どこから行っても遠い町 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292410

感想・レビュー・書評

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  • 平穏な日々にあるあやうさと幸福。ほっこりしながら読み進めていました。
    最後から数頁前の一行から、わたしは背筋が伸び、また川上さんの世界に引き込まれるのでした。川上さんのお話は、なんでこうも人生の無常さを表されるのでしょう。
    読んだ後は、しばらく切なさマックスだったが、後に希望が見えてくる。青い空の向こうから、真紀さんが微笑んでこちらを見てるような絵が浮かんだ。
    生きてることは素晴らしいと訴えてくる。またわたしは心で泣けました。

  •  とりたてて物凄いことは起こらない。
    「平凡」よりは少し色々な物が加わった人生を歩んでいる人々。
     あるいは「歩んできた」人のお話。
    「物語」ということでいえば、きっとつまらないのだと思う。
     間違いなく「つまらない本だ」と思う人が多くいるだろう。
     だって大したことが何も起こらないし、淡々と語られているし。
     読んですぐに記憶から消えていってしまうような内容。
     なのに、なんで読んでいてこんな気持ちになってしまうのだろう。
     なんで、こんなにも心を捉えられてしまうのだろう。
     全部で11編の連作短編集。
     シュールな内容や、不思議なお話は一切なし。
     最後の「ゆるく巻くかたつむりの殻」は死者が語るお話。
     それでもそれはシュールでも不思議な話でもない。
     解説に「最後まで読んだらもう一度始めから読みたくなるだろう」とある。
     その通り。
     いずれ必ず始めから読み直す。

  • ひとつのまちの住人達がどんどん描かれていく。不思議で、面白い。好きだな、と思った。
    感想すぐに書かなかったからうろ覚えなんだけど。

  • これはタイトルが猛烈に好きで中身も知らずに買った本。東京のどこかの町の、商店街を中心とした11の連作短編集だった。読む前から絶対に好きだと分かっていたけれど、最後まで読んでみてやはり大好きだった。
    ただ続いていく日常と積み重なっていく過去。この町で働く人、買い物に訪れる人、住居としている人。主人公が代わっていっても一様に温度の低さが心地よく、誰も無理をしていないように見える。
    この町の人々は、自分の心と孤独に向き合い、隣人に心をさらけ出したり隠してみたり、付かず離れず生きている。どこにでもいそうだけれどここにしかない、はかない繋がりがあって、それがどうしようもなく心を惹きつける。
    特に忘れられないのは「長い夜の紅茶」。姑の弥生さんの一言一言にドキッとさせられる。男にも家にも、どこにも縛られていない彼女の自由な瞳を見てみたい。どんな眼をしているんだろうとふと思うのだ。きっと眼がすべてを語っているんじゃないだろうか。
    女の友情を超えた関係性が生まれる「貝殻のある飾り窓」も切なくて好きだった。
    共感できることはほとんど無いのに、この本に出てくる人たちのことを、誰一人嫌いになれない。どれもこれも、分かりそうで分からない。人間の魅力ってそこにあるのかもしれないと思えてくる。

  • 近所ですれ違う、名前も話したこともない人たちの人生や考え方の想像が膨らむ。「あけみ」に最も感情移入した。

  • エピソードをつなぐ、このスタイルの小説が好きだ。

  • 川上弘美って、
    どうしてこうも怖いのだろう。

    以前からそうなのだが、
    年々その怖さが増していき、
    先に読んでいた『森へ行きましょう』に真骨頂を見ていたが、
    この作品で既にその片鱗が明確に現れていたか。

    ふわっと夢のようでありながら、
    生々しさと毒があって、
    そのくせ冷たいくらいに俯瞰している視線がある。
    それはグロテスクではない静かなものだからこそ、
    とても怖く感じる。

    確かにどこにでもありそうな町の人間模様に、
    少しでも足を踏み入れれば、
    そこにはひとりひとりの人生があり、
    それは何にも変えられない超個人的なものだ。
    その人生達が触れ合って、絡み合い、
    通り過ぎて、離れていって、
    そうしてまたひとつずつの物語が広がっていく。

