城の車社会から暴走族文化というのは、面白いですね。社会学的には、一つのテーマにできそうです。2023/07/11 -
初コメ失礼します。
正しく同感!朝井先生苦手です。
かなり話題で、友人も推してくるし、本屋でもオススメされていたので期待大の楽しみMAXで読...初コメ失礼します。
正しく同感!朝井先生苦手です。
かなり話題で、友人も推してくるし、本屋でもオススメされていたので期待大の楽しみMAXで読みましたが、なんこれ?なんの話?ってガッカリしました。本当に読んでオススメしてるんでしょうか?性癖や歪んだ感情を多様性と良い言葉で言い換えているだけのように感じます。全然面白くなかった!私には分からない2023/07/11 -
TTさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
そうですよね。
合わない本は、無理に読む必要はないと思います。
朝井リョウさんは、前...TTさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
そうですよね。
合わない本は、無理に読む必要はないと思います。
朝井リョウさんは、前回も今回も、なんかネットで情報収集した内容で物語を作ってる感がしているようにしか思えなくて、なんか深掘りしたくなくなるんです。
ただ、今日、ニュース23を見ていると、あのアメリカでさえ、LGBTQの41%が自殺を考えたことがあると報道していて、2人同時に自殺を考えることが、決して不可能ではないとも思うようになりました。
自分の考えが絶対とは思わないようにしたいと思います。2023/07/11
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正直、よくわからんかった(笑)
「多様性」をテーマとした物語。
「多様性」を認めようとしながらも、枠にはめてしまう考え方。
自分が想像できる「多様性」だけを礼賛して、秩序を整える。
なるほど、と思ってしまいます。
いろいろ考えさせられる物語です。
「正欲」としたとき、何が正しいのか?
マジョリティの世界の常識を正しいとしているのか?
マジョリティの在りたい姿であることが正しいのか?
その定義にあり続けることがその人の正義なのか?
ちょっと人と違ったことや、事件、気に入らないことがあると、すぐネット上で炎上するのもそういうことなのかな?って思います。
さて、本書ではその「多様性」として、様々なフェチが紹介されています。
そんな性癖あるのかと思うのと同時に、本書では、「水」フェチを中心に物語が語られます。
確かに、その「多様性」は理解が追い付かない!
そしてその「多様性」の性癖はマジョリティの世界では別の罪として変換される。なるほどなって思いました。
本書のキャッチコピーの
「読む前の自分には戻れない」
とまでは、なりませんでした。
「多様性」を認めるって難しい事なんですね!
ガッキーの映画見てみたい。-
なつこさん
コメントありがとうございます。
はい、内容を忘れてしまうので、感想というかレビューというかを書くようにしています。それでも覚...なつこさん
コメントありがとうございます。
はい、内容を忘れてしまうので、感想というかレビューというかを書くようにしています。それでも覚えていられません。
こうやって、レビュー書きながらも、同じ本を買って読んでしまったこともあります(笑)
本棚登録したときに気が付いた!
ということで、つたないレビューですが、ご参考にどうぞ!2025/04/05 -
2025/04/08
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なつこさん
コメントありがとうございます。
テーマがテーマなので、自分好みの話ではありませんでした。
よくわからないっていうのが印象で...なつこさん
コメントありがとうございます。
テーマがテーマなので、自分好みの話ではありませんでした。
よくわからないっていうのが印象です。
皆さんに読んでもらいたい!お勧めしたい!とは思えません(笑)2025/04/13
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私はこの作品はよくわかりませんでした。
人間の多様性を描いた作品として、砂村かいりさんの『マリアージュ・ブラン』畑野智美さんの『世界のすべて』と拝読しました。
両作品の言っていることは大体わかったのですが、この作品は「正欲」イコール「性欲」と描いてあります。
異性その他様々に「性欲」がみなあると描かれています。
何かとても生々しいものを読んだ気がしました。
例えば主人公の一人は異性に全く興味がなく「水」が様々な形態をとるとき性的に興奮すると描かれています。
何かに必ず性的興奮をしなくちゃいけないものなのかと思いました。
最初に出した『マリアージュ・ブラン』『世界のすべて』は主人公がアロマンティック・アセクシャルでした。(自分以外愛せない)
多様性を扱いながらも、前二作とこの作品『正欲』は対極にあるといってもよいのではないかと思いました。
私は前二作には共感したけれど、この作品には共感できませんでした。-
まことさん、おはようございます。
「正欲」はだいぶ前に読んでスゴイと思ったんです。
でも、きっと今読んだら別の感想になるかもしれません。...まことさん、おはようございます。
「正欲」はだいぶ前に読んでスゴイと思ったんです。
でも、きっと今読んだら別の感想になるかもしれません。
最近、多様性が尊重されるようになって
こういう作風の本が多くなりましたよね!!2024/12/01 -
かなさん、おはようございます♪
コメントありがとうございます!
今、かなさんのレビュー拝見してきました。
ついでに、かなさんの本棚...かなさん、おはようございます♪
コメントありがとうございます!
今、かなさんのレビュー拝見してきました。
ついでに、かなさんの本棚も拝見しました。
カラフルで素敵な本棚ですね!
