- Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101287836
感想・レビュー・書評
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実父の失踪により 義理母の田舎に越してきた中一の少女。
過疎化が進む地方都市には、タマナヒメという伝承が今も残る。
これが庚申講繋がり。京極堂が役立つ一瞬。
都会から息苦しい田舎で自分の立ち位置を探しながら、家庭での居場所も探す。
未来予知の不思議な伝承を地道に読み解きながら、義理弟の不可解な予見的言動の事実にたどり着く。
父は戻らずともこれからも頑張っていけそうな少女なのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
青春の爽やかさでもなく、きらめきでもなく、仄暗さと不穏な雰囲気が終始漂う青春ミステリ。米澤穂信さんらしい絶対零度の真実が最後に待ち受けます。
父の失踪により、母と弟とともに地方都市へ越してきた越野ハルカ。目立たないよう新しい町や学校になじもうとする彼女だが、弟のサトルの未来を言いあてるような予言に翻弄され、やがて町の伝承と、高速道路の誘致運動をめぐる闇に少しずつ近づいていく。
特徴的なのは作品に漂う空気感。過疎化が進む、どこか閉鎖的な町の奇妙な人間関係や、うかがい知れない力関係。新たに町に越してきたハルカは、その空気感の奥に何があるのかはわからないけど、でも「なにかがおかしい」ということだけは感じています。
その空気感の演出が巧い。読んでいる側も徐々に町の不穏な雰囲気に囚われていくし、その不穏さの理由が一向に分からないのが、なおさら不安感をあおる。ハルカが知る町の伝承や、高速道路をめぐる誘致運動がその原因なのだろう、と見当こそつくものの、そこから先がなかなか見えてこない。
具体的に何があったのか? 誰のどのような思惑があるのか?
それが終盤に至るまで全く見えてこないので、もどかしさはあるものの、それ以上に先の見えなさが不安をとにかく煽ってくる。
そして物語の3分の2くらいで、その不穏さは具体的なカタチをなしてくる。ハルカの学校の教師が巻き込まれた奇妙な事故。ハルカの唯一の友人の不審な行動、そして奇妙なまでに優しかった母親の変化。
不穏さは徐々に具体的なカタチを伴うようになり、読んでいるこちらの体温も徐々に冷えてくる感覚に陥ります。そしてハルカと母親の決定的な関係性の変化が訪れ、町とサトルの未来視の秘密が明らかになると、ハルカは残酷な真実を知るとともに、子供のままではいられないことを悟ります。
ミステリーとして読むと、明言されていないところや、読者の想像にゆだねられているところ、オカルトじみたところもあって、やや消化不良の感は残るかもしれない。でも、この小説はそうしたミステリーとしての解決に重きを置いていないような気もします。
強くならざるを得なくなってしまった少女。彼女の置かれた境遇や環境はあまりに苦く、闇が漂う一方、そんな中でも、強くあらねばという彼女の決意が強く印象に残る。
爽やかさも、きらめきも、友情もない。それでも少女の新たな成長を描いた、仄暗い青春ミステリ。なんとも言い難い余韻の残る作品でした。
2014年版このミステリーがすごい! 7位 -
離婚した母と弟のサトルとで坂枚市という母の故郷に引っ越してきたハルカ。ほどなく母とサトルは父が再婚した女性と連れ子だとわかるが、微妙な関係性がハルカの心情から描かれている。そこに土地の伝説とサトルの既視感が交差し物語は進む。中学1年の4月の出来ごと。ハルカとサトルがとても生き生きしている。
2013.1.20発行 図書館 -
重苦しさを感じる背景の設定に
なかなか読み進めなかったが
ハルカの芯の強さにほだされて
少しずつ感情移入していった。
これも作者のうまさなのか
オカルト的な話がいつの間にやら
論理的な推理へと転換してゆく頃には
すっかり惹きこまれてしまっていた。
それにしても
しっかり者の姉と憎めない弟だなあ。
これから2人に
幸せな未来が訪れますように。 -
『さよなら妖精』に続いて、二冊目!
解説には「米澤作品の愛すべきヒロインが、また一人誕生した」とあるけれど、ダブルヒロインでしょう。ハルカも、リンカも、どっちも良い。
高速道路誘致に、復興の夢を託す町。
そこに残る、タマナヒメ信仰。
泥濘にはまっていくようなウチとソトの関係を、一つ一つ明らかにしていくのが、心地よい。
ハルカがどのような明日を歩んでいくのか。
窮地に立たされた少女であるのに、そんな理不尽を乗り越えていく彼女が愛おしい。
飄々としたリンカもまた、大人の都合、と自分の生き方をどう交わしていくのか、楽しくなる。
【recursive】
再帰的な。自分自身に戻ってくるような。 -
ムラ社会の異常さ、怖さが伝わってくる。
本当に怖いのは人間である。
タイトルがわかりにくいが、繰り返し現れるタマナヒメを示しているのだろう。 -
父の失踪により母親の故郷に越してきた主人公の少女、越野ハルカ。母と弟との3人で過疎化が進む地方都市での生活を始める。しかし、町では高速道路の誘致運動を巡る暗闇と未来視にまつわる伝承が入り組み、不穏な空気が漂い出していた。そんな中、弟サトルの言動をなぞるかのような事件が相次ぎ…。
米澤穂信の描く「青春ミステリ」とあるが、爽やかさや甘酸っぱさのある「青春」とは異なる印象を残した。主人公ハルカは中学一年生であるが、クラスでの振る舞いの仕方や空気を読む力、「どうすべきか」という言動を選ぶ姿がとてもませている。その性格は両親の離婚と再婚、そして唯一の肉親であった父の失踪などの不幸な境遇が生んだものであるのがわかるので、なんとも切ない気持ちになる。
全体的に、町に蔓延るなんともいえない不気味さが薄気味悪く、それに町に残る伝承の話が交差してより気味の悪さが増していく。果たしてこの町に潜む気味の悪さの正体とは、そして弟の予知能力はなんなのか。
きちんと伏線を回収して納得いく結末に持っていくのはさすがだった。その一方で全てが解決できた訳では無い、少し不安の残るラストシーンも米澤穂信作品らしいと思う。