きつねのはなし (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 836
  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101290522

作品紹介・あらすじ

「知り合いから妙なケモノをもらってね」篭の中で何かが身じろぎする気配がした。古道具店の主から風呂敷包みを託された青年が訪れた、奇妙な屋敷。彼はそこで魔に魅入られたのか(表題作)。通夜の後、男たちの酒宴が始まった。やがて先代より預かったという"家宝"を持った女が現われて(「水神」)。闇に蟠るもの、おまえの名は?底知れぬ謎を秘めた古都を舞台に描く、漆黒の作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 「得体の知れないもの」の恐ろしさよ。

    子どもの頃、通学路の脇に竹薮があった。それがとんでもなく怖かった。学校へ向かうときは、集団登校だから平気だったけれど、ひとりになる帰り道が嫌で嫌でたまらなかった。毎日(何故か)息をとめて竹薮の傍を駆け抜けた。何だかじっと竹薮の中から見られているようで、いつも心臓がどきどきした。
    けれど、それは低学年までのことで、高学年になる頃には、なんでこんな竹薮が怖かったんだろうと平気になっていた。あの頃は、竹薮の中はじっとりとした重く暗い空間だったし、変に何かと目をあわせちゃいけないなんて思ってたのに、気づいた時には、竹薮の中はうっすらと日が射していて、どちらかといえば穏やかな静寂に包まれた場所になっていた。
    幼い頃に感じたあの「目をあわせちゃいけない」感じが、きっと「得体の知れないもの」だったんだろう。
    誰にだって、忘れている(無理に忘れようとした)思い出の中に「得体の知れないもの」は隠れているのじゃないだろうか。
    この物語を読むと、胸がざわついて心許なくなってしまう。
    やっぱり。この感じ、わたし知ってる。

  • 年度がわりで忙しく、なかなか本を読む機会がなかった。3月4月の歓送迎会、5月のゴールデンウィーク、そして6月の運動会。6月半ばを過ぎてようやく、落ちついて小説に手を出せるようになった。さて何を読もうかと、ひさびさに本棚の「積読本」を漁ってみた。

    梅雨のため曇天がつづき、低気圧の影響か頭が重く、心もどんよりしがちな時期だ。しぜん、選ぶ本もロー・テンションで湿気の高いものになる。結局えらんだのは森見登美彦『きつねのはなし』だ。4つの短編からなる怪奇小説集である。

    一、骨董屋の女主人と、狐の面に執着する男の話(きつねのはなし)。
    二、物語を語ることに長けた、ある青年の話(果実の中の龍)。
    三、ケモノに魅入られた少女と、幼なじみの少年の話(魔)。
    四、ある老人の死と、残された「宝」をめぐる話(水神)。

    それぞれ独立した話だが、互いの話が微妙に交錯して、おぼろげな一枚の絵を織りなしている。そんな印象の作品集である。ただしどれほど熟読しても、何が描かれているのかは判然としない。あとに残るのは「狐面」「ケモノ」などいくつかの断片的なイメージと、取り残されたような読後感、そして「水」の気配だけである。

    4つの作品の中で、『果実の中の龍』だけがやや異色かもしれない。この作品だけは超自然的な怪異ではなく、人間の狂気を描いているからだ。京大生とおぼしき青年が、自分のプロフィールがすべて嘘であることを告白する場面があるのだが、そこで作者は青年にこんな科白を言わせている。

    「でもねえ、今でも思うんだけど、嘘だからなんだというんだろうな。僕はつまらない、空っぽの男だ。語られた話以外、いったい、僕そのものに何の価値があるんだろう」

    虚構を極めようとする者には常に、「自分が作りあげた虚構に自分が溺れてゆく」というリスクがつきまとうのかもしれない。誰よりもそのリスクを承知しているのは作家自身だろう。そのためか、自身の分身のようなこの青年に対し、作者はささやかな救いも与えている。青年の後輩である語り手の〈私〉は、青年について最後にこう評するのだ。

