鬼神の如く: 黒田叛臣伝 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101273730

作品紹介・あらすじ

「わが主君に謀反の疑いあり」。筑前黒田藩家老・栗山大膳は、自藩が幕府の大名家取り潰しの標的となったことを悟りながら、あえて主君の黒田忠之を幕府に訴え出た。九州の覇権を求める細川家、海外出兵を目指す将軍家光、そして忠之──。様々な思惑のもと、藩主に疎まれながらも鬼となり幕府と戦う大膳を狙い刺客が押し寄せる。本当の忠義とは何かを描く著者会心の歴史小説。司馬遼太郎賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 「三大お家騒動」のひとつ黒田騒動を描いた歴史長編。
    藩主に疎まれながらも自らを叛臣に装い、幕府による藩取り潰しの企みを阻止するのが栗山大膳。
    さしずめ伊達騒動における原田甲斐というところか。
    本書は、歴史事件に、柳生但馬守、柳生十兵衛、宮本武蔵らを絡ませ(彼らは黒田騒動に関わったという史実は?)、一大歴史エンターテイメントとなっている。
    「武門は太平の世であっても常に戦をしておるのだ。武士が生きるとはそういうことだ」と言い切る栗山大膳。
    彼と藩主あるいは幕府との知恵比べは、ミステリータッチな展開を示し、読者さえ翻弄する。大膳の眼のさきには、藩を越えて幕府の政策への諌止も。
    黒田藩を守る秘策は、神君家康公から受けた関ヶ原感謝状。関ヶ原の折に、家康が発布したというこの種の秘匿文書は、作家の想像力を刺激するのか、種々の作品が生まれている。
    その一つに安部龍太郎の『関ヶ原連判状』があり、隆慶一郎の伝奇小説『吉原御免状』も類する作品と言っていいだろう。
    それにしても、著者の古典芸能に対する素養の豊かさには改めて畏敬の念を覚える。
    『銀漢の賦』や『秋月記』などでは、漢詩を。
    『いのちなりけり』『花や散るらん』『影ぞ恋しき』の三部作では、和歌を。
    そして本書では、能を。
    それぞれが小説の中で重要なコンテンツとして見事に融合し、その作品の魅力を高めることに貢献している。

  • 面白かった!
    第二十回司馬遼太郎賞受賞作品
    途中、ぐっと来ました

    三大お家騒動と呼ばれる黒田騒動をベースとした物語。
    主君である藩主を謀反の疑いありとして幕府に訴えた栗山大膳。幕府の大名家取り潰しの標的となっていることを知りながらも、主君を訴えます。
    その目的は?
    細田家や将軍家光の目論見が錯綜する中、藩主に疎まれながらも、藩の行く末を思い、鬼となり幕府と戦っていきます。

    そして、その大膳を支える卓馬と舞、権之助

    ぐっと来たシーンは翌日を出陣の日として、決起・別れの場面。
    卓馬と舞の想い、大膳とは二度と会えない可能性のある別れ。
    大膳の戦いの結末は?

    「もののふ」としての矜持を感じられる物語。心打たれる物語でした。

    お勧め

  • 有名な福岡藩のお家騒動を、稀代の忠義の人として知られる栗山大膳を中心に描いた作品。
    葉室氏は福岡出身なだけに大膳贔屓のトーンであるが、戦国から江戸初期にかけての生き残りを賭けた騙し合いの延長にあるこの話はあまり共感できない。
    清い生き様を貫く無名の志士の武士道がテーマになっていることが多い葉室作品において、ある意味では特殊な内容という印象。
    とはいうものの、読み応えは充分だったので星4つ。

