鳳仙花 (新潮文庫 な 11-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101274010

感想・レビュー・書評

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  • 読みながら何故とは知らず津島佑子の作品群の記憶が呼び起こされた。根本的に似ても似つかない両者だが、生き死にのはざかいを取り払って見せる手前の鮮やかさが、共通してあるように思う。 生の「揺さぶらせ」の不穏なモチーフとして、水や山といったプリミティブな物体の圧力を底流させるところも、似ている。
    本作でも、海鳴りのおどろおどろしい重低音がやむことなく響き続ける。ラストシーンの川の場面は、悪い予感が当たった眩暈を感じさせる。生の呪わしさと、死んだ者の残した体温の存在感と、命を押し流す水の無慈悲さが混淆し、よどんで溢れかえったまま小説を終える。
    この大渦に呑まれるがごとき経験は「どくしょ」と済ますには控え目に過ぎる。

  • 中上健次の小説を読んでいる時は、熊野という土地に結びついた土俗的な生命のエネルギーに触れている感じがする。秋幸をめぐる一連の作品には、ここに長編小説を読む醍醐味がある、と思わせるものがある。

  • 紀州サーガ三部作に続く、秋幸の母フサの物語。時代に翻弄され運命に翻弄され龍造に翻弄され、秋幸と同じように出生と血に思い悩みながらも執念めいたものを抱えて生きる女の大河ドラマである。

    『岬』や『枯木灘』で繰り返し語られる龍造とフサそして秋幸らの出来事がより説明的に語られる。ほかの中上作品と比べより物語的に感じるのは、フサの成長とともにそうした人々の愛憎が激成し合いながら業を織り成す姿にあるのかもしれない。『岬』『枯木灘』『地の果て至上の果て』を読んだあとにぜひ『鳳仙花』を読んでいただきたい。それら全ての作品が包括的に深みを増す。

  • 20020629 2

  • 秋幸三部作の前史で、秋幸の母フサを描く。

    鳳仙花がその時その時で印象を変え、フサの内面や状況を伝えてくる。
    他の花と混ざって雑草のように芽吹いた若葉に、秋幸が生まれてからの変化を決定的に感じた。

    フサが兄の吉広、そして最初の夫の勝一郎と過ごした日々は、大きく小さく瞬くような輝きを放っている。
    フサの周りには二人の気配がいつも漂っていて、フサの礎となっているんだろうと思った。

    フサの慈しむ眼差しが、勝一郎の感受性の強さを浮き上がらせてくるのが切なくとても好き。
    「フサ」という名の響きもこだまするように心に残る。

  • 「岬」「枯木灘」では薄情な母親という印象のフサの少女時代が、和歌山の風土と共に瑞々しく書かれていた前半が良かった。
    秋幸を生んだあたりから「ああ、やっぱりフサだ」と思わされたが。

    なぜか浜村龍造と福澤榮が似ているように感じるのは、私が「晴子情歌」を好きだからか。
    フサと晴子は「そんな男に抱かれてる場合か」と思わせられるところが唯一の共通点だと思う。
    それほど生きるのが大変な時代だったろうが、その代償を子供に払わせているのが何とも。
    美しく生命力溢れる母親の影で、鬱屈を溜めながら生きる秋幸兄弟と彰之…。

  • 『岬』『枯木灘』等と連なる「秋幸」のシリーズ。作中の時間の流れとしては、秋幸母親フサが主人公のこれが最初になるのかな。単純に「女の半生」ものとして面白く読めました。昭和初期から戦争をはさんで戦後まで、大好きだった兄に死なれ、兄に似た優しくて男らしい最初の夫に死なれ、女手ひとつで子供5人をかかえて末の子にも死なれ・・・と前半あたりは朝ドラでも通用しそうな展開(笑)。今まで秋幸視点で読んできたので、あまり良い母親とは思えなかったフサですが、その過去の経緯を知れば、いろいろあったんだなあって、共感もできたし好きにもなれたので、見る目が変わりました。

  • 紀州の海沿いの町生まれ育った女性フサの半生を描く。
    兄弟中一人父親が違う私生児であること、人目を惹く容貌であること、戦争に夫の死が重なったこと…。苛酷な運命の中を強く生きる、と言えばそうなのだけれど、私にとってはフサはつっこみどころ満載で素直に受け入れられなかった。そもそも何で次から次へと簡単に妊娠するの、とか、そんな男を受け入れてる場合か、とか。「日本の母親像」(解説より)と言われるとちょっと首をかしげてしまう。それともこれが時代性とか地域性とかを象徴しているのだろうか。
    文章自体は読みやすかったが、林業関係の用語や紀州の風習関連を中心に分からない言葉が多くて戸惑った。解説っていらない本にはうるさいくらい付いているくせに、こういうときになくて困る…。

  • 戦前、紀州に生まれたフサの半生の物語。
    兄の死、若くしての結婚、出産、夫の死、新しい人との出会いと苦しみ。
    読みごたえはあったし、おもしろくもあったけれど、私にとってはあんまり心の波立たない作品だった。
    車窓の風景のように話が流れていくように感じた。

  • 紀州の日射しが眩しい、音楽的な物語。土地と主人公の美しさが匂い立つよう。

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著者プロフィール

(なかがみ・けんじ)1946~1992年。小説家。『岬』で芥川賞。『枯木灘』(毎日出版文化賞)、『鳳仙花』、『千年の愉楽』、『地の果て 至上の時』、『日輪の翼』、『奇蹟』、『讃歌』、『異族』など。全集十五巻、発言集成六巻、全発言二巻、エッセイ撰集二巻がある。

「2022年 『現代小説の方法 増補改訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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