『正欲』は多様性を描いた作品で、みなさんのレビューを拝見しているとポイントは「自殺しないように」ということなのかなと思いました。
でも、後発のかなさんも読まれている『世界のすべて』や『マリアージュ・ブラン』の方が、さらに多様性を尊重している気がしました。
実は朝井さんの最新作も、もう買ってしまったのですが、かなさんのレビューを拝見すると私に読めるかなと思いました。
2024/12/01
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「多様性」から展開する「正欲」とは?
マイノリティにも属されない欲は、世間に理解されないだけでなく誤解もされ行き着く先は…
世界はマジョリティの欲を満たすことに溢れてる
明日を生きようと多くの人が感じるために
…なるほどね
「普通」というのはなく 人は何かしら、マイノリティに属する欲はある。
周囲の理解は不要だが、そっとして欲しい。
…でも小さくても良いから「繋がりたい」
贅沢なのでしょうか? 一昔のヲタクでしょうか?
A「自分が想像できる〝多様性〟だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」
B「はじめから選択肢奪われる辛さも、選択肢はあるのに選べない辛さも、どっちも別々の辛さだよ」
多様性という言葉を軽はずみで使わないほうが良いことは分かった。
EUはめんどくさい言葉を作ったものだ
世の中すべての人とわかり会えるのは無理
個人を尊重するに留めるのが吉だと感じた
確かに読んだあとは前には戻れない
そして答えもない
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いつもいいねをありがとうございます。
やはり風潮なのか多様性をテーマにした作品は多くみられますね。その度に私もこの本のことを思い出します。
...いつもいいねをありがとうございます。
やはり風潮なのか多様性をテーマにした作品は多くみられますね。その度に私もこの本のことを思い出します。
ヲタクに笑いました。2ちゃんねるの黎明期や、mixiなんかを連想しました。それ以前だと同人誌とか。ノートでゲームブックとか作ってたのは、小学校に2人だけでした笑
この「繋がりたい」という欲求の方が、本当はオバケなのかもしれないと思います。蛇口を共感したいという気持ちが、はたして自分の中のどの部分に当てはまるのかを想像するのに苦労しますが。ひとまずゲームブックで代用です。2023/08/30 -
はるパパさん
コメントありがとうございます
本棚拝見させてもらい、勉強させてもらっております
ヲタクは個性といいますか誰もが持ってると思っ...はるパパさん
コメントありがとうございます
本棚拝見させてもらい、勉強させてもらっております
ヲタクは個性といいますか誰もが持ってると思ってます
一部の限られた中だけは繋がりたい欲はこの本で痛感しました
ゲームブック素敵です!
読書から感想を言い合うのが楽しいです
これからもよろしくお願いします2023/08/31 -
丁寧にありがとうございます。
こちらこそ、思い切ってコメントしてみてよかったです。丁寧にありがとうございます。
こちらこそ、思い切ってコメントしてみてよかったです。2023/08/31
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「正欲」の半年程前に出版された「スター」の中で、映画クリエイターの女性が、答えではなく問いをくれる作品が好きだという場面がありました。
私もその方が好みなのよね、っと、思うと共に、朝井さん自身もそうであろうし、デビュー作からこの最新作まで、小説に問いを書こうしてきていると思います。
今回のテーマは正欲、正しい性あるいは、望む性かな。読まれた多くの方は(ひまわり師匠を除く)、どう対応するか悩みます。社会はあらゆる場面で多様性を求めてきます。それは、社会の成熟度と繋がるかもしれませんが、理解の範囲を超えた多様性に躊躇します。
検事で小学生の父親は、正しさにこだわり、その妻は、子供の欲求の全てを受け入れようとする。
寺井の部下は、手探りで理解しようとする。
余興で川に飛び込んで死んだ男は、正しさに勇敢。
友人の男子のマイノリティを理解して繋がろうとする女子大生。
自身の正欲と相手の正欲の共存を目指す女性。
画一的なサイドの登場人物の動向を見て、躊躇しながらも、問について考えてしまいます。
性愛とは性を愛することであるけれど、同時に性を通じて誰かを愛することである。と臨床心理士の解説にあります。この作品は、この後半部分、誰かを愛することについて希薄だと思います。
そこが、正欲を受け入れがたくしているかなと。
「あってはならない感情なんてない」文庫帯にピックアップされた一文です。しかし、正欲を批判するのも、又、正欲。誰かの性癖は、他者を傷つけることもあるかもしれないし、法律に触れることさえあるかもしれない。社会生活を維持するには、多様性の受諾と画一性とのバランスが半永久的な課題なのだと思います。
とはいえ、朝井さんの小説の上で転がされているのだから、小説の問題提起は成功しているのだと思います。小説との相性はありますが、一読されてみても良い作品かと思います。-
2023/06/14
