さよなら渓谷 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.51
  • (121)
  • (405)
  • (400)
  • (91)
  • (13)
本棚登録 : 2922
感想 : 336
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101287546

作品紹介・あらすじ

緑豊かな桂川渓谷で起こった、幼児殺害事件。実母の立花里美が容疑者に浮かぶや、全国の好奇の視線が、人気ない市営住宅に注がれた。そんな中、現場取材を続ける週刊誌記者の渡辺は、里美の隣家に妻とふたりで暮らす尾崎俊介が、ある重大事件に関与した事実をつかむ。そして、悲劇は新たな闇へと開かれた。呪わしい過去が結んだ男女の罪と償いを通して、極限の愛を問う渾身の長編。
2013年に映画化!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 吉田修一さんの本をちゃんと読むのは初めて。悪人の映像が私には強烈すぎて、活字で体験するのは躊躇っていた作家さんである。

    悪人もこのさよなら渓谷も、事件がテーマだろう。そしてそれは女性には耐え難い事件がありありと描かれて、無情にも展開し結末はそうなってしまう。
    さよなら渓谷ではその事件を起点として加害者と被害者がまた接点を持つ。どちらの苦悩も良く描かれていてこのような事件が起こらない事を願いながら読む。

    展開的にはありえない方向に進んだと思う。女性の作家さんならこの展開は無いような気がするが、そうしたところも含めて怖さドキドキがあったのは作者の意図したところにハマッタのではないかと思う。

  • ずっと引っかかっていた既視感。
    読み終わる間際に思い出しました。
    この作品が映画化されたものを結構前に観てた。
    個人的には映画も良かった。なのでもちろん今回読んだ原作も良かったです。

  • さよなら渓谷 吉田修一著

    1.購読動機
    「路」「森は知っている」と読了してきました。
    前情報なく、既知の作家さんなので手にとりました。

    渓谷からは、清らかなイメージがわいたからでもあります。

    2.テーマ
    罪を犯し、生きる意味、生活することへの疑問を抱く男。
    そして、その罪の犠牲になり、両親もそして自らの幸せも壊された女性。

    この2人を軸に物語が進行します。

    他の人のレビューにあるとおり、過去、複数の大学で事件になった「暴行」を扱っています。したがって、物語とはいえ、読むのを躊躇うこともあります。

    3.作者がなぜこのテーマを、そして伝えたかった世界は、、、

    物語の登場人物のセリフに、作者の想いが込められている作品は多いです。

    しかし、この作品は、それが少ないからでしょうか?
    読者側に相当の想像力を求めているようにも感じます。

    罪を犯した者と、その被害者が、なぜ一つ屋根の下で暮らすのか?
    その背景と展開に、吉田修一さんは、何を託そうとしたのか、、、

    残念ながら、僕には、言語化できるほど消化は出来ませんでした。





  • ミステリー小説を装った純文学。スゴいものを読ませてもらった。

  • 途中から展開が読めて、最後どう終わるのだろうと。
    どんな最後が良いのか、どうしても女性の立場で考えるとわからない。
    そんなことが本当には起こりえないとも思うし。
    レイプ犯は一生苦しむべきだ。
    幸せになってはいけない。
    と言うのは簡単だけど。
    考えさせられる小説。

  • 薬丸岳さんの【死命】を読んだ後、この本を読んだからでしょうが…
    しんどかった…

    大学時代レイプ事件の加害者だった男性と被害者だった女性。
    贖罪の気持ちを抱き続ける男性。
    忘れたい、忘れようとする被害者の女性。
    気持ちはどこまでもすれ違っているのに…

    • azu-azumyさん
      まっき~♪さん

      こんにちは!
      コメントありがとうございます♪
      こちらこそ、いつも「いいね」をありがとうございます!!

      初めて...
      まっき~♪さん

      こんにちは!
      コメントありがとうございます♪
      こちらこそ、いつも「いいね」をありがとうございます!!

      初めて読んだ吉田修一さんの本が『横道世之介』でした。
      この本が面白くて、見かけるとつい手にしています。

      これまではものすごく偏った読書をしていたのですが、ブクログのおかげで色々な本にチャレンジできるようになりました。
      まっき~♪さんの本棚にお邪魔するたびに、その幅広さに驚いたり、感動したりしています。
      読んだことのない作家さんもいっぱいで、ぜひチャレンジしたいと思う日々です。

      ブログにも遊びに来てくださっているとのこと、ありがとうございます!
      最近、更新頻度がかなり落ちているのですが…(^_^;)

