- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101292403
感想・レビュー・書評
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一編一編が味わい深くて、余韻に浸りながら編ごとに何度も読み返した。タイトル通り、後味が「ざらざら」とした短編集。けれど不快感のざらざらではなくて、ふとした瞬間に訳もなく泣きたくなるような、後悔に似た気持ちが残る感じ。
この本を読んでいるあいだ、かつて愛したひととの幸福の日々を思い出していた。洗濯機の使い方がわからないわたしに、洗剤と柔軟剤を入れる場所を教えてくれたこと。彼の実家で食べた、キンキンに冷やしたイチゴに白砂糖と練乳をかけたものが美味しくて、今でも春になると自分で作って食べること。当時はマイナーだった、彼の好きなアーティストがテレビに出ていると、つい教えてあげたくなること。愛だったものは消えてなくなったのではなく、ひっそりと習慣のなかで息づいているのだと気がついた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とても良かった。切ない読後感の短編が多かった。
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川上弘美だけど不思議世界ではなく、いろんな女性の、人生の中のひとときの話。
「卒業」「桃サンド」と、特に女性と女性の話が良かった。
「中林さん、と口に出して言ってみたが、何も感じなかった。じゃあ、あたし、中林さんのこと、もう好きじゃないんだ。そう思って、おなかの中がへんな感じになった。淋しい、とか、悲しい、とかいうのと、ちょっと違う感じ。そうだ。中林さんが、かわいそう、とあたしは思ったのだ。あんなに好かれていたのに。もう、ひとかけらも好かれていない。ひとかけらも嫌われていない。何の感情も、あたしにいだかれていないんだ。」
(「山羊のいる草原」)
2022-72 -
ずっと、楽しみだったものが終わってしまう、一歩手前の切なさを思い起こさせる。
日曜日の午後2時から日が暮れるまでの時間帯。
きっとこの瞬間、時が経ってから思い出すんだろうなと思いながら、誰かと一緒にすごす今を愛おしむ気持ちが詰まっている。 -
好き、恋、愛、いろいろあるなかで、楽しくて桃色なことばかりじゃなくて、それこそ心が「ざらざら」することは少なからずあって。
失恋とか今までの関係が変わっていってしまうやるせなさの中にいるときに、しっとりと読んだら、ざらざらした気持ちが少しは落ち着きそうな、そんな本。 -
この小さなお話たちの漂わせる空気がとても好きです。
ふわふわと、しんみりと、恋したり恋を失ったり、それでも生活したり。あんなに愛したのに、今では少しも心を動かされない相手、わたしにも居るなぁと、わたしもしんみりしました。
まるで、誰かの話を隣で聞いているようです。
おかまの修三ちゃんがやっぱりとても好きで、わたしもこんな友だちに出会いたいです。
綺麗な青に卵の、かわいい表紙も好きです。 -
短編集、というか掌編集。全部がそうではないけれど、主として、敵わなかった恋の話だった。ほんのり百合な話もいくつか。それぞれにちょっと切なかったり、ちょっと微笑ましかったりする。
……のだが、恋愛が主題の話ではなかった一篇、普段は地味な靴下なのに、小説を書くときににだけカラフルなパステルカラーの靴下を履く作家(中年男性)の話がいちばん印象に残ったのはなぜなんだぜ……。自分はそこまでフェチではないと信じたい、のだが否定しきれない。妙な趣味に目覚めたらどうしよう。(動揺) -
うまいなー。
川上弘美って、短編が、キツネが憑いたようなうまさがある。
乙女心を書いた作品集。
たいして乙女心を持ち合わせていない私でも、しびれる瞬間があります。
乙女たちが読んだら、たまらんのではなかろうか。 -
短編集…というにはもっと短めなので、ショートショートに近いテイストかな?23編すべてが、この短さでよくぞここまで!という充実のクオリティです。なんてことない日常のひとこまですが、キャラクターひとりひとりに個性と愛情があり、共感できて時々ほろりとして、上品で気の利いたお菓子の詰め合わせみたいでした。
※収録
ラジオの夏/びんちょうまぐろ/ハッカ/菊ちゃんのおむすび/コーヒーメーカー/ざらざら/月世界/トリスを飲んで/ときどき、きらいで/山羊のいる草原/オルゴール/同行二人/パステル/春の絵/淋しいな/椰子の実/えいっ/笹の葉さらさら/桃サンド/草色の便箋、草色の封筒/クレヨンの花束/月火水木金土日/卒業 -
川上弘美さんの小説を読み終わると、毎度のことながら時間がしばらく経つまで、その世界観にどっぷりとはまりこんでしまう。文章のリズムのせいなのだろうか、どっぷりと浸かってしまったときは一気に読み込んでしまうのに、足先だけをほんの少し浸けたくらいでは読み進めるのは容易ではない。チーズや漬け物と似ている、発酵されゆくほどに浸かりきってしまう。その独特さ。毒毒しさに。
初期の作品ではゆったりとした中に棘を隠していて、少し気を抜いてしまえば刺されそうなほど攻撃的だったのに、今回読んだ「ざらざら」は沼の底にいるような、おどろおどろしい雰囲気がして呑み込まれそうになる。
それにしても解説の吉本由美さんのいう通り、川上弘美さんは男の子をかくのがうまい。彼女が所々で登場させる男の子(高校生以下)には、実の所私も結構どきどきさせられている。