- Amazon.co.jp ・本 (102ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101273518
作品紹介・あらすじ
ある外国語大学で流れた教授と女学生にまつわる黒い噂。乙女達が騒然とするなか、みか子はスピーチコンテストの課題『アンネの日記』のドイツ語のテキストの暗記に懸命になる。そこには、少女時代に読んだときは気づかなかったアンネの心の叫びが記されていた。やがて噂の真相も明らかとなり…。悲劇の少女アンネ・フランクと現代女性の奇跡の邂逅を描く、感動の芥川賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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本の紹介にもある通り、「アンネ・フランクとの邂逅」ということばがぴったりの物語でした。しかも、生の切実感を伴った「邂逅」です。
意識的なのか、描かれている世界が少女チックな世界で少々とっつきにくかったのですが(笑)、解説の方も書いておられるようにスポ根物に近い背景と、ところどころに繰り出されるユーモア(特に、バッハマン教授の常軌の逸脱ぶりが面白い!)で、何とか物語に馴染むことができました。(笑)中盤の衝撃的告白には、自分もみか子同様、「ええっ!」と思ってしまいました。(笑)
社会の中で認められ働きたい。しかし、その「社会」は人を「他者」として疎外する側の集団でもある。そして、いったん「他者」と指定されてしまったら・・・。それでも、やはり「社会」の一員でいたい。しかし、名前のない「他者」ではなく、「私」と認めてくれたのは、皮肉にも密告者だった!「ユダヤ人 アンネ・M・フランク」であると!主人公・みか子の現実の世界と、「アンネの日記」のスピーチを通して絡み合う2人の切実な想いを、綺麗に融合した作品だったと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
私が初めて、受賞時から読みたいと思った芥川賞作品です。
外大の女子学生達が繰り広げるお話、
とのことで、気持ちの上で、
近年の受賞作より何となく敷居が低いというか。
そうして「読みたい」「読みたい」とは常々言っていたものの、
結局、本屋さんで遭遇したのは、文庫本になってから。
買う予定だった本を戻してしまって(ごめんなさい~!)
即刻購入ののち、帰宅後一気読みしました。
まず、執拗に繰り返される、
「乙女」という言葉が印象的で癖になる。
そういえば、最近では最早死語のような気もする程、
歪に聞こえる言葉だけど、私達は乙女なのだー。
少し前に、アンネの日記を読んだところだったので、
彼女のユダヤ人としての誇りや葛藤、
「オランダ人になりたい」という本音、
アツい叫び声を読む中で圧倒される、
その気持ちはよく分かりました。
そして、彼女の周りで起きる「事件」や「密告」と、
アンネの周りで起きたことやミープの存在等を、
熱に浮かされたように重ねて、
突き動かされていく様子は、あまりにリアル。
読書家って、こういうところがあると思うのです。
実際起きていることは大した話じゃない。
だけど脳内では勝手に壮大なドラマになっている。
誰か、強烈な人物と重ね合わせてみたりして。
個人的に衝撃を受けた部分として、
主人公のお友達(貴子さんだっけ、、、)で、
ドイツからの帰国子女の方のエピソードがあります。
彼女は、ほぼ母国語と同じようにして、
ドイツ語を学んだ経緯がありながら、
長い間触れる機会がなかったために、
発音なんかは完璧だけど半端に忘れてしまっている。
その「忘れている」という事実を強烈に恐れている。
「○○ってドイツ語でなんていうんだっけ」
に答えられないとき、
「答えられなかった」「単語を忘れてしまった」
という事実に驚愕し、おびえる。
みんなとは異なる結び付き方をしているからこそ、
日本人目線でのドイツ語の授業には違和感がある。
これをフランス語に置き換えたら、
完全に私になりそうなんですもの。
最も、まだ、私は大学生ではないけれど、
フランス語を完全に取り戻すために、
専攻語にするつもりでいます。
だけど、これを読まなかったら、
彼女と同じになっていたかもしれない。
変に、やさぐれていたかもしれません。
どれだけ意気込んでいても、
自分の記憶と正面から向き合ったときに、
失ってしまったものに愕然として、
背を向けてしまっていたかもしれません。
今だってふと冷静に、
自分がどれだけフランス語を覚えているか考えてみて、
単語が抜け落ちすぎていることを思うと、
胸が苦しくて、自分の一部がどこかに行ってしまったような、
喪失感に襲われるものです。
だけど、今はその事実と、
わざわざ向き合う必要は無いからいいのです。
もしも、大学で勉強するとなれば、逃げられなくなるのです。
その「来る日」を前にこれを読めて良かった。
勿論、失ったものと対峙するのは、
どれだけの覚悟があっても足りない位、怖いことです。
だけど、一度、やさぐれてしまった人を見て、
