ボトルネック (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 9008
レビュー : 1209
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101287812

感想・レビュー・書評

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  • ずいぶん昔、テレビで観たコントは秀逸だった。
    ウッチャンこと内村光良扮するサラリーマン風の男が、颯爽と登場して道端に落ちている空き缶を一つだけ拾って去っていく。ただそれだけ。
    しかし空き缶が拾われずそのままの未来では、風が吹いたら桶屋が儲かる式に現象が連鎖して、最終的にはタンクローリーがガソリンスタンドに突っ込んで大惨事となる。
    ウッチャンは実は世界を救うヒーローで、事件や事故の原因となる「芽」を日夜摘んでいたのだ。
    しかし誰も彼がヒーローであることを、ましてや世界が彼の手で救われていることを知らない。

    バタフライ・エフェクトなどという言葉を知る由もなかった僕は、笑うと同時に大きな衝撃を受けた。

    日常の自分の些細な言動がどれほど世界に影響を及ぼしているのか。「世界」が大き過ぎるのなら、自身の人生とその周辺にどのような変化をもたらすのか。考えてみると、面白いと同時に恐ろしくもなる。

    嵯峨野リョウ。
    友人の弔いのために訪れた東尋坊で不意に平衡感覚を失う。
    ところが気がつくとそこは金沢の街。
    自分が「生まれなかった」世界で出会った「生まれてくるはずだった」姉。
    「間違い探し」の過程で遭遇する事件の予兆。

    パラレルワールドものでありながら浮ついた感じがない、現実と地続きの米澤穂信の筆致。
    そして伏線の張り方と不可解な状況の解きほぐし方は、まさにミステリのそれ。再読して唸る。

    読者自身をも東尋坊に投げ出すかのようなラストには驚いた。
    しかしラストを「絶望的」に解釈するブクログユーザーさんが多いのにはもっと驚いた。
    僕自身は「決別」と「最初の一歩を踏み出す勇気と希望」の物語だと読んだからだ。

    浦沢直樹の『MONSTER』や東野圭吾の『白夜行』のように、ラストの解釈によって余韻や物語の意味合いまで変わってくる。
    あのシーンは、嵯峨野リョウにとっての「分岐点」であり、読者にとっての試金石だと思う。
    当然そういうことも織り込み済みであり、僕らはまんまと作者米澤穂信の術中に嵌まっているのだろう。

    • kwosaさん
      アセロラさん

      コメントありがとうございます。

      そう、そのウッチャンのコントは当時の自分には衝撃的で、ずいぶん昔のことなのにいまだに覚え...
      アセロラさん

      コメントありがとうございます。

      そう、そのウッチャンのコントは当時の自分には衝撃的で、ずいぶん昔のことなのにいまだに覚えていますもんね。

      『ボトルネック』
      僕は面白く読んだのですが、もしこの本が「ファースト米澤」なのであれば、ちょっとビターな味わいに次を控えてしまうかもしれませんね。
      是非、他作品もいろいろ手に取ってみてください。
      2013/02/05
    • 九月猫さん
      kwosaさん、こんばんは。

      コメントでは、はじめまして。九月猫と申します。
      フォローしていただき、ありがとうございます。
      また『...
      kwosaさん、こんばんは。

      コメントでは、はじめまして。九月猫と申します。
      フォローしていただき、ありがとうございます。
      また『ライフ・イズ・ビューティフル 』にうれしいコメントまでいただき、ありがとうございます!
      (そちらにもお返事書かせていただいています♪)

      米澤穂信さんの作品、小市民シリーズと古典部シリーズが大好きなのですが、
      この『ボトルネック』は出だしで「あれ、テイストが違う?」となり、
      さらに他の本に気をとられ、数ページ読んだまま放置中です(^-^;)

      でもkwosaさんのレビューを読んで、こんなに面白そうなお話なんだ!と
      読みたい気持ちがぐぐぐーんと!!
      積読山に戻さずに、すぐ読む予定山にあるので(どちらにしても山なのですが;)、
      近いうちにちゃんと読んでみようと思います。
      ラストの解釈、どちらに受け取るのか・・・楽しみです。

      素敵なレビューがたくさんのkwosaさんの本棚、こちらからもフォローさせていただきました。
      これからどうぞよろしくお願いいたします(*_ _)ペコリ
      2013/03/31
    • kwosaさん
      九月猫さん

