どこから行っても遠い町 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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本棚登録 : 1867
レビュー : 210
  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292410

感想・レビュー・書評

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  • 舞台は東京の小さな町。商店街の様々なお店の人々、そこに暮らす人々はそれぞれ淡くつながっていて、何食わぬ顔をして暮らしているけれどそれぞれ色んな過去や思いを抱えながら生きている。
    そんな淡いつながりを連作で描いた短編集。

    平凡な人生って何だろう、と考える。
    端から見れば平凡で穏やかに暮らしているように見える人でも、実は他人からは見えない何かを抱えて生きているかも知れないし、「あの人は恵まれているよね」と噂されるような誰かにも、もしかしたら計り知れない苦悩があるかもしれない。
    実際毎日色んな人と会話をしていると、じっくり話してみて初めて分かることは山ほどある。イメージや思い込みとは全然違った、ということも日常茶飯事だ。

    この小説はまさしく、端から見れば“普通の人”である登場人物たちに、一人ずつスポットを当てて描いていて、そこには平凡な人生なんて言うものはひとつもない、という風に思わされる。
    核には“男と女”という厄介なものがあって(私はそう感じた)一旦がんじがらめになった果てに他人からすれば理解できないような形に収まった人もいたりして、しかしそれさえも「さもありなん」なんて思ってしまう。

    川上弘美さんの小説は、根底がとても静謐だ、といつも思う。
    どろどろした関係性を描いていても、どこか静かで、諦めのようなものが漂っている気がする。

    一番印象的だったのは「貝殻のある飾り窓」
    雨のしずくの写真を撮るのが趣味である20代のユキと、ロマンという謎のお店(たこ焼き屋?)に勤めるあけみという中年女性のお話。
    あけみはちょくちょく登場するのだけど、何だか妙に気になる脇役的な感じで好き。

    他人の噂って生きていればしょっちゅう聞くしうまく避けなければ自分も加担してしまうものだけれど、自分だってどこかでその“他人の噂”の的になっていることがあるはず。ひっそり暮らしていても、人と人はどこかで必ずつながっているから。
    その“他人の噂”のなかには、どれくらいの真実が潜んでいるのか。
    そんなことを思った、淡い空気の短編集。

  • 川上弘美のあたたかいところを切り取ったお話。
    アンソロジーぽいところが彼女のこんだて帖に近いかな。
    人間味あふれてて、こんな人達いそうで、こんな町がどこかにありそうだから、ちょっと憧れる。

  • とても好きな空気の連作短編集です。
    どこから行っても遠いけれど、この町も世界のどこかにありそうな気がします。
    どのお話もゆるゆると素敵なのですが、「長い夜の紅茶」がとても好みだと気が付きました。
    弥生さんをすっかりもたいまさこさんに脳内変換して読みましたが、楽しかったです。このような楽しみ方もあるのだな。
    そして、この本の物語の最後の一文が好きでした。
    捨てたものではなかったです、あたしの人生。
    わたしも自分の人生の終わりに、こう言えるように生きていこうと思います。

  • 人と人との間には、いつも周りからだけじゃ見えない感情や真実がある。それをそっと大切にしていたいな。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「周りからだけじゃ見えない感情や真実」
      気付かない場合もあれば、気を遣い過ぎてギクシャクしちゃう場合もあるから、自然体で過ごせれば一番良い...
      「周りからだけじゃ見えない感情や真実」
      気付かない場合もあれば、気を遣い過ぎてギクシャクしちゃう場合もあるから、自然体で過ごせれば一番良いのでしょうね。。。
      2014/03/25
  • 穏やかなのに息苦しかったり、もやもやしていたはずなのにさわやかだったり。
    細かな繋がりに少し嬉しくなる連作小説。

  • ある小さな町に住む老若男女たちが、少しずつ関わったり、どこかでこっそり見られていたり、実は誰にも知られていない事情があったり…
    なるほど、ここは”街”ではなくて、”町”なのですね。
    人が日常を生きていく場所。寂しさや憂いをいっぱい含んだ場所。

  • ひんやり、ひたひた。
    時折、ほっこり。

    人と人と、否、自分と誰かの繋がりについてふと思いめぐらせる。
    私とあの人、あの人と誰か。あの人たちと私。
    小説並みに不思議なことも感じることはある。
    何て頼りないんだろう、目に見える物事のかたちとは。

    そんなことを思いながら、不思議な手触りの遠い町に引き込まれた。

  • 解説にあった、「生きていくということはどうやっても、不安に充ち満ちたものなのです」
    という一文がこの短編集を簡潔に言い表している気がした。
    そして、自分にとても刺さった。

    すっきりしないこと、いろんな人からの言葉、未来への不安を心に抱えながら、年齢を重ねれば重ねるほど、未来からの逆算をしながら生きてしまう。
    幼い頃は、もっと目の前のことだけを見て生きていた。目の前のことに夢中になれた。
    未来を考えるようになってしまって、いまを大切にできなくなってしまった。

    そんなことを考えました。

  • 何もガムシャラでなくてもいいんじゃないか。
    迷ったり、スッキリ解決しきれなかったり、これまでもこれからもいろいろあるよね、生きてれば。
    そんなことをぼそっとつぶやいてみたくなる。
    不安定さも、もやもやも、あったかみも含めて。 

    寂しげに思えたタイトルだけど、なんとなく、それも込みのもう少し違った感覚でわかるような気がした。
    気に入ったフレーズもいくつか。
    ゆるくほっとさせてもらえる作品だった。

  • これ、好きー

著者プロフィール

川上 弘美(かわかみ・ひろみ)
1958年生まれ。96年「蛇を踏む」で芥川賞、99年『神様』でドゥマゴ文学賞と紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞と女流文学賞、01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で芸術選奨、15年『水声』で読売文学賞を受賞。ほかの作品に『風花』『どこから行っても遠い町』『神様2011』『七夜物語』『なめらかで熱くて甘苦しくて』『水声』などがある。2016年本作で第44回泉鏡花文学賞を受賞した。


「2019年 『大きな鳥にさらわれないよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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