    始まりからゆっくりと積み重ねられた終わりの展開に、
    背筋が凍る。

    どうしてこんなに怖いのかと考えてみると、
    きっとすべてが平等だからだ。
    生きとし生けるものも、
    意識も無意識も、
    生と死も、
    ひとつづきであるという真実を、
    川上弘美は言葉にして、物語にしてしまえるから、
    とても怖いのだ。

  • 遠い記憶の中で商店街を歩いている感じ。

  • 連作短編集とのことで一つの街を舞台に別の視点から語られる11の物語。とても良かった、なんだろうこの哀愁とも似る様で似つかない感覚は。5年前に読んでも響かなかっただろうなあ

  • いつだったか、他の本にかまけて読みきれずに図書館に返してしまった本。
    川上弘美の本からは、いつからか死のにおいがする。いや、本当はずっと、そうなのかもしれない。

  • 川上マジックともいうべき言葉の数々。
    やわらかくて、それでいてぞっとするほどの冷たさや恐さも同時に孕んでいる。言葉のまとう空気がすぐそばに感じられる。

    「水の中に沈んで、それでね」お母さんは静かに説明する。
    「ゆっくり水をふくんでいって。しみとおっていって、でも最後にはね」
    「最後に?」
    「ふくみすぎちゃって、かなしくなるような、そんなふうな感じ、かしら」
    ー夕つかたの水

    「あたし、ほんとに、廉ちゃんのこと、好きだったのよ」
    ー四度目の浪花節



    ー未来からやってくる「ああして、こうしないと手遅れになる、ほらほら」と尻を叩く声が、どんどん小さく静まってゆくからです。生きることとは、どんな匂いがし、どんな手ざわりで、どんな持ち重りがするものなのか。未来にそなえて「いま」をぎゅうぎゅうに絞り続けているうちに、からからに乾いて、はかないほど軽く固くなってしまった自分という名のタオルに、「いま」の水をたっぷり吸わせたらどうなるか。硬かったものがどんどん柔らかくなり、重たくなって、かたちは自由で不定形なものに、不確かな者になる。
    ー生きていくということはどうやっても、不安に充ち満ちたものなのです。だからこそ、時おり舞い降りる喜びが深くなる。
    解説 松家仁之

    カバー装画:谷内六郎
    2011年 新潮文庫

  • 渉が穏当な父親ではない、ということに、僕は小学校に入る前から、うすうす気づいていた。(p.38)

  • ある町を舞台にした連作短編集。ひとつの町で、それぞれの人々はみんな脇役だけど、芯の通った人生がある。人が多面的であるように、言葉の意味も多彩だ。読み進めていくうちに、人物のいろんな面が別々の話で描かれていて頭の中で世界が広がっていく楽しさ。ある人物の言葉と別の人物の言葉が同じでも、ぜんぜん違った響きをもっていて、言葉の広がりを感じたり。小説を読むのは楽しい。

  • とある商店街を中心にした、その周囲に住む人々の話。
    これと言って大きな事件も山場も無い。けれども人の日常なんてそんなもの。自分の周りでは大きな波が起こらなくとも、その人その人なりの、心の中では大きな波が起こる。こんな町、行ってみたい。でもどこから行っても遠いのだろうな。

  • 読み終わったあとに「ふんわり」と暖かな気持ちが流れ込んできました。
    どこにでもありそうな日常ですが、現代の日本ではこの物語の中で起こる人々の繋がりは薄れているのかもしれません。
    だからこそ人と人との繋がりを大切にする川上さんの文章力に心惹かれ、優しい気持ちになるのではないでしょうか。
    人との繋がりを大切にしようと思える本です。

  • 久々に川上弘美さんを読む。とある町が舞台の連作短編集。
    文庫本の帯に書かれている「生きてきたら、こうなってしまった」という言葉は、本作に限らず、川上弘美作品の魅力の一つだと思う。主人公たちは色々な苦労を経験するが、悲観的にならず、過度に自信を持つこともない。世間に流されず、自分の感情にしたがって行動する。悪い人がいないと思う。

  • 好き、っていう言葉は、好き、っていうだけのもじゃないんだって、俺はあの頃知らなかった。

    いろんなものが、好き、の中にはあるんだってことを。

    いろんなもの。憎ったらしい、とか。可愛い、とか。ちょっと嫌い、とか。怖い、とか。悔しいけど、とか。 俺の「好き」は、ただの「好き」だった。央子さんの「好き」は、たくさんのことが詰まってる「好き」だった。


