乙女の密告 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 230
レビュー : 47
  • Amazon.co.jp ・本 (102ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101273518

作品紹介・あらすじ

ある外国語大学で流れた教授と女学生にまつわる黒い噂。乙女達が騒然とするなか、みか子はスピーチコンテストの課題『アンネの日記』のドイツ語のテキストの暗記に懸命になる。そこには、少女時代に読んだときは気づかなかったアンネの心の叫びが記されていた。やがて噂の真相も明らかとなり…。悲劇の少女アンネ・フランクと現代女性の奇跡の邂逅を描く、感動の芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 本の紹介にもある通り、「アンネ・フランクとの邂逅」ということばがぴったりの物語でした。しかも、生の切実感を伴った「邂逅」です。
    意識的なのか、描かれている世界が少女チックな世界で少々とっつきにくかったのですが(笑)、解説の方も書いておられるようにスポ根物に近い背景と、ところどころに繰り出されるユーモア(特に、バッハマン教授の常軌の逸脱ぶりが面白い!)で、何とか物語に馴染むことができました。(笑)中盤の衝撃的告白には、自分もみか子同様、「ええっ!」と思ってしまいました。(笑)
    社会の中で認められ働きたい。しかし、その「社会」は人を「他者」として疎外する側の集団でもある。そして、いったん「他者」と指定されてしまったら・・・。それでも、やはり「社会」の一員でいたい。しかし、名前のない「他者」ではなく、「私」と認めてくれたのは、皮肉にも密告者だった!「ユダヤ人 アンネ・M・フランク」であると!主人公・みか子の現実の世界と、「アンネの日記」のスピーチを通して絡み合う2人の切実な想いを、綺麗に融合した作品だったと思います。

  • 私が初めて、受賞時から読みたいと思った芥川賞作品です。
    外大の女子学生達が繰り広げるお話、
    とのことで、気持ちの上で、
    近年の受賞作より何となく敷居が低いというか。

    そうして「読みたい」「読みたい」とは常々言っていたものの、
    結局、本屋さんで遭遇したのは、文庫本になってから。
    買う予定だった本を戻してしまって(ごめんなさい~!)
    即刻購入ののち、帰宅後一気読みしました。

    まず、執拗に繰り返される、
    「乙女」という言葉が印象的で癖になる。
    そういえば、最近では最早死語のような気もする程、
    歪に聞こえる言葉だけど、私達は乙女なのだー。

    少し前に、アンネの日記を読んだところだったので、
    彼女のユダヤ人としての誇りや葛藤、
    「オランダ人になりたい」という本音、
    アツい叫び声を読む中で圧倒される、
    その気持ちはよく分かりました。

    そして、彼女の周りで起きる「事件」や「密告」と、
    アンネの周りで起きたことやミープの存在等を、
    熱に浮かされたように重ねて、
    突き動かされていく様子は、あまりにリアル。
    読書家って、こういうところがあると思うのです。
    実際起きていることは大した話じゃない。
    だけど脳内では勝手に壮大なドラマになっている。
    誰か、強烈な人物と重ね合わせてみたりして。

