7月24日通り (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101287539

感想・レビュー・書評

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  • 県庁所在地でもない、港がある地味な日本の地方都市に住むやはり地味めなOL小百合。退屈な毎日を、この街をリスボンに見立てて暮らすことを密かな楽しみにしていた。
    たぶん多くの普通の女性が共感する隠された嫉妬や妬みが日常の中に描かれている。イケメンの弟や好きだった上級生と付き合える女性たち。自分の立ち位置の納得して、間違えたくないという選択をしてきた。
    好きだった上級生との再会で彼女の気持ちは動き出す。きっかけは、イケメン弟のイケてない彼女の真摯な告白と、同調的な絵描きの青年との出会い。
    自分を抑えていたピンを抜き、間違えでも構わない選択をする。シンデレラとなるのか、悔恨の選択になるのか読み方は自由。

  • 15年ぶりに再読した。リスボンは私も一番好きな街なので、主人公みたいな女性がいたら惚れてしまうだろう。と思って手に取ったものの、「選ばれない男」という立場から見ると、リアリティーがあって残酷な展開でもある。15年前は、読んでいる途中からイライラし、読後にこの本を放り投げた記憶がある。

    さて、今回は冷静になって丁寧に再読。

    主人公の「似た者同士のカップルであるべき」主義は、今までの人生経験を納得させるための言い訳だったのだろう。そして、カップルの釣り合いに捕らわれつつも、やっぱり自分は「イケメン、高嶺の花」を求めてしまうあたりは、身勝手ながらも人間臭さを強く感じた。欲を言えば、自分の矛盾に気づいて苦しむ描写がもう少しあって欲しかった。そこまで主人公が成長するにはもう少し年月が必要か。。

    ラストシーン、主人公は標本の蝶のようにピンで固定された状態から解き放たれ、大空へ羽ばたいて行った。この選択の結末はどうなるか分からない。続編は無くて良い。「知らないことはいくらでも想像できる」のだから。

    画家の青年に出会い、自分自身の可能性に気づき、人生でずっと抱いていた「同質志向とコンプレックスの呪縛」から解き放たれる形となった。短期的には「選択の間違い」でも、長期的にはとても大事な経験なのだろう。

  • 奇しくも?7月24日に購入(笑)
    読み終わってから、気付いた。

    久々に吉田修一を読みました。
    あらすじが「地味で目立たぬOL本田小百合は、」から始まる地味で目立たぬストーリー。

    彼女の周りの人の方がドラマを持っていて、イケメンの弟に冴えない彼女が出来ちゃうとか。
    昔、好きだった人と同窓会で再会予定が、当時の彼女登場で持ってかれちゃうとか。
    そして、小百合はいつも立ち止まってぼんやり俯瞰している、そんな小説。

    私は、小百合の、なんにも分かっていないことを知りながら、絶対と誇示しちゃうところ、イタいなと思いながらも、嫌いじゃない。
    ありのままの世界に、ほんの少し色付けをして、夢を見ることから卒業出来ない部分も。

    さて。
    読み終わると、ずっと立ち止まっていたはずの小百合が、いつのまにか背中を見せている。
    え?いや今何起きた?ってなること間違いなしのエンディングまで、ぐだぐだ読んでみるとよし。です。

  • 地味オンナの吉田氏による地味オンナのための本!

    めぐみの「間違ったことをしたくない」という気持ちは地味オンナなら誰でも共感できると思う。

    地味オンナは自分の立場も弁えているし、心得ている。
    だけど妄想や空想したり夢だってみる。
    だって
    「わたしたちはどんなことでも想像できる、なにも知らないことについては」
    だから。
    でもチャンスがあればやっぱり間違ってても踏み出したいよねー。

    田舎町程度でキラキラしていても大きな社会に出れば、どうだろう?
    過去にキラキラしていた人はオトナになるとどうしてもその振り幅のせいで色褪せて見える。
    それを実感している聡史と、過去の栄光を捨てられない亜希子。

    間違ったことをすると決めた小百合。
    きっとそれなりの結果に終わるのだろう。きっとそうだ。
    夢はみれない。

    でもどうか、小百合のような人が幸せになれますように。
    だからどうか、聡史のような中途半端なキモチで小百合を振り回す人がいなくなりますように。

    でも、
    聡史が小百合を選んでくれることを夢みる。

    と、田舎町出身の地味オンナな私は思うのでした。

    追記:なぜ映画化で小百合が中谷美紀なのか、理解できない!

