- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101276328
感想・レビュー・書評
-
「キケン」あなたはこの三文字を目にした時どういう行動をとるだろう。
「キケン」あなたはこの三文字が書かれた本をどうして気軽に手に取れるのだろう。
「キケン」あなたはこの三文字の先に待っている扉をなぜ開こうとするのだろう。
「キケン」…これ以上書くとしつこいだけなのでやめますが、人が人である限り、悪意なく書かれた「キケン」という三文字を無視して進んだその先に起こること、降りかかることはすべてあなたの責任です。そして、この本の表紙に書いてある三文字、それは「キケン」です。
『某県某市、成南電気工科大学 ー ほどほどの都市部に所在し、ほどほどの偏差値で入学でき、理系の宿命として課題が鬼のように多い、ごく一般的な工科大学』が舞台となるこの作品。略称【機研(キケン)】とされる部活の面々が主人公として活躍します。機研は、『キケン=危険』と学内で認識されている部活です。そんな部活のチラシを見ていたのは新入生の元山高彦。『かなりアクの強い部らしいぜー』と語りかけるのは『席が隣だった縁で親しくなった』池谷悟。そんな時『よっ!うちのチラシに興味持ってくれたのかな?今からうちの部室遊びに来ない?』と『背後から二人の肩が同時に抱かれ』ます。『取り敢えず話だけ!』と連行された部室に赴くと『大神宏明が二回生で副部長で、俺が部長の上野直也。同じく二回』と紹介を受けます。『部員数は何人くらいですか?』という質問に『四回生は八人。三回生は不明。二回は俺と大神の二人だけ』と答える上野。だから『今年の新入部員獲得はけっこう死活問題でさぁ』と言われ『上野に笑顔で迫られ、その笑顔の圧力に負けた。「ハンコは拇印でいいからね!」』と入部させられてしまいます。そして早速『新入部員獲得作戦!』に参加させられる二人。頑張って四十人を集めますが、『そろそろ統制の限界だ』という上野。『最終的には十人前後』になるよう『ふるい落とし』の手段を説明すると言われ上野の家を訪れる二人。そんな上野の部屋に『元山は目を疑った。「かやく」、かやくー かやくって、火薬としか変換が思いつかないんですけど⁉︎』と思わぬものを見つけてしまいます。そして、『火薬』を使った衝撃的展開を経て、二人の機研での部活動は始まりました。
学生時代の日常を目一杯描いたこの作品。印象に残るシーンが多々ありますが、学祭に模擬店を出店する場面はインパクト大でした。その名も『らぁめんキケン』というお店。スープを準備する段からして本格的です。『鶏ガラを鍋に放り込む。湧いて出るアクをせっせとすくい。湯がいた後に血合いをとり。鶏ガラでも豚のダシが要るから豚ひき肉を入れる。昆布は水から入れて沸いたら引き上げる。鶏ガラはすぐにダシが出るから軽く湯がく程度』と細かい部分まで有川さんは描写していきます。そして予想外な細かさを見せるのが『衛生面は徹底的に管理する。殺菌石鹸を洗い場に常備するから、定期的に手を洗え。掃除も定期的に行う。風呂は毎日入ることを義務づける。店の周りの掃除も定期的に。それだけ守って後は好きに野垂れ死ね』というマニュアルの如くの細かさ。こんな部分を描く小説ってあまり印象にないぶん、とても印象に残りました。そして、店構えも『お祭りの屋台、学祭レベルの屋台って、こんな大袈裟な造りでしたっけ?』と聞く元山に『模擬店という字面を考えろ!店の模擬だ』と答える上野。『小なりとはいえ店の構えを取っていない模擬店など模擬店とは言えん!うちは屋根まで波板で葺いて雨が降ってもビニールシート下ろして水撥完璧!』、さらに『厨房には業務用の三連コンロ。業務用のシンクを据え付け水道を繋げる』。『学祭レベルの装備じゃねえよなこれ』とその本格仕様に一回生は驚き、読者はニンマリするしかありません。このある種のイケイケモードがたまらない、とても好みな展開でした。
また、登場人物の濃いキャラにも魅了されます。『世界一有名な爆弾魔の名前が渾名になる部長って一体ナニモノだ』とユナ・ボマーの渾名を持ち火薬が好きという上野は小さい頃から花火をほぐして火薬を集めたと説明します。『火薬くださいなんて言って売ってくれるところないからね。玩具問屋まで行くと安く買えるからまとめ買い』という上野。『元をたどれば、戦隊ごっこで怪獣が倒れたときの爆発を再現したかったのが始まり』という上野は『だから怪獣役は譲らなかったねー』という執着ぶり。もう一人の二回生である『名前を一文字隠した』という一文字は、『大と神の間に「魔」が隠れてるって』という『大(魔)神』というこの二人の絶妙なコンビぶりがあってこそという作品だったと思います。
