ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 589
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292342

感想・レビュー・書評

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  • ニシノ君は可哀想だなぁ。女の子たちはニシノ君と別れた後は絶対に誰かを愛して、ほどほどに幸せになってるはずなのに、ニシノ君は生涯愛されつづけることを知らず気づかず生きたんだから。なんつったら、女の人に怒られるんだろうなぁ。てことをあとがきまで読んで考えた。
    こいつは悪い男なのかなぁ。少年時代のトラウマで「愛しい」という感情がわからなくなって、当然愛し方もわからなくて、愛されなくなって、それが普通になってきて、愛さず人と付き合いつづけて。こんな寂しすぎる負の連鎖を止めてくれる強い女性を望むこと自体あまちゃんなのかなぁ。
    なんつって無条件の承認という甘美な妄念に逃げようとしちゃってるな。でも物語なんだから少しくらいいいよね。
    玉のような言葉とか、感覚的な比喩がすごく好きだった。

    • quatre-septembreさん
      素晴らしいレビューですね。
      きちんと作品が体の中を通って
      消化しているのが伝わって、
      思わずコメントしてしまいました。
      素晴らしいレビューですね。
      きちんと作品が体の中を通って
      消化しているのが伝わって、
      思わずコメントしてしまいました。
      2014/06/04
  • ニシノユキヒコという男の中学から死ぬまでの恋愛模様を、
    彼に関わった10人の女性の視点で描かれた短編長編。
    時系列順ではないところが、スリリングでおもしろい。
    ニシノくんは天性の女たらしで、女が喜ぶようなセリフを
    サラリと言う。礼儀正しく外見も清潔感がある、らしい。
    サッとキスしたり、サッと家にあがりこんだり。
    でもニシノくんは人を愛することができないから、
    ほんとに愛されることもない。
    かわいそうな男の子。(おっさんになっても少年風。)
    そんな彼のトラウマが最後にポツリ。
    最後の2編に描かれたニシノくんの恋愛のクライマックスと
    恋愛遍歴の初期を読んで、少し彼の謎が解ける感じ。
    ちょっと光源氏みたいな男性。
    (私の知ってる光源氏は『あさきゆめみし』での彼だが。)
    おもしろいんだけど、一気読みはできない。
    朝起きて1つ読んで、夜2、3コ読んで寝て…みたいなのに
    ぴったりの本です。
    英文学風のタイトルも愉快。

    なんとなく江國香織っぽさもあった。
    今まで似てるなんて思わなかったけど、似てるのかな。

    愛って…かんたん? 私のは愛かな?

  • 西野幸彦に関わった女性達が語るニシノユキヒコという人は天然の女タラシ、しかも本気で人を好きになることがないというところが性質が悪い。
    自分がもし、こんな男性と出会ってしまったら……やはり惹かれてしまうかな?
    そして、虚しくなって距離を置くかな?
    人を好きになったことのない西野君が最後に電話をかけた相手が、これまた人を本気で好きになったことのない女の子というのが皮肉だと思った。

  • ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ・・・・。姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情のあった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、傑作連作選。(背表紙より)

    やられた・・という感じ。読み始めてしばらく、あーこんな男、やだなぁと思っていたにもかかわらず、読み終わる頃にはどっぷり大好きになっていた・・。こういう人、好きだなぁ、きっと惚れるなぁと思ったとたん、自分が「ダメンズ」にはまるタイプだと確信しました・・。それでもすてき。タイプです。映画観たい(笑)。

  • 女性たちの視点から「ニシノユキヒコ」あるいは「西野幸彦」という男性を描いた連作集です。彼は何人もの女性と同時進行で付き合っていて、しかも誰にも本気になることがなく、それゆえに誰からも愛想をつかされ、ひとりぼっちになってしまうけれど、すぐに別の女性が現れる。そうして延々と女性たちとの交際を続けていくのですが、ついに彼にも死が訪れます。
    にしのゆきひこという男性の少年期から壮年期(そして死)までを見て、女性を本気で愛さないのは姉のことが好きだったからではないかと思いました。姉以外の人を愛せないのではありません。彼は本気で愛さないようにしていると、努めてそうしていることを明らかにするのです。その理由はおそらく、本気で愛した人を失ったから。そう思って、ひとつだけ視点が欠けていることに気づきました。十二歳上の姉から見た「西野幸彦」です。
    この視点があれば、にしのゆきひこの生き方に納得のいく説明がつけられるはずですが、残念ながらそれを読むことはできません。読者はそれぞれ、姉が死ぬ間際に言ったであろうことを想像し、それにしたがって彼が生きてきたのだろうと、これも想像するしかありません。でもそれこそが、小説の読み方なのかもしれないと感じました。