    (小屋のある屋上/午前六時のバケツ/夕つかたの水/蛇は穴に入る/長い夜の紅茶/四度目の浪花節/急降下するエレベーター/濡れたおんなの慕情/貝殻のある飾り窓/どこから行っても遠い街/ゆるく巻くかたつむりの殻)

  • 連作短編であることに、3作目でやっと気づくっていうね。

    うれしいときはこんなふう。
    「水の中に沈んで、それからね」
    「ゆっくり水をふくんでいって、しみとおっていって、でも最後にはね」
    「ふくみすぎちゃって、かなしくなるような、そんなふうな感じ、かしら」

    寄る辺なく、たゆたう、ある街の人々のおはなし。
    決して押し付けない。かすかに心にふれる。そして、ちょっと、こわい。

    久々の川上弘美、やっぱりすき!!

    2013/07/27読了。

  • 構成がよかった。

  • 商店街の魚屋のおじさんはね、居酒屋のおかみさんはね、お向かいの奥さんはね…と数珠繋ぎのように物語が紡がれていく。男と女。女と女。男と男。それぞれの関わりがつるつると滑っては絡まり滑ってはくっつく。隣にいるのに遠くて、つかめないあの子や絡まりあの娘に会いたくなる一冊。

  • 川上さんの本で1番好きかも。
    読みやすい。

  • 連作短編集っていうフォーマットがいいんだよね。スチャダラパー的に言えば「ループの谷間に」大事なことが書かれている感じ。ブクログにたくさんのレビューが書かれていること、僕みたいな読み方をしているひとが少ないことの二つに驚く。人気作家って大変なんだな。これは佳品だと思う。そりゃあ真鶴のほうが「名作」だろうけど。
    蛇は穴に入るって短編が一番好き。特にタイトルが。それから、ろまんという喫茶店みたいなところ。行ってみたい。

  • 都心から私鉄でも地下鉄でも二十分ほどのしごく利便な土地にある商店街を主な舞台にした短編集。
    大きな事件が起こるわけではない。それぞれの登場人物の生き方自体がおもしろい。大好きなタイプの小説。

  • とある商店街のある町を舞台にした11編からなる連作短編集。人によって好き嫌いが凄く分かれる作品じゃないかと思うのだが、自分はすごく好きな作品だった。それぞれの登場人物が少しずつリンクしていて、最後の話を読んだ後、最初からまた読みたくなる。淡々と描かれるなかにに全体に漂う死の気配があって、余韻に浸りながら読んだ。

  • はぁ。自分が年齢を重ねれば重ねるほど、川上弘美の小説は面白い。読んでいる時間がいいんだよね。

  • あけみに会いたい。

  •  私にとっての、川上弘美ベスト作品。読んでいて「文章が美味しい」と感じられる。人生の妙味は細部に宿ると言わんばかりの平穏な日常生活の描写には惚れ惚れしてしまう。最終章では、死者が語り始める。平凡に生き、平凡に死んで行くことのかけがえの無さに気付かされ、心が洗われて、思わず涙が溢れてくる。そして、谷川俊太郎の詩の一節を思い出す。「私が死んでも誰かがきっと覚えていてくれる / 星と星とをつなぐゆるやかなかたち / 誰ひとり中心ではないあの美しいかたち」(『私の星座』)

  • 「水の中に沈んで、それでね」お母さんは静かに説明する。
    「ゆっくり水をふくんでいって、しみとおっていって、でも最後にはね」
    「最後に?」
    「ふくみすぎちゃって、かなしくなるような、そんなふうな感じ、かしら」
    (「夕つかたの水」p.84)

    娘のサチに、自分の父母と仲が悪い理由を訊かれ、「あの人たちとはことばがちがう」ということを「うれしい」を例に説明するところ。

    とある商店街に住む人たちの短編集。一編ごとに中心人物は異なるが、少しずつ、いろんな人が顔を出してきて、最後の11編目を読んだあとにはまた最初に戻りたくなるようなつくりでした。

  • 短編集だが、全体で一つの世界を表現している。
    川上弘美さんの本領発揮という感じ。
    (2011.10)

  • やさしくてしっとりしててちょっと薄気味悪くて、私はすごーくすごく好き。ついつい引き込まれる。

著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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