- 本 ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101290416
感想・レビュー・書評
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単なるバラバラ殺人を扱ったミステリーにはしたくないというような作者の強い拘りがあって、主人公のエリート、崇に小難しい事を語らせているのだろうが、崇の頭の中の描写とそれ以外のレベルの高低差が大きく、こちらの、先を読み進めたい気持ちと、崇の言わんとする事をキャッチしたい気持ちが噛み合わず、せっかくの面白さが減ってしまったように思った。
赦し、死刑、ネット社会、今にも決壊しそうな人間関係、マスコミのあり方、捜査の仕方など、扱っているテーマはよくあるものだった。となると、やはり崇の存在が、同じようなテーマを扱う小説と一線を画しており、彼の考察は必要となるのだろうか。
最も印象に残り、共感できたのが、現代の人間の幸福に対する姿勢だった。
「幸福とは、絶対に断つことのできない麻薬だ。それに比べれば、快楽などは、せいぜい、その門番程度の意味しかない。人間は、快楽を否定することはできる。しかし、幸福を否定する事は絶対に許されない。このたったひとつの残酷極まりない、凶悪な価値が、この社会の全てを支配しているのだ。どんな人間でも、絶対に幸福を目指さなければならない。幸福を愛する心、それは、現代の最も洗練され、先鋭化したファシズムだ。」
自分(もしくは近しいものを含む自分達)の幸せのために、貪欲に、楽しい、美味しい、心地良いを貪る傾向の強い現代の人々。コロナ禍ではよりそれが悪目立ちする。個人的には、そういった姿を見苦しいと感じる。必要なものだけを大切に作り消費することに回帰する方に向くべき時なのではないかと感じ、最近の傾向に対する違和感が、心の底から湧いてくる。
「人間の生の長さは、生物としての寿命か、それより短いかのどっちかだよ。その2つしかない。死刑は要するに、犯罪者に寿命を許さないっていうことだろうね。殺された人間が、寿命よりも短い生しか生きられなかったことの報いとして。」
死刑に関するこの意見に、納得した。死刑には特に賛成でも反対でもないが、死刑を行う意味とはこういうことなのではないかと思った。
かなりの長編だったが、先が気になって一気に読み進められた。 -
感想は下巻で。さらに重厚に、面白くなっていく予感。
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⚫︎受け取ったメッセージ
平野啓一郎さんの提唱する「分人主義」前期の作品。相手の、全く知らない相手の部分を知る怖さを、ミステリー、サスペンスの形で見せてくれる。
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
地方都市で妻子と平凡な暮らしを送るサラリーマン沢野良介は、東京に住むエリート公務員の兄・崇と、自分の人生への違和感をネットの匿名日記に残していた。一方、いじめに苦しむ中学生・北崎友哉は、殺人の夢想を孤独に膨らませていた。ある日、良介は忽然と姿を消した。無関係だった二つの人生に、何かが起こっている。許されぬ罪を巡り息づまる物語が幕を開く。衝撃の長編小説。
⚫︎感想
一気に引き込まれる設定。すぐに下巻を読みたくなる。 -
再読
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特に前半の言葉のあやふやさや話のつながりのなさで読み進みづらかった。後半にかけて纏まりが出て面白みが増したと思う。
途中まで下巻は読むのをやめようかと思っていたが、上巻終盤の展開で下巻もチャレンジしようかと思った。 -
冗長に感じる部分も多々あったけどそこがおもしろいしこの小説の良さだと思えた
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「ある男」以来の平野啓一郎san。同一作家sanで3冊以上の読了となり、ひさしぶりに「カテゴリー」を追加しました。
犯行声明付きのバラバラ遺体、沢野良介、エリート公務員の兄、幸福と哀しみ、<悪魔>とは誰か?、<離脱者>とは?、止まらない殺人の連鎖など。
”赦し”というテーマは好きなのですが、崇やKATSUZO達の語り、思想が私には難しすぎました。。 -
崇が犯人でほしい気持ち7割とほしくないような気持ち3割で読み進めた。
つまり、実弟をメッタ裂きにするくらいの屈折した心の闇がある英才を生んだ背景を主軸にした展開を望むか、途中から出てくる少年を絡めたネットの闇を主軸にした展開か。
結果としては後者で、サスペンスという観点では特段目新しさを感じなかったが、およそ20年前の発刊当時読んだら、全くの第三者同士をつなげて殺人にまで至らしめるネットって恐っ!って思ったのかもしれない。
他の方もおっしゃってる通り崇=作者なんでしょう。私は嫌いなタイプではない。
崇に発言させている内容で共感した部分を自分の備忘録の為に書き留める・・・
「功利主義的に考えれば、どんな献身だって、殉死だって、みんな自分に利益のためだよ。誰も決定的には、このシニシジムからは逃れられないと思う。そうした利己的な欲望の中で、人間は他人と交わりながら生きている。」
「他者を承認せよ、多様性を認めよと我々は言うわけです。しかし、他者の他者性が、自分自身に取って何ら深刻なものでない時、他者の承認というのは、結局のところ、単なる無関心の意味でしょう」
それにしても全体を通して傍点が多すぎて、その各傍点の打たれた意味や何を強調しているのかが分からなかった。頭のいい作者のことだからこの超大量の傍点にも何かしら意図があるんでしょうが・・・ -
独特の平野さんの文章であったが、ところどころ難しい話があり、読むペースが遅くなったり、読みやすくなったりを繰り返しながら読み進めた。
生と死、人からの見られ方、殺人・罪などについてが大方のテーマかな。
ページ数も内容もなかなかヘビーな印象。
下巻も気合を入れて読まないといけない。
著者プロフィール
平野啓一郎の作品






この当時の平野啓一郎先生の話って、難しいですよね(-。-;
頭の悪い私...
この当時の平野啓一郎先生の話って、難しいですよね(-。-;
頭の悪い私には読むのが大変でした。
しかしこの本から大ファンになりました(*^▽^*)