センセイの鞄 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292359

感想・レビュー・書評

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  • 現実はこうもうまくいくまい、と思いつつ年のはなれた(元生徒と国語教師)男女の恋を描いた恋愛小説。ツキコのセンセイへの恋慕にページをめくる手が止まらなかった。恋敵への嫉妬、同級生への違和感と反発といった第三者の存在を通してツキコのもやもやした恋情を明確にさせる。恋愛文学の王道を踏みつつ、二人の佇まいが静謐で清潔。それに季節と食べ物とお酒が美味しそうで、思わず鱈と春菊が食べたくなる。著者の文章も魅力的でくせになりそう。文章は書き出し一文目が肝要というが、冒頭一文で物語世界に読者を引きずり込む。句点で心情を表現する機微も繊細で一文ずつ噛みしめながら読んでしまった。
    ひらがなや漢字でもないカタカナの"センセイ"表記もおもしろい。カタカナ表記は口承や伝承といった声音を思い浮べるが、この小説では片仮名表記で声の届く範囲=センセイとツキコの距離感を表したのかなと。ツキコとセンセイの偶然の出会いは居酒屋で隣あったのがきっかけ。ぼそぼぞと声が届く距離感はツキコとセンセイの恋愛模様そのもの。と、ごちゃごちゃ考えることもできる素敵な小説でした。

  • センセイという言葉の響きが、とても遠いものを感じさせるのに、実は、普通の人と同じような恋愛感情をもってくれているということが、ゆっくりとしたペースで伝わってきて、何だかすごーく感動しました。
    この物語に漂うゆったりとした空気が、上品で、知性的で、ユーモアもあって、とても心地よかったです。

  • 静かな小説だった。静かに、降り積もる時間に、確かに熱い人間の感情が細く絡みつく。そういう小説だと私は思う。

    私が惹かれた点はまず、肴の描写だった。日本酒が好きな酒飲みなので、ひとり飲み、しかも落ち着いた日本居酒屋を選ぶところに好感を抱いた。

    そこで出会ったセンセイと肴の趣味が合うことから知り合うのもいい。食べ物の趣味が合うことは大事だ。それで長く続く関係もある。

    お互いが自立していて、ほどよい距離感があるのがとてもいい。お互いを認めているのが伝わる。

    対比であろう、ツキコさんの昔の恋人である小島孝の「男女」の付き合いは違う。くどくて、もつれてて、型にはまっている感じがした。

    私は生臭いものが好きじゃない。
    17の章にわかれた小説には海の幸の肴も、島の海も、生臭さはない。ドロドロした感情の生臭さもない。心地よい風が吹いている。


    段々とセンセイが心を占めてきてバランスを崩すツキコさんは本人も言う通り子供のようだ。

    ツキコさんとセンセイの距離は遠い。それは「因った環境」でもなく、年の差によるものでもなく、遠くにある。

    「たまたま」近くにあった。
    だんだん、「たまたま」が重なった。
    そして、「たまたま」が重なるようになればいいと思うようになった。

    そういう関係を読んでみませんか。

  • 何度も読み返したことのあるこの本を、久々に通して再読した。やっぱり好きだなーと思う。あわあわとして、色濃い、センセイとツキコさんの日々。二人の心情とともに挟まれる四季のうつろいも美しく、なにより酒と肴!なんでこんなに美味しそうなんですかね。ビール(中瓶)と日本酒が必要。

  • 居酒屋で久しぶりに出会った高校時代の先生とアラフォー女性の恋物語。30歳以上離れた大人の恋愛ゆえに、静かにゆっくりと心が動いていく様子を丁寧に描いているのですが、料理の描写が細やかなのも特長の一つかなと思います。

    まぐろ納豆と蓮根のきんぴら、塩らっきょうから始まる二人の料理の遍歴は、きのこ鍋、湯豆腐、おでん、花見のおかず、鮎料理などなど、季節の移ろいとともに変化していく。

    そんな数々の料理の中で個人的に惹かれたのは、湯豆腐とトビウオの刺身。主人公のツキコさんの湯豆腐は、醤油と酒を混ぜて削りたてのかつお節を散らした小さな湯のみを豆腐とともに温め、そこに浸して食べるんですって。なんとも美味しそう♪今年の冬にきっと再現するはずです。
    トビウオの刺身は今まで食べたことがないだけに興味がむくむく。

    二人の心の距離とともに二人の料理の好みもより近づいていく、ほっこりと心温まる小説でした。

  • 2、3年前に、一度読んだことのあるこの本。その時に書いた感想は
    「初めのほうは退屈だった。なかなかくっつかない二人がもどかしかったから。大人のほうが恋愛に対して誠実で、純粋なのかもしれないな」
    とかいうものだったと思う。

    特に深い想いを感じなかった当時の私は、その後部屋に溜まった本を整理するにあたり、この本を「もう読み直さないだろう」の山へノミネート、数々の他の本とともに古本屋へ売ったのだ(!!)

