この世をば 上巻 (新潮文庫 な 13-6)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (491ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292069

作品紹介・あらすじ

藤原兼家の三男坊に生まれた道長は、才気溢れる長兄道隆、野心家の次兄道兼の影に隠れ、平凡で目立たぬ存在であった。しかし姉詮子の後押しで左大臣の娘倫子と結婚して以来運が開け、いつしか政権への道を走り始める-。時代の寵児藤原道長の生涯を通し、表面は華やかな王朝の、裏に潜む様々な葛藤と、"王朝カンパニー"とも言うべき素顔の平安朝をあざやかに照らし出した力作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 藤原道長の生涯を描いた小説。
    自信満々の傲慢な野心家というイメージがあるが、平凡で穏やかな人間として描いています。

    その時代で一番の権力を築き上げた父・兼家の三男に生まれた。
    恵まれた立場ではあるが、年の離れた長兄・道隆の才覚や、次兄・道兼の激しさは持ち合わせない。
    事実、若い頃の出世は遅く、長兄の息子で8歳下の伊周に追い抜かれる。

    姉の詮子の後押しで、22歳のときに、左大臣・源雅信の娘・倫子と結婚し、運が開けていく。
    当時は婿が妻の実家に通い、その一員になる感覚で、姑に着物を用意してもらったり、舅からも援助を受けるのが当たり前なんですね。
    詮子は、円融帝の妃で一条帝の生母。
    一条帝の時代になった後は押しも押されもしない母后として、政治を動かす力も発揮していきます。
    第一皇子を生みながら、皇后になることは出来なかったという屈辱も実はあったという。ほかの女性を皇后に立てたということはそちらのほうを愛していると天皇が公言したも同然ですからね。

    ほとんどの要職を藤原氏が占める時代。
    親戚はみな競争相手なのだ。
    とくに摂政・関白になるには、天皇との血縁がものをいう。娘を入内させ、皇子をもうけて次の天皇の外祖父となるのが道筋。
    年頃の娘がいなければ話にならず、娘がいても無事に入内出来るかどうか、皇子を生めるかどうか、それまで自分が生きていられるか、と次々にハードルがある。
    長兄の道隆でさえ、娘の定子が一条帝に愛されたが、孫が天皇位につくまで生き延びることがかなわなかった。

    道長の場合、30歳の頃に、自分よりも上位にいた人間が次々に疫病で世を去った。
    道隆が関白、道兼が右大臣だったときは目立たなかったのに、翌年にはこの二人ともが亡くなってしまう。美食もたたったらしいけど。
    そういう意味ではほとんど転がり込んだ出世だったんですねえ。運というものでしょうか。
    時々強引なこともしているので、平凡とまで言っていいのかという気もしますが。
    実感のこもった描き方で、リアルに感じられ、面白かったです。

    平家も同じようなやり方で権力を握ったけれど、続かなかった原因はなんだったのか?などとふと思いました。
    徳川家が大奥に身分を問わず女性を集め、側室の実家がそれほど実権を持たないようにしたのは、外戚の強大化はまずいと歴史に見習ったからなんでしょうね。

  • (「BOOK」データベースより)
    藤原兼家の三男坊に生まれた道長は、才気溢れる長兄道隆、野心家の次兄道兼の影に隠れ、平凡で目立たぬ存在であった。しかし姉詮子の後押しで左大臣の娘倫子と結婚して以来運が開け、いつしか政権への道を走り始める―。時代の寵児藤原道長の生涯を通し、表面は華やかな王朝の、裏に潜む様々な葛藤と、“王朝カンパニー”とも言うべき素顔の平安朝をあざやかに照らし出した力作長編。

  • もう何度読んだかわからない。
    永井さんの作品中の人物は現代の私たちと変わらない等身大の人物だったんだと感じさせてくれる。それぞれの生きる時代を、その人なりの工夫や試行錯誤、出会いや繋がり方で生き抜いていく姿。読むたびに何だか救われる。

  • 藤原道長が我が娘達を朝廷に嫁がせ、権力を我が物にして行くという話。
    煌びやかな平安時代の雅と権力抗争のドロドロ感が面白い。
    ずっと昔に読んで、又再読してしまった。

  • 時代小説特有の固さがなくて最初はこの世界観に入りこめんかったけどまあ慣れた\(^o^)/
    むしろその固さがないせいでだんだん読みやすくなってきたという不思議。
    なんだろラノベとは違う読みやすさ。

    話自体は面白い!につきる。別に躍動感とかドキドキとかないんだけどなんか話にひきこまれた。読みやすいからかな?