    「先輩は自分が空っぽのつまらない人間だと語った。しかし先輩が姿を消してこの方、私は彼ほど語るにあたいする人間に一人も出会わない」

    この短編集のなかでは若干浮いた感じのするこの作品が、私は一番好きだ。私自身もまた「手の込んだ虚構を愛する者」だから。虚構の作り手にはなれないけれども…

    …読み終えたら、いつの間にか雨がやんでいた。5日ぶりの青空だ。不安定な天気はまだ続きそうだけれど、少しずつ晴れ間が長くなってきているような気がする。もうすぐ夏がくる。

  • 読んでいて終始湿度の高いジメッとした雰囲気を感じれる作品。
    いつもの森見登美彦さんの作品と同じなようで、毎度おなじみ京都物語からポップさと阿保な大学生を排して、不気味さとヌメッとさと無表情の何かをプラスした。そんなイメージ。
    あとはいつもの幻想的な京都。そこはいつも通り。と思いつつ、話の雰囲気が違うだけで同じ場所でもガラッと恐ろしい不気味な夜道を想像してしまう。そこは言葉で表現しにくいので読んで体感じて欲しい…!
    ホラー作品と呼べる今作だけど、呪いや人の悪や殺意など一般的なホラー描写はなく、闇に潜んで本能に訴えかけてくる不気味さのようなモノを感じる作品。恐怖というより不気味。
    4つの短編からなる今作だがそれぞれ全く別の作品というわけでもなく、同じ京都が舞台であるが故に同様の店、物が登場したり、恐らく同様の獣が姿を見せる。しかし、今作品全てに共通して最後まで読んでもハッキリとせずよくわからないまま終わるため何故なのか?という疑問は解決しない。まぁそこが不気味さをさらに際立てているのかも!
    また、特に最後の「水神」に見て取れたが、段落が変わるごとになんの脈絡もなく話が変わる、もしくわ途切れるため、??となることがしばしばあり、少々読みづらいところがある。
    しかし全体を通して何故か引き込まれて、スルッと読み終わってしまう。そんな本でした。

  • 「夜は短し歩けよ乙女」とおんなじ作者なのにねー。 …やっぱ、すごいわ。このヒト。

    貞子さんの映画がメガヒットしてた頃、「これこそが”日本の怪談”の怖さだ」みたいなこと言う人がいて「えー? そうかなぁ?」と思ったりしてたんだけど。
    これだよね。”日本の怪談”の怖さ は。
    内田百閒先生が気合を込めて書いたらこうなるであろう、怪談連作短編。

    日本の「怖さ」はスプラッターからは最も遠い。
    迫ってこない。
    こっちが”気になる”。
    なんか引っかかって、「あれ?もしかして…」とか考えがぐるぐる巡って…。

    …あれ? 

    …これはあれだ。  …恋だ。 ^^

  • 妖しい方のモリミン短編集。『宵闇万華鏡』や『夜行』と比べると怪談色が強いかな?この作品を読むと睡魔に襲われる呪いにでもかかっているのか、これまで何回か読んでは睡魔に襲われ挫折してきたが『熱帯』にナツメさんと芳蓮堂が出てきたこともあって何とか読了。別に怪談は嫌いじゃないし、ところどころ、おっ!と思う好きな表現もあったりするのに、どこが苦手なのかもう自分でも分析不可能。この作品に対して印象に残っていることは、この頃から「夜の底」って表現を好んで使っていたのねってことだけでした。川端康成の雪国好きなのかしら?

