日本人はなぜ戦争へと向かったのか: メディアと民衆・指導者編 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101283753

作品紹介・あらすじ

満州事変以降、現地情報を報じ、大きく部数を伸ばした新聞。軍や政治家が戦意高揚のために利用したラジオ。戦後、軍関係者が告白した膨大な証言テープから明らかになった、東条英機ら首脳部間の驚くべきやりとり――。民衆の“熱狂”を作り出したメディアの責任、アメリカとの圧倒的な国力の差を認識しながら開戦を決断したリーダーたちの迷走。歴史年表には現れない“細部”を検証!

感想・レビュー・書評

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  • なぜ日本は太平洋戦争という無謀な戦いに突っ込んでしまったのかを考察したNHKの5本の特集番組を書籍化したもの。本書は第2集で、メディアについてと、当時の日本の指導者にフォーカスしている。
    メディアについては、当時の、新聞とラジオという2大メディアが、揃って軍部の行動に異論を唱えなかった、というよりも、進んでそれに協力していたこと。それは、大衆の雰囲気の反映であったことが書かれている。
    指導者については、陸軍、海軍、政治家、官僚が、自分たちの組織という狭い範囲の最適解を求め、日本全体の国益を本当には考えていなかったこと、等が示されている。
    第1集で書かれていた、国際情勢の読みの甘さや、陸軍が持っていた組織的な欠陥等と相まって、日本は戦争へと突き進んで行った。
    実は、「突き進んだ」というのは正確ではない。指導者たちは、戦争をするのかしないのかの意思決定の先送りを続け、時が経てば経つほど、はっきりと戦争をしないという意思決定をすることが難しい状況に陥っていった、という方が正確であろう。
    300万人の日本人が太平洋戦争では亡くなられたということである。やり切れない読後感が残る。

  • 歴史の授業なんぞをぼんやり聞いていると、どうも当時の国民やメディアは軍部の暴走に逆らえず、戦争に突き進まざるを得なかったのか、前述の2つの主体は被害者だったのかという認識を抱く。が、この本においては当時の日本国の国民やメディアにスポットを当て、複合的な要因で日本が「後に引けなくなった事情」が述べられている。
    現代においても安心しちゃおれんぞ、という気になるし、今後の日本の将来諸々を考えるためのタネ本として優れている。どうもきなくさい昨今だからこそ、是非読んでみては。

  • 輿論と世論というの初めて知ったし、特に佐藤卓己の軍部の言論弾圧はなく、自己統制であったマスメディアへの指摘は鋭い。
    現代にも繋がるマスメディアへの警鐘であろう。

  • このシリーズの白眉と言っていい内容。

    私は1931年の朝日新聞の「方針転換」に、現代と同じ病変があると思う。当時、新聞各社がいっせいに満州事変拡大を支持する中で、大手新聞社では朝日だけが慎重論を唱えていたという。その中、リベラルで知られる編集局長緒方竹虎が、陸軍参謀作戦課長と料亭で話し合う。その後「コロっと変わった」という。2人を知る元朝日記者のむのたけじは「いや、あったと思うね。(略)国益が天空に輝いていているわけで、これが戦争遂行なんです」と感想を述べる(29p)。当時全てのメディアは満州事変の謀略を知りながら、それを国益を言い訳にして報道しなかった。それを知らないとされた日本社会は「熱狂」した。それに煽られて、日本は国際連盟を脱退する。

    私は、1995年ごろ、リベラルで知られた朝日新聞が消費税の増税支持に回った頃のことを覚えている。編集部のお偉いさんが、いろんな人と対談を始めた。やはり、その時に「日本経済」という名前の「国益」が優先された。その後、日本社会を襲ったのは、雇用崩壊であり、自殺大国であり、そして欧米諸国がなんとか景気を回復する中でひとり日本だけが景気を回復出来ないままになるということだった。そういうときに現れたのがアベノミクスであり、戦争法なのだ。新聞は、それへの対案を出す政治家を報道することもなかった。高い給料を貰っている記者たちには関係のないことだったのかもしれない。最近の「従軍慰安婦誤報パッシング」はその仕上げにほかならない。

    軍、メディア、国民というトライアングルによって生み出された当時の世論は、しばしば熱狂を伴った。(35p)