それを反面教師にして、自分なりに戦ってみるのと、
何も無くしてぶつかるのとでは大きな違いです。
赤染さんがこの作品の中に、そんな人物を生んでくれたこと、
本当に感謝しています。
「なり得たなりたくない自分」を見せてくれたこと、
本当に感謝しています。
(赤染さん自身外大出身とのことで、ひょっとしたら、
赤染さんの周りにそんな方がいらしたのでしょうか。)
ありったけの★を差し上げたいです。 -
いつか読もうと思いながら忘れていた。まさか作者の早すぎる死でそれを思い出すとは思わなかった。
密告者はあなただ。本書はひやりとするメッセージを送ってくる。
私たちが人生において演じている役割というのは成り行きにすぎないこと。私たちは他者との関係において、救済者にもなりうるし、密告者にもなりうる、そんな危うい生を生きていることを、『アンネの日記』というプリズムを通して暴いてみせた。
とこう書いてみたが、まだまだ言い足りないことがたくさんある。再読したい。 -
外国語大学に通う「乙女」たちは『アンネの日記』の一部をスピーチコンテストで暗唱することとなっていた。
『アンネの日記』の決まった一節を必ず忘れてしまうみか子、スピーチを生きがいとしているような麗子、帰国子女の貴代、そして風変りなバッハマン教授。「乙女」たちが見つけるアンネ・フランクとは、そして「自己」とは。
うーむ…なんというか…とても勿体ない!!という感じの作品だった。
試みていることもわかる、伝えんとしていることもわかる、でも何もハッキリとは見えてこない。
思うに、『アンネの日記』の中でもとりわけ彼女のエスニック・アイデンティティが揺らいでいる部分を取り上げて、それを自分は日本人であるというアイデンティティに欠片ほども迷いを抱いていない「乙女」の自意識形成とラップさせようとしたのは失敗だ。
その溝を、帰国子女である貴代や、日本で教鞭を握るバッハマン教授が埋めてくれるのかと思いきや、彼ら(特に貴代)はこの問題に何ら関与しない。
他にも母娘の関係など、何かあると匂わせておいて結局なにも起こらない伏線もどきが多かった。
蛇足ながら、女子校育ちで大学は外国語学部という、この作品で言うところの「乙女」度合は筋金入り(笑)の私から言わせてもらうと、この作品に描かれるような「乙女」らの争いやアイデンティティ・クライシスは大体中学校か高校までには収束し、大学生になる頃にはもう少し地に足がついた?生活を送っている。どうせなら「第二外国語としてドイツ語を習うお嬢様高校の一幕」くらいにしておいた方が、まだ設定にリアリズムがあったのに。
…と思っていたら、作者自身が京都外国語大のご出身とのことで、もしかしたら世の中にはこういう純粋な外語大生もいるのかもしれない。 -
アンネ・フランクの日記と、現代の女子大生のオーバーラップが見事な作品。
乙女というのは清らかで、それと同じぐらい汚らわしいものでもある。
帰国子女である貴代が、かつての言葉を忘れていく様は、アゴタ・クリストフの自伝「文盲」を思い出しました。 -
まずは本が薄くてびっくり。それはどうでもいいか。
芥川賞受賞のときはけっこう話題になっていておもしろそうと思った記憶があったので即買い。
うーん、さすが芥川賞っぽい純文っぽい不思議な感じ。わかるようなわからないような。おもしろいようなおもしろくないような。エンタメじゃあないからな。
たぶん、ささっと読んでおしまいにするのではなく、じっくり何度も読むとよく意味がわかって発見もあるような気がするけれど。
京都弁が印象的。ユーモアがあって文章は好きかも。 -
小さな世界で起こる大きな事件のお話。
けれども外から見ている私たちにとっては、
それはとても小さな事件に思える。
だけど
学校で広がる噂話も、遠い昔のホロコーストも、
結局私たちには実感することのできない事件であって
その“他人事”のような出来事を見守る私たちも
いつの時代も変わらない存在なのかもしれない。
他人の罪を密告する者・される者は
いつの時代も生まれてくる。
リズミカルな文体だったけど
少々主観的で幼稚に感じられた。
上滑りしている所もあり、あまり面白くはなかったな。 -
女というのはつくづく面倒くさい生き物だなあ、と実感できる作品。それはもう怖ろしささえ感じるくらい。そのことをとても深い洞察で描かれた小説です。
-
学生たちから「麗子様」と呼ばれている女子学生が「ほな!」とか関西弁使うところや、
バッハーマン教授が、誘拐された人形にモーツァルトを聞かせてほしいと懇願するところなど、
ユーモラスな場面がある一方、
バッハーマン教授のアンネの日記考は考えさせられた。
確かに、日本での「アンネの日記」の扱い方は、かわいそうな乙女の物語、というもの。
この本で、アンネ自身のアイデンティティに関する記述もあったと知り、2年間もの潜伏生活を送る中で、よほど自分の心と向き合ったんだろうなぁ・・・と想像しました。 -
再読を要する。
著者プロフィール
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