    個人的に衝撃を受けた部分として、
    主人公のお友達(貴子さんだっけ、、、)で、
    ドイツからの帰国子女の方のエピソードがあります。
    彼女は、ほぼ母国語と同じようにして、
    ドイツ語を学んだ経緯がありながら、
    長い間触れる機会がなかったために、
    発音なんかは完璧だけど半端に忘れてしまっている。
    その「忘れている」という事実を強烈に恐れている。
    「○○ってドイツ語でなんていうんだっけ」
    に答えられないとき、
    「答えられなかった」「単語を忘れてしまった」
    という事実に驚愕し、おびえる。
    みんなとは異なる結び付き方をしているからこそ、
    日本人目線でのドイツ語の授業には違和感がある。
    これをフランス語に置き換えたら、
    完全に私になりそうなんですもの。
    最も、まだ、私は大学生ではないけれど、
    フランス語を完全に取り戻すために、
    専攻語にするつもりでいます。
    だけど、これを読まなかったら、
    彼女と同じになっていたかもしれない。
    変に、やさぐれていたかもしれません。
    どれだけ意気込んでいても、
    自分の記憶と正面から向き合ったときに、
    失ってしまったものに愕然として、
    背を向けてしまっていたかもしれません。
    今だってふと冷静に、
    自分がどれだけフランス語を覚えているか考えてみて、
    単語が抜け落ちすぎていることを思うと、
    胸が苦しくて、自分の一部がどこかに行ってしまったような、
    喪失感に襲われるものです。
    だけど、今はその事実と、
    わざわざ向き合う必要は無いからいいのです。
    もしも、大学で勉強するとなれば、逃げられなくなるのです。
    その「来る日」を前にこれを読めて良かった。
    勿論、失ったものと対峙するのは、
    どれだけの覚悟があっても足りない位、怖いことです。
    だけど、一度、やさぐれてしまった人を見て、
    それを反面教師にして、自分なりに戦ってみるのと、
    何も無くしてぶつかるのとでは大きな違いです。
    赤染さんがこの作品の中に、そんな人物を生んでくれたこと、
    本当に感謝しています。
    「なり得たなりたくない自分」を見せてくれたこと、
    本当に感謝しています。
    (赤染さん自身外大出身とのことで、ひょっとしたら、
    赤染さんの周りにそんな方がいらしたのでしょうか。)
    ありったけの★を差し上げたいです。

  • 外国語大学に通う「乙女」たちは『アンネの日記』の一部をスピーチコンテストで暗唱することとなっていた。
    『アンネの日記』の決まった一節を必ず忘れてしまうみか子、スピーチを生きがいとしているような麗子、帰国子女の貴代、そして風変りなバッハマン教授。「乙女」たちが見つけるアンネ・フランクとは、そして「自己」とは。

    うーむ…なんというか…とても勿体ない!!という感じの作品だった。
    試みていることもわかる、伝えんとしていることもわかる、でも何もハッキリとは見えてこない。

    思うに、『アンネの日記』の中でもとりわけ彼女のエスニック・アイデンティティが揺らいでいる部分を取り上げて、それを自分は日本人であるというアイデンティティに欠片ほども迷いを抱いていない「乙女」の自意識形成とラップさせようとしたのは失敗だ。
    その溝を、帰国子女である貴代や、日本で教鞭を握るバッハマン教授が埋めてくれるのかと思いきや、彼ら(特に貴代)はこの問題に何ら関与しない。
    他にも母娘の関係など、何かあると匂わせておいて結局なにも起こらない伏線もどきが多かった。

    蛇足ながら、女子校育ちで大学は外国語学部という、この作品で言うところの「乙女」度合は筋金入り(笑)の私から言わせてもらうと、この作品に描かれるような「乙女」らの争いやアイデンティティ・クライシスは大体中学校か高校までには収束し、大学生になる頃にはもう少し地に足がついた?生活を送っている。どうせなら「第二外国語としてドイツ語を習うお嬢様高校の一幕」くらいにしておいた方が、まだ設定にリアリズムがあったのに。
    …と思っていたら、作者自身が京都外国語大のご出身とのことで、もしかしたら世の中にはこういう純粋な外語大生もいるのかもしれない。

  • アンネ・フランクの日記と、現代の女子大生のオーバーラップが見事な作品。
    乙女というのは清らかで、それと同じぐらい汚らわしいものでもある。
    帰国子女である貴代が、かつての言葉を忘れていく様は、アゴタ・クリストフの自伝「文盲」を思い出しました。

  • まずは本が薄くてびっくり。それはどうでもいいか。
    芥川賞受賞のときはけっこう話題になっていておもしろそうと思った記憶があったので即買い。
    うーん、さすが芥川賞っぽい純文っぽい不思議な感じ。わかるようなわからないような。おもしろいようなおもしろくないような。エンタメじゃあないからな。
    たぶん、ささっと読んでおしまいにするのではなく、じっくり何度も読むとよく意味がわかって発見もあるような気がするけれど。
    京都弁が印象的。ユーモアがあって文章は好きかも。

