国銅(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101288178

作品紹介・あらすじ

華やかな奈良の都で、国人は大仏造営の作業に打ちこんでいた。ともに汗を流す仲間たちと友情を築いた。短き命を燃やす娘と、逢瀬を重ねた。薬草の知識で病める人びとを救い、日々を詩に詠む。彼は、確かな成長を遂げていた。数え切れぬほどの無名の男たちによって、鉱石に命が吹き込まれ、大仏は遂に完成した。そして、役目を終えた国人は-。静かな感動に包まれる、完結篇。

感想・レビュー・書評

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  • 国人と一緒に成し遂げた達成感!読了後に感じた率直な気持ちだ。東大寺大仏建立に際して全国各地から集めらた多くの人足達の物語。働くことが税務であった時代のその活動の辛い物語が、淡々とした筆致で進んでいく。しかしそこには大仏を造り上げていくという偉業とは別にささやかではあるが繰り広げられていく人間模様が細やかに表現されている。そして、銅造りから大仏造立、開眼供養、そして帰国までの苦労が、淡々とではあるが確実に熱気を帯びていき、たった独りになってしまったあと無事に故郷に辿り着けるのかはらはらした感じはどこから生まれてくるのか。

    辿り着いた故郷も出立して5年も経てば、やはりいろいろ変化はあり期待していた世界とは違っているが、それでも何故か国人と一緒に感じる達成感に静かに浸ってしまったのだ。

    現代とは比べ物にならないような人力の苦労に加え、それでも薬草摘みや仏道に関する考え方、仲間たちとの交流、そして詩歌を含めた文字への想いといった国人自身の成長にいつのまにか入り込んでしまっていた。それが帚木の魅力というかパワーなんだと思う。これまで読み進めてきた『ヒトラーの防具』や『聖杯の暗号』に連なる人知れず積み上げられた歴史の物語にまたはまってしまったようだ。

  • 若者の成長物語なのだがなんとも切ない。奈良時代を描いた作品といえば、「天平の甍」が思い出されるが、通じるものがある。人間的な深みとか、様々なタイプの人間を描いているという点では、やはり井上靖の方に軍配があがるが、奈良時代を描くという点では、本作品も調べが行き届いている感じがした。

    帚木さんの作品は初めてだが、様々なタイプの物があるようなのでまた読みたい。

  • 久々にヒット!
    地味な主人公だけど、奈良時代の話が克明に描かれていてその時代が目に浮かんでくるようだ。
    箒木篷生って知らなかったけど、他の本も是非読んでみたい。

  • こころの中の塵を掃き清めてくれるような物語でした。

  • 長門の奈良登りで過酷な苦役の日々を送る国人が、
    大仏造営命を受け仲間と共に奈良へ旅立つ・・・

    黒虫の考え方、言葉がとても好き。
    また、歌や詩には大きな力があることを改めて感じる。
    人にとって大切なものは何か、この時代の人々の生きる様、
    色々な事を考えさせられる重量感ある話です。

    続きが気になって止められず、夜中まで起きて読みきってしまった。
    購入して再読したいと思います。

  • 一つ一つ出会った物事を咀嚼し、その意味を見出そうとする国人の姿に共感。そして善に向かうその心の美しさに打たれっぱなしでした。
    衛士頭の温情、池万呂の詩に対する解釈、終盤の様々な人との別れに涙し、人足を蟻になぞらえたくだりや命を助けた母子登場の描き方など多くの見せ場に唸ることしきり。
    学生の頃何の感興も覚えなかった漢詩は、今この本で読むと何と味わい深いものかと改めて発見も。

    最後のシーンには本当に胸が熱くなりました。
    文句なしの五つ星。時間が経ったらまた大事に読みたい。

  • 私は先に「水神」の方を読んでしまったが、この「国銅」があって「水神」がある、そんなことが自ずと頓悟された。

    非常によくできた二昔前ぐらいの連続テレビドラマを観ているかのようだ。
    主人公の国人が絵に描いたような善人の模範で、周りの人々や環境にも異様なほど恵まれる、などといったフィクションならではの好都合も随所に見られるが、本作全体を貫き通す真っ直ぐな流れは揺らぐことなく、読者の真情に迫る。
    物語の中には、謎もどんでん返しもトリックも出てはこないが、“生きる”とはどういうことなのか、そんな命題に真っ向から取り組み、そのプロセスを経て得られた著者なりの答えが示されている。

    「水神」同様、作中に出てくるなんでもない食べ物の数々や、また医師ならではの見地から描かれた疾病の表現などが印象に残る。
    大仏建立の具体的な方法についても、ここまでよく調べられたものだと感服する。
    奈良登りの掘り口や釜屋、吹屋もそうだが、登場人物たちが働いている現場の暑さ寒さまで伝わってくるような臨場感だ。

  • これほどに魅了された作品は久しくない。
    想像をはるかに超える苦役に就きながらも、心は腐らず真っ直ぐに生きる主人公を応援し、全ての出会いに感謝しながら読んでるなんて。
    何度となく大仏さんにお参りしているが、次回は別の見方で感慨一入になるだろう。

  • 読み終わる頃には涙を抑えるのに苦労しました。
    なんという臨場感!!!
    多分これから何度も読み返すことになるでしょう。。。

  • 華やかな奈良の都で、大仏造営に携わった国人が主人公の物語。

    銅の産出から、大仏造営と奈良時代の社会、風俗良く描かれていて大変興味深く読めた。

    大仏造営を底辺で支えた人々の営みが興味深かった。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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