  • 行かないと思ったのに、行っちゃったのね。でも上手くいくといいね。彼とも、この先の自分の人生も。都合のいい女だけにはなっちゃだめだよ。がんばってね。
    って、最後はやっぱり「がんばって」って言ってあげたくなっちゃうようなそんな余韻を感じながら読み終えた一冊。

    各章のタイトルがなんか不思議だなって思ってたら、そっか。そういうことなのね。なるほど。天才か。

  • フェルナンド・ペソアが出てくると知り手に取る。県庁所在地でもない地方都市に暮らす小百合は、自分の街を、こっそりリスボンに見立てて、ジェロニモス修道院、ガレット通り、7月24日通りなどなど心密かに呼んで、彩りのない生活に華を添えている。職場の先輩と結婚した学生時代は輝いていた先輩亜希子。その先輩とかつてつきあってた、今は東京に就職した聡史。小百合はふたりの焼けぼっくいに火がついたのに振り回され、自分が過去に聡史にあこがれていたのを思い出し、最後も結局振り回されるのをわかって一歩踏み出すところまで描かれる。その間に、本屋とバスでみかけた、ペソアを読む青年と言葉をかわし、ペソアの詩集「ポルトガルの海」の一節「わたしたちはどんなことでも想像できる、なにも知らないことについては」「ぼくのまとった仮装の衣装は間違っていた」を勧め合うシーンは出色。このシーンのためだけにも読んでよかったな、と。あと、p201の「明かりが消えると、音まで消えちゃうんだね」は、「不安の書」の「日中のとてつもない明るさの中では、音の落着きも黄金のように輝いている。」に対応したものかしら、と少し思った。/ただ、主人公の小百合は好きになれなかった。自分の自信のなさを身近に芸能人ばりに容姿端麗な弟がいることに乗っかり、誇ることでごまかそうとし、自分の勝手な思い込みで弟の彼女に、あなたは弟にふさわしくないと暴言を吐きながら、弟にそのことを責められると、自分が気に食わないだけなのを糊塗して、あんたのため、あの娘のために言っている!と開き直る一方、自分は昔のあこがれの先輩と、あらたな青年との出会いにときめきはじめてる身勝手さがあまりにひどくて。

  • 自分の住む街をリスボンに置き換え、一人で楽しんでいる主人公の本田小百合。
    自分のことを平凡でいけてない女と思っている。
    小百合には高校時代から憧れていた聡史という陸上部の先輩がいる。
    聡史には誰もがお似合いと認める彼女がいた。
    しかし、二人は大学入学を機に分かれていた。
    同窓会で再会した小百合と聡史。

    一方で、リスボンに置き換えた街で出会った名前も知らない画家(警備員をしている)に興味をもつ小百合。

    解説では小百合のことを「破れ鍋に綴じ蓋」の”割れ鍋気質”と書いている。
    う~~ん、言いえて妙だ。
    この本の中で、小百合はまさに「破れ鍋に綴じ蓋」というか、似た者同士でいることが一番と思っているところがある。
    本当は憧れている聡史に振り向いてほしいのだが…

    小百合には自慢の弟がいる。
    誰もが認めるイケメン。
    その弟の彼女が小百合には気に入らない。
    その理由は、自分を重ねてしまうような地味な容姿だから。

    弟の彼女が自分の性格を分析し、10個あげていくのだが…
    あぁ、そういうこと…、と思わせてくれる伏線が。

    ラストの小百合の決断。
    あら、その決断をしたのね!と思ったけれど、その道を選ばなければ、小百合は前へ進めないだろうな、と納得。

    吉田さんの作品は6作品目。
    これまで読んだ5作品のうち、3作品が映画化されている。
    そして、この「7月24日通り」も。
    読み始めてすぐ、映画ではこの街はどんなふうに描かれているのかなぁと想像を巡らせた。

  • リスボンに憧れてる主人公に影響されて、リスボンに行ってみたくなった

  • 吉田修一は今までサスペンスしか見たことなかったけど、恋愛も書けるんだなあ。主人公の変に達観してる感じが大人になっていく自分に通じるところがあって、最後思い切って行動するところ元気貰えた。1.2.3.の数字はなんなんだろうと思ってたら途中で出てきてなんとなしに読んでた章題をなんか愛おしく感じた。自分でやるとしたらと考えた時、1.いい人レベルは中の上、って出てきた。他も考えてみても面白いかも。

  • 文章の感じが好き。
    他の作品も、もっと色々読んでみようかなと思う。

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

吉田修一の作品

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