どこから行っても遠い町 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.51
  • (71)
  • (200)
  • (208)
  • (49)
  • (10)
本棚登録 : 1867
レビュー : 210
  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292410

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  •  とりたてて物凄いことは起こらない。
    「平凡」よりは少し色々な物が加わった人生を歩んでいる人々。
     あるいは「歩んできた」人のお話。
    「物語」ということでいえば、きっとつまらないのだと思う。
     間違いなく「つまらない本だ」と思う人が多くいるだろう。
     だって大したことが何も起こらないし、淡々と語られているし。
     読んですぐに記憶から消えていってしまうような内容。
     なのに、なんで読んでいてこんな気持ちになってしまうのだろう。
     なんで、こんなにも心を捉えられてしまうのだろう。
     全部で11編の連作短編集。
     シュールな内容や、不思議なお話は一切なし。
     最後の「ゆるく巻くかたつむりの殻」は死者が語るお話。
     それでもそれはシュールでも不思議な話でもない。
     解説に「最後まで読んだらもう一度始めから読みたくなるだろう」とある。
     その通り。
     いずれ必ず始めから読み直す。

  • ひとつのまちの住人達がどんどん描かれていく。不思議で、面白い。好きだな、と思った。
    感想すぐに書かなかったからうろ覚えなんだけど。

  • いつだったか、他の本にかまけて読みきれずに図書館に返してしまった本。
    川上弘美の本からは、いつからか死のにおいがする。いや、本当はずっと、そうなのかもしれない。

  • 川上マジックともいうべき言葉の数々。
    やわらかくて、それでいてぞっとするほどの冷たさや恐さも同時に孕んでいる。言葉のまとう空気がすぐそばに感じられる。

    「水の中に沈んで、それでね」お母さんは静かに説明する。
    「ゆっくり水をふくんでいって。しみとおっていって、でも最後にはね」
    「最後に?」
    「ふくみすぎちゃって、かなしくなるような、そんなふうな感じ、かしら」
    ー夕つかたの水

    「あたし、ほんとに、廉ちゃんのこと、好きだったのよ」
    ー四度目の浪花節



    ー未来からやってくる「ああして、こうしないと手遅れになる、ほらほら」と尻を叩く声が、どんどん小さく静まってゆくからです。生きることとは、どんな匂いがし、どんな手ざわりで、どんな持ち重りがするものなのか。未来にそなえて「いま」をぎゅうぎゅうに絞り続けているうちに、からからに乾いて、はかないほど軽く固くなってしまった自分という名のタオルに、「いま」の水をたっぷり吸わせたらどうなるか。硬かったものがどんどん柔らかくなり、重たくなって、かたちは自由で不定形なものに、不確かな者になる。
    ー生きていくということはどうやっても、不安に充ち満ちたものなのです。だからこそ、時おり舞い降りる喜びが深くなる。
    解説 松家仁之

    カバー装画:谷内六郎
    2011年 新潮文庫

  • 渉が穏当な父親ではない、ということに、僕は小学校に入る前から、うすうす気づいていた。(p.38)

  • ある町を舞台にした連作短編集。ひとつの町で、それぞれの人々はみんな脇役だけど、芯の通った人生がある。人が多面的であるように、言葉の意味も多彩だ。読み進めていくうちに、人物のいろんな面が別々の話で描かれていて頭の中で世界が広がっていく楽しさ。ある人物の言葉と別の人物の言葉が同じでも、ぜんぜん違った響きをもっていて、言葉の広がりを感じたり。小説を読むのは楽しい。

  • とある商店街を中心にした、その周囲に住む人々の話。
    これと言って大きな事件も山場も無い。けれども人の日常なんてそんなもの。自分の周りでは大きな波が起こらなくとも、その人その人なりの、心の中では大きな波が起こる。こんな町、行ってみたい。でもどこから行っても遠いのだろうな。

  • 読み終わったあとに「ふんわり」と暖かな気持ちが流れ込んできました。
    どこにでもありそうな日常ですが、現代の日本ではこの物語の中で起こる人々の繋がりは薄れているのかもしれません。
    だからこそ人と人との繋がりを大切にする川上さんの文章力に心惹かれ、優しい気持ちになるのではないでしょうか。
    人との繋がりを大切にしようと思える本です。

  • 久々に川上弘美さんを読む。とある町が舞台の連作短編集。
    文庫本の帯に書かれている「生きてきたら、こうなってしまった」という言葉は、本作に限らず、川上弘美作品の魅力の一つだと思う。主人公たちは色々な苦労を経験するが、悲観的にならず、過度に自信を持つこともない。世間に流されず、自分の感情にしたがって行動する。悪い人がいないと思う。

  • 好き、っていう言葉は、好き、っていうだけのもじゃないんだって、俺はあの頃知らなかった。

    いろんなものが、好き、の中にはあるんだってことを。

    いろんなもの。憎ったらしい、とか。可愛い、とか。ちょっと嫌い、とか。怖い、とか。悔しいけど、とか。 俺の「好き」は、ただの「好き」だった。央子さんの「好き」は、たくさんのことが詰まってる「好き」だった。


    (小屋のある屋上/午前六時のバケツ/夕つかたの水/蛇は穴に入る/長い夜の紅茶/四度目の浪花節/急降下するエレベーター/濡れたおんなの慕情/貝殻のある飾り窓/どこから行っても遠い街/ゆるく巻くかたつむりの殻)

著者プロフィール

川上 弘美(かわかみ・ひろみ)
1958年生まれ。96年「蛇を踏む」で芥川賞、99年『神様』でドゥマゴ文学賞と紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞と女流文学賞、01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で芸術選奨、15年『水声』で読売文学賞を受賞。ほかの作品に『風花』『どこから行っても遠い町』『神様2011』『七夜物語』『なめらかで熱くて甘苦しくて』『水声』などがある。2016年本作で第44回泉鏡花文学賞を受賞した。


「2019年 『大きな鳥にさらわれないよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

どこから行っても遠い町 (新潮文庫)のその他の作品

どこから行っても遠い町 単行本 どこから行っても遠い町 川上弘美

川上弘美の作品

ツイートする