茜さす〈上〉 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292090

感想・レビュー・書評

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  • この小説は高校を卒業してすぐの頃に読んだ記憶があります。それから長い長い時が経ち、結婚もして子どもも大きくなり、あの頃のわたしとは遠いところまで来てしまったように思うのは、感傷的でしょうか。どんな未来を思い描いていたのか、もう思い出せないのだけれども。
    さて、そんなわたしにもちょっぴり時間の余裕が出来た頃から、時折この小説のことを思い出すようになりました。もう一度読みたい、でも、もうタイトルも著者も思い出せず。ただ万葉集、額田王、発掘調査、おじさまとの恋、みたいなことがポツポツ欠片となって残っているだけでした。どうしたものかと思いながら、さらに時間は過ぎていきましたが、ふと額田王が詠んだ歌「茜さす」と検索した結果、大当たりでした。そうだ、この本だよ~やっと再会を果たすことが出来ました。
    ……と、前置きが長くなってしまいました。

    名門女子大の学生であるなつみが、万葉集のゼミをきっかけに、額田王をはじめとするその頃の女たちの生き方に思いを馳せます。
    大海人皇子と額田王、大田皇女、うのの讃良、そして中大兄皇子と額田王、遠智娘と娘たち。男たちの思惑や政略のための手段として女たちは自分の生き方を差し出すしかありませんでした。
    それでも、その中で彼女たちは自分なりの生き方を模索し、心は流されずに凛としていたのではないのだろうかとなつみは想像します。特に後の持統天皇となるうのの讃良は過酷な生い立ちなどによって、どういう思いで年の離れた叔父となる大海人皇子に嫁ぐことになったのか。その夜、彼の前に裸身を横たえた時の彼女の刺すような瞳の意味……なつみが思い浮かべる彼女の姿は、自分の運命を受け止めながらも強く生きる女性像でした。この場面が好きです。きっとなつみのこれからの生き方に彼女が何らかの影響を与えるのではないでしょうか。
    現実世界のなつみは就職試験に失敗したまま大学を卒業します。友達の進路を通して、女性のこれからの生き方をいろいろ思い浮かべながら、自分はどうするのだろうと模索します。残念ながら、20年以上経っても女性を取り巻く社会はあまり変わっていないように思いました。ただ、それでも女性たちの働き方の意識は変わってきているのが分かります。なつみは何とか就職することになりましたが、まだこの時点では彼女の目指す生き方ではないように思います。
    10代の頃のわたしは、どういう気持ちでこの小説を読んだのでしょうか。
    下巻に続きます。

  • 奈良にまつわる小説が読みたくて、本書に出会った。

    読み始めるうちに、歴史上の人物にまつわるいろいろなことを思い出した。

    大友皇子。中大兄皇子(天智天皇)の息子。以前友人の家系図を見せてもらったら、彼女の先祖は大友皇子と知り、古代飛鳥時代から脈々と続く血筋にたいへん驚いた。

    持統天皇の幼名は、鸕野讚良皇女(うののさららのひめみこ)。そういえば、神田うのさんの名前の由来はこの人だったか。

    そんなミーハー的な感動は最初だけ。
    途中から、歴史にまつわる話と現代女性の生き方が折り重なって表現されて、とても読み応えがあった。
    1988年に書かれたという本書は、今読んでもとても新鮮で、女性の精神的な自立について深く描かれている。

    主人公のなつみが考える、個族という生き方。孤独だと悲壮がるのではなく、個人として自立して生きていく。そんな立派な決意があったわけでなく、結果的にいま、個族になってしまった私がいるが、本書を読むと、少し勇気がもらえる。

    本書を読み終えた今日、帰宅すると友人から結婚式の招待状が届いていた。一緒に結婚式に参列する他の友人は皆既婚者で、これでこの仲良しグループの中で結婚していないのは、私だけになる。よりによって、今日招待状が届くなんて、動揺するかどうか、試されているのか。それとも、読み終えるタイミングを待っていてくれたのか。

    どちらでも構いやしない。
    胸のざわつきは否定できないが、友人の晴れの日に、個族の一人として、堂々と参列いたしましょう。

  • 永井路子

  • 「茜さす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」
    飛鳥時代の愛憎劇を女子大生が追いかける。バブル時代の話



    茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流


     現代から古代へ思いをはせる歴史小説。現代の友田なつみの思考の中身が多くて、歴史的内容を読みたいと思った人には冗長に感じる。しかし、これでいいのだろう。

     飛鳥時代は日本史ではもう古代である。だから謎が多い。現代人は想像するしかない。だから創造する自由もあるのだろう。
     現代人のなつみが「イマ」を生きながら過去の人間関係を創造していく過程はユニークである。そして、創造する過程があまりに無駄のない最短距離に近いものだと、それはうさん臭くなる。だから主人公なつみが遠回りをしながら、ゆっくり古代の恋物語を想像して古代の女性の恋心に思いをはせて魅了されていく冗長さは、深みを出している。

     蘇我氏や藤原氏のうさん臭さが見え隠れする飛鳥時代の、特に天智天皇から天武天皇、持統天皇くらいの時代はドラマがいっぱい詰まっていそうである。

     持統天皇の怨念を感じられる、女性の歴史小説。

     一度5年前くらいに読み始めて飽きてしまったが、この辺の時代に少し詳しくなってから再び読み始めたら面白く読めた。

  • E女子大学4年の友田なつみは、夏休みに訪れた吉野で会社社長・泉と出会った。卒論、就職活動と忙しい日々のなか、なつみの脳裏にはなぜか時折泉の姿が浮かぶ。妊娠を苦にした友人の自殺にあい、女性に厳しい就職の現状を経験したなつみは、万葉の時代を風のように駆けぬけたひとりの女帝に目を向け始めた…。歴史と現代が交差する地点で女性の生き方を見つめる、著者初の長編現代小説。

  • <上下巻読了>
     珍しく現代が舞台の本作は、刊行年に関わらず、内容が色褪せていない。
     焦点は、女性の生き方の模索。
     飛鳥の地と歴史を今の世から眺めること自体を、作中の視点とした試みは面白いとはいえ、現代と古代の融合に微妙な違和感が残ったのも否めない。
     愛と性と自立に関する談義も刺激的かつ興味深いものの、登場人物たちに託された道筋が乱立するに留まる印象はあるし、端々の提言も抽象的な理論を抜け切っていない気がする。
     それでも尚夢中で読破したのは、己自身の迷いや悔いが物語の主体に投影されるからなのだろう。
     主人公・なつみが持統天皇の生涯を追う必然性は見定められなくとも、生きる道と信念に惑い、密かに古代に惹かれる女の一人として追従せずにはいられない。
     孤独ではない、独立した個人である、『個族』を選択する彼女らの姿が心強かった。
     現代小説のパターンの類に陥らず、安易な起承転結には収まらない本書は、年齢を重ねる毎に異なる感慨をもって読み返す日が来るのだろう。

  • 子供の頃 この作品を読んで 進路を決めました(笑)
    女子大生って すごぃ研究をするんだなぁと思って・・。
    今でも初心を思い返したいときは 必ず開く本です。
    初めて読んだ永井作品であり ここからたくさんの作品に
    魅かれて行きました。

  • 今となるとちょっと古い印象もあるけれど、素直に読めて、流れを楽しめる小説。主人公が万葉の時代に興味を抱き、ゆかりの地を歩き回ったりなど、歴史の話としても面白い部分がある。

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