    一部の残っていた良心的なメディアも、桐生悠々の「関東防空大演習を嗤う」(1933信濃毎日新聞)の全面謝罪広告記事で「牙を抜かれる」(38p)。これを現代に当てはめれば、東京・神奈川・沖縄各紙・等々の一部地方新聞、及び民放テレビの「一部」番組に現在行われている圧力、並びにこれから起こる何らかの「事件」で現実になるということだろう。

    ラジオはその「熱狂」のスピードを速めたと言われる。テレビやネットがある現代、そのスピードはさらに速まると考える方がいいだろう。

    1941年の世論調査で、なおも「日米開戦は避けられる」と六割が答えていたのは、ビックリ、しかし頷ける。そういう多数の声を、一部の「熱狂」がかき消すというのも、現代でも起こりそうだ。実際に多数の声を無視して、一部の熱狂が作った政府が、違憲の法律を、憲法が支配するはずの国会で通してしまったのだから。

    指導者たちはどうだったのか。海軍が日米開戦に反対していたのは有名な話だ。しかし、森山優教授は「(あの時に戦争すると思っていた国の首脳は)皆無に等しい」という(156p)。衝撃的な実態である。それでも開戦したのは、なぜか。「解決の先送り」であり、「いざというとき、という曖昧な表現」であり、「船頭多くして船山に登る」であり、「内向きのコンセンサスが最悪の結果をもたらす」である。最後のこれは現代の政府にも言えると言っているが、それは正しい。
    2015年11月4日読了

  • 戦時中におけるメディア特にラジオへの言及は新鮮でした。

  • 戦争へと向かわせたメディアの構造や民衆のすがた、日米指導者の過ち。
    正直、取材対象者の質は疑問。
    「日本のプロパガンダは「全て」ナチスを手本にしている」とかいってるけど、メディアの責任を語る場面でよくも「すべて」とか無責任に使うよなぁ、と。そういうところでしょ。

  • ☆☆☆2020年9月☆☆☆



    いったい誰と戦争をしていたのか。
    アメリカという強大な敵を目の前にして、海軍と陸軍の争いは激しさを増し最後まで統一した行動が出来なかった。
    一般的には、海軍のほうが善玉(比較的マシ)とみられることが多いが、海軍こそ寧ろ戦争を無限に拡大さえたように書かれている。この視点は興味深い。

  • 著者:NHKスペシャル取材班

  • 2016年、14冊目です。

    2015年に読んだ「日本人はなぜ戦争へとむかったのか 外交・陸軍編」に続くシリーズ2巻目を読みました。
    戦後70年ということで、昨夏書店で平積みされてたものです。
    この巻では、メディアが戦争へと突き進むことに果たした役割を検証しています。
    同時に決定を下しているようで、決定を先延ばしし続けた政府、軍部の指導者のあり方が描かれています。
    戦前、軍部の強行的な手法に、メディアも一方的に規制され従わざる得なかったという認識を、
    なんとなく持っていましたが、自分の認識は、自らが事実を知り構築したものではないと改めて気づかされました。
    大衆迎合がメディアであるというのは、間違いだったことは分かりました。
    私は、メディア関係者ではないので、メディアの責務がなんであるかを考えたことはありませんが、
    多くの人に、更には国家に大きな舵を切らせる力はあると思います。
    昨今は、マスメディアだけでなく、Net上での情報の方を信用している人も多いと聞きます。
    常に、自分の考え方を俯瞰していないと、直ぐにどこかで思考が行き止まりになってしまう危うさは、強く感じています。

    おわり

  • 同シリーズがこれ含めて3冊に文庫化されている。NHKスペシャルの取材班がまとめているだけに読みやすい。戦後70年も経つと、当時を知る人がどんどん少なくなる一方、新たな史料の発見やその解析、また俯瞰的に歴史を見つめ直す事が可能になる一面もある。軍部、指導者が愚かだったから無謀な戦争に突っ込んだ、で終わらせず、なぜ愚かな道を進んでしまったか、その決定プロセス、戦争を促す環境などは、今日にも無いと言い切れるのか、一度見つめ直す為の入門編として読む価値がある。

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著者プロフィール

長年「ひきこもり」をテーマに取材を続けてきたメンバーを中心とする、全国で広がる「ひきこもり死」の実態を調査・取材するプロジェクトチーム。2020年11月に放送されたNHKスペシャル「ある、ひきこもりの死 扉の向こうの家族」の制作およびドラマ「こもりびと」の取材を担当。中高年ひきこもりの実像を伝え、大きな反響を呼んだ。

「2021年 『NHKスペシャル ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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