決壊(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 649
レビュー : 77
  • Amazon.co.jp ・本 (513ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101290423

作品紹介・あらすじ

戦慄のバラバラ殺人-汚れた言葉とともに全国で発見される沢野良介の四肢に、生きる者たちはあらゆる感情を奪われ立ちすくむ。悲劇はネットとマスコミ経由で人々に拡散し、一転兄の崇を被疑者にする。追い詰められる崇。そして、同時多発テロの爆音が東京を覆うなか、「悪魔」がその姿を現した!'00年代日本の罪と赦しを問う、平野文学の集大成。

感想・レビュー・書評

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  • 上下巻一気に読みました。
    特に何か細工があるわけではないんだけど、いったい誰が犯人なの?そう思いながら読み進めました。
    それは、本に出てくる登場人物たちも抱えていた疑問なのではないのかと思います。
    犯人は誰なのか、悪いのは誰なのか、もしかして自分自身が一番ひどいことをしたのか?
    信じていたあの人は、自分の思っていたような人ではなかったのか?
    そのような思いが、少しの出来事でどんどん変化していきます。
    なのに、疑う心だけは、とめどなくあふれていく。
    そしてその先にあるのは憎悪です。

    お話の設定が特別リアルであるは言いません。
    ミステリーですが、そこを突き詰めて作られた作品ではないと思います。
    突き詰められたのは、人の人格(平野氏の言葉でいうと分人)。それはそれは、気持ち悪くなるくらい、人格に焦点を当てて書かれています。

    人から見える自分、自分の思う自分がずれてしまっていること。
    自分から見たあの人と、周りから見たあの人がずれてしまっていること。
    本当の自分て?本当の相手って?
    考えても考えても答えが出なくて、ずれに対する絶望が疲労感を生んでいきます。

    合う人の分だけ人格はある、分人という考えを理解する第一歩の作品です。

  • 「悪魔」の一打が下され、取り返しのつかない決壊へ。
    責めるか?共感するか?赦せるか?進めるか?

    徹夜で一気に読んでしまったので、頭の中が忙しく興奮してろくな感想は書けそうにありませんが・・
    読み終わった瞬間に、タイトルの「決壊」という字が、ドンドン!っと一文字ずつ脳天に降ってくる。挙句、物語がじくじくと心を蝕んで眠れなくなる。
    何の救いもないまま。何も取り返せず。状況は悪化するだけ悪化して。その救いのなさに、著者の強固な意志を感じました。
    凄惨な描写は読んでいて気分が悪くなることもあったけれど、読み終わった今、今夜見る夢に影を落としそうなのは事件そのものや犯人の凶悪性ではなくて、
    被害者の兄・崇が、弟の不在と過ごす日々。
    許されない罪を、赦すしかないことの持つ意味。空虚です。
    その空虚を書ききったという意味で、他の同様な作品からは距離があるように感じます。

    次の作品の「ドーン」にも引き継がれている「自身と言葉の不一致」という考えについては、本作の方が実感しやすい。
    ちょっと話がそれますが、「私って幸せ者です」とネットでわざわざ書いている人を見ると、そう書かなければ確かめられない幸せの不在と闘ってるんかなぁ・・・と思ってしまうことがある私。そこには少し嘲笑的な色合いもあったなぁと自覚して、自分の内なる醜さに居心地が悪くなりますが
    例えその人がそうであったとしても、本作中の被害者・良介のように、自身と言葉の一致を後から確認することもできるし、そもそもその不一致があったから何なのだ、と今感じます。
    私自身が、自身と言葉の不一致だらけの人間だからこそ、自分自身の多面的なあり方を思うと同時に、そういう人と出会ったならば・・・と思うと、より一層、著者の言葉の一つ一つを考えてしまう。

    ちなみに、私はちょっと間違えて「ドーン」の方を先に読んでしまったけれど、平野さん未読の方は、本作→「ドーン」という順番で読むことをお勧めします。
    ジャンルはまったく異なる2作品だけれど、そこには確かに連続性と、希望のふくらみがある。

    くどい自分哲学が苦手な方にはお勧めできないけれど、色んな意味で重くて厚い作品を読む気になったら、是非本作のご検討を。
    上巻レビューにも書きましたが、主張だらけなのに押し付けがましくない、むしろ読了後沢山のまとまらない思考の中に放り出される、強い作品だと思います。えぐいからって話じゃなくてね。