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うちとこ普通にあったでw
特に興味なかったんだけど、まぁ目の前にあるし、なんか評判だしてな感じで借りました
あ、あとまぁいいとこ8級くらい...うちとこ普通にあったでw
特に興味なかったんだけど、まぁ目の前にあるし、なんか評判だしてな感じで借りました
あ、あとまぁいいとこ8級くらいやな2023/06/14 -
2023/06/14
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2023.9.21 読了 ☆9.7/10.0
だいぶ刺さった。というか内容がヘビー過ぎて、終始悶々としていました。。。
考え、考え、考え、答えのない問いを前にして、やるせなさと、でも最後には希望とを感じる、複雑で矛盾する感情に。、
この本のテーマを理解することは本当に難しい。
「わかる」なんて、軽率に言えない。
手放しで喜べない現実を痛感せざるを得ない。
"多様性"という言葉が市民権を得た昨今、その言葉が独り歩きして、正義という刃となって人を傷つけるということ。
マジョリティ側が振りかざすそれは、マジョリティの受け入れられる、認められる、好ましいと思える身勝手な範囲の中のマイノリティのみ想定していて、マイノリティの中のマジョリティしか理解しようとしない、都合の良い言葉に成り上がってしまっている。
この本を読んだ人なら分かると思うが、この世界には全く理解できないことに性的興奮を覚える人がいる。
そういう人の存在を、"多様性"は「これは好ましいか、好ましくないか」という身勝手な基準でふるいにかける。弾かれたマイノリティは排除される。
「へぇ、そんな人がいるんだ。マイノリティだし尊重はしたいけど、気持ち悪いからあり得ない」と、好ましくないと斬り捨てる。
自分を正しいと思うこと、多数派だと信じることからは逃れられないのが人間の性であると思うけど、何かを否定すること、断罪することはすごく危険だと戒められました。
一読では消化できない。そんな、傑作でもあり問題作、大作でした。
朝井リョウさん、とても意地悪だ。。。 -
「多様性とは、都合よく使える美しい言葉ではない。
自分の想像力の限界を突きつけられる言葉のはずだ。
時に吐き気を催し、目を瞑りたくなるほど、自分にとって都合の悪いものがすぐ傍で呼吸していることを思い知らされる言葉のはずだ。」
「多様性の時代」
「みんな違ってみんないい」
そんな耳障りのいい言葉に対してもやもやしていたから、この小説は読んでよかったのかもしれない。
でも、一貫して鬱々した気持ちになった。文体も含めて。 -
初読みの朝井リョウさん。心象の表現に個性を感じる。「顔面の肉が重力に負ける」「心の真ん中を絞るように体に力を込める」「夕立に降られるように勝手にその一部に自分が含まれてしまう」など、いずれも身体的、物質的な動きから直感的に伝わってくる。そして、この作品は、時代の転換期に起きている事象を鋭く捉え、価値観を揺さぶってくる。
動画配信に傾倒していく不登校の一人息子。検察官の父親・啓喜の、道から外れるべきでないという思考や登校する子どもたちに向けられる普通であることへの羨望の眼差し。
地縁の煩わしさから寝具店の販売員に転職した独身の夏月。ショッピングモールの勤務中、中学の同級生夫婦に声を掛けられ、彼らの世俗的な生き方を見て心が冷えていく。ささやかな安息は視聴者のほとんどいない配信動画を巡回すること。
そして、大学祭実行委員を務める女子大学生・八重子。ダイバーシティへの傾倒と学歴や容姿、家族関係から抱く劣等感との狭間で心を収縮させていく。と同時に、配信動画を通じて、一番縁遠い存在に強く惹かれていく。
こうした身近に起こりそうな日常の描写が淡々と続く。一見繋がりのない人間模様が次第にもう一層のレイヤーと化学反応を起こし交差していく。通奏低音のように流れる、不穏な性的倒錯者たちの存在。配信動画に書き込まれるコメントを媒介にして、啓喜たちの日常に紛れ込んでくる。「耳をすませば」の天沢聖司の例え(爽やかさはまるで違うが)のように、動画のコメント欄の名前から、夏月は古い記憶を呼び起こす。
禍々しい展開を想像しつつ、物語中盤に差し掛かったところで、夏月のある性癖が明かされる。中学時代のある日の放課後に特異な体験を共有した同級生・佳道との同窓会での再会。「地球に留学しているような感覚なんだよね、私」という夏月の呟きに他者と共有できない生きづらさが滲み出る。ラベルのない性癖には、ダイバーシティの価値観は無力であるどころか害にもなる。マイノリティですらない異端者の苦悩。徐々に追い詰められていく夏月と佳道が偶然路上で再会し、その稀有な繋がりにお互い生きる意味を見出していく。
物語の終盤、作品冒頭にある作者不明の独白、そして児童ポルノ事件の雑誌特集記事。これらと物語が繋がった瞬間、当初抱いた印象とはまるで違う景色が現れてくる。これには、自分の世間に対する認識の浅さを思い知らされた。また、啓喜が妻・由美から「涙を流す人を見て性的に興奮するなんて、おかしいよね?」と言われながら両目を覗き込まれるシーンに、自分が正しいと考える価値観も特殊な性癖と紙一重であると感じ、心許なくなる。
この物語は手に余る。解説の臨床心理士・東畑氏の言うとおりである。珍しく映画も見てみたいと思った。
著者プロフィール
朝井リョウの作品





