- Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101288017
感想・レビュー・書評
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この作品が45年も前に書かれたとは思えないほど、決して古びない科学の進歩と科学者の向き合い方の問題が描かれる。
貧しさと人間不信故にウイルス研究に憑かれた男の哀しい人生。死んだことにされ生涯を無名の科学者として国に奉仕することを強いられた男の行く末。
手記の形で描かれる黒田の生い立ちや、唯一の拠り所だった研究が「逆立ちした科学」であることへの疑問と絶望がヒリヒリと胸に迫る。
巻末の手紙が全ての謎を明らかにして、そこに一筋の希望が残されたことに安堵する。
科学の進歩も使い方次第。人を生かすも殺すも紙一重の医学の闇。
核兵器よりもはるかに安価で開発ができ、簡単に大量殺戮が可能な細菌兵器。あの国もまたあの国もきっと開発して備えているんだろうと思うと背筋が寒くなる思い。
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医学ミステリーでこれも当時話題だっただろう旧い作品。
ウイルス研究が細菌兵器になるという恐ろしいことを下敷きに
一人の医学関係男性が翻弄される、時と場所のスケールが大きい物語。
フランスとスペインの境ピレネー山脈にアンドラ公国なんていう
小さな小さな国があったなんて、この本を読まなければ知らなかったわ。 -
2016/10/03 - 2016/10/09
パリで開かれた肝炎ウィルス国際会議に出席した佐伯教授は、アメリカ陸軍微生物研究所のベルナールと名乗る見知らぬ老紳士の訪問を受けた。かつて仙台で机を並べ、その後アメリカ留学中に事故死した親友黒田が、実はフランスで自殺したことを告げられたのだ。細菌学者の死の謎は真夏のパリから残雪のピレネーへ、そして二十数年前の仙台へと遡る。抒情と戦慄のサスペンス。 -
読了。僕達を封じ込めているのは社会とか思想とかではなく、1日24時間という物理的制約と知性という生理的限界だけである。テーマの割に明るい展開と相変わらず引き込まれるわ。ただ、読書に絶望的な虚脱感を求める僕としてはハッピー(?)エンドにそうなの?感はあり。間違えなく面白いけどね。
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黒田は手記に書いてあるように佐伯とずっと一緒にいれば人生が全然違ったのかもしれない…。
貧しさゆえに両親に愛されず、兄は狂い、自分は狂わないために殻に閉じこもり、ウィルスだけに心を注ぐ。
自分が発見した仙台ヴァイラスが認められアメリカに行けると決まった時はどんなに嬉しかっただろう。心を許せる友になりつつある人よりも、たった一人の肉親の兄よりも黒田はウィルスを選びアメリカへ行った。そこで得て、失った物はなんだったのだろう。
「水を得た魚という評は正解だろう。だが水を得た代償として何を売り渡してしまったのだろう。」 -
帚木蓬生著 白い夏の墓標
二、三年前古書店で比較的綺麗な形で並べられておいたので購入しておいた。最近書店で平積みで売られていたので読んでみた。40年以上前、著者は三十代に入った頃に書かれた本であるけれども、全く題材は陳腐化しておらず、今の時代にも十分通用する医学ミステリーであり、細菌兵器の開発をあつかったサスペンスです。
最近見た「オッペンハイマー」は核兵器開発の映画でノンフィクションですが、こちらはフィクションで細菌兵器をアメリカ政府機関での開発に関わった細菌医学者が最後良心に立ち返って、細菌をこの世から廃棄して上司の指示で殺し屋によってピレネー山脈の山深くで抹殺されてしまうストーリーです。スペインの国境の山間の地にある研究所と病院、そこからのフランスへの恋をした看護師との逃避行をみずみずしい文体も相まって非常に惹き付けられた一冊でした。 -
これはなんだ?というのが読み始めて正直な感想。
昭和58年(1983年)の医療をテーマにした小説。道にウィルスをテーマにヨーロッパで謎に向かって突き進む主人公。ウィルスという最近人類が苦しんだテーマに真正面から向き合った作品だ。ウィルスのメカニズムについて解説もされていて記憶に新しいことが40年前に描かれているのだ。
そしてフランスからピレネー山脈での出来事が深く面白い。
とても40年前の作品と思えない斬新さを楽しめた。 -
「この本、本当に凄いぞ!!」の帯に衝動買い。45年前とは思えない現代的内容の医学ミステリー。
アメリカで客死した学友の痕跡をおって行くうちに辿り着く細菌研究所。細菌兵器の研究に従事する医学者たち。逆立ちした科学。人体実験やウイルスなど、COVID19の出自を預言しているかのような内容。
書店員のオススメのとおり大当たりでした。 -
専門的な言葉が多く難しかった
ウイルスを研究する科学者
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2024.01.14