雨恋 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (353ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101280523

感想・レビュー・書評

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  • 物語を進める上で、探偵でもない、刑事でもない普通の会社員が、謎を追うのだから限度がある、仕方ないのかもしれないが、それにしても、警察官が、第三者に話すという行為、しかも、身分を偽っている人間に捜査情報をベラベラ話すシーンはどうなのだろう。
    もっと違う流れにはできなかったのだろうか。

    日常とSFをうまく噛み合わせるのがうまい小説家だというが、所々無理な展開と、物語を進めるためだけにまわりを肉付けしたような感じが否めない。

  • 語り手はオーディオメーカーに勤める沼野渉30歳。叔母さんが期間限定でアメリカに異動になり、そのマンションに住むことになった沼野渉は、ある晩、姿が見えず声だけの小田切千波の存在に気づきます。彼女は幽霊だと言います。そして殺されたので犯人を見つけてほしいと訴えるのです。沼野渉は事件の真相と犯人を探ることになります。雨の日に殺された小田切千波は雨の日にだけ現れる幽霊です。いつしか二人には愛情が生まれてきます。
    犯人探しの要素が強い恋愛小説です。幽霊との恋愛は切ない。

  •  雨の日になると思いだす物語がある。
     「その年は雨が多かった」
     そんな書き出しから始まる物語だ。

     会社員の沼野渉はその年、恋人にふられた上に、ある些細な出来事から住んでいた部屋からも出なくてはいけなくなってしまう。散々な目に遭いながらも、叔母が海外に長期出張している間、品川のなかなかいいマンションの留守番をする話が舞い込む。条件は2匹の猫を世話すること。
     悪くない条件に引きうける渉。しかし新生活を始めて間もなく、猫以外の「同居人」がいる事に気づく。

     つまりそれが部屋に居座る女性の幽霊なのだ。
     「最初にはっきりさせたほうがいいと思いますけど、わたしは幽霊です。そういうことになるんだと思います。三年前にこのマンションで死んで、そのままここにこうしているから」
     突然その存在に気づき動揺する渉だが、やがて彼女の話を聴き興味を覚え始める。彼女は(死んだ当時は)20代のOLで小田切千波と名乗った。幽霊といっても声は聞こえるが姿は見えない。雨の日しか現れることはなく、またマンションの居間から動くことはできない。それは恐らく死んだのが雨の日で、その場所だったからだろう。
     といってもそのマンションに彼女が住んでいた訳ではなく、当時知り合いだった男が住んでいて、彼女は留守中に滞在していたという。世間的には死んだ原因は自殺とされているが、そうではないと思う。ただし自分自身自殺の準備をしていたのは確かだ。

     実に漠然として妙な話だが、やがて渉は千波のために死の真相の調査に乗り出すことにする。それは幽霊が同居している事に迷惑さを感じたからであろうし、その幽霊が若い女性であった事もふられたばかりの渉には関係していたのかも知れない。
     ともあれそんな経緯で、渉にとって奇妙な犯人探しが始まった。

     幽霊という超常現象とミステリというロジックの物語をうまく組み合わせた松尾由美の2005年の小説。幽霊でありながら様々な制約に縛られる千波。事件とは何の関係もないものの被害者のナマの証言という唯一の強みを持ち調査する渉。こんな設定のミステリは他に見当たらない。
     またもう1つ面白い設定があって、千波が「納得をする」たびに彼女の体が少しずつ渉にも見えるようになるのである。
     つまり、彼女が何かしらの疑いを持ち、それが渉の調査により真実である・もしくは真実ではない事が確認されると彼女は「納得する」。すると彼女の身体が何故か足元から徐々に見えるようになっていくのである。

     実はこの設定が物語の重要な要素になっている。幽霊とはいえ若い女性の身体の一部が同じ家に存在している事の悩ましさ。渉にとっては超常現象とはまた違う意味で頭がおかしくなりそうなシチュエーションである。
     そんな状況から脱するためにも彼女の死にまつわる真相を明らかにしようと奮闘する渉。全てが明らかになって千波にとって思い残しがなくなれば、彼女は全てが見えるようになるだろう。それが悩ましさの解決になるのかはわからないが。

     この小説のすごい所は、「若い女性の幽霊でさえ性の対象と見てしまう」男性の心理を正直に描いている所だろう。タイトルにもある通り、一連の事件の調査を通じて渉と千波の間に生まれる恋心もこの小説は描いている。しかし2人は絶対に結ばれることはないし(何しろ片方はもう死んでいる)、手を握ったり抱き合ったりすることも叶わない。でも若い男女が同じ部屋にいればそんな願望を持ってしまうのも当然。そこに何ともやるせない苦悩がある。

     作者は女性だけど、僕みたいな若い独身男の心理をよくわかっているらしい(渉は僕と同年代)。普通はそこらへんの描写はなるべく省いて、「キレイな」ラブストーリーに仕立てようとしそうなものだが、作者はそうはしない。逃げずにそこを正面から描いたところが逆に切なさを浮き彫りにしている。

     『女の子はいつだってそうだ。年端もゆかない子供でもないかぎり、確実にこちらの下心を見抜く』(本書p273)

     終盤には事件の意外な真相も用意されており、ミステリとしての完成度も高い。そしてすべてが明らかになった日、セックスをすることのできない2人は最後の夜をすごす。これだけ生々しく性を描いていながらも、いやだからかラストの数ページには並みの恋愛小説には太刀打ちできない美しさがある。
     雨の日にだけ語られる大人のラブストーリー。雨は気分を憂鬱にさせるが、その非日常的な空気が何か特別な雰囲気を纏っている。雨の日にしか見れない景色もある。だから雨の日が結構好きだという人もいたりする。
     そんな事を考えながら空を見上げていれば、梅雨に入っても明るい気分で過ごせそうな気がする。

  • 終わり方は好きやったけど、
    なんかいろいろ中途半端やったかなぁー。
    「驚愕の事実」ってほどでもなかったし。

  • 雨の降る日にしか逢えなくて、それも…

  • ただ「会えてよかった」の一言に尽きる。

  • いろいろセツナイ。猫飼いたい。

  • 2005年1月新潮社刊。書下ろし。2007年9月新潮文庫化。長編。ふたりの主人公の交わることのない世界を書いた、松尾さんお得意のファンタジーなミステリー。恋愛小説としてもよくできています。

  • 雨の日にだけ会える女の子のお話。過去を引きずったまま死んでしまった彼女が住む部屋。そこに渉が移り住み、彼女の本当の死因と過去に触れる。初めは見慣れなかった景色もいつか当たり前になって、失われていく。恋に変わった感情を元に戻すことは出来ない。ゼロかマイナスの世界だ。それでも彼女にために真相を明らかにする渉はとても素敵だ。美しく儚い、叶わない恋のお話。
    「女の子を喜ばせることはできない。何かを約束することも。」

  • 恋愛要素がもうちょっとあるかと思ったけど、千波と渉の会話のやり取りは、なかなか良かった。

    ただ、文章は内容は読み易いのに、漢字であって欲しい所が平仮名だったり…と言う部分が多いのが読みにくかった。

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著者プロフィール

一九六〇年、石川県生まれ。会社勤務を経て作家になる。八九年『異次元カフェテラス』を刊行。九一年「バルーン・タウンの殺人」でハヤカワSFコンテストに入選。主な著書に「ニャン氏の事件簿」シリーズ、『おせっかい』『ピピネラ』『九月の恋と出会うまで』『嵐の湯へようこそ!』など。

「2022年 『おいしい旅 初めて編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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