正欲 (新潮文庫 あ 78-3)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 2475
感想 : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101269337

作品紹介・あらすじ

自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――。息子が不登校になった検事・啓喜。初めての恋に気づく女子大生・八重子。ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。だがその繫がりは、“多様性を尊重する時代”にとって、ひどく不都合なものだった。読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 朝井リョウに傷つけられた。
    多様性に向けた温かい眼差しはこの本にはない。
    この本で描かれる多様性の筆力は圧倒的で、もはや暴力だ。

    他者を理解しよう。皆がありのままで生きる。それが新時代の生き方。
    この多様性の持つ耳障りの良さを、この生温さをぶった斬ってくる。
    そして当たり前のように理解する側にいる傲慢さを
    そのくせ、受け入れ難いものには目を背ける卑怯さを許さなかった。

    途中、多数派や常識派の不快な言動や、登場人物達の追い込まれる精神描写でズタボロになり、生半可な落とし前なら許さない!と思いながら読んでいた。
    そんな中、『繋がり』という生きる光が射してきた。
    なのに。。。なのにだ!この繋がりによって更に窮地に追い詰められる。。。。
    いや、違う。社会的には抹殺されたが、社会や他人も理解できないほど強靭な繋がりができていたのだ。社会では生きていけないが
    この世界で辛うじて生きていける繋がりが。

    それなのに。。。それなのにだ!彼らの未来を示唆するような事件が起こり、幕を閉じる。
    正義と多様性は未来永劫、相入れないことを思い知る。
    そして自分の都合次第で『理解してあげよう』としている人達はその事に気付づく事なく
    相変わらず多様性の領域を踏み荒らしていくのだろう。

    も、も、もう勘弁してください。。。
    ここまでコテンパンにされないと、私たちは解らないのです。
    いや、まだ解っていないのです。
    フルボッコされ白旗あげざるおえない読後感だった。

  • 「多様性」と叫ばれるこの時代で、すごく、考えさせられる内容だった。
    今まで「みんな違って、みんないいよね!」ということが多様性だと、それがみんなハッピーなんだと思っていた。だから、不登校の小学生ユーチューバー家族の話、大也が八重子に話す言葉は、耳が痛かった。
    理解しようとする姿勢はすごく大切だけれど、到底理解できないであろう自分の思いを、「私はわかってるよ」って簡単に言われることはめちゃくちゃ嫌だよなあ
    自分の家族が世の中における少数派になるのは、やっぱり怖い。私も、多様性なんて言いながらも、みんなと同じように学校に行って、みんなと同じものを習得して大人になってほしいと思ってしまう。きっと家族がユーチューバーになろうとしたら、全力で止めてしまうだろう。多様性を受け入れるのは、やさしさだけでなく勇気も必要なんだな。

    “どんなふうに生まれたって生きていける、生きていいと思える。そんな社会なら一番いいけれど、そうではないので、そんな空間を自分で作るしかないのだと感じる。”
    この言葉は寂しくも厳しくもあるけれど、結局相互理解しきれない世の中で、そうやって生きていくしかない、のかな。

    「みんな違って、みんないい」は、なかなか難しい。これが筆者の言いたかったことか分からないけれど、、わたしが思った感想です。

    読了後は、悲しいような、なんだか複雑な気持ちになった。でもこの時代にすごく考えさせられる内容だったし、ストーリーも面白かった。

  • 凄まじいですね。今からの時代に読んでよかった。
    もはや作者の朝井リョウさんが心配になるレベル。

  • 世の中に溢れる多様性という言葉の意味に深く切り込んで行く作品。LGBTQといわれるけど、人間の数だけ欲望の種類があり想像出来ない指向は社会から受け入れられない。たしかにそうだけどノーマルと言われる異性愛者も容姿や性格で誰からも受け入れられない人だっている。「社会から理解されないからって卑屈になるな」と八重子が大也に言うシーンも印象的。人間はどんな指向を持っていても繋がりを求めている。理解されたいと思っている。
    そもそも異性愛者だけがなぜ「ノーマル」と呼ばれるのか。それは子孫を残すことを含め「明日死なないため」。社会から認められている欲求はみなそこに繋がる。それ以外は排除される。一見不自由ではあるが、死なないことと関係のない欲求を抱えるマイノリティこそ、本能から解放された心の自由を勝ち取れる可能性を秘めているのではないかと思う。

  • 昔と較べ「多様性」の時代になったと強く感じる。それゆえ、白黒的な判断が求められたとき、考えすぎてどちらかを選ぶのに悩むことも増えた。「多様性」がキーっぽいので読んでみたい

    #正欲
    #朝井リョウ
    023/5/29出版

    #読書好きな人と繋がりたい
    #読書
    #本好き
    #読みたい本

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  • フェチ云々は表現の道具であって,「バカどもが多様性多様性うるさいんじゃボケ。ここまで突き詰めて考えてモノ言うとんか。他人の人権でメシを食うな。」という作者の気持ちが伝わりました。冗談です。

  • 自分の想像の範囲を超えることができないなら、安易に相手を理解しようなんて事は言えないのか、いや、それは考えること自体放棄してないか。なんてことがぐるぐる頭の中で回り整理がつかない。まだ時間はかかりそうだ。

  • 読後は「正欲」というタイトルがじゎ〜っと脳内に浸透する

    ダイバーシティ・多様性。
    全てを包括しているように見えて、
    手の隙間からこぼれ落ちるように
    存在自体も認知されず、その枠組みから振るい落とされてしまうものもある。

    この本を読んだ後は、
    多様性とはなにか、
    どんどん思考が泥沼にハマりそうです。

  • すごく考えさられるテーマで読み終わったあと、自分の価値感に多少なりとも変化があったと思う。
    個人的に、p443の「自分が想像できる「多様性」だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちよな」が1番印象的だった。

  • 言葉にならないのですが朝井リョウさんの人間や、物事を観察する視点が素晴らしく鋭く脱帽です。

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著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2011年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞し、13年『何者』で直木賞、14年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞した。

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