    ヘタレ道長可愛いよ道長(*^^*)
    でも話が進むにつれてだんだんしっかりと。気分は詮子姉上。しかしヘタレは健在のとこも(笑)

    道長主人公の話、というのも珍しいと思うんだ。大抵脇役の悪者役で描かれるから。

    史実を上手い具合に絡ませてるし、あと地の文が現代視点なのも独特。

    源平以降の直接的な血の表現はないけど腹の探りあいが大変ね(;´д`)
    今の政治家と同じやないかしら。
    人間関係には常に利益が伴っている。


    下巻を読まなきゃ。紫式部はよ(^o^)
    他の平安三部作も読まなくっちゃ!

  • 900年代末期,藤原一族の中で権力闘争に勝った(実際には半分以上は転がり込んだと言えるが),この世をば・・・の歌で知られる藤原道長を中心にした物語。
    道長は鎌足から数えて十二代後になる。この頃の藤原氏は,いくつもの家に分かれており,ただ藤原氏と名乗れども政敵同士であった。天皇家との婚姻関係を強め,外祖父となったものが,摂政・関白となり,実質,天下を差配していた時代である。
    道長の父,兼家は摂政であり,娘全てを63代冷泉天皇,64代円融天皇,66代一条天皇,67代三条天皇に嫁がせ,長期にわたり藤原氏の氏の長者として藤原政権を安定化ならしめた。そんな兼家の末っ子として道長は誕生したのである。
    著書からは,道長は才知ほとばしるような青年ではなく,どちらかというと,受身で,おっとりした人物だったようである。そんな道長が政界に出てきたのは,従一位左大臣・父は宇多天皇の孫で,臣籍に降り源と名乗った源雅信の娘・倫子を妻に迎えてからである。従一位は人臣最高位と言え,当時は,源雅信,藤原兼家,藤原頼忠3人であった。当初,雅信は道長の冠位が低い事を理由に婚姻に難色を示す。しかし,道長の姉は円融帝の皇后詮子である。詮子は十七歳で後宮入りし,十年に近い歳月が彼女を政治家に変えていた。円融帝の第1男子を産んでからは,押しも押されぬ母后の貫禄を身につけた。『敵は一人でも少なく,味方は一人でも多く』というのが,長期安定政権を築く秘訣であると。そんな詮子の働きもありつつ,道長は従三位に昇進し,それを機に,雅信も婚姻をOKする。
    時の権力を握ろうと思えば,その条件はなかなか難しい。娘を天皇の後宮に入れ,その娘が男子を生む。その男子が即位し,外祖父たる自分が実権を握る。そのどれを欠いても権力は完璧ではないのである。娘を後宮に入れても男子が生まれなかったり,生まれてもすぐ死んだり,その子の即位前に自分がポックリ死んだり。その条件を確たるものとするため,宮中は陰謀が渦巻いており,当時の歴史は怨念の累積であったと言っても良いだろう。だから,勝つことは,それだけ人の恨みを受けるということになる。まして,この時代は,親兄弟親戚の闘争も激しく,血の繋がりが反作用として働くときはすざましい怨念がこもった争いになるのである。
    従三位に昇進した道長だが,兄道隆の子の伊周の追い上げが激しい。とはいえ,受身の道長はどうすることもできないし,しようとも行動しない。そんな中,道長は妻倫子が身重であるにもかかわらず,妻の提案により,詮子に自分たちの家をあげてしまう。詮子の現住まいが方向が悪く,詮子が病がちであったことに気を使ったのである。この計らいが功を奏し,道長は従二位に昇進する。
    権力の頂点に長期に亘り立っていた道長の父・藤原兼家やその長男道隆も老齢・流行病には勝てず,この世を去るが,それと同時に,道長の上位者が道隆他界後,半年の間に次々とこの世から姿を消してしまう。皇子誕生を期待しつつ死んでいった兄道隆も,執念深く権力を狙い続けていたが,それを手にしたとたんに死んでしまった。また,その後関白となり,七日関白と言われるもう一人の兄の道兼の一生を思うに,しょせん人生はそんなものだと,無常を悲しむと言うのではなく,どんなに望んでも得られないものもあるし,手にした雪のように消えてしまうものもあると思えたのではないだろうか。そんな疫病が去った後,残ったのは,道長と道隆の長男・伊周である。この時点では,伊周の方が既に上位の内大臣になっており,道長は2つ位が下の権大納言であった。ここから,詮子の息子であり現帝の一条帝に,道長を関白にと,詮子から強烈な押し込みが計られる。一条帝も既に十七歳で自身の魂を持つように成長している。詮子の押し込みで,関白にまでは昇れなかったが,道長に天皇に上げる文書を内覧せよという実務上の権力を握らせたのである。一条としては,妻である定子の兄である伊周に関白を任せようとしていたものとも思われ,詮子の強引さはしこりとして残ったのではないかと思われる。