  • 様々なタイプの女性にモテまくる主人公の生涯についての話でした。
    全10篇あり、それぞれで登場してくる女性が違うのですが、どの話も出てくる女性も個性的で魅力があり、とても面白かったです。
    また、モテるのになぜか恋がうまくいかず、最後にはいつも振られてしまうニシノユキヒコの残念さが壺にはまってしまいましたね。
    男と女って、幸せになるのって、なんか難しいなと思いました。
    しかし、なぜかほっこ温かい気持ちになるような恋したいなと思えるような作品でした。

  • 予想通りのダメ男だけど、私も絶対惚れてまう。寂しがりやで、色っぽくって、霞食ってて、優男で、愛に無責任で、悔しいけど愛おしい。ごうきを思い出し、切なくなってしまった。

    でも、私は彼には思い出してもらえない存在感のない彼女だったんだろうな。この本の女性たちのような思い出を残せたら幸せだったのに。死に際に思い出してもらえるって羨ましくってしょうがなかった。

  • 浮気男というのはこうやって作られるんだなあ(笑)

    女には「本当にろくでもない男で最低だったけど、でも、楽しかった」みたいな思い出が残る。結局嫌われることはない。
    お姉さんの記憶で、ニシノくんってかわいそう、仕方ないねって思わせて終わるところも女たらしのお話として完璧。

    それぞれの女たちが、そこでどうしようもない男にのめり込んでしまえばいいのに!というところでサッと去ってしまうのがどうして?と思いつつ、いざそうなるとそういうもんなんだろうか、と思ったり。

    竹内豊さんで映画化になるそうなので楽しみ。


    本を開けばすぐ、ああ、川上さんの小説だなあってスッと入れる感じがすごく好きでした。
    言葉づかいとか、並列で書かれることが並列じゃなさそうなところとか、その言葉をその言葉で形容しちゃう?っていうところとか。

    以下引用。

    ---「草の中で」--------------------------------------------

     あたしはぞくぞくした。西野君の下のくらやみの中にある、朽ちかけた黄楊のくし。こわい、ともちがう、うれしい、ともちがう、いやだ、ともちがう、かなしい、ともちがう。いろいろなものが混じった、ぞくぞく。

    ---「おやすみ」--------------------------------------------

     マナミ、とユキヒコはわたしの名を呼んだ。会議室の暗闇の中で。ブラインドのおりた暗がりの中で。わたしは何も答えなかった。榎本副主任、と名字でしか呼んだことのないわたしの名前を、ユキヒコが知っていることに、衝撃をおぼえた。自分に名前があったことを思い出して、衝撃をおぼえた。ユキヒコにはじめて呼ばれたわたしの名前がすでにして甘く溶けだしていることに、衝撃をおぼえた。

    ----------------------

    「ごめん」と、もう一度ユキヒコが言った。わたしはユキヒコにかじりついた。わたし可愛い女になってるな、今。そう思いながら、ユキヒコにかじりついた。可愛い女は嫌いだった。可愛い女になどなりたくなかった。これから先、自分からはユキヒコに電話をすまい。わたしは可愛い女になったまま、その時決心した。可愛い女などというものになってしまった以上、そのくらいの枷を自分に課さなければ、やっていられない。そう、ひそかに決意したのであった。

    ----------------------

     わたしたちは不安だった。わたしたちは恍惚としていた。わたしたちは絶望していた。わたしたちは軽かった。わたしたちは愛しあいかけていた。けれど愛しあうことはできずに、愛しあう直前の場所に、いつまでも佇んでいた。

    ----------------------

     ユキヒコはあおざめていた。わたしのことを、甘くみていたのだ。いつもいつも。わたしはユキヒコを甘くみていなかったのに。でも、甘くみあわないで、どうやってひとは愛しあえるだろう。許しあって、油断しあって、ほんのすこしばかり見くだしあって、ひとは初めて愛しあえるんじゃないだろうか。わたしは、一度もユキヒコを甘くみることができなかった。ユキヒコの方はわたしを甘く見ていたというのに。