  • 「夜は短し~」の極彩色のイメージとは対照的な、モノクロームの世界。
    その中で「カッと口を開いたケモノ」の白い歯と紅蓮の口中(私のイメージ)が、
    鮮やかに印象に残る。
    まるですぐそこにいるかのように、その息遣いや匂いまでも漂ってきそうだ。
    初夏のうららかな太陽の下、まだ梅雨入りもしていないのに、
    じっとりと肌に纏わり付くような、京都の不思議な空気感を思い出した。

  • おー。ホラー。
    京都が舞台なんだけど、今までの阿呆なエネルギーが爆発する内容とは打って変わって、ほんとうに普通のホラー。

    短篇集なんだけど、最後の「水神」以外は全部ケモノが出てくるし、話毎に出てくる芳蓮堂の店主が違ったり、これは裏の話で、本当は芳蓮堂とか天城さんとか辺りがメインな気がする。

    全話を通して、話が事項順なのは殆ど無くて、現在と過去回想が交互になってて、それが京都の細々した道とか閉鎖感とかと相まって、薄暗い迷路を進んでくような気持ちで読み進められた。

    阿呆な小説しか読んでなかったから気づかなかったけど、雰囲気描写がめっちゃうまいと思いました。森見氏。

  • 私こう言ったらなんだけど
    森見さんて
    「京都を舞台としたうだつのあがらない男子大学生が恋をしながらもへたれながらだらだら過ごす」みたいな小説専門の人みたいな印象があったから
    これは少し見直した うん、結構見直した

    ジャンル分けがすごく微妙なんだけど
    ちょっとホラーに足つっこんでるかなあ
    背筋の辺りがぞわぞわしてきた、あ、怖いかも と思うあたりで筆を止めてしまうんだよね
    恐怖の予感だけで終わらせてしまうというか
    そこが勿体無いかなあ

    骨董屋のナツメさんとか
    シルクロードを旅してきた先輩とか
    死んだはずの祖父が起こす水の怪とか

    すとんと腑に落ちない短編集。
    夏にはぴったりかなあ。でも「面白い!!」とはおすすめできない。

  • 正気と狂気の狭間で揺れる不思議な物語だった。

    ひたひたとした冷気のような恐さが漂い、どこか普通ではないという違和感、世界が段々と不穏な恐ろしいものへと変わっていく体験ができる物語体験だった。

    現実検討力、自他の境界や自我同一性がゆっくりと曖昧になものになる。まるで芥川龍之介の『歯車』のように。

    人間の自我が現実原則と幻想、正気と狂気の狭間で危うげなバランスが保たれるているのかもしれない、そんな怖さを感じる。

    短編小説でありつつも京都と言う土地、不思議な古物商、そしてきつね或いはケモノという緩やかな繋がりがある。

    いや、緩やかに繋がっているという知覚自体、ひょっとすると既に妄想的な関係念慮なのか・・

    と、言うとさすがに病的に過ぎるかもしれないけども、そんな不思議な怖さがある「怪談」であり、どこかノスタルジックだった。



    その他
    『ふざけた狐の面がくっついていて、それはどうしても取れない。』(p.59)

  • 再読。
    面白かった!
    不思議で美しくて懐かしくて少しだけ怖い。
    日本の夏のちょっと異界と混じっちゃう感じ。
    情景が綺麗で、さらっと読んでもいいし、じっくり深読みしても楽しそう。
    何回読んでも楽しい気がする。

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著者プロフィール

森見登美彦(もりみ とみひこ)
1979年奈良県生まれの作家で、京都を舞台にした作品が多い。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。2003年、『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2006年に『夜は短し歩けよ乙女』で本屋大賞2位、山本周五郎賞などを受賞し注目を集める。2010年『ペンギン・ハイウェイ』で2010年日本SF大賞、2014年『聖なる怠け者の冒険』で第2回京都本大賞、2017年『夜行』で第7回広島本大賞をそれぞれ受賞。2010年に『四畳半神話大系』がTVアニメ化、2018年8月に『ペンギン・ハイウェイ』が劇場アニメ化された。2018年11月に『熱帯』を刊行し、第160回直木賞、2019年本屋大賞にノミネートし、第六回高校生直木賞受賞。

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