    あれからしばらくして、川上弘美の作品をとっても好きになった。
    わたしがかつて、ぼんやりと読んでふわっとした感想しか抱けなかったこの本を、「そんなはずはい!」とおもった。
    もう一度読んで、確かめたくなった。

    そういうわけで、本屋にて新品で購入し、二度目の読了を果たしたのだ。

    結果・・・

    初めから最後までずうっっと、二人のきもちがいとしくて、ときにせつなくてたまらなかった。
    なんともないやりとりの部分で、うっかり涙が流れたりした。


    この本がでた当時、週刊誌に下記のような匿名書評が載ったという。
    『「センセイの鞄」に涙するバカなオヤジたち』。
    読者には中高年サラリーマン風が多く、しばらく小説から離れていたオヤジたちが、読んで、感動の涙を流すという案配を受けての批評だという。

    『この本には生きだ人間と現実の軋みがない。主人公のツキコさんは、「すっかり子供になっている」、
    と告白している。子供に恋愛はできない。』

    えっ!?と思う。

    節々に、すてきな表現があふれているじゃないか。

    ちいさなことがありがたくて、幸せに思う。好きな人のまえで、子供のようになってしまう。でも大人だから、核心には迫れない。

    言葉にするとちょっとチープだけれど、この小説には上手に、丁寧に、書き綴られている。


    一見淡々と進む、だたの老年男・中年女、歳の差カップルの恋物語を読みながら
    ぜったいにそれだけではない、この小説はそんなところに重点をおいてはいない、言葉のひとつひとつがとても静かだけれどシンとひかっている、と感じる自分を、少し好きになった。

  • ーーー
    ひとり通いの居酒屋で37歳のツキコさんがたまさか隣あったご老体は、学生時代の国語の恩師だった。カウンターでぽつりぽつりと交わす世間話から始まったセンセイとの日々は、露店めぐりやお花見、ときにささいな喧嘩もはさみながら、ゆたかに四季をめぐる。年齢のはなれた男女の、飄々として、やがて切々と慈しみあう恋情を描き、あらゆる世代をとりこにした谷崎賞受賞の名作。

  • 好きだなーこの静かな雰囲気。
    と思った、そういう小説。

    リタイアした元国語教師と30代後半女性の淡い恋。
    派手さは全然なくて、ゆっくり進む。
    行くべきか、行かざるべきか、でも心は…という。

    言葉の使い方が好きだと思える作家さんの本って純粋にいいなと思うし、とにかく読みやすくてするする吸い込むみたいにして読める。
    この小説が流行った当時、60~70代の男性に夢を与えたらしい。30歳以上年下の女性との恋愛物語だから。
    確かにそのくらいの年齢の男の人で本気で口説きにかかる人たまにいるなと思って。笑
    男の人はとくに、いつまでも夢を追いかける性質のイキモノなのかなと思ったりする。
    この物語の場合、絶対にありえないことではない、というのがまた読者をそうさせるのかも。

    センセイとツキコさんの、お互いに孤独な感じ。独立しつつも、寄り添いたいと思う感じ。
    「お正月」の章がとくにさみしくて好き。

    作中のセンセイの言葉
    「心意気さえあれば、どんな場所でも、人間は多くのことを学べるものですよ」
    印象に残った。
    こんなこと言ってくれる先生がいたらいいなって。

  • 高校生の時に恋愛小説をとにかく貪るようにして読んでいた時季があって、その時に初めて文春文庫で読んだ。
    さっぱりとして可愛いく感じた表紙と、最高の恋愛小説という評判に胸を高鳴らせて読んだのを覚えてる。
    でも正直高校生の時の自分がこの小説に対してどんな感想を細かく持ったのかまでは覚えてないのだけど、
    これが最高の恋愛小説??
    なんか大人な恋すぎてわかんないな・・・ぐらいな気持ちだった気がする。

    あれから10年くらい経って、今また読み返したら最高の恋愛小説だと仰々しく言う感じではないけど、でもこの小説にはいくつになっても人が恋する気持ちってきっと変わらないんだ・・・と言う思いがじんわりと胸に広がって、
    高校生の時20歳を過ぎたら凄く大人になるんだと漠然と思っていたあの日から、実は案外気持ちの上では大人になるってよく分からないんだなと思う気持ちが思い返されて、高校生の時にはよくわかんないやと感じた気持ちが、今はちょっと分かって切なくなってる自分がいることに気付いて、
    自分も気持ちの上ではやっぱり高校生の時と比べると少し大人になったんだなと思った。
    そう、だからきっとこの本は、一度若い時に読んでほしい。
    そしてたっぷりと時間をあけてある時にふと読み返してみてほしい。

  • ゆっくり育まれるセンセイとツキコさんの日々が暖かくて、良かった。
    カタカナのセンセイ、ツキコさん、
    の表記が好きです。

    季節感が、音や空気、酒の肴から目に浮かぶ様で、うまいなと思いました。

    個人的には、センセイの気持ちが、ツキコさんにまっすぐ向かうようになるまでが良かったかな。
    二人が気持ちを確認しあってからは、少し生々しい感じがして、ふんわりと乾いた関係が壊れるようで、ちょっと残念な気がしてしまいました。

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著者プロフィール

川上 弘美(かわかみ・ひろみ)
1958年生まれ。96年「蛇を踏む」で芥川賞、99年『神様』でドゥマゴ文学賞と紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞と女流文学賞、01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で芸術選奨、15年『水声』で読売文学賞を受賞。ほかの作品に『風花』『どこから行っても遠い町』『神様2011』『七夜物語』『なめらかで熱くて甘苦しくて』『水声』などがある。2016年本作で第44回泉鏡花文学賞を受賞した。


「2019年 『大きな鳥にさらわれないよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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