    ---「夏の終りの王国」--------------------------------------------

     誰かを好きになることがわたしは好きで、でも誰かを好きになることはなかなか難しい。わたしは自分の欲望をよく知っているから。自分がほんとうのところ何を望んでいるか、正直に自分に問うてしまうから。
     西野くんのぜんぶを、欲しくなれるといいな。わたしはつぶやいた。

    ----------------------

     でも、わたしはかまわず西野くんのことをたくさん愛した。
     ただ、愛した。
     愛されることは、ほんの少ししか望まないで(いくらわたしでも、ほんのぽっちりも愛されることを期待したいで誰かを愛することはできない)。

    ---「しんしん」--------------------------------------------

     やりすごすことができた、と私は思った。上手に、やりすごせた。決して愛さず。愛さなかったから、傷つけることもなく。傷つくこともなく。
     私はゆっくりとお風呂に入り、マニキュアを塗り、ていねいにパックをした。心が波だっているかどうか、何回も自分に問うてみたが、たっているのは、さざ波くらいのものだった。
    (中略)
     思ったとたん、波がやってきた。大きな、波がやってきた。ニシノくんが恋しかった。愛しているのではない。私は歯をくいしばりながら、思おうとした。愛なんかじゃない。ちょっと、なじんだのが、いけなかっただけ。そう思おうとした。


    ---「水銀体温計」--------------------------------------------

     たぶんその女の子は、「可愛い」渡世を長く渡ってきたベテランの可愛い子なのだろう。可愛い自分に対して、みじんもためらいがない。

    ----------------------

     女の子どうしの、ひそやかな、けれど国家の外交にも似た、このような「精神的な力の均衡関係」を、男の子はいったいどう感じているのだろう、とわたしはときどき思う。たぶんおおかたの男の子は、何も感じていないのだろう。それどころか、そんなものが存在することすら、想像もしていないことだろう。

    ----------------------

     西野くんは冷たい。そして、その冷たさは、あたたかな裏打ちを持っている。すっかり冷たいよりも、それは始末に悪い。たとえばそれは、わたしはわたしがセックスをしたいと思っている男の子全員を愛しているつもりだけど、実のところは誰のことも愛していないのかもしれない、ということとたぶん同じなのだ、ということと同義のことだ。

    ----------------------------------------------------------------------

    引用終わり。

  • 川上さんの本はこれが初めて。言葉がさらさらと流れる感じで、すーっと心にしみる感じだった。

    ニシノさんを取り巻く10人の女性視点から描かれる。ニシノさんはとんでもなくモテて、とんでもなくどうしようもない人だ。
    愛するってどういうことだろう。一緒に居ることでも、一緒に寝ることでもない。ふと好きになってしまう瞬間があって、ふと好きじゃなくなってしまう瞬間がくる。

  • ニシノユキヒコはみんなが気づいていないことや、
    見ようとしていないことに、ただ気づいていただけなのかもしれない。

    誰かに愛されたり
    誰かを愛したりなんて
    本当は実体がなくて、
    好きとか嫌いとか本当は誰に対しても思うことができて。

    でも(最終的に)誰か一人を愛することになるとか、
    なんとなくどこかにそんな人がいるような気がして。
    それでずっとウロウロするのだ。

    愛というものを信じている人ほど、
    人を本当に愛するという感覚を知らないで一生を終わるのかもしれない。

    私は、それなら誤解していたい。
    これが愛だなって思って、誤解して、幸せな気持ちで生きていたい。

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著者プロフィール

川上 弘美(かわかみ・ひろみ)
1958年生まれ。96年「蛇を踏む」で芥川賞、99年『神様』でドゥマゴ文学賞と紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞と女流文学賞、01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で芸術選奨、15年『水声』で読売文学賞を受賞。ほかの作品に『風花』『どこから行っても遠い町』『神様2011』『七夜物語』『なめらかで熱くて甘苦しくて』『水声』などがある。2016年本作で第44回泉鏡花文学賞を受賞した。


「2019年 『大きな鳥にさらわれないよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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