全体としてとても読みやすい作品。内容的には、中・高生でも漫画代わりに気軽にパラパラと読める作品。正直なところ最後の数ページ前まではそう思って気楽な気分で読んでいました。それが、最後の二、三ページで作品の印象がコロッと変わってしまいます。あっ、ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!この胸の高鳴り。こみ上げてくる熱いものが…。そして、完全に油断してしまった私の頬に伝った涙。嗚呼。またやっちまった感。読後、すぐに窓を開けて遠くの空を見上げている私がそこにはいました。そして、この作品は完全に大人向け、学生時代から遠ざかれば遠ざかるほどに流す涙の量が増えるだろう大人の中の大人向けの作品だったんだ、と気づきました。そう、青春時代を現在進行形の皆さんには決して見えないものがある、決して聞こえないものがある、そして決して味わえないものがある。キラキラとした眩しい光の中にいる人には決してわからないいつまでも色褪せない世界がこんなところに潜んでいた。…「キケン」…そういうことか…。
有川さんって、本当に構成が上手いなぁとしみじみ感じ入りました。そして、「キケン」と表紙に大きく書かれているのに油断しすぎていた自分を反省しました。でも注意書きは欲しかったですね。
「キケン」
※『青春』という言葉を聞くと、遠い目をするあなたは読むのに注意が必要です。
そして、
【有川浩=キケン=危険=電車の中では決して読んではいけない作家】
を改めて認識させられた、そんな作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
舞台はとある大学の理系サークル、「機械制御研究部」。
略して「キケン」、カタカナなのには理由があります、エエ。
人は、卒業と共に「学生」ではなくなってしまいますが、
学生であったことまでもを失うわけではなく、、変わらない何かが残ります。
全てを掴んだような気持ちで、ただ全力だった学生時代、
何とも懐かしい風を感じた物語でした。
そんな、甘さも苦さも伴ったノスタルジーが、
有川さんらしい軽快な筆致で描かれています。
そう、女性からはどうにも理解しがたい世界を「男の子」は抱えているのです、
「空を駆ける流れ星」や「風を払う稲光」のような、なんて。
今でも、学生時代の友人と会うとあの時代に戻れます。
初めて出会ってからもう、10年、20年も過ぎた友人たちと。
たまに思います、今でも親しくしている友人たちと、、
共に時間を過ごす所から、学生を再開してみたい、とも。
ん、戻れないからこそ、色褪せない思い出となっているのでしょうけど。 -
ザ・青春!!
理系大学の部活通称『機研』
女の子にはわからない男の子だけの危険集団?の話
若さ爆発、怖いもの知らず、『本気で遊ぶ』姿が読んでいて爽快だった
最後の黒板は反則でしょう?
うるッと来たあー -
有川さんらしい展開。
キケンとは電気工学大学の機械制御研究部の略。
ロボットや火薬の話もありながら、学園祭で提供する美味しいラーメンの作り方まであります。
ほぼ男子学生の大学での男たちの世界。
男の友情に最後は涙がでそうでした。
有川ワールドの、とてもよい作品でした。 -
いやあ、これは面白い!単純明快に面白い!
有川さんの書くお話は人物設定がまずわかりやすいからスッと入っていける。入ってしまえばあとはもうタタタ〜っと読み進めるだけなので、あれこれ考える必要がない。頭の中で情景が自然に流れて行くんだよね。
それはそうと、この奥様はいったい誰なのか。有川さんのことだから、途中にチラっとでも伏線があるんじゃないかと何度も読み返してみたけど、わからん。どなたか伏線発見した人がいたら教えて〜。-
パスタさんの明るく楽しい書評(感想)多々読みました。
わたしの「一言感想」にポチッとしてもらうとは、恐縮です。
次に手に取る作品の参考にした...パスタさんの明るく楽しい書評(感想)多々読みました。
わたしの「一言感想」にポチッとしてもらうとは、恐縮です。
次に手に取る作品の参考にしたいのでフォローさせてください。
よろしくお願いします。2023/12/16
-
-
キケンとは、とある工科大学のサークル「機械制御研究部」の略称。
その「機研」でのキラキラとした日常。キラキラと言うと何か美しく輝いているようだが、その毎日はバカみたいに熱く、全力で遊び、まさに青春が爆発している。
「機研」の黄金期のエピソードがすごい熱量で描かれている。
学祭のエピソードが、一番の迫力で面白かったかな。本当に「らぁめんキケン」があったら、食べてみたいし、目の前で彼等が走り回っていそうな気がする。
そしてこの作品は、ただの青春小説ではない。
登場人物の一人が、妻に思い出話として語っている回想形式なのです。
それがポイントで、最終話からラストはもう胸が熱くなり、感情が渦巻き涙が流れてしまう。
さすが有川さん。
生きるって最高。 -
大学生の頃の、男子だけのアホな活動の数々を思い出す。よく、こんな小説が書けるなあ、自分の青春時代とも通じる何かが確かに描かれていて、懐かしく楽しく、また作者の力量にも唸らされる一作でした。
-
全力でバカをやった青春時代
懐かしいけどもう戻れない寂しさ
ラストちょっとホロっときました(u_u) -
この本を読んで、自分の大学生活は最高だったなと思うと共に、コロナがなければもっと爆発するような楽しさだったろうなと思った。
好きなことに全力で打ち込む楽しさをこの本で思い出した。
著者プロフィール
有川浩の作品