  • とても読みやすい。私小説風であり、歴史小説風であり、哲学書風であり、人情噺風でもあり、ライトノベルロマンス風でありながら軽快な語り口にあっという間に飲み込まれてしまう。そして最後に残る重いテーマの余韻。なるほど芥川賞に相応しい傑作小説だと思う。

  •  再び芥川賞受賞作品。
     外国語大学に通う女子大生の世界と「アンネの日記」の世界がオーバーラップしながら物語が進む。
     自己、他人、秘匿、密告、そういったワードが散りばめられている。
     自己を否定し、他人になることで、あえて自己を救うべきか。
     自己を肯定し、他人になることを否定し、あえて自己を失うか。
     アンネ・フランクの場合はどうだったのだろう。
     彼女はアウシュビッツで殺された。
     彼女は自己を失ったままだったのか、他人になろうと希望したのか。
     主人公のみか子は必死になってアンネ・フランクを追い求め、その行為自体がみか子自身の言葉を追い求める行為と重なる。
     みか子が見つけた最後の言葉は、さらりと書かれているけれど、かなり重いと思う。
     アンネ・フランクのあの世界は、疑似でも体験できないだろうし、もう二度と誰も体験してはいけない出来事だろう。
     そんな世界と単に日本の女子大生の世界をオーバーラップさせるなんて、という批判も強かったんじゃないかと思う。
     みか子が見つけた最後の言葉に関しても、きっと賛否が分かれるんじゃないかと思う。
     それでも「書くべきだ」とあえて書いた(であろう)作者の勇気は凄いなと思える。
     失ってしまうことに恐れおののきながら、それでも最後はしっかりと「自己は自己である」と自己を密告し、他者になってまで生き延びることを否定した彼女の態度に惹かれるのだ。

  • いつか読もうと思いながら忘れていた。まさか作者の早すぎる死でそれを思い出すとは思わなかった。
    密告者はあなただ。本書はひやりとするメッセージを送ってくる。
    私たちが人生において演じている役割というのは成り行きにすぎないこと。私たちは他者との関係において、救済者にもなりうるし、密告者にもなりうる、そんな危うい生を生きていることを、『アンネの日記』というプリズムを通して暴いてみせた。
    とこう書いてみたが、まだまだ言い足りないことがたくさんある。再読したい。

  •  
    ── 赤染 晶子《乙女の密告 20100600 新潮 20121224 新潮文庫》2010 芥川賞
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4101273510
     
    ♀Akazome, Akiko 19741031 舞鶴 宇治 20170918 42 /急性肺炎
    /籍=瀬野/ペンネームは赤染 衛門に由来/201712‥ 訃報
     
    ♀赤染 衛門 歌人 0956ca.. 1041‥‥ 81 /天暦10.‥‥-長久 2.‥‥
    /時用の娘。中古三十六歌仙・女房三十六歌仙の一人。
     
    http://d.hatena.ne.jp/adlib/19850106
     中学生諸君! 歴史年表 ~ 1912-2020
     
    (20171211)
     

  • 2017.11.08

    「アンネの日記」が大好きだった女子学生が、大学のスピーチの授業と先生の指導を通じて、「アンネの日記」を再発見する物語。


    いつ読んだか忘れてしまった「アンネの日記」。学生の頃だったと思う。
    今思えば、歴史上の出来事というより、1つの物語として読み流してしまったように思う。

    ユダヤ人であること。アイデンティティ。
    そういうものを自分自身の問題として考えたことがない。
    日本人であること。
    自分は日本人なんだなって、改めて感じた経験がない。

    いつかまた、アンネの日記を読んでみようと思った。

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プロフィール

赤染晶子(あかぞめ・あきこ)
1974年10月31日 – 2017年9月18日
「赤染晶子」は筆名で、本名は「瀬野晶子」(せの・あきこ)。京都府舞鶴市生まれ。京都外国語大学外国語学部ドイツ語学科卒業、北海道大学大学院文学研究科ドイツ文学専攻修士課程修了、同博士課程中退。

2004年「初子さん」にて第99回文学界新人賞を受賞し作家デビュー(『うつつ・うつら』収録)。10年「乙女の密告」(『新潮』2010年6月号収録)にて 第143回芥川龍之介賞を受賞。

2017年9月18日、急性肺炎で逝去。

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