      花丸とコメント、そしてリフォロー! ありがとうございます。

      米澤穂信さんは僕も大好きな作家で、小市民シリーズはすべて、古典部...
      九月猫さん

      花丸とコメント、そしてリフォロー! ありがとうございます。

      米澤穂信さんは僕も大好きな作家で、小市民シリーズはすべて、古典部シリーズは『クドリャフカの順番』まで読みました。
      これら二つのシリーズは、青春のほろ苦さをカラフルな糖衣でくるんで上質なミステリに仕立て上げた感じですよね。
      でも米澤さんって、結構カカオ純度高めのかなりビターな物も書きますので、ひとくち味わって食べ残してしまう気持ちもわかります。
      全部の作品を読んだわけではないのですが、それでも総じてクオリティは高いので、他も手に取ってみてはいかがでしょうか。

      それにしても、積読山と予定山。いいですね。
      僕も予定山をつくっているのですが、いつの間にか積読の雪崩に浸食されていたり、掃除の時に妻にかってに並べ替えられていたりでなかなか......
      水木しげるとゲゲゲの女房みたいになっています。

      こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。
      楽しい本の話がたくさんできると嬉しいです。
      2013/04/01
  • 嵯峨野リョウという主人公がいる世界と
    嵯峨野リョウの本来生まれていないはずの姉 サキがいる世界の 
    違いを 探しながら、リョウの考えや行動が
    どんな影響があるのかを 浮き彫りにする。
    いわゆる パラレルワールド である。

    リョウの両親の 二人が 他のニンゲンと浮気をしている
    ことに対して リョウとサキの対応で、
    両親のあり方が 大きく違っているということ。

    ノゾミと言う同級生のおかれていた状況に対して
    リョウとサキの対応で、
    ノゾミの性格の表し方が ちがっていること。

    ノゾミの父親は ヒューマニスト
    ノゾミの母親は モラリスト。
    ノゾミは ヒューマニストにもモラリストにもなりたくなかった。

    サキは 『じゃ。オプティミストになれば』という。
    リョウは 『なんでもなくなれば、いいんじゃないか』という。
    そのことで、ノゾミは、影響を受ける。

    自分の存在で おおきく影響を与え 世界が変化する
    という 編集方法は 巧みである。

    そして ノゾミが 死んでしまったもうひとつの要因が
    フミカという 人の不幸を 喜ぶと言う 悪意的な存在が
    影響をする。これは、また 違った人間関係をつくり出す。
    ねたみの怪物の存在。

    そして、自分の生きていることへの根拠。
    『死んじゃえ』という言葉の重み。

    まったく 違った世界があり、リョウは 
    自分の存在そのものを 問いかけることになる。
    合わせ鏡を 自分で見つめているような パラレルワールド。
    リョウは どう生きていったらいいのだろうか。
    一歩 足を踏み出す。

  • 身の回りの不幸な出来事がすべて自分のせいだったら。そんな考えたくもない憶測が、パラレルワールドという独特な視点から事実だと痛感させられる悲痛な物語。自分のせいといっても、自分が何かしたせいというより何もしなかったことにより起きた不幸だというのだからタチが悪い。悪事を働いたわけではないのに自分が悪だと思い知らされる。
    自分がいない世界の方が周りが幸せになっているという事実を突きつけられたリョウにとっては救いのない物語だ。何かを変えるためにリョウはこれから変わることができるのか。その期待に対して、最後の一行は残酷だった。

  • 現実において劣等感に悩まされることも多々あるのだが、小説として言語化され更に叩きつけられるのも悪くないと思う。
    サキのような存在が、分岐点毎にいたのかなと思うと苦い。

  • なにもできなかったのか。なにもしなかったのか。両者は似ているようで、全然ちがう。自分がここにいることが、だれの未来にどう関わろうというのか。そんなことは起こってみなければわからないし、起こったあともわかり得ない。起こらなかった場合と比較しない限り。
    バタフライエフェクトと可能世界。主人公リョウが生まれなかった世界に生まれたサキ。リョウが生まれなかったことで、サキが生まれたことで、ふたつの世界はどう変わっているのか。本人でさえも気づかないところで、だれかに与えた影響。イチョウの木が何度も登場し、その存在感を見せつける。面白かった。