  • 読後には大きな徒労感、嫌悪感、絶望感が残りました。でも、もう一回読みたい。

    エリート公務員(ちなみに国会図書館の司書)の兄と、平凡だけれど幸せな家庭を築いている弟。
    ある日弟がバラバラ殺人の被害者になったことをキッカケに、彼らの周辺が崩れていく様子を描いた作品です。殺人犯の一人である、地方に暮らす男子中学生の姿も並行して描かれます。

    物語の舞台は2002年の日本なのですが、中身が全然古くなっていないのがすごい。悪く言えば日本社会にそれだけ進歩がないということですが・・・。
    物語の本筋ではないのかもしれないけど、「変わらない(変われない?)」ということが印象に残りました。殺人犯の一人が男子中学生だと分かった後のマスコミの様子とか。
    別に教育の専門家でもなんでもない人がさも視聴者の代表であるかのようにテレビで喋りまくり、おきまりのように「今の教育に問題がある」、「夢を持たないと」と結論づける。
    弟と最後に会っていた兄が途中まで犯人と疑われるのですが、「コイツが犯人に違いない」と警察もマスコミも考え、そのような報道が行われる。捜査もその前提に立って実施。(都合の悪い証拠は見ないふり)
    事件後、苗字を変えて働く加害者の母親のところに全く関係の無い第三者が現れて、「息子があんなことをしたのに、なんで平然と生きてるんだ。どこまでも追い詰めてやる」とやって来る。

    特に最後の「身内から犯罪者が出たらその家族も全員同罪であり、何やってもいい」という風潮は現実世界でもさらに強くなっている気がします。ネットで何から何まで暴かれたり。こういうことしてる人はそういう「私刑」が「正義」だと思ってるのでしょうか。長年の謎です。

    とりあえず「この世は生きにくい」と改めて感じさせる作品でした。毎日を明るく楽しく、未来に希望を持って生きていきたい人にはおすすめできない苦笑

  • 最初の方こそ次々と代わる視点に戸惑ったものの、全編を貫く凄まじい緊張感と圧倒的筆力で結末まで一気に読ませる(最後のテロはやや強引かと思ったが)。方言や若者たちの会話にしろ週刊誌記事、ニュースでの識者たちによるコメントにしろリアリティがすごい。多くの小説でちょっと引っかかるようなこうした箇所もごく自然に読める。そして内容の濃さ!崇のドストエフスキー的な哲学的議論だけでなく、揺れ動く登場人物たちの感情も細やかに描き出される。比喩もうまい。

  •  【言葉の海】という文句が何度となく頭によぎるような小説だった。テーマやモチーフはもちろんだが、その表現の緻密と語彙の豊かさに脳みそをわしづかみにされ、登場人物の細かい心情の揺れを強制的に体感させられるような暴力めいた文章力だと思った。

     【悪魔】のくだりや、崇が何度も自問する場面などは『カラマーゾフの兄弟』のイワンを思い起こさせる。終盤の、崇が砂浜で入水するシーンは、イワンが悪魔と口論するシーンと重なって見えた。冒頭からずっとギリギリのところでせき止めていた彼の「何か」は、ここで「決壊」してしまったのだろう。他者に対してはいくらでも「優しく」なることができた彼は、自己に対してはそうできなかったのだろうか。

     読後すぐに消化できるタイプの小説ではないようで、まだ自分の中に残滓のようなものが漂っている。ゆっくりと浸透していくことができればいいなと思う。

     

  • 深い心の闇。暗く渦巻く謎。
    未成年者の犯罪。ネットを介した脅威。警察の横暴。
    現実にありそうな恐怖。
    それらを奥深く描いている作品。
    犯人は主人公??と思わせるストーリー。ラストは辛いものでした。
    難しい会話が続き、主人公・崇の言葉を理解していないところもあると思う。登場人物の心の声が痛い。
    犯罪物の声は理解を絶する。殺人に快楽を覚える闇は、常人では理解できないが、そこをえぐるように描いているのが、ますます恐怖というか気味悪い人物像を想像していきました。
    ラストは本当に痛い。悲しいとか、簡単な言葉では表現できません。
    胸の奥に真っ黒なインクをこぼしたみたい。それが浸透してしまわないように……。そんな作品です。

  • 9・11後の2002年10月、国内で犯行声明付きのバラバラ殺人が起きる。遺棄された遺体の部分が全国に散って発見され、その第一発見時の異様な写真と複数の犯行声明文がインターネットを通じて瞬く間に広がった。「悪魔」を名乗る犯人の主張「人間社会からの離脱」に同調する者たちによる予測できない無差別殺人の波紋が広がる。これは形を変えたテロでは無いのか。犯人は一体誰なのか?