  • 素晴らしい世界 最高

  •  返す返すも惜しまれる葉室麟の早逝。短い期間に旺盛な執筆力で多数の作品を残してくれたのが救いだが。黒田騒動を題材にとった本作は司馬遼太郎賞受賞。黒田家の内紛を中心に据え、幕閣のルソン進攻の思惑から長崎奉行竹中采女正のキリシタン弾圧・不正蓄財ひいては島原キリシタン蜂起までも含めた壮大なストーリーに仕上げられている。まさに司馬遼太郎もかくやという雄渾な筆の冴えだ。なんといっても読みどころは主人公の黒田藩筆頭家老栗山大膳の深謀遠慮だろう。読み進んでもこれがどう進むのか、いったい何を意図しているのか、敵か味方か、まるで展開が読めずミステリのようで翻弄される。最後の最後に明かされる筋書きには感嘆するしかない。加えて、杖術武芸者夢想権之助と宮本武蔵の対決とか、権之助の弟子卓馬・舞兄妹の全編を通じての胸のすく動きとか、あるいは柳生宗矩・十兵衛父子の暗躍とか、脇役陣の活躍もサービス満点だ。どろどろした政争を描きながら、いつものようにあくまで一本筋の通った清冽な物語展開と爽やかな読後感は、まさにこの著者の本領発揮というところ。タイトルは著者のことではないか。

  • 黒田騒動を軸に肥後加藤藩取り潰し、島原の乱、長崎奉行竹中采女正の失脚を絡めている。日本史の学習では個別のトピックとして学ぶが、現実の歴史は同時並行的に進行する。

  • 司馬遼太郎賞受賞 舞と卓馬 最後の数ページはもったいなくて読めなかったぐらい
    附箋
    ・疎まれれば、疎まれるほど、忠義を尽くしたくなる天邪鬼でござる
    ・桜の精は、桜はどこに植えて欲しいと頼んだわけではない、さらには見物客が訪れるのを喜んでいるわけでもない、と言って 桜に罪はないのだ と説く。
    ・葉室文学に描かれる人間の魅力が、日本社会の病根や日本文学の閉塞を、爽快なまでに治癒していく。賢人の「知」と女性の「愛」をキーワードにすることで、新しい歴史小説のスタイルを打ち立てた。

  • それぞれの登場人物がそれぞれに個性があり、また、一筋縄ではいかない人物として描かれているため、先の展開が常に興味が惹かれ、一気に読み進められた。

  • ーー「わが主君に謀反の疑いあり」。筑前黒田藩家老・栗山大膳は、自藩が幕府の大名家取り潰しの標的となったことを悟りながら、あえて主君の黒田忠之を幕府に訴え出た。九州の覇権を求める細川家、海外出兵を目指す将軍家光、そして忠之──。様々な思惑のもと、藩主に疎まれながらも鬼となり幕府と戦う大膳を狙い刺客が押し寄せる。本当の忠義とは何かを描く著者会心の歴史小説。司馬遼太郎賞受賞。ーー

    策士である栗山大善の策はまさに綱渡り、少しの綻びで「策士策に溺れる」状況は、ミッションインポッシブルの時代物版ともいえるかもしれません。
    本書には、天草四郎が登場してきますが、歴史の教科書にも載る人物なのに不明な点が多すぎ、かえって気になります。

    天草 四郎は、江戸時代初期のキリシタンで、島原の乱における一揆軍の最高指導者とされる。
    本名は益田 四郎。諱は時貞。洗礼名は当初は「ジェロニモ(Geronimo)」であったが、一時期表向きの棄教をしていたためか、島原の乱当時は「フランシスコ(Francisco)」に変わっていた。一般には天草四郎という名で知られる。寛永14年(1637年)に勃発した島原の乱ではカリスマ的な人気を背景に一揆軍の総大将となる。戦場では十字架を掲げて軍を率いたとも伝わるが、四郎本人はまだ10代半ばの少年であり、実際に乱を計画・指揮していたのは浪人や庄屋たちで、四郎は一揆軍の戦意高揚のために浪人や庄屋たちに利用されていたに過ぎないと見られている。(ウィキペディア)

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著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『神剣 人斬り彦斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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