  • 理不尽に暴力的なものではなく、静かな救われなさがある。真綿で首を絞められるってこういうことなんだろうな…。
    悪意のない笑顔で存在を否定されるのが怖くておもしろかった。

  • 読み進めてくうちに、好きな映画である「バタフライ・エフェクト」を思い出しました。

    あるひとつの言葉が、あるいはあるひとつの行動が違うだけでずいぶんと未来は変わる。
    人は自分の認識とは無関係なところで、実はその時々で重要な岐路に立ち、その度に選択しているのだと気付かされました。

    パラレルワールドへのトリップ。そうまとめてしまえば簡単なのだけど、その発想がメインではなくて。あくまでメインは、自分が「いる世界」と「いない世界」の強制的な比較によって描かれる主人公のリアル感であって、その痛々しさであって。

    読後感が良いとは言えませんが、考えさせてくれる作品として僕は気に入りました。

  • いい本だなぁと思いました。自分の世界は世界から見たらこうだった、ていうのが少しずつ視界が開けていくことでわかってきて、読んでる人は自分のこととして捉えるシーンがいくつもあるんじゃないかなと。毎日は通過点じゃなく分岐点だっていうことを改めて思い出させてくれる、いい作品でした。

  • 最終章までの290ページが長い冒頭の様に思える程、ラスト7ページに凝縮された物語だった。綺麗にまとめず、絶妙な部分を曖昧にして終わる結末は、まるで筆者から「想像して!」と言われている様だった。

    この想像をするのがとても楽しい。ここに書くと恐ろしく長くなってしまうので書かないが、本書には考える材料が随所に散りばめられている。そのヒント達は一つの答えに誘導することがなく、読者の想像力をひたすらに膨らませてくれるのだから面白い。

    読み手によってバッドエンドにもなるし、ハッピーエンドにもなりえる。
    ちなみに私はまだ楽しく悩んでいます。

    • kwosaさん
      ギンジローさん

      フォローありがとうございます。

      僕も米澤穂信さん、好きですよ。
      最新作『リカーシブル』やっと読むことができました。
      おっ...
      ギンジローさん

      フォローありがとうございます。

      僕も米澤穂信さん、好きですよ。
      最新作『リカーシブル』やっと読むことができました。
      おっ『ボトルネック』のレビューが......
      なんて思っていたら以前に拝読していたようです。

      >読み手によってバッドエンドにもなるし、ハッピーエンドにもなりえる。

      面白いですよね。
      ちなみに僕はハッピーエンドと思いたい......

      ときどき本棚を覗かせて頂きます。
      これからもよろしくお願いします。
      2013/04/30
    • 巧真さん
      kwosaさん

      こちらこそ、フォロー・コメントありがとうございます。

      米澤さん良いですよね、特に追想五断章が好きなのですが、ボトルネック...
      kwosaさん

      こちらこそ、フォロー・コメントありがとうございます。

      米澤さん良いですよね、特に追想五断章が好きなのですが、ボトルネックは正にリドル・ストーリーで結末が考えるのが楽しかったです。

      確か始めはバッドエンドだと思ったのですが、最初から読み直して状況を整理していく内に、まだ手遅れになっていないのではと考えました。もうひとつの世界で多くの事に気付いたリョウなら、きっとハッピーエンドにしてくれると僕も思います。

      こちらこそよろしくお願いします、本棚を眺めた所、自分が読みたい本(特に「ぼくのメジャースプーン」)が色々あったので、今度読んでみますね。
      2013/04/30
  • 主人公がいる世界といない世界とで、いない世界の方が何もかも上手く行っているという事実を突きつけられ、絶望する作品。
    しかし、展開が飽きることなく、面白かった。

著者プロフィール

米澤 穂信(よねざわ ほのぶ)
1978年、岐阜県生まれの小説家、推理作家。金沢大学文学部卒業。
大学在学中から、ネット小説サイト「汎夢殿(はんむでん)」を運営し、作品を発表。大学卒業後に岐阜県高山市で書店員として勤めながら、2001年『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞し、デビューに到る。同作は「古典部」シリーズとして大人気に。2011年『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)、2014年『満願』で第27回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。『満願』は2018年にドラマ化された。直木賞候補にも度々名が挙がる。
その他代表作として週刊文春ミステリーベスト10・このミステリーがすごい!・ミステリが読みたい!各1位となった『王とサーカス』がある。2018年12月14日、集英社から新刊『本と鍵の季節』を刊行。

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