    誰もが生きにくさを感じている社会の中で、「幸福」を目標に生きることを当然と思う。それは一つのファシズムではないのか?格差社会の中で、持たぬ者、最底辺にいる者の孤独とルサンチマンを煽る「悪魔」とは、一人の誰かでは無く、誰の中にもある憎悪と殺意なのか…。

    最初にバラバラ死体となって発見された野沢良介の死は、その妻子、両親、とりわけ優秀だった兄の崇を巻き込んで、微妙なバランスを保っていた家族を完全に崩壊させて行く。

    重く、陰鬱な話ではあるが、べとつく感じでは無く、現代社会における人間の存在、一人の人間の外から見るイメージと実体、上部構造に属するインテリの分析癖と、自分の人生を生き切れない虚無感、この社会に居場所がなく、遺伝と環境によって人生を奪われたと感じている者の虚しさ、善が信頼性を持つためには、捏造してでも外側に悪を作り出さなければならない、など、多岐にわたるテーマが多少衒学的に盛り込まれていてとても語りつくせない。再読必至の傑作だと思う。

  • 起こる事件や展開は派手ではあるが、その中で登場する
    人物の心の動きは非常にリアルで身に迫るものがあった。
    深い余韻が残る小説。

    いろんな場面や人間と接する時のその時々のいろいろな違う自分、
    そのどれが自分が本当の自分であるか、もしくはどれも本当の自分では無いのか?いろんな場面でいろんな自分を使い分けてしまっている事に違和感を持った時、足元が崩れていくような不安感に襲われる。。

  • 事件がいよいよ起き始める下巻は、物語の行方もさることながら、話のリアリティを突き詰め切っていて、生々しく壮絶な展開が待ち受けている。

    下巻から物語の主人公は崇である事が朧げに分かるが、彼が心に抱える虚無感は他人事とは思えず、壮大なテロが起こる突拍子もない話にも関わらず説得力が尋常ではない。

    壮絶としか言いようのないラストも爽やかな読後感を求める人には薦められないが、忘れ難い一冊として読んだ人の心に刻まれる事は間違いない。

    ただ模倣犯に比べると宗教的、哲学的な思想を盛り込んで繰り広げられる「殺人」「悪魔」に関わる話はいささか装飾過剰/スノビッシュにも感じる。

  • 「ドーン」に先立つ分人主義シリーズの最初の1冊ということで読みました。「ドーン」は文化心理学とのつながりを強く感じさせる本だったけど、こちらは進化心理学や行動遺伝学へのつながりを感じさせられました。想像だけど、著者はここらへんのことを随分と勉強した上で書いているのではないかな。まちがいなくドーキンスは読んでいる。ということで、「進化」「遺伝」から人間を考えている人にオススメかと。自分たちの研究成果が、どのような社会的影響を持ちうるか、悩ましく考えさせられました。

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著者プロフィール

平野 啓一郎(ひらの けいいちろう)
1975年、愛知県蒲郡市生まれ。生後すぐ父を亡くし、母の実家のた福岡県北九州市八幡西区で育つ。福岡県立東筑高等学校、京都大学法学部卒業。在学中の1998年、『日蝕』を『新潮』に投稿し、新人としては異例の一挙掲載のうえ「三島由紀夫の再来」と呼ばれる華々しいデビューを飾った。翌1999年、『日蝕』で第120回芥川賞を当時最年少の23歳で受賞。
2009年『決壊』で平成20年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、2009年『ドーン』で第19回Bunkamuraドゥマゴ文学賞、2017年『マチネの終わりに』で第2回渡辺淳一文学賞、2019年『ある男』で第70回読売文学賞(小説部門)をそれぞれ受賞。2014年には芸術文化勲章シュヴァリエを受章した。『マチネの終わりに』は福山雅治と石田ゆり子主演で映画化が決まり、2019年秋に全国で公開予定となっている。

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