      これからもどうぞよろしくお願いします。

      2015/10/14
  • 傑作である。そして吉田修一の凄さが際立つ作品だと思う。まず情景描写の素晴らしさ。そして人間の描き方。加えて複雑な感情表現・・・それらが組み合わさってはいるが、サラリと描くのが実に旨いのだ。
    なので、先が読めるとか、あり得ないとか、都合がよすぎるとか、正直どうでもいい。人によって感じる度合いや深さが異なるように敢えて書いているのだから。よって様々な意見が無限に出てくるのは当然であり、それが作者の狙いでもある。
    反発が出てくる事も承知の上でこのテーマに踏み込んだ吉田修一の覚悟が伝わってくる。

  • 幼児殺害事件と尾崎と里美の間に起きた決して忘れることのできない過去から、それぞれが歩んできた2人。うだるような暑さの描写や男性からの視線が印象的だった。当時いた同級生の1人は、社会的地位にいて女性のこと、そんな風に思ってたのがいると思うと虫酸が走った。決して幸福とは言えない人生を送る被害者。
    尾崎と立花里美が一緒に暮らしてる?2人にはもう何もない…池袋の映画館で「許して欲しいなら死んでよ」から結末が展開していった。話しの内容は理解しがたいけど、不思議と惹き込まれてしまうのは吉田修一さんだからなのでしょうか。 

  • 前作の「悪人」は、読んだあとでいろいろ考えてしまう作品でしたが読み応えはあった。

    今回は東北の女児殺人事件をモチーフにはされているんですが、ストーリーはそれが本題ではない。

    記者の渡辺は自分の息子を殺した母親の取材のために何日も市営団地の前に張り込んでいる。
    ターゲットである立花里美の隣家に住む夫婦とも顔見知りになったが、ふとしたきっかけでその夫婦の秘密を知ることになり・・・

    仕事仲間の須田が偶然現場で尾崎を見つけて声をかけているところを目にしたことから渡辺は尾崎夫婦の秘密を知ってしまう。

    隣に住む尾崎夫婦は実は夫婦ではなく、ある事件の加害者と被害者。
    須田も実は事件の加害者の一人。

    15年前に起きたその事件に加担した加害者のうち人生が変わった者もいれば、さほどマイナスになった者もいないという、人の運の不公平が出ていて何ともやりきれない気持ちになる。

    被害者だった尾崎の妻は事件がきっかけで両親ともうまくいかず、人生をやり直す意味で結婚にふみきろうとしてもやはり事件が原因で結婚直前までいった彼と別れることになる。
    やっとその傷も癒えて結婚しても今度は夫から事件のことを責められてDVを受けて入院したりと転落の人生の一途を辿っていて・・・

    一方の尾崎は社会的な制裁を受けたけれども、先輩に引き抜かれて一流の会社に入り、会社でもそのことを非難されることなく着実に出世の階段を登っていた。

    罪を犯した自分がこういう人生を送ってもいいのかと自問自答しながら被害者に対して後ろめたい思いで、彼女が今幸せにしていればいいと都合のいいことを思いながら日々を送っていた尾崎。
    そんな彼が、あるとき偶然に被害者だった女性に出会う。

    尾崎が想像していたよりも遥かに悲惨な人生を送ってきた彼女をみて、『自分は幸せになってはいけない。彼女のそばにいなければいけない』と思う尾崎。

    尾崎は彼女がイヤがるにも関わらずそばにいるようになり、いつしか二人は「(自分は)幸せになってはいけない」という気持ちで結ばれ、一緒に暮らすように・・・

    読んでて切なくなった。
    記者の渡辺が二人にかけたい言葉を私も言いたいところですが、それを言ってしまうと何だか二人の絆が別のものになってしまうようで・・・

    彼女が尾崎と一緒にいて幸せだと感じてしまうことは、尾崎を赦すことになり、そしてもう尾崎を縛り付けておくものは何もなくなってしまう。

    ラストで彼女は一つの選択をするんですが、それは尾崎との関係を大切に思って行動したんじゃないかなと思います。

    読了感はまあ悪くないです。

  • 一気に読み終えました。
    吉田氏の作品、個人的にとても好きなんだと思います。
    この方は、人に説明することができず、自分でも何なのか分からない人間の心の奥底の「何か」を衝くのがとても上手い。

    その「何か」はどろりとした黒いものだったり、驚くほど無垢で純粋な衝動だったり、周囲への優しさだったり、社会の常識だったり、そんな色々が混ざり合って生まれた、何だかよく分からないモノ。
    それは誰の中にもあると思うのだけど、何となく見せたくないし、見たくない、知らずにいたい。。
    そこを衝くから、読んでいて、ズシンと心に響きます。

    とある渓谷で起きた、幼児殺害事件。実母が容疑者として浮かぶという、実際に起きた事件を思い出させる始まりですが、物語はその隣家に住む夫婦を中心に進みます。

    償うことが償い以外の何かに変わるとき、こんなにも切なく、やるせない感情が生まれるのかと、終盤には涙しました。

全336件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

吉田修一の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×