    そんな道長は,995年に30歳となり,右大臣に任じられ,同時に藤原の氏の長者となる。しかしながら,道長の兄道隆の長男伊周などは,自分が嫡流と信じており,良い気がしない。伊周は道長を陥れようとするが,企てがばれ流罪となる。が,そんな伊周などにも道長は終始寛大な姿勢を示す。そんな道長を公家衆は寛大な方だと褒める。しかし道長は,寛大なのではなく,兄達より気が小さいのだということを自覚している。道隆兄は苦労知らずで,思ったことをズバズバやった。道兼兄は峻烈で策謀により人を陥れることに心の痛みを感じない性格だった。しかし,道長は末っ子なだけに,頭を抑えられていたり,人の意向を気にしたりしながらやってきた。不遇の苦しみも知っており,それだけに人の気持ちを推し量ることが出来る。これを著者は平衡感覚と言い,道長による治世が続いたのも,ただ単に権力を振りかざして他を押しのけてきたのではなく,バランスを保ちつつ舵取りしてきたのだと語る。人はえてして英雄という虚像を描き,自分の力を過信し,俺が俺がと前のめりになる。そんな連中にろくなのはいない。なんとか平衡感覚を失うまいと苦闘し,辛うじて困難を切り抜け,度胸もついたのが道長なのである。
    そして,著書の題名にもなっている,『この世をばわが世とぞ思ふ望月のかけたることもなしと思へば』である。これは得意げになって詠んでいるのではなく,あ~これまでも色々なことがあった,これはひとえに,帝に腰入れしたわが姉・娘たちによるところ大であると。姉の詮子をはじめ,娘の彰子,妍子,威子が太皇太后,皇太后,皇后となって三宮を独占(いわゆる一家立三后)したことを望月に例えたのであろう。平凡児らしい気の使い方で何とかここまでやってきた道長の,いささか照れくささが入り混じった満足度ぐらいは認めてあげ,これぐらいの歌は詠ませてあげてもよいのではないかと思うのだ。事実,この歌は,ほんの座興のつもりでうたったのであり,そのせいか,道長の栄華をたたえてやまない『栄花物語』はこの歌をのせていない。この歌が広まったのは,道長の出世を快く思わない,いわゆる反道長の藤原実資の『小右記』による。しかもこの部分だけがなぜかクローズアップされておげさに伝えられたのだ。そして1000年経った今,歌のみが傲岸不遜に膨れ上がり,歴史を覆ってしまった。道長がいかにひたむきな人生を歩んだか,この本は,ただ其れのみを物語ると言っても良い。
    1028年1月3日,そんな道長にも平等に最期の時は訪れる。道長は自分が建立した法成寺の阿弥陀の手から自分の手まで糸を引き,念仏を唱えながら往生したという。
    全2巻。

  •  平安時代を素材に小説にするのは難しいと思うのですが、藤原道長の人間臭さや周りの複雑な人間模様を見事に描ききった永井路子は見事!
     道長は野心に燃えて出世街道を突き進んだ人かと思っていましたが、ここでは三男に生まれながらも幸運が重なって、注目を浴びるようになっていく、平凡児として描かれています。でも、結局何をした人なのかといえば、何もしてないと言えるかもしれません(笑)
     平安朝の貴族の家系図は非常に複雑で、誰と誰がどうつながっているのか、分からなくなることもありました。でも、それを気にしなくても、楽しめる作品だと思います。

  • 面白かったです!道長の人生を追体験しているような気分でするすると読めてしまいました。

  • 三男坊が権力を獲得していく様子が描かれています。
    この時代、人は死なないけど。
    権力を奪い取るさまがエグい。
    道長はうまくのりきったんですね。

  • 藤原道長の青年時代から、倫子、明子との結婚を経て、権大納言となり、政敵でもあった兄道隆、道兼の死までを描く。
    平安期であったが、びっくりするくらい読み応えある。母型社会であることや、呪い、呪詛、また流行病の流行により、長生きできない時代であった。ある種の人の運というものが、大きく影響する時代なんでしょうか。

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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